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第十二話 外道悪魔系干物女神さん

死闘のあとの日常回ですよー!


 ---珖代視点---



 

 俺は暇つぶしの為に〈レイザらス〉に向かっていた。

 

 皆には安静にしておくよう言われてたけど、昨日のことしっかり謝ってから家を出た。腹のキズは完全に塞がっているし問題はないだろう。

 

 おもちゃ屋にこれと言った用はない。

 だからといってただフラついている訳でもない。

 

 自分の血で滲んで読めなくなったギルドカードを新調するのが目的で家を出た。ギルドに着き受け付けで確認すると、新しく作り直す必要があるとかで、二時間は掛かると言われた。出来上がりを待つ間にどうせなら何処かに寄りたい、そんな惰性から〈レイザらス〉へ向かったのだった。

 

 ひとりで居るとつい昨日の事ばかり考えてしまう。

 自腹を切って(物理)まで勇者に勝とうとしたのに途中で気を失って仲間に迷惑をかけてしまった。

 情けない、恥ずかしい。


 気づいた時にはベッドの上にいてセバスさんがキズを癒してくれたことと、薫さんが勇者と折りあいをつけて事態を解決してくれたことを皆から聞かされた。

 

 昨日の今日で勇者が今何をしてるのかは分からないが、とにかく、一件落着なんだそうだ。

 

 例の"アレ"は、不安定な魔素の流れに脳をやられ、一時的に軽度の精神異常に陥っていたものだとリズニアから説明を受けた。


 確かにあの時の俺は冷静じゃなかった。暴走もしていた。自分でもどうかしていたと思う。でも、勇者に対してゆるりと湧いたあの時の激情は嘘じゃない。

 

 『──俺が勇者に勝たないと、きっと勇者は変わらない』


 そう思って突き進んだ。

 もちろん手段を選ばないやり方であったり、仲間を仲間とも思わない行動をとるあいつには負けたくないという気持ちはあった。ただ、あいつが自分より弱いと思っている奴に敗れることになれば、考え方を改めてくれるような……そんな気が強くしてならなかった。

 

 『勇者』という立場がどれだけ重く、重要視されているのか俺には想像もできない。そのプレッシャーは測り知れない。ただ今回は間違えた、その方向性を間違えた。

 

 あの後、薫さんとの話し合いで勇者はそれを理解してくれたそうだ。出来ることならもう一度会って、心意を確かめてみたい。街を出ていなければいいのだが──。

 

 相変わらず賑わうショップ内で変わった物がないか物色する。(もっと)も、この異世界からしてみればどれも変わった物に違いないのだが。


 人の流れに沿って歩いていると、何やら溜息をつきながらぬいぐるみとにらめっこする少女の姿が見えた。どこかで見覚えがある。


 ──あの娘は確か……。

 

 「「あ。」」

 

 目が合った。

 勇者のところのピタちゃんだ。


 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 「ありがとう。その、……買ってくれて」

 「いいよ、気にしないで」

 

 低身長(ドワーフ)族の少女、ピタちゃんを途中まで送るため、並んで一緒に歩く。

 

 おっきな大剣が彼女のトレードマークらしいが、今日は見当たらない。服装も落ち着いている。普段から背負っている訳ではなさそうだ。


 そんな彼女はつい先程までボーッとぬいぐるみを眺めていた。何をしているのか聞いたところ、昨日から勇者と話したくともなかなか声を掛けづらい状況だとかで、仕方なく〈レイザらス〉に足を運んでいたそうだ。

 欲しそうに見ていたおおきなクマのぬいぐるみは、勇者に聞かなければ買えないと落ち込んでいたのでプレゼントしてあげた。オマケに話すきっかけを与える為のトランプもつけて。

 

 「あのー、勇者って今、どうしてる?」

 「コータローなら、朝から大忙しだ。スケインを連れて一軒一軒の家を周って謝りに行っているところだ」

 「そうか。昨日の今日だってのに大変だな」

 

 自業自得ではあるが、一軒一軒となると簡単には終われないだろうし日が暮れそうだ。

 

 「ときにコーダイ……殿、このトランプとやらはどうやって遊ぶのだ?」

 

 ピタちゃんが抱きしめるように持ち歩くクマの頭には、トランプが入ったケースが乗っている。

 

 「それは、友人や仲間と一緒に遊ぶ為のものなんだけど、遊び方はたくさんあるから勇者に聞いてみるとイイよ。あいつならきっとルールも知ってるから」

 「……っ! や、優しいのだな……お前は」

 

 ピタちゃんが俺の意図に気づいてくれたようで、ぬいぐるみに顔をうずめながらお礼を述べる。耳が赤かった。

 自然と会話が出来るようにトランプを渡したことに気づいてくれたようで良かった。

 

 「あんまり優しくされると……その、あのだな……とにかくっ! 何から何まで迷惑をかけて、申し訳ないっ!」

 「ピタちゃんが謝ることじゃないよ。元はと言えばウチのアホ女神が原因だから気にしないでよ」

 「そうなのか? ……あ、ありがとう」

 

 元女神様がもっと良識があればこんなことにはなっていなかったのだから、謝る必要なんかない。

 

 「…………」

 「…………」

 

 聞きたいことが無くなった。

 沈黙が流れる。

 

 こういう時は男から話題を振るのが鉄則だと聞く。何でもいいから会話を続けないと向こうも辛いだろうし。天気の話は、──ダメだな。年を聞くのも失礼だろう。なん……だ? こういう時って何を聞けばいいんだっけ……?

