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第四話 始まりの朝


 波風一つたたない水面に、ゆっくりと浮かんでくる様な心地よい感覚で目を覚ます。

 随分永く寝ていたような感覚。目に入る微かな光が思ったより眩しくて目を細める。

 

 「リズ……ニア?」

 

 目の前にいる人物に話しかけて、寝ている体を起こす。

 あの元女神はたしか、クズと呼ぶくらいならリズと呼んでほしい、と言っていたが、まだ出会って半日も経たない相手を愛称で呼ぶのは変な感じがする。純粋に照れくさい。

 

 一度流れでリズと呼んだ気がするが、リズニアと呼ぶことにする。それと、クズと呼んでしまったことを一旦謝ろう。

 

 「おはようございます。珖代さん」

 「──っ! 薫さん!? それにかなみちゃんも!」

 

 なんと、目の前にいたのは薫さんだった。よく見れば横に四次元バスケットを持ったかなみちゃんもいる。

 

 薫さんはさっきまで俺が横になっていた所で正座をしている。つまり俺は、薫さんに膝枕されていた事になる。

 

 道理で寝心地が良かったのか。

 

 「どうして、なんでここに? ……へ? ってここは?」

 

 見渡せば俺は街の中にいる。どうやら無事、異世界に来られたらしい。

 

 ただそこはイメージしていた異世界と少し違う。

 

 ゲームの影響からか中世をイメージしていたが、ここはどちらかと言うとウエスタン。アメリカの西部開拓時代に近い。荒野を開拓して造られたような街だ。

 

 実際には、中世ヨーロッパもアメリカ西部も見たことないがそう感じた。ガンマンやカーボーイ、転がる謎の草なんかが今にも出てきそうだ。

 

 俺が寝ていた場所は、たくさんの二階建ての店が軒を連ねる大通りのど真ん中だとわかった。よく見るとほとんどの店が二階は見栄え重視のハリボテだった。

 車が三台同時にすれ違えるくらい広い道幅ではあったが、俺達以外に人は見かけない。

 

 「ここは冒険者達にとっての始まりの街だそうです」

 

 薫さんはキョロキョロと周りを見渡す俺に、わかり易く説明してくれた。

 

 俺達が転生したのは ユール と言う小さな街で、ここは"ギルド"と呼ばれる冒険者達の依頼請け負い所を起点として成り立つ街だという。

 また、この辺りに出る魔物が弱いことから新人冒険者達にとってうってつけの街、と言う意味で"始まりの街"と呼ばれているらしい。

 人影が見えないのは現在、早朝だからだそうだ。

 

 勇者の為を考えて設定された転生ポイントとして、この街に飛ばされたことも薫さんは教えてくれた。

 

 転生先が過酷すぎて即ゲームオーバー……なんてことにならなかったことはあのトウ神様とやらに感謝するしかない。

 

 

 「──と、クズニアさんがそう仰ってました」

 「あ……えーと薫さん達はどうしてここに?」

 

 サラッとクズニアと呼ぶ薫さん。あの元女神悪魔クズ女神が悪いので、俺には指摘出来なかった。

 その代わりここにいる理由を聞く。

 

 「これは推測なのですが、恐らくあの場所での"口約束"が働いたのでないかと」

 

 "口約束"──。確かに俺は薫さん達親子に償うことを約束した。

 

 「──傍で償うっていう約束をしていたから、薫さん達も強制的に連れてこられたってことですか? ……だとしたらまた巻き込んでしまったんですね……俺は……」

 「気にしなくていいんですよ。珖代さんは優しいんですね」

 

 薫さんはそう言ってにこりと微笑んだ。

 

 「償うのは……当然の事ですよ」

 

 俺が優しい……? リズニアにも言われたがそんなに優しく思われるようなことをした覚えがない。

 

 俺の顔とのギャップでそう感じてるに違いない。例えるなら、捨てられた子犬を拾うヤンキーのような。

 

