第五話 真の目的は他にある
二人と一匹で家に帰ると既にみんなが集まっていた。それだけではなく金髪オールバックの男、レイが何故かいた。
「レイ、どうしてお前が?」
「レイザらスの支部がある地域に、大きな電力施設の設置を計画してるんだが、そこの領主とお嬢の交渉がなかなかに難航していてでな……、代わりに勇者の情報を集めて持ってきた」
「本当か! それはありがたい。なら今日の会議の意味も知ってるな」
「ああ、分かっているつもりだ」
お嬢というのは、レイ率いる元盗賊団四百人と中島さんが呼称しているかなみちゃんの愛称であり、役職みたいなもの。
かなみちゃんがれいザらスの件で最近忙しそうにしていたのは知っていたが、まさかレイに情報収集を頼んでいたとは思わなかった。さすが痒いところに手が届くチート少女かなみちゃん。
ちなみに、中島さんも最近は忙しい。元盗賊でレイの親友にあたる本部長エンが、店舗数拡大の為に色んな場所に駆り出されているため、おもちゃ屋れいザらスの店長である中島さんが、本部長代理として裏の仕事も行うようになったからだ。
従業員は四百人を超えているというのに今も人手はギリギリの状況だというし、何か大きな事業でも始めるつもりなのだろうか。
皆忙しいにも関わらず俺は仲間達全員に招集をかけた。
『緊急会議は必ず全員が参加すべし』
どれだけ忙しくなろうともそれだけは守るというのが俺達パーティーの決まりだったからだ。
今回は俺の独断で開いた会議なわけだから、忙しくて来れないとの事であれば別日に回しても構わなかったが──。とにかく、急な呼び出しに集まってくれたことにまず感謝を述べて会議は始まった。
議題内容はもちろん、勇者について。
まずはみんなの持っている情報をすり合わせて、意見交換の場を作っていく。平等に意見を言える場でないといけないので知る限りの情報を、手札をだし尽くしてもらう。勇者に実際に会ったのはこの中だと俺だけだったので、印象や強さを重点的に語った。
勇者の見た目が金髪碧眼の爽やかな青年であることや、以前のリズに匹敵する実力を持ち合わせていること、リズに本気で殺意を抱いている理由や仲間達もそれなりの手練であること、更には勇者が街のクエストをこなし過ぎて問題になっていることなど余すことなく全て話した。
一方リズは、勇者と勇者の持つ聖剣の特徴ついての情報を語った。その中に俺の知らない情報はほとんどなかった。強いて言うなら、不適合者には聖剣が重く感じる事ぐらいだ。
「次はレイさん、貴方の持つ情報をお願いしまフ」
一応、議長ということになっているリズが話を振った。
「そうだな、まずは勇者の遍歴から話そうか」
そう言ってレイは手に持ったメモを読み出した。
「〖聖剣の勇者〗、本名『水戸洸たろう』17歳。出身、家族構成ともに不明。高位魔法学園をたった一年という異例のスピードで卒業後、〈法王神国セラスティア〉で六代目聖剣使いに選ばれたことを表明。その後、極院魔法学園に籍を置きながら、ハーキスの内戦、ユミズの内戦に赴き、それらを終結に導く。更に魔族からレーヴァテインの奪還及び、魔王幹部 六座頭が一角、アルガッソの討伐に成功。記憶に新しいところだと、魔族領との境界線にある連合軍最前線基地を剣圧だけで守り抜いたという噂はこの街まで届いている」
「短期間によくそれだけの情報を集めたな」
「お嬢はこうなる事を予期して二日前に頼みに来ていたからな。それなりに仕入れる時間はあった」
だとしても十分に早い。諜報組織のボスを名乗っているだけのとこはある。情報もおそらく正確だろう。
何より、この事態を予測していたかなみちゃんはもっとすごいけど。
にしても勇者の遍歴? がイマイチ良く分からない。一度聞いただけでは何を言っているのか分からない事ばかりだが、とにかくすごいということだけはわかった。
