第十七話 天の見下ろす大地へ
珖代は城の外で待ち構えていた骨の剣士数体をなんとか聖剣で砕いてみせた。
「これで、全部か?」
「すいません……はい、全部だと思います。多分」
珖代が肩にケガを負っていることと疲労困憊であることを知っている勇者は、襲いかかるアンデッド全てを赤と黒の炎【黒点】で再び悶えさせ、聖剣で砕きやすいようアシストを入れた。その甲斐あって二人は難なく行動でき、騎士の遺体の元へとたどり着いた。
「二人を街まで運ぼう、手伝っ……くっ!」
遺体を動かそうと手を伸ばした珖代は肩の痛みに顔を歪める。
「喜久嶺さんっ、無茶はしないで下さい。あの、その……まずはそのケガの手当てを」
ポーションを渡そうとする勇者、珖代はそれを拒む。
「大丈夫だ。このくらいなら、セバスさんに舐めてもらえば治る」
「な、なめる?」
「珖代ー!」
森の方から走ってくる者がいた。
珖代の名を呼ぶのは栗色の髪をなびかせる可愛らしい少女。本来であれば別の国で施設関係の仕事に取り組んでいた少女──、蝦藤かなみだ。
「かなみちゃん!? どうしてここに?」
「えっとね、ベルの音が聴こえたんだけど、メッセージが分からなかったから一度家に帰ってお母さんに珖代のいる場所を聞いてここに来たんだよ。すごいケガ、何があったの」
「待って、ベル?」
珖代は勇者に聞く。かなみちゃんを呼んだのか? という目を向けて。しかし勇者にもこれと言って鳴らした記憶はなく首を横に振った。
「女神様を探すのに必死だったから振ってしまったのかも……すいません」
「そんな事で謝るな」
勇者は二人の遺体を両手が胸の前で組む形でキレイに並べながら深々と考える。無意識に鳴らしていたとはベルの性質上考えにくい。だとすれば、受け取る前後にあった何かが──。
「もしかすると喜久嶺さんからベルを受け取る時に、鳴ってたとか……じゃないでしょうかね……。その、違ってたらすいません」
「だな。俺が投げた時にだな」
珖代はベルを投げるように渡していたことを思い出した。心当たりがある分、それは有り得るとすんなり受け入れた。
そして珖代は、やって来たばかりのかなみにも分かりやすく状況を説明した。だがありのままを少女に伝えることは酷だと判断し、一部情報を伏せ、目の前にいるカクマルやスケインのことは、ケガを負っているが気を失っているだけだと伝えた。
しかし──、その気遣いは大した意味を成さない。
かなみには┠ 生体感知 ┨という生きているものを広範囲で判別できるチートスキルが備わっている。そのスキルによって、寝ている二人が気を失っている訳じゃないことをかなみはとっくに把握していたのだ。
少女は動揺を胸の内にひた隠しながら事情を聞き、気付いていないフリを通す。
「……かなみはどうしたらいい? リズと一緒に戦う、よ?」
その声は少し震えていた。故に珖代は膝を折り少女と目線を合わせる。
「確かに、二人が抑えてくれれば街に被害は出ないのかもしれない。でも、万が一のことがある。だからかなみちゃんには町長や街のみんなにこの事実を伝えに行って欲しいんだ。お願い出来るかい?」
「うん……分かった。相談してくる」
かなみは目を瞑ると姿が何重にもぶれ、その場からスっと消失した。これはスキル┠ 瞬間移動 ┨を使い一瞬にして街へ任意移動したのが理由だ。そんなことを知らない勇者は目を白黒させているが、珖代はそれに構わず質問をする。
「一つ聞きたいことがある。この世界で死んだ人間も同様に、一度死んだらそれで終わりなのか?」
「……生き返る種族がいるとは聞いたことありますが、人間は……死んだら、お終いです」
「そうか、いやごめん。余計なこと聞いたな」
