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第九話 顕現 -不条理叛逆-


 

 吹っ飛んだ。

 いや、吹っ飛ばされた……?

 

 

 背中にある木に支えられるようにして立ち上がるが、何故か大男が豆粒ほどにしか見えない距離にいる。

 

 

 ああ──そうだ、思い出した。

 


 「来い。力を示してみせろ。キーク、いや、キクミネコウダイ」

 「そうさせてもらう」



 カクマルの動きはリズと比べると遅すぎて、容易に先手が取れた。だから懐にさっと入り込んで腹に強烈なボディーブローを決め込んでやったハズなのに、大木を殴ったような感触だけが返ってきた。

 手に伝わる違和感はやがて脳に届き疑問に変わる。

 

 ──これは人なのか……?

 

 そう思った一瞬の動揺をつくように、膝蹴りを腹に食らった。


 「グッ……!」


 肺の空気を強制的に吐き出させる衝撃に耐えかね、その場で地面に崩れ落ちた。


 その時は何が起きてるのか分からず混乱していた。逃げる気も起き上がる気も避ける気も戦う気も失せる程に……。その後、うつ伏せの俺を掬い上げるような腹蹴りが入り、だいぶ後方まで飛ばされたのだ。

 


 そして、現在に至る──。

 途中で木にぶつかっていなかったら、崖に落ちていた可能性もある。痺れる拳、力の入りきらない足、呼吸をする度にヒューヒューと鳴る肺。非常な選択を迫られているような気がする。


 殴った俺の手が痺れるのは分かる。だが、全く効いてる様子がないのはどうしてか。こんなバケモノに力を示せないとこの先に進めないなんて骨が折れる。いや、もう既に折れていてもおかしくはない。

 

 「キクミネコウダイ、どうしてオノを使わない。それはただの飾りか?」

 「言ってくれるな」

 

 純粋な疑問だったとしても、今の俺には煽りにしか聞こえない。遠回しに使っていいと言われれば使う以外ほかない。

 

 「後悔するなよ」

 

 武器も持たない生身の人間相手に使いたくはなかったが、現状を打破するためには四の五の言ってられない。

 

 俺はホルダーに入ってあった愛用武器〘トクホーク〙を取り出した。

 

 この世界の近距離武器の斬れ味は魔素や魔力によって影響される──。

  

 『斬れ味を上げたいなら、魔力を吸収しやすい劣化の早い武器を選べ』

 『斬れ味を保ちたいなら、魔力の吸収を抑える長持ちする武器を選べ』

 

 魔力を一切持たない俺には斬れ味を上げるオーソドックスな武器は相性が悪い。なので後者にあたるトクホークを準備してきた。

 

 開拓時代からユール周辺の人々が使って来たオノは、戦闘用が主流になった今でも軽くて丈夫で扱いやすく、品質の安定したものが多く出回るため比較的安価で良いものが手に入る。だが、魔力吸収を抑える武器というのはどれも貴重でそれなりに値が張る。トクホークはそんな、高価だが手に入りやすい武器のひとつだ。ちなみにリズから貰ったプレゼントだ。


 特段危険すぎるという事はないが、致命傷にならない程度にいかせてもらう。覚悟が決まり足の震えが止まったところでいざ駆け出す。

 

 「うおおおおおおおおおおおお」

 

 恐怖を打ち消す為に大声を張りながら突撃し、胸に飛び込むようにして全力で肩口に斬りかかる。

 

 

 が、太く(たくま)しい剛腕にそれは阻まれた。

 

 

 「──!?」

 

 

 人の腕、それも素肌に接触したとは思えない鈍い感触。

 

 

 見ただけで分かる。

 オノが肉にすら達していない。

 

 

 血管の浮き出た小麦色の腕に刃がめり込んでいる感触が分かる以上、鎧や鉄板は仕込んでいない。

 

 何に阻まれているのか全く理解出来ない……。

 

 「なっ……くそっ……!」

 

 しかもオノが抜けない。

 

 押しても引いてもピクリとも動かないっ!

