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第二十六話 〝犠牲者〟と〝偽善者〟

グロ注意。




 朝焼け色の外套を身にまとった二人組がユールからほど近い場所で、なにやら遠くを眺めていた。

 

 「あれ全部屍兵(アンデッド)ですか。多いですね」

 「あれでも全体の五十分の一程度ってところかしら」

 「へー、すごいですね。五賜卿って」

 「それで、街の様子はどうかしら」

 

 問われた背の低い方が空を見上げる。

 

 上空には両翼を羽ばたかせる小さな生き物が旋回していた。

 

 「街には人っ子一人いないようです。どうしますか、先生?」

 「そう。なら都合がいいわね。向かいましょうユールに。もうじき、ひと嵐来るみたいだし」


 荒野の空で雲が鳴き始めていた。



 

────────────


 ~珖代&勇者~


 

 

 作戦会議を終えた珖代達は早々に実行へ移った。

 

 待機組が安全に身を潜めていられる場所として選ばれたのは〈枯れない森〉だ。

 この中なら見つかる危険性は低い。

 

 「勇者、キツそうならこれ使ってくれ」

 

 勇者、水戸 (こう)たろうは聖剣を抑える役割を自ら買って出た。それにより待機組として残ることが確定している。

 珖代が渡したのはキノコ採りに使うかなみ特製のワイヤーとそれ専用のサスペンションだ。

 

 「これ着てワイヤーを木に巻きつけとけば、幾らかマシになるはずだ」

 「ありがとうございます。先ほどはその、助かりました」

 

 勇者が一式を受け取りすんなりとお辞儀をする。

 

 「気にすんな。別にお前は間違ってなかったんだから。それより頼んだぞ? お前がヘマしたら俺が聖剣の餌食にされちゃうんだからな! ……あっ、そうだ、勇者が一人で耐えきれそうにない時は、お前ら手ぇ貸してやれよ」

 

 後ろにいた大勢の冒険者が一斉に声をあげる。彼らも待機組だ。

 

 「当たりめぇよ!」

 「俺達を誰だと思ってんだ!」

 「そのくらい余裕だっつーの!」

 「お前こそ見つかるようなヘマ、すんじゃねぇぞ?」

 「ゴブリンの群れにすぐ見つかってションベン漏らしてたお前が言えたことじゃねぇだろ」

 「なっ…過去の話しを引っ張りだしてくるんじゃねぇよ!」

「「「「はははははは!」」」」

 

 ゴブリン運のない冒険者の話はさておき、ここからは三手に別れる。

 

 『枯れない森』にて潜伏する勇者と冒険者数人の待機班。

 珖代とかなみの移動班。

 冒険者と保安兵合同のピタトメ捜索班に別れ行動するのだ。

 

 珖代が大荒野をなにやら神妙な面持ちで眺めていると、かなみが声を掛ける。

 

 「珖代」

 「ん?」

 「かなみ、やっぱりユイリーが心配だから岩場に戻ろうと思うんだけど……」

 「うん。こっちのことは心配しなくていいから、行ってきてあげて。その方が、ユイリーちゃんも喜ぶと思うから」

 

 サムズアップする珖代のあと押しで少女は明るく笑った。

 

 「わかった、行ってくる! 珖代も気をつけてね!」

 「かなみちゃんも無茶しないようにね!」

 

 そうして少女は蜃気楼を残して姿を消した。

 

 「喜久嶺さん、一人で行く気なんですね……。お気をつけて」

 「ああ。俺が合図を送るまで、その剣は絶対に離すなよ勇者」

 「はいっ、もちろんです!」


 二人はお互いのヒジをぶつけるようにタッチを交わした。


 


────────────


 ~ユイリー&ピタ、トメ~


 

 

 チョビヒゲ冒険者のカトチャとの共同クエストを早めに終わらせて帰ってきたユイリー・シュチュエートは、突然やって来たかなみにわけも分からないまま人口召喚石の管理をいきなり任された。

 性格上断りきれなかった彼女が人工召喚石に手を当て意識を集中させていると、突如、小さな少女が転がってきた。

 

 「うへー。あー……」

 

 その光景にユイリーは思わず集中を切らしてしまった。

 

 「だ、誰ですか!?」

 