「僕自身も、まだ、二人が死んだって事に実感が湧かなくて、未だに、ちょっとしたキッカケで目を覚ますんじゃないかなぁって……思ってたりはするんです。すいません、現実見てなさすぎですよね。ははは」
勇者は笑顔を取り繕う。それは現実逃避に近けれども、自分に対しての嘲りであり、同時に強がりでもあった。
珖代は自分の懐から徐ろに何かを取り出した。銀紙に綺麗にパッケージされたスティック状の物体だ。
「それは?」
「ポーションを混ぜ込んだエナジーバーだ。疲労回復にはもってこいのな。食うか? バニラ味しかないけど」
珖代は食べかけのそれを口にくわえたまま、もう一本を懐から取り出し訊いた。
「あ、じゃあ」
「ほれ」
「すいません……」
「ちなみにれいザらスにはチョコレート味も売ってるから、お求めの場合は是非ヨロシク」
突然マーケティング活動を始め、ビシッとサムズアップする。
その宣伝は今でなくてはいけないのだろうかと勇者は思う。
「……。」
軽く受け流せるほど勇者に余裕はなかった。
エナジーバーを食べながら珖代は続ける。
「勘違いしてるようだが二人が死んだのは紛れもなく、絶対的に、あのネクロマンサーの所為だ。勇者のおかげで助かった俺だから言えるけど、決してお前のせいじゃないからな」
「それこそ違います、貴方を助けたのは女神様であって僕じゃない……。それに……すいません」
己の不甲斐なさから言葉を詰まらせる。勇者は耐えきれず珖代から目を逸らした。
「お前なー、さっきから謝ってばっかだぞ? 勇者がそんなんでどうする。現に俺が生きてるのはお前が助けを呼びに行ってくれたおかげだし、辛いのは分かるがそろそろ切り替えてくれ」
「二人を門の前に立たせていなければ。僕がもっと素直に喜久嶺さんに謝ることが出来ていれば。あれこれ一人で決めず仲間に相談していれば。こんな事にはならなかった。……考えないように考えないようにと思う度に、そんな後悔ばかりが頭に過ぎってしまうんです。そう簡単には切り替えられませんよ」
珖代はひとつ食べ終わると貫かれた肩を回しだす。
痛みは多少引いたが、感覚の鈍さと血を失い過ぎた事による若干の低体温で冷や汗を掻き始めていた。でも痩せ我慢をする。
「よし、治った。運ぶぞ」
「も、大丈夫なんですか?」
「ああ問題ない」
袖を破って傷口を縛る珖代はスケインを。勇者はカクマルを担いで走る。珖代は勇者の後ろをついて行くように走りながら、自分の考えをまとめて話した。
「自分の近くにいてくれた大切な人が、ある日突然死ぬ。なんの前触れもなく、納得なんかひとつも出来ない死を見届けてしまうとどうしても考えることがある──。どうしてその人じゃなきゃいけなかったのか。どうしてあの時あーしなかったのかこーしなかったのか。結局はタラレバの想像でしかないけど、そのモヤモヤとした感覚、後悔は、たぶん一生消えない。だからどうせ悩むなら全てが終わったあとにしろ勇者」
過去に大切な者を無常にも失った経験から、どうせ毎日悩むと知っている珖代は、その後も丁寧に言葉を紡いでいく。
「カクマルはお前の立場を一番に考えて行動していた。あの戦いの後、アイツは自分の弱さを認めた上で『勇者』の仲間として傍にいる事を選んだんだ。お前になに言われようが意地でもついていくつもりだったろうな。だからこんな日が来る事は覚悟していた筈だ。勿論、スケインもな」
一度は自分の弱さからパーティー離脱を考え、自分の後任を任せられる仲間を探すことに力を入れていたカクマルであったが、珖代の弱くとも前に進む姿と言葉に心を動かされ、苦手である剣術を学び直しこれから先も勇者の元で研鑽を積み、支え合い、勇者のよき理解者であり続ける道を選んだ。