同じ一年半でも、威圧の修行と言葉の勉強しかしていない俺とは圧倒的に経験の濃さが違う。情けないな。
「いずれ必要にはなるかなーとは思ってたけど、かなみもこんな状況になるとは夢にも思ってなかったよ」
「お嬢。ヤツの周辺情報についても補足を入れさせてもらいますが、構いませんか?」
レイがそう言うと、かなみちゃんは元気に頷いた。
「少数精鋭を心掛ける勇者は、実力の足りない者や大怪我を負った者はすぐに戦力外とみなし入れ替えているそうだ。現時点での仲間は四人いるが、ドワーフ族の〖ダガー使いピタ〗とハーキサス家ご令嬢の〖高位魔法士トメ〗と勇者と同じく出身地不明の〖石化のカクマル〗の三人まで判明している」
「珖代はもう一人とも会ってるんだよね?」
と、かなみちゃんからの質問。
「うん、ゴツめの甲冑を着た誠実で真面目そうな騎士のおじさんだよ。確か名前は、スケイン……、だったかな」
「その人ならたぶん会ったことあります。最近よくレクムに訪れては、お客さんやデネントさんにクズニアさんのことを聞いて回っていましたから」
レクムで働く薫さんだからこそ知っていた情報だった。
それにしてもかなり近い所まで迫ってきている。リズの居場所がバレるのも時間の問題かもしれない。
「薫さん。デネントさんはなんと?」
「知らないと答えてくれました」
「そうですか。あとでお礼を言わなきゃですね」
ダットリー師匠やユイリーちゃんと同じように、デネントさんにも正体は隠してきた。お世話になっている人達を巻き込みたくないので話せていないが、情報を売らない人達、何も聞かずに守ってくれる人達に巡り会えたことに感謝しかない。
俺達は本当、周りに恵まれてるな……。
「そのスケインさん? という方も、他の方々と同等レベルの手練であると考えていいんでしょうか?」
薫さんの質問にレイが一言「おそらく」と答えた。
情報はないがスケインという男も充分警戒すべき。という事だ。
「向こうは勇者を含めて五人と考えていいんでフね?」
「ああ。他に仲間がいる可能性は低い。あと三日もあれば、そのスケインとやらの情報も仕入れておこう」
相変わらず目付きの悪い男だが、正確な情報は待つ価値がある。数日待ってみても良さそうだ。
「あのー、喜久嶺さん。一つよろしいですか?」
「はい? なんでしょう」
中島さんが手を挙げて俺に話し掛けてきた。何か質問があるみたいだ。
「喜久嶺さんがしてくれた説明の中で、男二人は勇者の護衛である聞いて思ったんですが、護衛ならなぜ最初から勇者のソバに居なかったんですか? そもそも、実力のある勇者に護衛の存在は必要なんでしょうか」
「言われてみればそうですね。……勇者の嘘、とか?」
街でおっさんに絡まれてた時も、あの二人は遅れて来ていた。確かに不思議である。
「本当は勇者の監視役とかかな? 勇者をどこからか見てて、間違ったことをしないように監視してるとか」
かなみちゃんの推測にリズが物申した。
「それなら私を殺しに来るところから時間の無駄でフから監視の意味無いでフよ。依頼の乱発注もそのままにはしないと思いまフし」
「あ、そっか、だよねー。レイはどう思う?」
かなみちゃんがレイに振るとレイが目をキョロキョロさせ始めた。
「お、オレですか? ……特に考えていなかったんで、あとででもいいですか……」
「ちゃんと考えて来るように」
「すいません……!」
レイは握り拳を地面につけて頭を落とし、しっかりと謝った。上下関係がハッキリと見えてくる。かなみちゃんは相当慕われている。俺も多少は慕われるだけの事をレイ達にしてきたつもりだが、かなみちゃんは次元が違うようだ。
次に薫さんが話始める。