 捨てられた子犬がいても俺は拾ってあげられるほど優しくはない。

 せいぜい飼い主探しに奔走したり、飼い主が見つかるまで毎日エサをあげに来たりするくらいしかしてあげられない。

 

 「それであの、アイツは?」

 

 俺の質問に対して、

 「あちらの方にいます」

 と教えてくれた薫さん。よく見ればリズニアがお食事処のような場所で、食べ物を口いっぱいに頬張っている姿が見えた。

 

 あの様子だと俺が目を覚ましたことにも気づいてないだろう。

 

 「あいつ、お金持ってるんですかね?」

 「さぁ……どうでしょう」

 「ま、どっちでもいいか」


 金をリズニアが持っているか気になったが、もうリズニアと関わる必要もつもりももう無いのだから放っておくことにした。これから魔王を倒すのも、薫さんとかなみちゃんに償うのも、アイツとは関係の無いのことだからホントにもうどうでも良いのだ。


 ──寧ろ、関わらない方が物事を円滑に進められる気がするしな……。


 そんなことを思いつつアイツを見ていると、俺達が直面しているある問題に気づく。

 

 「──お金。稼がなきゃだ」

 「何か、いい仕事があるといいんですがね」

 

 独り言のように呟いた俺に薫さんが返してくれた。この世界にまともな仕事はあるのだろうか。不安だ。

 

 「だったら、ギルドで冒険者登録しておくと良いかもだって」 

 「え……? 登録? あのお姉ちゃんに言われたのかな?」

 

 かなみちゃんからのギルドに行く提案に思わず驚く。多分リズニアに聞いたのだろう。

 

 嫌って無視しているように見えたが、ちゃんと話し合いができそうでなによりだ。もう、会わないが。

 かなみちゃんは話しを続ける。

 

 「この街の経済の中心はギルドに所属する冒険者達だから比較的安全な依頼を山山こなしていけば衣食住に(あぐ)ねることはない、って」

 

 一拍も置かずにかなみちゃんはそう言い切った。

 

 「か、かなみちゃん……よく倦ねるなんて難しい言葉知ってるね」

 

 薫さんの英才教育の賜物なのだろうか。最近の子はすごい。

 

 「意味はよく分かんないけど、そう知った」

 

 ──知った? やっぱりアイツから聞いたってことだよな?

 

 「そっか。じゃあ、ギルドに行ってみようか」

 「うん!」

 「そうですね。行きましょう」

 

 俺達三人は、ごく自然な流れでリズニアを置いて、ギルドに向かうことになった。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ギルドはすぐ近くにあった。周りにある建物と比べても一際大きな建物で、三階建て位はありそうな外観をしている。ハリボテでもなさそうだ。

 この街の中心を名乗るのにふさわしい、立派な外観をしているのは確かだった。

 

 「──あの扉、西部劇とかで見たことありますよね」

 「ええ、そうですね。私、てっきり異世界は、中世のような世界感だとばかり思っていました」

 「俺もです! そんな感じだと思ってましたっ! ……すいません」

 

 薫さんが同じ気持ちでいた事が嬉しくて少しはしゃいでしまった。はんせい。

 

 「あれ、スウィングドアって言うんだよ。ドアパネルが回動開閉するから押したり引いたりして入れるドアで、日本でもスーパーとかで使われてるみたい」

 「物知りだね、かなみちゃん」

 「うん! えへへっ」

 

 かなみちゃんは屈託のない笑顔で笑っている。

 

 「興味あるものになると、子供は大人以上に知っていることがあるんですよっ」

 

 薫さんもかなみちゃんが褒められたことが余程嬉しかったのか、自分のことのように喜んでいた。

 

 ──うん。女神なんて必要ない。この二人の笑顔は俺が守っていこう。

 

 そう、心の中で誓う。

 なに? 魔王を倒すって"口約束"はどうするかだって? そんなのは後でいい。というか今はどうでもいい。だいたいそういうのは勇者とかに任せておけばいいんだよ。

 

 「お母さん。ギルドに入る前に着替えよう?」

 