珖代はそんな決意の断片を本人から聞かされていた。故に多くを語らずとも死の覚悟は出来ていたのだと考える。立派な騎士道精神を貫いたスケインも同様に。
「僕は……『勇者』として世界に求められてきたから戦ってきた。期待に応えるために使えない仲間は切り捨て、強い仲間は歓迎する。それで世界を救えるならそれはそれで良しとして。手段を選ばないこともあった。ユールに来るまではそれで全てが上手くいっていたから、覚悟なんて微塵も考えてこなかった。いつの間にか、この世界は僕を中心に廻っている──。そう錯覚するようになるほど。……これじゃあ、勇者失格ですよね」
人は死ぬ。
仲間であっても死ぬ時は死ぬ。そんな当たり前のことを忘れていた。
それは慢心を通り越した冒涜的なまでの過ち。
過ちはしがみつき、決して彼を離そうとはしない。がんじがらめになってまともに動けなくなる。
「お前は生き方が主人公してるし、そう勘違いしてもまあ、おかしくは無い。俺だって同じ立場だったら同じ勘違いしながらこの異世界で生きてたかもしれない。けどな、お前が何のために『勇者』として誰を助けるかなんてどうでもいい。二人がお前に託したものと、覚悟を無駄にしない為に戦え。考えろ」
なんでもない事のように珖代は軽く言う。
「二人が、託したもの……」
一時の沈黙が流れ、勇者は背中の重みをやけに感じた。そして、気持ちを落ち着かせるべく深呼吸をすると同時に、後ろで大きな物音がして振り返った。
「喜久嶺さん……!?」
みれば、珖代がスケインを背負ったまま地面に倒れていた。
勇者は一旦、カクマルを下ろしてから慌てて珖代とスケインを離し起き上がらせた。そして、珖代が大量の血に濡れていることに気付いた。
「ひどい出血だ! どうして治ったなんてウソを……!」
「このくらい、怪我のうちにも入らん」
青白い顔で言う珖代に、勇者はすぐさま決断を下した。
「二人は、僕が責任を持って安全な場所まで運びます。だから喜久嶺さんは一度、街に戻って治療して来てください」
「……で、その後はどうするんだ」
「今の僕では街にいても余計な混乱を招くだけなので、時を見て女神様に加勢します。そうだ、斧と〘選好の鐘〙をお返しします」
勇者は借りていたベルと斧、〘トクホーク〙を返却した。
「せんこうの鐘?」
「はい、かなみちゃんを呼ぶ時に使えと言われたアレです」
「これ、そんな名前なのか」
「イメージした相手にだけ鐘の音を届けるアイテムです。だから相手は誰であっても使えた筈ですよ」
「そうか……はは。俺はてっきりかなみちゃん専用の呼び鈴かと。街でお前の仲間に会うことがあったら俺から事情は説明しておく。それで、いいか?」
「はい、お願いします」
最後に一瞥をくれると、喜久嶺珖代は森を走りユールへと向かった──。
男の姿が豆つぶより小さくなる頃には、勇者は二人を移動させる準備を始める。そうしてふたりを担ごうとした時、硬いワイヤーを引くようなギチギチという不安音が聴こえてきた。
振り返ると、人が十人ほど囲えそうな真紅の魔法陣が大地で光を放っていた。その中心には怪しく光る金色の糸が垂直に垂れ下がっており、その糸を登ってくるかのようにして、魔法陣の中から骨の手が伸びてきた。
手から頭蓋、背骨、肋骨と、糸を手繰り寄せ登る正体が徐々に浮かび上がる。間違いない──、屍兵だ。
さらに、出てくるアンデッドは一体だけではない。……三体、五体、七体と数を増していく。
地獄から糸を頼りに登ってきたアンデッドたちは、サークルの外側に出現した刀身の真っ黒な剣を、それぞれが一つずつ手に取った。
「なんだ……まだ来るのか。こんなに大勢で来るなら、まだオノは返さなきゃ良かったかな」
勇者は仲間の前に立ち、時間を稼ぐことを選んだ。その所作は弱気な発言とは裏腹に、微塵の迷いも感じさせないものだった。