 

 ならば抜けないオノは諦め、一旦中距離へ逃げる。

 

 腕にくい込んだ〘トクホーク〙をカクマルが抜く。

 そしてあらぬ方向へ投げる。

 投げられたオノは勢いよく回転しながら一本の木に突き刺さった。

 

 もう一度、黒い腕を見る。突き立てた部分に皮膚を裂くような刃跡が付いているが、薄皮一枚しか破れていなかった。

 

 「どうなってんだ……」

 

 打撃も斬撃も効かない。となると、打って出る手段はさらに限られてくる。

 何にせよ、接近は必須。奴の気を一瞬でも反らせるものがあればいいのだが……。何か、何かないか。

 

 「魔法に対して多少の憧れはあったが、俺はどうも魔法が苦手でな。無駄に有り余っている魔力の──」

 

 カクマルは俺の疑問に答えるように話を始めた。律儀な奴だ。同時に目を逸らし、スキを作ってしまったのはそちらのミスだ。

 

 だが、付け入るにはまだ小さい。

 俺は地面の小石をカクマルに向かって蹴り上げた。狙い通りとはいかずかなり低めに飛んだが、大男が右足を浮かすように避けてくれた。

 

 このチャンスは逃せない。

 一気に詰め寄り、男の左鎖骨に向かって掌底を放つ。

 

 効かないことは分かっている。狙いは打撃じゃない。そこを支点にして背後に回り込み、首を絞めにかかるのが狙い。

 

 それが苦肉の策。でも狙い通りそれは決まる。

 いくら身体を鍛えていたとしても、気道を取ってしまえばこっちのモノだ。

 

 このまま締め上げて落とす……!

 

 「俺は魔法が苦手でな」

 

 ──!?


 カクマルが何事も無かったように平然と喋り始めた。力を抜いていた訳ではないが、より一層力を込める。

 

 「今は有り余る魔力の殆どを身体強化に当てている。斬れ味の足らない武器ではキズ付かないことも、首を絞められようが気道を確保できることも、全ては身体強化による恩恵だ」

 

 カクマルは言い終わると、あっさりと俺の腕を解いてその腕を掴んできた。

 

 状況だけならさっきの薫さんに似ている。しかしカウンターを持たぬ俺には、この場合の対抗手段を持たない。カクマルが薫さんに仕掛け損なったワザが来る。そう覚悟していたが、手首を返しながら優しく投げ飛ばされた。

 

 ふわりと背中から地面に落ちたことで容易に受け身が取れた。同時に強い屈辱の感情に襲われ、俺は暫く天を仰いた。


 余りにもわかりやすい手加減。

 力の差を悠然と見せつけられれば笑うしかない。それでもまだ諦めた訳じゃない。

 

 距離は十分ある。ここで一度、体制の立て直すまでの時間稼ぎ。勝つ為の手段を考える時間を稼ぐ。

 

 「なあ、勇者はどうやって俺の名前を突き止めたんだ?」

 「策を練る為の時間稼ぎか?」

 「単純に知りたいことなんだが、まあ、それもある。というか質問してるのはこっちなんだ。実際どうなんだ?」

 「『突き止めた』というのは間違いだ」

 「間違い?」

 「勇者……コウタロウには┠ 超解析 ┨というスキルがある。これは相手のステータスや、レベル、スキルなどの他に、相手の個人名までを特定出来る優れものだ。このスキルを使っていたコウタロウは、あなたに初めて逢ったあの日から、あなたがキクミネコウダイという名前であるとこを知っていた」

 「なんだよ……偽名は最初から無駄だったってことかよ……」

 「いや、むしろ俺達はその偽名にしてやられた。この世界であなたはてっきり偽名を名乗り生活していると思い込んでいたからだ。おかげで女神の居場所を知るまでに居もしない人間を探し求め、だいぶ時間を食わされた」

 「お互いに騙してたワケだな」

 

 日本人ぽい名前を見ても勇者は顔色一つ変えなかった訳か。太ったままのリズニアと会わせてたらバレて終わってたな……。

 

 「コウタロウはあなたの存在を忘れかけている。女神さえ見つかればそれでいい。あなたのことは敵とすら思っていない」

 「それはアンタもだろ、カクマルッ」

 

 カクマルの腹に右ストレートを食らわす。勿論それが効かないことは分かっている。

 