 岩に立て掛けてあった杖を取り、小さな少女に正体を問いただす。

 

 「お前こそ、ここで何を……」

 

 ドワーフ族の少女が立ち上がり辺りを確認する。

 目の前には不自然なほど真ん丸な水晶玉があった。

 

 「まさか、お前が召喚してたのか……?」

 

 そこにあるのは人工物の召喚石ではないかと、ピタは気付いて訊いた。

 

 「だ、だったらなんですか……!」

 

 杖先をピタに向けたままユイリーは警戒を緩めない。ピタは慌てて誤解をとく。

 

 「あ……、あーっ! 私は、別に怪しいものでは無いぞ!? むしろ味方だと思ってくれて構わない! と言うより、お前は確かコーダイ殿と一緒にいた女だな? 私はピタだ。ギヒアード退治の時に勇者と一緒にいた、頼りになる方の女と言えば思い出せるか?」

 

 ギヒアード討伐クエストを勇者と珖代が協力してこなしていた際に二人も出会っていた。その事に気付いたピタの必死の弁明により、ユイリーも思い出す。

 

 「あっ、あの時の! よかったぁ……びっくりしちゃいました」

 

 その時──ヒョロりとした痩せ型の男がふらっとユイリーの前に現れた。

 

 男は長髪だが前髪はだいぶ後退しており、眉も薄い。顔はのっぺりとしているのに痩せこけているせいか、人相薄く影が濃い印象を受ける。

 

 「申します申します。そこのお嬢さん、その石をこちらへ」

 「ピタちゃんのお仲間ですか?」

 「それと、命も頂戴致す」

 「え?」

 「そいつは敵だッ! 今すぐ離れろぉ!!」


 

 男が(つば)に親指をかけた。

 

 

 ピタが飛び出す。しかし間に合わない。

 

 

 鞘から刀身が顔を出す。


 

 肌がピリつくほどの殺気に、ユイリーは詠唱を始め、迎えうつ準備に入った。


 

 無詠唱魔法なんて高度な技術は使えない。

 それでも詠唱の短縮は得意中の得意。ギリギリまで削った土魔法を至近距離でお見舞いする!

 


 「大地よ! 守り」

 「──遅い。遅すぎて閑古鳥が鳴いてしまいそうだ」


 

 男が天に掲げた刀を振り下ろす。

 ユイリーは咄嗟に杖で防御の構えを取りながら目を瞑った。


 

 きっと、杖ごと切り裂かれる。殺される。


 

 しかし──、その瞬間は訪れなかった。

 


 少女が目を開けると、男は遠くに吹き飛んでいたからだ。

 

 状況が把握できず男の方を見やると誰かがいる。男の上で誰かが倒れている。

 

 「モテゾウ、……痛いってぇなぃい」

 「それはこちらのセリフだ。急に飛んでくるとは、お前はダチョウか何かか」

 「ソギマチは急に飛んで来るのもだ……。うん。気をつけなかったモテゾウが悪い」

 「……敵に油断したな?」

 「してない。あれだ、吹き飛ばされたとかじゃないぞ、飛んでやったんだ」

 

 ぶつぶつ言い合う二人をよそに、トメが息を切らしながら駆けつける。モテゾウが吹き飛んだのはトメの放ったアイスブロックにソギマチが吹き飛ばされ巻き込まれたからだった。

 

 「無事でして……? 二人とも」

 「良くやったトメ」

 「ありがとうございます、助かりました……」

 「アナタが傀儡の召喚者でして?」

 「はい、あ、いえ。元々は別の人がやってたんですが、その人は忙しそうだから変わってもらってたんです」

 「なるほど。借り物なら余計に渡す訳にはいかないな」

 「はい。この水晶は誰にも渡せません」

 「でしたら、あの得体の知れない二人の討伐に、協力して下さいませんか?」

 「はい! ぜひ協力させてください!」

 

 短剣士(ピタ)高位魔法士(トメ・ハーキサス)に魔法士見習いのユイリーが加わった。

 

 「敵が増えてしまったな」

 「なんか、嬉しそうだねモテゾウ」

 「……そんなことはない」

 「気の所為? なら、ソギマチがご新規ちゃんを相手にしても問題ないよね」

 「………………ああ」

 