逃げれば二人の遺体を奪われるかもしれない。
臆せば屍兵達が街に向かうかもしれない。
どちらも譲れず選べない勇者にとって、選択の余地はない。
ただし。
覚悟はもう、とっくに出来ていた。
無駄にはしない想いの体現。
引くことの許されない戦いが今、始まろうとしていた。
「【黒点】ッ!」
────────────
──玉座の間──
「キミの実力はおそらくそんなもんじゃ無い。なんて言うか、頼まれた時間稼ぎを徹底して守っているような感じがするヨ。本当ならいつでもボクは殺せるって、そんな余裕すら感じるからネ」
「……」
「まあ、そのことを責めるつもりは無いヨ? 自分の城を壊したくない一心でボクも満足に戦えないからサ。歯ごたえのある剣士と戦うことばかり考えているボクでもキミとの戦いでこの城が崩壊することを躊躇っていたりする。まァ要するに、ボクも全力じゃあ無いんだヨ」
互いの命を奪い合う少年少女はどちらも実力を発揮出来ず、膠着状態が続いていた。その状況を良しとしなかった五賜卿グレイプ・アルデンテは話を続ける。
「ボクがこの城に住んでいた頃、ここには大きくて豪華極まるステンドグラスが輝いていたんだァ。太陽の光を目一杯浴びて、赤や青や緑に茶色、城内を様々な色で満たしてくれていたソレはキラキラと輝いていて、じっと見ているだけでも不思議と飽きがこなかったんだァ。本当に、目を見張るほど美しい芸術だったんだけど、長い留守の間に風化してしまったのか、今は一枚も残っていないのが残念でならない……」
五枚のステンドグラスは、つい先日の勇者と蝦藤薫の衝突時に全て割れてしまっていた。そんな理由を知らないアルデンテは感傷に浸りながら愛おしげに玉座を撫でる。
「中距離から遠距離を得意とし、アンデッドを操りながら戦うことで知られるネクロマンサーが何故、自ら接近戦に挑むのか──。何故だかキミには分かるかィ?」
聞かれた女神はじっと目を合わせたまま黙りを決める。
少女の返事を待たずしてアルデンテは笑った。
「ボクはね、見たいんだ。鮮やかな血を。太陽の元でキラキラ輝く血飛沫を見ていると、ステンドグラスを何時間でも眺めていられたあの頃を思い出すんだ。だから太陽の出ている朝昼だけ、ボクも前線に出て戦うんだァ。キラキラブシャー! を見る為にネ。でね、夜になると全部アンデッドに任せてボクは引きこもっちゃうから、本気で叩くなら今しかなかったりするの。それでもキミは、本気を出すつもりは無いのかナ?」
女神リズニアは一言だけ口を開いた。
「ネクロマンサーとは思えない生活リズムですね」
「健康的でしょ?」
微笑みながら詰め寄り二撃が飛ぶ。
その連撃を女神の持つ二剣が防ぐ。
リズニアは少年の追撃を許さない。
三撃目をひらりと躱しながら、四撃目はその初動すら与えない。
先手を防がれ隙が生まれることを予感したアルデンテは重心を後ろに傾け、横薙ぎに来る反撃を飛び退いてみせた。
そのままの流れで窓際に移動し、ステンドグラスが入っていた縁に片足を引っ掛ける。
「ここを一歩踏み出せば、遮る物は何ひとつ無いだだっ広い荒野! さぁ行こうか! 天の見下ろす大地へ。本気を出して戦える、思う存分暴れられるあの大荒野へっ!! ……ボクは先に行って待ってるからネ」
日差しを浴びながら少年は振り返り無邪気な笑顔を振りまいた。まるで純粋な子供のように。
この城は枯れない森の中にある。
ユール側からでは森が邪魔になり城の全容を確認出来ないが、大荒野側からだと城の裏手が容易に拝める。しかし、大荒野と城の間にある崖には桟橋の一つも掛かってはおらず、城に近付きたければ森を通るしか方法はない。