 大きな腕が飛来してくる。間合いを見切った訳では無いが、感覚でヤツのパンチが届く距離感が分かる。避けて伸びきった腕に飛びつき、関節を極めにいく。肩をはずせればと思ったが、腕を折る気でいかないとダメだ。

 

 腕が折られることを悟ったのか、カクマルは俺を地面に叩きつけようとした。首が鞭打になるほどの強烈な揺れで足を離してしまった。だが、折られることを警戒しているのがわかっただけでも僥倖ぎょうこうだ。

 

 幸い、手はまだ離していない。俺の肩にヤツのひじを乗っけて折りにいく。直前で足払いを受けて体が浮く。その勢いのままに、もう一度腕に絡み付こうと思っていたが今度は頭から地面に叩きつけられそうになり手を離した。

 

 堅いものほど衝撃に弱く(もろ)かったりする。俺に勝機があるとすれば、ヤツの嫌がる骨を折りにいくこと。スキを与えることなく、もう一度懐へ飛び込こむ。何度だって再チャレンジだ。

 

 「キクミネコウダイ、弱さを認めろ。そして諦めろ。無謀が過ぎると恥を知れ」

 

 飛びついては叩きつけられ、殴られてはよろめく俺を見ながら彼はそう言った。

 

 「自分が弱いことくらいとっくに気付いてる。でも、それを理由に諦めるのも分からないし、無謀だなんて思ったりもしない!」

 「あなたは先を征く仲間の背中を追っているつもりかもしれないが、どうだ、その背中は今も見えているのか?」

 「遠いとは思う。けど前にいると分かれば進む。実力をわきまえてきちんと止まれるほど、俺は賢くないからな」

 

 一撃の重さは尋常じゃない。両腕で防御に入っても、受ける度に衝撃で地面を後ずさる。

 

 確実な一発を極める。

 それまではなんとか耐えて耐えて、耐えてみせる。

 

 「冷静な対応、多彩な戦闘技術や戦闘勘、何より手にできたマメの跡を見れば、あなたが努力をしてきた事は十二分に伝わる。それでも、(たゆ)まぬ努力や鋭利な感情だけでは越えられない領域というものが存在する。我々(・・)のような、小さな檻の中でしか強さを競い合えない一般人とは違う──、この世には格の違う者達が存在する。"強さの檻"を破壊する者、カギを開けてもらえる者、最初からその檻の向こう側にいる者。そんな連中の元に無理して居続けても、最終的には自分の無力さに押しつぶされるだけだ。キクミネコウダイ、我々では勇者や女神の隣には立てない。だから諦めろ」

 

 男が言い終わる頃には、俺は片膝をついていた。

 

 脚に限界が来ている。

 肩で息をしながらゆっくり立ち上がる──。

 

 「ハァハァ……強さの檻と言ったな……。その檻を小さく感じてる時点で、窮屈だって。いますぐ抜け出したいんだって。本当は、そう感じてるんじゃないか……?」

 

 カクマルの眉がピクリと動く。

 感情を顔には出さないように思えたが、意外にも効いているらしい。無言なのは戸惑っているからだろう。

 

 「カクマル、あんたは俺とは違う。アンタは強い人だよ。俺にはその檻の出口すら……」

 

 自分自身を嘲笑しながら俺はそう言った。

 

 「なら、どうして諦めない」

 

 カクマルは真剣な顔で聞き返す。

 

 「終われない理由があるからだ」

 

 俺のせいで犠牲になってしまった人達を助ける。その条件として神様から魔王を倒せと言われている。足踏みしている場合じゃないのだ。

 無力だろうがなんだろうが、絶対に進まなきゃならないのだ。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━


 ---別視点---

 

 

 

 廃墟化した城の玉座の間には調度品の類が一切存在しない。あるのは豪奢な玉座と悪魔や人間の戦いが描かれた豪華なステンドグラスだけだ。

 

 「洸たろう殿、来たようです」

 

 巨大な五枚のステンドグラスは、ホコリとクモの巣にまみれた城内を優しく照らす。その中で勇者は優しく笑いかける。

 

 「お久しぶりですね、女神様。崩れかけた城にわざわざ御足労頂いて──」

 「御託はいいのでとっとと始めませんか? こうたろう」

 

