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第三十話 -エピローグ- 忘れ去られた男とこれから


 ---珖代視点---



 配達最後の村を出て四日後の朝。

 俺達は荒野の真ん中にあるもはや見馴れた街 ユール に帰ってきた。

 

 三週間ちょっとしかいなかったこの街も、帰ってきてみればどことなく安心する。未だに不便なことはたくさんあるのに不思議なものだ。

 どこよりも先に〖お食事処 レクム〗に挨拶に向かった。商人さんとはその前に別れる。だがギルドに寄ると言うのでまた会う可能性はある。

 

 俺達はデネントさんに無事に帰ってきたことの報告を済ませ、中島さんを紹介した。初めて見る服装(スーツ)の男に驚いてはいたが、快く歓迎してくれた。温かい食事を済ませた後、ペット可のいつもの宿にチェックインし、そこからは各自別行動となった。

 

 現在夜。

 かなみちゃんは長旅に疲れてしまったせいか、取った宿ですぐに眠りについた。薫さんは中島さんに話があるらしく、二人で何処かに行ってしまった。残った俺とリズは、ギルドに依頼達成の報告しに向かうこととなった。セバスさんはかなみちゃんに付き添う形でお留守番だ。

 

 「カオリンは何の話があるんでしょうかね?」

 

 ギルドに向かう途中の道でリズが尋ねてきた。

 

 「さあ。何だろうな」

 

 一つだけ分かることがある。薫さんと中島さん、二人は境遇が似ているようで実は真逆だということだ。

 片や夫に騙され続けた形で人生を終わらせる選択肢を考慮した人物。片や家族を騙し続ける形に限界を感じ、保険金の為に死を考えた人物──。


 二人の過去についてあまり知らないから勝手なことは言えない。かといってわざわざ詮索しようというつもりも無い。触れて欲しくない事は誰にでもあるからだ。でももしかすると薫さんは、中島さんがどういう心境で家族に黙っていたのかを知りたいのかもしれない。


 あの夜、薫さんから旦那さんの話を聞いていて思ったことがある。あの人は夫に裏切られたことに対して怒っているだとか、憎んでいるだとか、あり大抵に言ってそういうわかりやすい感情は抱いていない。色々限界になって、娘と心中という道を人生の選択肢に含めたのかも知れない。それでも、薫さんならそれを選ぶことは決して無かったと俺は思う。


 過去のいい思い出は楽しそうに語っていた薫さん。もしかすると、未だに旦那さんの事を──、

 

 「もしかして薫さんってぇ、中島さんの事が好きなんですかね〜?」

 

 リズがニヤニヤしながら聞いてくる。

 

 「あの人に限ってそれはないだろ」

 「いやいや、わかんないですよー。ああいう頼りなーい感じの歳上が意外に好みとか言う子、結構多いんですよ? 私の周りとかー、まっ、女神の話になってしまうんですけど、中島さんみたいなタイプの男の人とかに惹かれちゃう娘とかいてー」

 

 ──まっ、これからどうするのか聞いてただけだったりしてな。

 

 リズの女子トーク? を、半分聞き流しながらそんな風に思った。聞く必要も無さそうだったし。

 そんな会話をしているうちに、いつもと変わらぬ西部劇に出てきそうなギルドに到着した。

 

 リズが受け付けの女性と依頼の事で話し合っているのを俺は少し遠めに見守る。すると、後ろの方から肩をポンッと叩かれた。振り返るとそこには……ニッコリ微笑む、会いたくないイケメンランキング第一位の姿があった。

 

 俺は無関係な人物を装うように早足でそそくさとギルドから出た。

 

 「ちょちょ、ちょっと、どこ行くの。先輩君」

 「な、なんでしょうか……」

 

 追いかけて来たので足を止めた。シラを切り通してやる。

 

 「なんでしょうか。じゃないよね先輩君。このギルドの受け付けの子達、全部で五人いるらしいんだけど、全員が全員、君たちから採用とか合格がどうとかなんてハナシ、一切聞いていないっていうんだけど。どういう事なんだろうね、説明してもらえる……?」

 

 笑顔で問い質してくるこの男を、俺は黒幕と呼んでいる。

 