だが、城から大荒野に降りるとなると話は変わってくる。玉座の間は城の高所にあり、崖を飛び越えるようにその場から飛び降りれば飛距離は稼げるからだ。それに加え、アルデンテには常人離れした脚力がある。そのため助走をつけることなく跳躍し、いとも容易く荒野に降り立った。
女神リズニアはその後を追うように勢い良く助走をつける。アルデンテの脚力によって崩壊した窓辺を飛び越え、同じく崖を飛び越えたのだ。
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始まりの街-ユール-
街の誕生以来、一度としてなかった緊急事態に人々はどよめいていた。
かなみより伝えられた情報によって、五賜卿襲来を知った町長と街の役人達により話し合いが行われ、まとまった方針が関係各所に渡る。
『何者かにユールが襲撃された場合を想定して作られた避難プログラム』そういったものは、あるにはあった。
だが訓練などろくにしてこなかった冒険者や保安兵たちはその対処に追われる。冒険者は新人ベテラン関係なく、街に常駐する数少ない保安兵と協力して住民や観光客の避難誘導にあたることでなんとか対応した。
比較的荷物の少ない観光客から順々に避難を開始し人々が出口に長蛇の列を成して行く。大きな混乱を極めないままに避難が出来たのは丁寧な対応によるものだけではない。避難する者たちの誰もが五賜卿の姿を見ておらず、危機が迫っている実感を欠いていたからだ。故に焦らず行動する者が多く、半信半疑のまま取り敢えず従っている状況にあった。
そして何より、弟子ーズの事前の活躍が大きかった。
避難ルートに指定された安全性の高い道はその安全性が仇となり、魔物から逃げてきたランドリーチキンが多く徘徊していた。その道をもしもの時の為に進んで管理を行ってきたのが珖代とユイリーだった。
その事実を役人の一人である、レクムの女主人デネントが発言したことにより避難ルートの決定は素早く済んだ。
残り十分もしないうちに街から観光客の避難は完了する。その時には役人達による更なる対策が話し合われるだろう──。
「うむ、やはりこの行列の中には居ないかもしれん」
「ですわね。どこに行ったのやら」
大名行列を傍から眺めて難しい顔をするのは、小さな少女ピタと気品ある少女トメ。二人は勇者の仲間である。
「コータロー、スケイン、カクマル、誰一人として迎えに来てくれる予感がしないな」
「ええ。勝手に避難する訳にも行きませんし、困りましたわね……」
そんな二人の元に一人の兵士がやって来た。
「おい。そこのお前達、見た所住民ではないな? 冒険者でなければ列に入りなさい」
「あのー、すまないが勇者を見かけなかったか?」
ピタがそう訊く。
「勇者? 今日は見てないな」
「そうか……」
探すのは厳しいそうだと、ピタは肩を落としかけた。
「でもそうだな、あの色黒の大男なら見かけたぞ」
「それは本当でして!? 何処で見かけたのですか」
声を荒らげたのはトメだ。兵士はその圧に戸惑う。
「ず、随分前にこの通りを歩いていたよ。確か、城がどうとか言っていたような……」
「城……? まさか、三人は今……」
ピタの頭には最も恐れていた事態が起きているのではないかと過ぎった。それは同じくトメにもあった。
「戦っているのでしょうね、おそらく」
「なら、こうしちゃいられないな」
「ええ、決まりですわね。急ぎましょう」
二人は待つことを止め、行き先を決めた。
「情報、感謝致します」
「あ、ああ。……っておいっ、何処に行くんだ君たち! 列に並びなさい!」
保安兵の制止も聞かず、二人は駈けて行く──、
「私達のことは心配するな! 忘れ物を取りに行くだけだ!」
──嫌な予感を覚えながら。