 

 一緒に歩いててこのままは気まずくなりそうだ。向こうからの質問を待つか? いや、来そうにないな。でも一応待ってみよう。

 

 「………………」

 「………………」

 

 ──ダメだぁ! 気まずすぎるぅぅ!!

 

 「じゃ、じゃあ俺は、こっちだから。勇者によろしくっ!」

 「お、おう……そうか、じゃあ、また……またなっ!」

 

 ピタちゃんと別れ、細い道に入る。

 

 やってしまった。この道は完全に遠回り。

 二人きりの沈黙が耐えきれなくなってつい適当な言い訳をしてしまった……!

 俺ってこんなにコミュ障だったかぁ!?

 

 ──くそぉ……こんなんだからモテないんだよぉ。変なウソまでついて何やってんだ、俺……。

 

 だから彼女が出来ないのだ。こんなのを好きになってくれる人なんて現れるのだろうか。


 俺が落ち込んでいると、目の前のゴミ箱の影に隠れる者の姿が見えた。いや、隠れきれていない。足先がはみ出ている。

 

 「リズ、……ニア? 何やってんだこんな所で」

 「いやー、こうだいっ! こんなとこでばったり会うなんて、すごい偶然ですねー。あはは」

 

 リズニア。そうだ、こいつはどうだろうか。


 出会った当初は整った顔立ちと白金色の髪に魅力されかけたことがあった。見た目だけなら今も一流。

 ただ一緒に暮らしていくに連れて、段々と手の掛かる妹のような存在に感じてきた。そう思うようになってからは多少のこともなんだかんだ許せてしまうようになった。

 向こうも恋愛対象とは思っちゃいないだろうな。

 

 「ただカナー!」

 「おかえリーズ! ってあれ、珖代も一緒だったんだ。おかえり!」

 「うん、ただいま」

 

 かなみちゃん、この子はどうか。

 いやいやいや……この娘はまだ小学生だぞ。たまに出る色香には惑わされそうになるが、ダメだ。ダメなものはダメなのだ。


 ──いや、かなみちゃんは俺のお母さんになってくれる人だったよな確か……。いやいや、何を期待してるんだ俺は! シャ〇か! 〇ャアはこんなに気持ち悪かったんか!

 

 「「いただきます」」

 「イタダキまーすでーす!」

 「……あっ、いただきます」

 

 なら薫さんはどうだろ。

 良識もあるし立派な大人の女性だ。セットクもしたことあるが、……でも、この人には他に想いを寄せる人がいる筈だ。俺には分かる。中島さんならお似合いだと思う。

 

 みんな可愛いところもあってキレイでもある。今更ながら美人揃いだ。誰もが羨むような生活をしているのに、でも……だれも違う。贅沢な悩みだ……。誰か俺を殴ってくれ。

 

 嗚呼、何処かに俺に好意を寄せてくれるような素敵で可愛い女の子はいないものだろうかぁ──。

 

 「おやすみなさい、セバスさん」

 「バウぅ……」

 

 ベッドに寝転がって考えてみても、そんな都合のいい人は思い当たらない。尤も、思い当たれば最初から悩んでなんかいない。

 

 セバスさんは女性とはいえ今はイヌだし……。


 だったらユイリーちゃんはどうだろうか。

 彼女はかなみちゃんと背は殆ど変わらないが、確か成人? 済みと言っていた気がするし付き合っている人もいないと聞く。

 この世界の成人年齢がいくつからなのかは分からないが、あの驚異的な胸を見れば成人であるのは間違いはない。好きな人のタイプは意思疎通が出来る人と言っていたので、もしかするとチャンスがあったりするかもだ。


 ──そういえば今日はギルドにいなかったっけな。

 

 ん──? ギルド?