「推測ですが、その二人は勇者の身分を証明する立場にあるんじゃないでしょうか。彼らが街中で勇者の存在を声高らかに知らしめたことによって、民衆は勇者がやって来たことを信じたわけですし。珖代さんが街の外で会った時には、単純にその必要が無かったと考えると辻褄が合うような気がします」
薫さんの言う通り、勇者の存在を明かしたのはカクマルとスケインであることに間違はいない。街の人達をひれ伏せさせる決め手になったのは紋章付きの盾だった。あれを取り出し、口上だてたのはあの二人。
薫さんのその読みはあながち外れていないように思える。
「それが一番妥当でフかねぇ」
「紋章付きの盾は勇者が持ってた訳じゃないから、たぶんそうです」
「待て、紋章付きの盾と言ったか? どんな紋章の盾だった」
何か思い当たることでもあるのか、レイが目を大きくして聞いてきた。
「悪いけど、どんな物かまでは覚えてない。模様以外は普通の盾だったし」
「よく思い出してくれ。残り一人を特定する大事な手掛かりだ。それがダメそうなら、他に引っかかることはなかったか」
引っかかること……。引っかかること。
あの時の記憶を引っ張り出して探してみる。
あの時にはあって、今出てきた情報の中にはないもの──。
「そう言えば、どっかの公爵だってアピールしてたな」
「そうか公爵位か。あの勇者に公爵位を賜ったのはとある小国ひとつだけだ。それをわざわざアピールしてくるという事は、その騎士はおそらく、小国から派遣された者である可能性が高いぞ。こりゃあ、今夜中にもスケインの情報が入手出来そうだな」
「自国の宣伝活動の為に勇者を利用しているということですか」
「しょ、小国と言えど、国から派遣された騎士だとすれば、強さに疑う余地はなさそうですね……」
レイの推測を後押しするように薫さん、中島さんと続いた。もし三人の言う通りなら、勇者と護衛は利用し合う関係にあるのかもしれない。
「じゃあぎちょー、そろそろ本題に移ろうよ」
かなみちゃんはそう言って議長に確認をとる。普段の会議ではぎちょーとのやり取りを楽しむかなみちゃんであるが、今日はレイがいるためか、やるつもりはないらしい。
「質問がなければ次に移りましょう。……無さそうでフね。こうだい、お話して頂けまフか」
「おし」
俺たちは勇者の個人情報を話にきた訳じゃない。ゆえに、今後の方針を決める。
「さっきも話した通り、勇者はリズニアに会うまでクエストを受け続けるつもりです。ギルドも何らかの対処はするとは思いますが、これ以上街の人達に迷惑をかける訳にはいかない。隠れて帰ってくれるまでやり過ごすのはダメだと思います」
リズをじーっと見ながら言った。
「そうは言われましても、具体的にはどうするんでフ?」
「勇者と闘う。それしかないだろ」
薫さんが心配そうに聞いてきた。
「話し合いでは解決出来ないんでしょうか?」
「勇者の決意は本物ですよ。なんせ、斎藤貫のやつが勇者にリズの悪行とかあることないこと全部話しちゃってるみたいで……」
「あのストーカーがでフか!?」
「そうだったんですか」
リズの反応は薫さんより早かった。俺が黒幕と呼ぶようにリズの中ではストーカーで定着している。
「あの人なら知っててもおかしくないもんね……」
「あの、誰なんでしょうかその人」
「そっか中島さんは知らないのか。俺達が死んだあとに転生したっていう、あのトラック事故を知っている数少ない人物です」
「怪しい人だとは思っていましたが、まさかここまでしてくるとは」
冷静に言う薫さん。トオルはみんなに嫌われているようだ。
「きき、きっと、仲間に入れてもらえなかったことを、私にフラれたと勘違いして、その復讐をフる為に勇者をけしかけたんでフ……! ああ恐ろしやっ!」
リズがガタガタと震えだした。
それを見てセバスさんが鼻を鳴らす。
ざまぁない。と嘲るそんな鼻息で。
「落ち着け、それは考え過ぎだ。今回のことは半分自業自得な訳だし、遅かれ早かれこうなってただろお前」