 ギルドに入る直前でかなみちゃんが薫さんを止めた。

 ずっと一緒にいたから忘れていたが、薫さん達親子は血まみれの服を着たまんまなのだ。

 

 「ごめんね……かなみ。お母さん、お金ないからお洋服は買ってあげられないの……」

 

 こんなにも早く、俺では笑顔を守りきれない案件に直面してしまうとは思わなかった……。

 

 俺はなんて無力なんだ。掛ける言葉も見つからない。

 これ程まで、非力な自分を怨んだことはない。

 おお、神よ。どうかこの二人にお洋服をお恵みください。と、そんな気持ちだ。

 

 「リズニアのドレス借りれば大丈夫だよっ!」

 

 そう言ってかなみちゃんは四次元バスケットの中から、青いドレスと赤いドレスを取り出した。

 

 元女神のお恵みはあったのだ。

 ありがとう。

 もう二度と会うことは無いが、心の中だけでお礼しよう。

 

 「珖代はここで待ってて! 着替えてくるから。行こっ! お母さん!」

 「う、うん。待ってるよ」

 

 薫さんは軽く俺に会釈したあと、かなみちゃんに手を引かれながら裏路地に消えていった。

 そこで着替えるつもりらしい。

 こういう時、紳士的な対応をしなければならない。

 覗いたりなんてもってのほかだ。

 

 何故か路地裏の方から目が離せないが、決して覗きたい訳ではないのだ。決して……! だ。

 

 「珖代ー! どうかな?」

 

 戻ってきたかなみちゃんは駆け寄って、目の前でターンを決めた。スカートがふわりと浮き上がり絶対領域をチラつかせる。そこはかとなく装飾が散りばめられており、意外と機能性に優れている青いドレスを着たかなみちゃんは一段と可愛い。

 ただ一つ心配なのは、元がリズニア用のドレスなので胸元に隙間が生まれてしまったことだ。

 

 「……う、うん。 すごく似合ってて、可愛いと思うよ」

 

 俺の顔を覗き込むような姿勢で見てくるのはやめて欲しい……。見えてはいけないものが見えてしまいそうだ。

 

 「あのー、どうですかね? 珖代さん」

 「──っ! ええ、似合ってると、思い、ますよ。ええ」

 

 薫さんの赤いドレス姿は一言で言えば、暴力的だ。暴力的なまでにエロ過ぎる。エロス。かなみちゃんとは真逆。その豊満過ぎる胸がサイズの合わないドレスによって、より一層、存在感を引き立てている。

 

 「そ、それじゃ! 行きましょう!」

 

 あっちを見てもこっちを見ても、目の保養……じゃなくて毒になる。

 

 だから、先頭を切ってギルドに向かおうとした。

 

 「うーん……やっぱないなぁ」

 

 かなみちゃんが、バスケットの中を漁りながらそう呟いた。

 

 「どうしたのかなみちゃん? 何がないのかい?」

 「どれだけ探しても、パンツが一枚も入ってないの」

 「へ? あ、……うん?」

 「スースーするけど……まあ、いいや!」

 


 一瞬、思考が停止しかけた。


 ──え? かなみちゃんは今、履いてないのか? なら薫さんも履いてない可能性が有り得ると? リズニアの持ち物にはいってないってことは、リズニアももしかして……。

 だとしたら三人ともドレスは危険なんじゃないかぁ!?

 

 「珖代さん! 先入りますよ!」

 「あっ、今行きます!」

 

 気づけば俺はその場で固まっていた。

 俺は、二人の後を追いかけるようにギルドに入った。

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 ギルドの内部は案外綺麗に掃除されているが、所々の壁に染みや、ひびらしきものが入っているように見え、年季が入っていることが分かる。

 

 こういう所は案外、ゲームとイメージが近くて安心した。

 

 中央には、受付が3ヶ所。

 入って右側には上に上がる階段と丸いイスが10脚並んでいる。

 受付のすぐ横、左側には酒場が併設されている。四人がけのテーブル席が5つと二人がけのテーブル席が二つ、それとカウンター席が七つある。

 