 

 「あっ、ギルドカード! 取りに行くの忘れてた……」


 布団から起き上がり思わず叫んでしまった。

 今すぐ取りに行きたいところだが、もう就寝前。

 閉まっているだろうし取りに行くのは明日にしよう。

 

 にしても気になることがある。

 師匠にギルドカードを作ることを話すと、

 「驚くことになるだろうな」

 と含みのある言い方をされた。

 

 もしかして、俺の持つ唯一のスキル┠ 威圧 ┨に次ぐ、新たなスキルでも増えているのだろうか。

 だとしたら今から明日が楽しみで仕方がない。

 

 「スキルであってほしいなー」

 



 ……。



 …………。




 ……………………。


 


 ……眠れない……。


 

 明日が楽しみなのが抑えきれないのは分かるが、まさか眠れなくなるとは思わなかった。

 トイレに行ってスッキリすれば落ち着くかもしれない。決してナニをする訳ではないのだ。決して。

 

 ベッドから起き上がり部屋をでる。

 目が暗闇に慣れているので、月明かりで薄らとリビングが見渡せる。迷いなくトイレに向かう途中、奇妙な音が聞こえてきた。

 

 「何だ……? リズの部屋から聞こえるな」

 

 光甲虫という夜になると光り出す虫さんを一匹、特殊な袋からとりだし「お願いします」と専用のカンテラに入ってもらう。こうする事で暖色の非常用エコライトが完成する。普通のライトもあるが、電池が勿体ないので普段はこっちを使っている。

 

 リズの部屋の扉が少し開いている。


 近づいていくと音の正体がハッキリしてくる。


 なにかを噛み砕くような咀嚼音だ。


 何の音か気になって、隙間からリズの部屋の様子を覗いてみる。


 月明かりに照らされ丸まった背中が見えた。

 

 こんな時間にベッドに寝ているでもなく、床に座り込みながら頭を揺らしている。


 どう見ても普通じゃない。


 意を決し部屋に踏み込む。

 

 「リズニア……か?」

 

 俺が声を掛けた瞬間、丸まった背中のそれがピタリと動くのを止めた。

 

 ゆっくりとこちらを振り返る。

 

 カンテラに照らされたその顔は、大量にポテチを頬張るリズニア本人だった。良かった。

 

 電気つける。

 パチっ──。

 

 「まぶしっ」

 「こんな夜遅くに、何をしていたのか説明してくれるか?」

 「なにって……なにがですか……?」

 

 さり気なく顔を拭っているその手が油まみれで、ポテチを食べたことの証明まみれだ。

 

 「なるほどな、……薫さんの料理だけでどうしてあんなに太るのか不思議だったけど、そうか、そういう事だったんだな」

 

 俺の視界に入らないように隠そうとしてももう遅い! ポテチを取り上げる。

 

 「あー! いやーー! まだ入ってるのにぃ!」

 「こんな時間に食うんじゃない! これは没収だ。ったく、また太るぞ」

 「ここ一週間、痩せる為に我慢して来たんですよぉ。だから、今日くらいはお慈悲をくださーい」

 

 リズが油まみれの手と顔を俺の足に擦り付けてくる。

 

 「なにも間食するなって言ってる訳じゃねー。こんな遅くに食べるのが良くないから言ってるんだ。いいか? 今後もお菓子を食べたいなら、明るいうちにしろ。今日から夕食後にお菓子食べるの禁止!」

 「えー!」

 「えーじゃない。じゃなきゃまた……。街でお前がなんと呼ばれてたか知ってるか? 馬車だぞ? 馬車。また馬車に戻りたいのか?」

 「……やです」

 

 意外にも聞き分けがいい。

 馬車という言葉が響いたのだろうか。

 

 ほぼ空っぽのポテチの袋を片手に踵を返す。

 

 湿気ないようにとりあえずゴムで開け口を縛ってからお菓子箱に戻そう。いや、待てよ……?

 

 「いつもお菓子を入れてる棚って、夜は開けられないようにカギ掛けてたよな……?」

 「びく……!」

 

 今はカギが掛かっているハズなので仕舞うことはおろか、取り出すことも出来ないはず。となるとこのお菓子はどこからやって来たのか──。

 

 まさか。

 

 「あー! ちょっと!」

 

 ベッドの下を覗く。

 やっぱりだ、あった。洋服を仕舞える透明のタンスの中にびっしりと並べてられたお菓子達が姿を現す。

 

 「全部没収だ!」

 「そんなぁ……!!」

 「もうないな?」

 

 リズニアの目をみてみる。

 あっ、逸らした。

 

 「……あるんだな?」

 

 これだけ早く見つかったのだから、別の場所にも隠している筈だとみて辺りをくまなく探してみると、あれよあれよとお菓子が出てくる。どれもこれも恥ずかしがり屋みたいで、枕のあいだに挟まっていたり、イスの裏にくっ付いていたり、時には本棚に並んでいたりした。リズ専用の色々収納できる四次元バスケットの中も合わせると、とにかくたくさーん出てきた。

 

 「この量全部一人で食べるつもりだったのか?」

 

 山のように並べられたお菓子の前でリズは正座する。というかさせた。さすがに反省しているようだ。

 

 「晩御飯のあとのお菓子は当分禁止。いいな」

 「ははは」

 「……馬車女」

 「はい……」


 気の抜けるような渋々な返事が返ってきたのでもう一度念押ししておく。それでやっと納得してくれたので俺は部屋に戻ることにした。なんだか疲れた。おかげで今なら眠れそうだ。

 

 

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