 茶色く黄ばんだ絨毯の上を歩く少女は二本の剣を抜いた。

 既に戦闘態勢。漂うオーラは"強さの檻"に囚われない強者の証──。

 

 「その前にお聞かせください女神様。貴女は魔王の手先ではありませんね?」

 「はっ、魔王の手先? 寝言は寝てから言ってください。仮にそうだったとしても、はいそうです。とは誰も答えないでしょバカですか死にますか」

 

 勇者はプルプルと震えながら無理やり笑顔を作る。

 

 「……で、では質問を変えます。わざわざここへ訪れた理由をお聞かせ願いますでしょうか」

 「そんなもの決まってるでしょう。愚かな勇者が崇高なる元女神であるこの私に、挑戦状を叩きつけてきたからですよ。調子に乗ってるのかどうか知りませんけどね、私に挑んだとこを後悔させてやりますよ」

 「理由はそれだけですか?」

 「街の人達が勇者のせいで何かが無くなったとかどうかで騒いでますが、まあ私には関係ないことなんで“どうでもいい”ですねー」

 

 リズニアは最高に憎たらしい変顔を見せる。

 

 勇者が望んでいた答えとは真逆の答えが返ってきた。女神に良心があるならば、人々の為と答えると勇者は思っていた。リズニアは勇者の求める答えを知ってか知らずか挑発するかのような言い回しをしたのだ。

 

 「よし、殺そう」

 

 洸たろうは玉座に立て掛けてある聖剣を手に取った。

 

 「待て待て! 洸たろう殿! 魔王の配下ではなければ仲間に引き入れる手筈でしょう。落ち着いてください」

 「どいてくださいスケインさん」

 「まずはお互いに趣味趣向の話を交えながら話し合いで親睦を深めて参りましょうぞ」

 「この女とは話すだけムダなきがしますが」

 「で、では私から質問させて頂きたい。リズニア殿、元女神とはどういうことなのだ?」

 「小さなお国の一介の騎士如きが、私に話しかけないでもらえますです? 私は洸たろうと闘いに来たんです。オッサンは引っ込んでいてください」

 

 オッサンという言葉にスケインは激しく反応した。なぜなら彼はまだ二十四の青年。老け顔に見られることに強いコンプレックスを抱いているのだ。

 

 「よし、殺しましょう」

 「なるほどスケインさん、客観的に見て冷静になれました。ありがとうございます」

 

 洸たろう、スケインはそれぞれ剣を構えた。

 

 「それでいいんですよ」

 

 リズニアは口を歪めて笑った。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 ボロボロの旗や掛け軸が連なる大廊下。先には玉座の間へと繋がる大階段が見えている。

 

 その大階段を目指し歩くお淑やか女性の背後から、けたたましい声が響いた。

 

 「おりゃあああああぁぁぁあ」

 

 その声の正体はドワーフ族の小柄な少女ピタ。自分の身長を軽く凌駕する大剣を今まさに振り下ろす瞬間だった。

 

 目の前の女性を巻き込むように大剣は振り下ろされた。凄まじい衝撃に城全体が揺れ、細かなガレキが降り注ぐ。

 

 「むっ、流石だな。まさか、避けるのではなく弾かれるとは思ってもみなかったぞ」

 

 城へやって来た挑戦者を試すようにピタが言うと、女性は口を開いた。

 

 「こんな大きな剣が誰かに当たったらどうするんですか! こんなもの振り回しちゃいけません!」

 「あ、いや、でも、これくらいなら避けられると思って……」

 「でもじゃありません。私だったから受け流せましたけど、普通ならケガしちゃいますよ。メですよ、メ」

 「ごめんなさい……って私を子供扱いしているな貴様ぁ!」

 

 ピタを子供のように扱う女性の名は、蝦藤(えびとう)薫。城に入ってすぐかなみと別れ玉座の間に向かう途中、背後からピタに不意打ちを受けて今は説教をしていた。

 

 「アナタがもしかして、ドワーフ族のピタちゃん? ごめんなさい、私の娘より小さいからてっきり子供かと思っちゃいました」

 「ほう、私のことを知っているとは関心だな。今の無礼は水に流してやる。なんせ私は成人しているしお酒も飲める立派な大人の女だからな!」

 