勇者は自分のような犠牲者が出ないように悪魔を成敗しに来てると言っていた。まあ、復讐心も多少はあった筈だ。その心を隠しているつもりのか自分では気づいていないのかは定かではないが、交渉は容易ではなさそうだ。
「勇者もまあまあ忙しい筈なのに、街に留まり続けるってのはなかなかの執念だよな」
「もしかして、リズニアさんをおびき出す為にわざと、過剰にクエストをこなしてたり……って、それはさすがにないですよね! すいません」
手を頭の上に置いて中島さんが恥ずかしそうに謝る。勇者がそこまで考えたかどうかは分からないけど、実質その通りになっている。
「どうであれ、闘うしかねぇだろうな」
レイの言葉にリズが反応する。
「誰が闘うんでフ?」
その言葉に、今度は全員が反応してリズの方を向いた。リズが何事……!? と驚いた顔を晒している。仕方ない、代表して俺から告げる。
「名誉挽回の意味も込めて、ここは──、リズには闘ってもらいたい」
「え、私……?」
「今のリズじゃたぶん勝てないよね」
「そう、かなみちゃんの言う通り。だから、本格的に痩せてもらおうと思う。勇者に勝つためにリズにはダイエットをしてもらうっ!」
「あまり時間は無いですけど、クズニアさんが今から痩せられますかね?」
薫さんの質問にはこう答える。
「そっかぁ、無理だな……! 忘れてください」
「ですね」
「ムリムリ。痩せられるわけないよ」
「む、無理ですよ無理むり……」
「無理だろ」
「バウバウ」
俺に続いて、薫さん、かなみちゃん、中島さん、レイ、セバスさんが強く頷いた。すると、それを聞いたリズはぷるぷると怒りでも込み上げるかのように震え始めた。
「……一週間。一週間もあれば、出会った頃の私に戻れまフよ」
よし。リズがやる気になってくれた……! しかし慌ててはいけない。ここは内心と真逆の対応をとる。
「本当かぁ……? どうせ無理なんだろー? そんな短期間に出来っこないってぇ」
「いいえできまフ!! 剣の修行を一週間も続ければイヤでもヒトは生まれ変わるでフ。──でも、勝てなかったら意味あるんでしょうか……?」
まずい……! 急に弱気になっている! ここは励ましにシフトチェンジだ!
「何言ってんだ、お前だけが頼りなんだから一週間くらい待つよ!」
「そうだ、あんたが闘うことに意味がある。勇者を止められるのはあんただけっ……かもしれないからな」
「かなみもこれはリズにしか出来ない事だと思う! ……たぶんだけど。だから頑張って痩せよう! ね?」
「や、や痩せて、勇者に勝てればリズニアさんは街のヒーローですよ! ……がんばればですが」
「クズニアさんなら痩せられると私も信じてますよ。……(にっこり)」
「バウ……バウ」
「皆さん……。そうでフよね。闘うしかないなら、勝つために痩せるしかないでフよね! 私、痩せまフでフ!」
「ああ、その意気だ! リズ!」
『掛かった』────。
自分の口角が上がるのを感じる。
今日の緊急会議、勇者の暴走について解決策を提示てきたが、正直、あの程度の勇者ならかなみちゃんに頼めば、大概解決に至る。
この緊急会議の真の目的は他にある。
そう。それは『リズに痩せる決意をさせること』だ。
勇者がやって来た当初、忙しいかなみちゃんに勇者問題を丸投げするのは正直酷だと思っていた。
かなみちゃんに極力頼らずにこれを解決されるにはどうしたら良いか。方法を考えに考え続けた結果、『勇者の復讐心を利用しリズを痩せさせ、その上で解決させる』という一石二鳥の計画を俺は思いついた。
そして計画通り事は上手くいった。
おだてられると木に登るタイプの元女神さんはわかり易くて助かる。
この緊急会議では既に、リズ以外のみんなに本当の計画のことを伝えてから集まってもらっている。