 早朝にも関わらず酒場で飲んでいる冒険者の姿もちらほらと見受けられる。

 そんな時、入口付近のテーブル席でグラスを傾ける、初老冒険者に話しかけられた。

 

 「あんた、醤油は好きカ?」

 

 ダンディーな声で俺にそう聞いてきた。

 

 「まあ、好きなほうです。醤油があるんですか?」

 「ある。日本人、醤油すきだろ」

 

 熟練の冒険者のような風格のある人物だが、やけに抑揚のない喋り方をするので、機嫌が悪いように見える。

 

 「……あの、俺達、ギルドに来るのが初めてなんです。冒険者登録はどのようにしたらいいんですか?」

 「まて、オレは日本語、少しだ。ゆっくり頼ム」

 

 そうだった。言葉が通じない可能性を完全に失念していた。

 

 こういう時は問題なく会話が進んでいくような感覚でいた。ゲームのイメージに引っ張られたせいだろうか。こういう考え方がゲーム脳って言うのかもしれない。これはマズイ問題に直面したぞ。

 

 「こうだい、お困りの様ですねぇ……私が代わりに聞いてあげますですよ」

 

 さも、そこにいるのが当然の様に、リズニアが後ろから話しかけてきた。

 沢山食べていたが、お金はどうしたのか。

 

 「その代わりと言ってはなんですですが、こうだい、お金貸してくれません?」

 「俺がこっちのお金を持ってるわけないだろ」

 「そういえば一緒に来たんですもんね! うっかりしてました。てへっ」

 

 何故、金銭を要求するのか。

 

 「お前……ひょっとして、食ってそのまま逃げて来たのか?」

 

 返答次第ではただでは済ませない。食い逃げはいけない事だと誰かがしつけなければならない。

 

 「やだなー食い逃げなんてする訳ないじゃないですかーちょっと抜けて来ただけですよ」

 

 本人はそのつもりでも店側にはとんだ迷惑だ。

 コイツのことだから気付かれないようにコソコソ抜け出したに違いない。

 

 「そのことは後できっちり話すとして、取り敢えずこの人から話を聞いといてくれ。お前の役目、それしか残ってないんだから頼んだぞ」

 「ええっ! おまかせくださいですっ!」

 

 自信満々なのが見て取れるがその自信は一体、どこから来るのやら。

 

 出来ることならリズニアに頼りたくない。不安しかないから。しかし異世界の言葉が誰にも話せない以上、頼らざるを得ない。

 

 俺達は階段側のイスに座ってリズニアの帰りを待つ。

 

 少しして、リズニアが戻ってきた。

 

 「で、なんて言ってた?」

 「──あんたじゃ話しにならないって、言われました」

 

 なにを言えばそんな風に言われるのか。言葉が通じてもコミュニケーションが取れないのか、この女神は。

 

 「お前を頼った俺がバカだった……」

 「こうだい。不甲斐なくてもあまり自分を責めてはダメですよ……」

 

 そう言って、慈悲のこもった目を向けてくる女神。

 

 「お前は責めてもいいんだぞ……」

 「クズニアさんはギルドの仕組みをご存知では無いのですか?」

 「リ ズ ニ ア ですよっ! いい加減、覚えてくださいですよーかおりーん!」

 「質問に答えてください。クズニアさん……?」

 

 薫さんの笑顔に影が増した。あれはキレている。間違いない。

 

 「すいません……わかりません」

 

 リズニアは意外にも素直に謝った。


 「珖代さん、どうします?」

 「うーん……」

 「なに聞くの、かなみが行ってくるよ」

 

 沈黙を破ったのはかなみちゃんだった。

 

 「──え? かなみちゃん?」

 

 かなみちゃんは躊躇もなく、一人でベテラン冒険者に話しかけに行った。

 ここからでは声は聞こえないが、少なくともリズニアより会話が成立しているように見える。

 

 「なぁおい、かなみちゃん……異世界語がわかるのか……?」

 「おそらく、あの様子だと言語理解系スキルを持っている可能性があります。であるならば、彼女は私たちの制止を聞かずスケッチブックに触れてしまったことになるのですがね……」