 男の声が急に小さくなった。

 

 「ホントにぃ?」

 「……ああ、と言っている」

 「うーん。やっぱり二人で行こっかぁ?」

 「心配するな。あれは大鷲の風格には程遠い。一戦交えれば変わるやもしれんが、それくらいは譲ろう」

 「あいわかりした。じゃっ、他の二人は……ん?」

 

 白髪獣耳の少女ソギマチが頭の上の耳をピクピクさせている。

 

 「どうした? 昼寝の時間か?」

 「なんか、きな臭い。誰か隠れてるでしょ? 出てきてよ」

 

 ソギマチが後ろを振り返る。

 

 「何奴っ……!」

 

 つられて振り返ったサムライ風の男、ワシュウ・モテゾウが刀を鞘にしまい、腰を下げながら居合の構えをとった。

 

 「そのネコミミ、かわいい」

 

 呑気とも取れる発言は余裕の表れか──。

 そこにはおませでチートな女の子、蝦藤(えびとう)かなみの姿があった。

 

 「かなみちゃんっ!!」

 「かなみさまっ!?」

 「いつぞやの少女……!」

 

 ユイリー、トメ、ピタがそれぞれ反応する。

 

 ソギマチが自分のミミをギュッと掴み反論した。

 

 「ソギマチのミミはネコのミミじゃない! オオカミのミミだぁ!」

 「ネコじゃないの?」

 「ちがう! ママもパパもおねぇちゃんもニャン族だけど……『ソギマチの白いミミは勇猛なオオカミのミミだねぇ』っておばぁちゃんが言ってくれてたしな!」

 「……少々無理やりにすぎぬか?」

 「うるさぁい! モテゾウはどっちの味方だよっ! こにゃろ!」

 「今、ニャと申したな」

 「言ってにゃ……ないっ!」

 「言ったニャ」

 「うっ……バカにしてるなぁ!?」

 「そうニャ」

 「よーし。お前から切り刻んでやろうハゲ侍」

 

 ソギマチの爪が激おこメーターの上昇に比例するかのように伸びていく。

 

 シャーッ! と声に出しながらモテゾウを威嚇している。

 

 そのやり取りを意に返さないかなみが、二人の間にすんなりと割り込んできた。

 

 「よーしよしよし。わぁ、スゴい気持ちイイ。ミミもシッポも本物だぁ……」

 

 初めて会う獣人にかなみは興味深々らしく、耳やら尻尾へのモフりが止まらない。

 

 ソギマチも満更でもないのか、トロケ顔を周囲に晒す。

 

 ふにゃ〜う。

 

 ──はっっ!?

 

 「なにするんだらやぁっ!」

 

 敵にモフられていることに気づいたソギマチが距離をとる。

 

 「もっとモフモフ、モフモフ……モフモフモフモフモフ」

 

 かなみが両手を伸ばしゆっくりと近づいていく。

 

 「ちょっ……やめ、来るなぁ!!」

 

 敵にだけはモフられたくないと逃げるソギマチ。気が済むまでモフりたくて追うかなみ。二人の壮絶なデッドヒートが始まった。

 

 「流石ですわねかなみさま……」

 「果たして、あれでよいのか……?」

 「あれはかなみちゃんの作戦ですよきっと! ああやって、敵を二手に分けるのが恐らく狙いなんです!」

 

 トメ、ピタ、ユイリーはそれぞれ思ったことを口にする。

 

 「あの方なら、やりかねませんわね」

 「そこまで計算づくとは……流石だな」

 「かなみちゃんが時間を稼いでくれているうちに、私達はあの男の人を倒しましょうっ!」

 

 ただモフりたいだけのかなみの心情が、いい方向に脚色させていった。

 

 戦況は、

 ピタ、トメ、ユイリー対ワシュウモテゾウ。

 蝦藤かなみ対ソギマチとなった。

 

 ソギマチは四足歩行に切り替え、全速力で逃げ回っている。だと言うのに少女を振り切れないでいるようで涙目だ。

 

 このままではいけない。そう思った彼女は秘策に打って出た。

 

 「ソギマチの『ソ』は〝聡明〟のソッ!」

 「ソギマチの『ギ』は〝技術〟のギッ!」

 「ソギマチの『マ』は〝真心〟のマッ!」

 「ソギマチの『チ』は〝知識〟のチッ!」

 「「「「我ら、四人揃って 『猫又分身ソギマチフォース』!!」」」」

 