 ピタは大剣を肩に担いで胸を張って言い切った。ドワーフ族の成人は十五。ピタは一応子供ではないのだ。しかしお酒を飲むのはまだ躊躇っている。

 

 「だとしてもこれはなんですか! 城にこんな大きな穴あけて! 大きな武器が振りたいなら外に行くか、何も壊さないようにしてください! 誰かがつまずいて転んじゃったらどうするんですか!」

 「うぅー……。トメ! この女やりづらいぞ! 私と変わってくれぇ!」

 

 ピタの心からの叫びに返事が返ってくる。

 

 「どうせでしたら、二人ともワタクシがお相手させてイタダキましょうか?」

 「ずいぶん余裕だね」

 

 大階段の前で天才魔法士トメと対峙するのは、薫の娘にしてチート少女、蝦藤かなみだ。

 

 「ええ、小さな少女を相手に全力は出せない性格でして。それに」

 「それに魔素の流れが悪くならないように自分の魔力を城内に流して循環してるから本気は出せない、でしょ?」

 

 精神に異常をきたさないように、トメが魔力を使っていることをかなみは見抜いていた。

 

 「あなた何者?」

 

 トメは目を細めて聞いた。

 

 「かなみはかなみ。えっとー、今は冒険者だよ」

 「まじめに答える気はないのですわね」

 「ほんとのことなんだけどなぁ」


 

 

━━━━━━━━━━━━━


 ---珖代視点---

 

 

 

 岸に打ち上げられた流木のように俺は地面に転がっていた。

 

 何度返り討ちにあったか。

 何度殴られたか分からない。

 

 それでも何故か、頭がすっと軽くなって心が踊り出す。

 

 湧き上がる感情が気力となって何度でも立ち上がれる。そう、それは立ち上がる度に──。

 

 「いい加減諦めろキクミネコウダイ。その身体が崩壊してもいいのか」

 

 俺を見下しながらのっぽがそんなことを言う。かえって反抗したくなる。それに何故だろう、笑えてくる。

 

 なんどやられた? 挑む度に飛ばされて、その度にどんどん優しく手加減をされていって。

 

 「嗚呼、あー。これか、この感覚なんだな。知らなんだ」

 

 この男にすら俺は勝てないことくらい頭では分かっている。

 

 でも、心の隙間に渦巻いて溜まっていくソレ(・・)は逆を示す。

 

 この感覚、忘れちゃいけない気がする。

 

 この心、反抗心。

 きっとこれが──《不条理叛逆》。

 

 俺のステータスに記載されている詳細不明の状態異常。

 初めてなっていると確信した。

 

 今までに感じたことのない、強い不快感と苛立ちと愉快さと純心さが口から零れそうになる。

 おさえ、抑えないと──。

 

 

 「──ヒ、ヒヒヒ」

 

 

 ダ、冷静になれェ。

 

 

 何が楽しくて笑っているんだ俺ワ。

 

 

 恐ろしくてたまらないのに楽しも? としてラる。

 

 

 落ち着け、知らない感覚ならそれに最も近いと思う何かに成りきればいいだけだろ。

 

 

 そうじゃないと確実に自分を見失う。

 

 

 俺の知っている限りの、理不尽に対抗できる存在を演じるんだ。なりきるんだ。

 

 

 それなら、守れる。守れる。

 

 

 だったらちょうどあいつが良さそうだ。今でも鮮明に覚えている俺の中の記憶の中に問いかける。

 

 

 

 少しでいい。俺に力を貸してくれ──。

 

 

 

 「──なあ、カクマルよォ、テメェはさァ、その檻から出る方法を試そうともしなかったってのか?」

 「試す? 何をだ。ヤツらは次元が違うという話を」

 「“強さの檻”から出ようとも足掻かないおめェはただの腰抜けだよなァ? なァなァ、そんな臆病者相手に俺が負けると思うか? ねェよなァ……? だからさ、テメェの方が弱いってことだ」

 「キクミネコウダイ……さっきと言っていることが違」

 「うるせぇ! そこを通しやがれ! ハゲ!」

 

 さっきの俺が何を言ってたとかどうでもいい。

 

 「どかねェって話なら、おめェも勇者もぶっ止めるッ!!!」


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