 

 冷静沈着な女神モード。

 

 リズニアの説明に一部、納得がいかない。

 

 「お前は触ることを促した側だろうが」

 「ほら、興味あるものになると、子供は大人以上に知っていることが──」

 

 薫さんがリズニアのフォローを入れてくるが、それさっきも聞きましたしフォローになってませんよ。

 

 「幾ら何でも無理ですよー薫さーん」

 「でもかなみちゃん、スケッチブックには触れて無いように見えましたが、いつ触ったんでしょう?」

 

 そういえばそうだ。リズニアの言う通り、俺達は直前で止めたはず。


 「確かに。いつ触ったんだ?」


 なら、別のタイミングで触った可能性が浮上する。だとしたらそれはいつの──……。薫さんが小さく手を挙げている。

 

 「皆さん、スケッチブックの事で揉めていましたが、それより前に、娘はさりげなく開いて見ていた……と思うんですよ」

 「開いて……? ──あっ!! 薫さんにリズニアを紹介してた時か!!!」

 

 あの時暇そうにしていたかなみちゃんが、イスに立て掛けて置いてあったスケッチブックを、開いて見ていた光景が記憶の底から掘り起こされた。

 

 あまりに自然な行動だったためにその時は何とも思わなかったが、冷静に考えればその時にチートスキルを手に入れた事になるだろう。

 

 「一体、どれだけのチートスキル覚えたんだ、かなみちゃん……」

 「恐らく、本体自体を触っていたので、全部でしょう。数にして──約二十です」

 

 大量に手に入れたチートスキルの重大さがいかほどなのか俺には分からないが、小さな女の子に扱えるとは到底思えない。

 

 「はぁ……」

 

 俺と神様が止める前から終わっていた。無駄な行動をしていたと思うと溜息が出る。


 「薫さん、あのスケッチブックはですね──」


 俺はスケッチブックが何なのか知らないであろう薫さんに、チートスキルのことも交えて説明した。

 

 「娘が……チート幼女に……すごく羨ましい……」

 「羨ましい?」

 

 ただ薫さんの反応が思っていたのとは違う。娘を心配する親子の顔をのぞかせる一方、娘に嫉妬するような言葉が聞こえた。

 

 「異世界でチートで無双なんて羨ましいにも程があるじゃないですか!」

 「無双……? 異世界無双?」


 そんなシリーズあったっけか。コー〇ーか?


 「はい……無双出来るんですよぉ。うらやましくないですか? わたしも一度でいいから無双してみたいです……」

 

 よく分からない言い回しが出てきたので聞いてみたが、薫さんもリズニアみたく答えになってない返事が返ってくる。

 

 この人だけが唯一の常識人だと思っていたが、恍惚とした表情で体をくねらせながら言うものだから、変人に見えてきた。

 

 「あっ! かなみちゃんが戻ってきましたよ!」

 

 かなみちゃんが沢山のチートスキル持ちであることと、薫さんの危ない一面が判明したタイミングで、かなみちゃんが戻ってきた。

 

 異世界語が話せることを自覚しているなら、能力のことはまず自覚しているはず。それでもチートスキルのことを本人になんて確認すればいいのか。

 

 「あそこの受付でステータスプレートを作ってもらえばいいみたいだよ。自分の髪の毛3本か、切った自分の爪を渡せば二、三時間で登録出来るって」

 

 かなみちゃんは会話に成功したようだ。

 俺達はかなみちゃんに言われた通りに髪の毛を受付で提出する。

 

 冒険者登録に年齢制限は無いらしいが、かなみちゃんが提出すればチートスキルの宝庫である事が露顕してしまう恐れがあるので、冒険者登録はさせない方向で決まった。初回は無料で受けられるらしい。

 

 後は、ステータスプレートってのが出来るのを待つだけ。そしてその間に行うことは──。

 

 「よし。行くぞ、リズニア」

 「行くってどこへです?」

 「どこって、食い逃げした店に謝りにだよっ!」



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