 なんと四人に分裂しそれぞれが喋り出したのだ。

 

 一瞬、目を丸くしたかなみであったが、直後、口元が緩み始める。

 

 「へっへっへっ……四人いるなら、一人くらいもらっても……問題ないよね……?」

 

 獲物を仕留めんとするケモノのような目で、かなみはソギマチ四人を交互に見つめる。


 野生の勘が強いソギマチにはすぐに理解できた──。

 

 コイツはヤバいッッ! エモノを見定める、捕食者の目だァァーー!!

 

 「それで、どれが本物なの?」

 「ソギマチフォースはどれも実体のある本物だぁ!」

 「バカっ! 余計なことゆうなよ!」

 「ど・れ・に・し・よ・う・か・な」

 

 恐怖のカウントダウンが始まり四人のソギマチは顔を真っ青にして慌てだした。

 

 四人が四人とも自分が生き残るために必死に自分の分身を押しつけ合う。生き残るための醜い争いが始まった。

 

 「ここは〝犠牲〟のソギマチの出番だぞ!」

 「()牲じゃなくて、()術だぁ!」

 「〝真心〟のソギマチ助けてぇ!」

 「イヤです」

 「薄情だぁ! そんなソギマチに育てた覚えはないのに〜!」

 

 傍から見ればどれも同じソギマチ達の言い争いだが、ついに一体がかなみに捕縛された。

 

 どこからともなく現れた縄にぐるぐる巻きにされるソギマチがペタッと倒れる。

 

 「な、なんだこれ!? 助けてぇぇ!」

 「〝聡明〟なソギマチが捕まっちゃった!」

 「チャンス。今のうちに逃げましょう」

 「そーだね。助けてやりたいけど、ごめんよソギマチ」

 「嘘つけ! この〝()善〟のソギマチめ!」

 「〝()術〟だってば!」

 

 捕まったソギマチがかなみに膝枕されモフられ始めた。

 

 「うわー! 触るにゃぁーうぅ……」

 

 抵抗虚しく懐柔されていく〝聡明〟なソギマチ。

 挙句の果てには、気持ち良さそうにゴロゴロ鳴き始める始末。

 

 「あの顔見てよ! ケモノとしての尊厳が完全に奪われちゃってるよ!」

 「あれも幸せの形なのです。ほっといて逃げましょう」

 「なんだかちょっとうらやまし……くない!」

 

 知識、真心、技術の順に思った事を述べている。

 

 「まったく、お主は何をやっているのだ……」

 

 そこに、何食わぬ顔をしたモテゾウがやって来た。

 

 「モテゾウ、召喚石はどうした」

 「そうです。見つかったんですか」

 「いや、まだだ」

 

 聡明なソギマチは最後の力を振り絞って言う。

 

 「助けてぇーー! モテゾウぉおーー!」

 

 モテゾウは溜息をつきながらも、刀に手をかける。

 

 「手のかかるネコだ……」

 「助かります」

 「あんなんでも、ソギマチの一部だからお願い」

 「ネコじゃないけどな!」


 男がかなみに近付く。

 

 「おじさん、ユイリー達はどうしたの」

 「あの三人が気になるなら、確かめてきたらどうだ?」

 

 かなみがそこを離れられないと知ってモテゾウが煽る。

 

 場に緊張が走る。

 

 男は両足を大きくひろげ、腰を落とした。

 カタナは依然、鞘に納まったままだ。

 

 「──【両断域】」

 

 男がそれを唱えると、その男を中心に白いサークルが現れた。

 

 モテゾウが目を瞑る。

 するとサークルが回転しだし、徐々に広がりを見せる。

 

 【両断域】についてかなみは┠ 叡智 ┨の能力を使い調べようと試みるが、それらしい情報は見当たらなかった。

 

 ならばと、情報を得るために火球魔法を放った。しかし、サークルの中に入った途端かき消えてしまった。


 魔法が効かない? と考えたかなみは、モテゾウの頭上に┠ 収納世界 ┨を開きそこから丸太を落としてみた。

 すると今度は丸太が縦に真っ二つに割れた。

 