来ると思わなかったレイには、会議の直前に本当の計画を理解しているのか問い質した結果、「分かっているつもりだ」と答えてくれた。かなみちゃんが事前に話してくれていたのだろう。お陰でいい後押しになった。
おかげで上手くいったがこの計画には欠点がある。時間が恐ろしく足りない点だ。リズが痩せるまでに勇者がいなくなってしまえば、リズのやる気もなくなってしまう。さらに勇者がギルドに迷惑をかけたせいで、早めに解決しなければならなくなった。
リズが痩せるための時間稼ぎもいくつか考えていたが、一週間もあれば痩せられるというのは重畳だ。あと一週間は勇者が帰らないように根を回しながら、かつギルドに迷惑をかけないように手を打つ。それが俺の仕事、がんばる。
「はぁあ、どこかに私の全力を食らっても、平気で弾いてくれるような修行相手はいないでフなかねぇ……チラッチラッ」
そんな人は┠ 自動反撃 ┨のスキルを持っている薫さんしかいない。当の薫さんは嫌そうな顔をしているが。そういう時は俺がセットクする。
「薫さん、リズに痩せるための修行をつけてやってくれませんか?」
「でも、私が抜けるとお店が回らなくなってしまいますし……」
ユールの観光地化が進み、レクムのお客さんも増えた。薫さんの心配は百も承知だ。
「かなみが料理の出来るカラクリ兵を増員させておくよ。だからお母さんは、リズに修行をつけてあげて?」
カラクリ兵というのは、かなみちゃんがリズから貰った人工召喚石で呼び出しているおもちゃの兵隊達だ。本来は戦闘用のカラクリではあるが、かなみちゃんはレクムの給仕として五体使役している。今度は料理が出来るカラクリ兵を使役するつもりなのだろう。
「分かりました……。一週間だけですからね」
「さっフがカオリン! 話わかるぅ! 明日からお願いしまフね!」
今日から頑張ってくれ……。と言いたいところだが、本人がやる気を出しているので水は刺さずにおこう。痩せたリズを必ずや取り戻してみせる!
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---別視点---
珖代達の会議から三日後。
大層な鎧を着込んだ男、スケインは勇者を連れてレクムに来ていた。レクムではカラクリ兵たちが忙しなく働いている。尤も、注文は取れないので、そこは店の長男坊レクムと次男坊エナムの仕事になる。
「何度も言うけどあたしは、リズニアなんてこれっぽっちも知らないからね。客の迷惑になる事はやめとくれよ」
店の女主人デネントは客でもない彼らを追い払おうとした。だが今日は珍しく勇者も来ている。
勇者はスケインの前に出た。
「僕の護衛が度重なる無礼を働いたこと謝罪します。しかし今日は客として、美味しいご飯を頂きに来ました。席に案内していただけると嬉しいのですが」
「そうかい……。なら空いてるところに適当に座りな」
「ありがとうございます」
勇者はデネントにお礼を告げて座ると、厨房の様子を何度も確認していた。
その日の夜。
ゴミ出しの準備をするデネントの夫の元にある男が通りかかった。
「おや、店主、偶然ですね。ゴミ出しですか」
それは昼間よりラフな格好をした勇者だった。
「ああ、これは勇者さまっ。私の料理はお口に合いましたか……?」
店主はわざわざ手を止めて聞いてきた。
「ええ、たいへん美味しかったですよ。それより、リズニアさんに忘れ物を届けたいんですが、居場所を知っている方はご存知ありませんか?」
「ええ、それならキークさんって方なら知っていると思いますよ」
勇者は少し目を見開くと、笑顔でお礼をしてその場を去った。
「なるほど、やっぱり彼が関わってたか」
一人歩く勇者は静かにそう呟き、ニヤリと口角をあげた。
夫ですらも、珖代の仕掛けた時間稼ぎであることも知らずに──。