 「何あれ……」

 

 魔法も物理も効かない。モフられているソギマチが応える。

 

 「残念だったね。モテゾウの両断域(サークル)は入るモノ必ずを真っ二つにする。運が良ければ手足両断で済むけど、悪ければ、首や胴体がスパーンっとおさらばね」

 

 火球や丸太の様子を見る限り、ソギマチの言っていることは本当なのだろう。

 かなみはモフるのも忘れて対策をねり始める。

 

 「フッフッフッ……サークルは徐々に迫っているよ? 考えてる時間が果たしてあるかな? ──……ん? もしかしてもしかしてだけど! このままだと、ソギマチも危ないんじゃないかぁ……? ストップストップ! モテゾウストオォォップ!!」

 

 悲しいことに、集中状態にあるモテゾウには聞こえていなかった。

 

 かなみが片手を地面に当てると、地面の一部が高くせり上がった。その壁が四枚、モテゾウを取り囲みサークルに向かって倒れ込む。

 

 しかし、壁は同時に両断され男は無傷。カタナをいつ抜いたのか、いつ納めたのか、それさえ見えなかった。

 

 サークルはさらに広がる。

 

 捕まっているソギマチが他のソギマチに無言の視線を送ると、三人が顔を見合わせた。

 その内、誰が言う。

 

 「真っ二つにされるくらいで騒がないでよ」

 「騒ぐでしょ!!」

 

 かなみは悩んでいた──。

 

 ┠ 生体感知 ┨のスキルを使っているのでユイリー達が生きているのは分かる。しかし、今がどんな状態であるのかまでは判別つかない。故にようすを伺いに行くしかないが、離れている間に召喚石を破壊されてしまう危険性もあって動けない。

 壊されれば召喚した兵も全て消えてしまう。聖剣作戦を成功させる為にも、それだけは避けたい。

 

 ──円はどんどん迫ってるし、迷っている時間なんかない。作戦が第一なのは分かってる。……けど……三人を放ってはおけないっ!

 

 「かなみちゃん! 無事かぁい!?」

 

 その時、意を決した少女に思いもよらない声がかかった。

 

 その声の正体はユールの冒険者。その冒険者の後ろにも顔見知りの冒険者や保安兵らが二十人ほどいる。

 

 「みんな! どうしてここに!?」

 「勇者の仲間を探しにここに来たんだ!」

 「それなら向こうにいるから助けに行ってあげてっ!」

 「分かった! 向こうだな!」

 

 かなみはひとまず安堵した。

 これでユイリー達の心配をする必要はなくなった。ソギマチを解放することにはなっても、召喚石は確保できる。

 

 あとはユイリーから召喚石を受け取るだけ──。

 

 「おい! 少女相手に五対一は卑怯じゃねぇのか!」

 

 オノを構えた冒険者が激怒するが、誰も答えない。

 

 「そうだっ! なんとか言いやがれっ!」

 「みんな、かなみは大丈夫だから。行って、お願い」

 「無視してんじゃねぇぞ! コノヤロォォーーー!!」

 

 一人の冒険者が目を瞑ったままの男目掛けて走り出した。

 

 「……ダメッ! 近付いちゃダメェーッッ!!!」

 

 かなみの制止も間に合わず、男はサークルに足を踏み入れた。

 

 

 

 ──刹那。

 

 

 

 ┠ 瞬間移動 ┨を駆使したかなみが押し出し、冒険者はサークルから免れた。

 

 

 

 だが、

 

 

 

 その代償はあまりにも大き過ぎた。

 

 

 

 領域に触れたモノを等しく裁く、低く冷たい声が響き渡る。

 

 

 

 「─────【一刀両断】」

 

 

 

 

 ザァ──ッッンンン!!!!!

 

 

 

 少女はくるくる回った。

 

 

 

 血飛沫を豪快にあげ、お空にキラキラ華やかに。

 

 

 

 アルデンテが見ていれば、きっと、その美しさに目を輝かせていたに違いない。

 

 

 

 「──手応えあり」

 「あーあ。運、悪かったねお嬢ちゃん」

 

 

 

 辺り一面には、少女の臓物が散らばる。

 


 

 【両断域】はかなみの胴を二つにした。

 

 

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