 「わ、忘れてたんだ。色々あってつい、な」

 

 黒幕、本名を斎藤 (とおる)。こいつは俺達の仲間募集オーディションにやって来たものの、満場一致で不合格になった男だ。もっと正確に言うと、不合格の通知すら忘れ去られた男だ。

 

 「良かったー、忘れてただけなんだね。うん、直接聞くのはだいぶ緊張するけど今聞かせてもらえるとありがたいな」

 「残念ですが、今回はご縁が無かったという事で……」

 

 面倒なので事務的に処理する。一応、手を合わせてお辞儀もしておいた。

 

 「そんな! 何がいけなかったんだい!? 先輩君は僕を歓迎してくれていたのに」

 

 わざわざ俺の前に回り込んで、両肩をがっちり掴んで聞いてきた。

 

 「歓迎した覚えはないんだが。理由はそれぞれだが……全員一致で不合格だ」

 「え? 冗談でなく、君も……?」

 「ああ、だから悪いな。仲間には入れてやれない」

 「ははは……、そうだよね。十日も音沙汰無しに何処かに行ってたようだし、なんとなくダメなんじゃないかって思ってたよ……」

 

 無理して笑っていたが、今はだいぶ落ち込みをみせている。なぜ俺が歓迎していると思ったのか、これが分からない。

 

 「伝え忘れてたのはこっちの不手際だから申し訳ないとしか言い様がないが……」

 「……いいんだ。ダメだったときの宛はちゃんと考えてある。実は、街をいつでも出られるように準備だけはしていたんだ。遠くへ行くことになるけど、そこなら僕を受け入れてくれる人達がいる筈だから、行ってくるよ」

 

 そう言うとゆっくり歩き出した。今から行くつもりなのだろうか。

 

 「先輩君。もし、君達が長旅に出ることがあるとすれば、いずれまた何処かで会うことになるだろうね。ただし、その時は──敵同士……だろうね」

 

 いつも薄眼の男が、紅い瞳を開いて不敵に振り返る。若干にやけ顔なのが妙に不気味だ。

 

 「……敵同士かもだよ。……敵同士かも知れないよ?」

 

 ちょっと進んでは止まり、進んでは止まりを繰り返し、念を押してくる。

 

 「何のアピールだよ」

 

 どう見ても未練タラタラにしか見えない。そんなのでなびくはずも無いし、仮に俺を説得出来たとしても他の皆が納得しないし。

 

 「こんな怪しいやつが敵になってもいいって言うのかい!?」

 「怪しい自覚あったんだな……。その時はその時ってことで。じゃあな」

 「どうしてそこで引き留めようって考えにならないんだ……。後悔することになるかもなんだよ。敵になってしまってからではもう遅いからね。後で、やっぱ仲間に入れたいと思っても……難しいからね?」

 「はよいけ」

 

 名残惜しそうに何度も振り返る黒幕を、とりあえず見えなくなるまで見送ってやった。その背中はなんだか寂しそうだった。

 

 「こうだい、なんで外に居るんですか?」

 

 めんどくさい黒幕のやつをあしらったあと、リズがやって来た。

 

 「ちょっとな。それより、報酬どうなった?」

 「それがちょっと問題がありまして……」

 

 リズが苦笑いを浮べながら言ってきた。

 

 「商人さんが“依頼報告書”を提出してくれてなかったとか?」

 

 依頼報告書というのは依頼人がギルドに依頼の終了を伝えるものだ。依頼にもよるが、これが提出されていないと冒険者は報酬を受け取ることが出来ない。だから前回受けたの奴隷運びの緊急クエストは達成されていない。

 

 「それはちゃんとありました」

 「最後の方の村への配達が結構遅れたから報酬減ったとか……?」

 

 どうしてあの時、他の村に向かった筈の商人さんとセバスさんが三千年級ドラゴン討伐に駆けつけることが出来たのか。それは単純に他の村に向かわず助けに来てくれたからだった。

 おかげで俺達はファーレン村を追われたあと、その足で残りの村に配達をして回る事となった。一応遅れたことを謝罪したが、その時は誰一人として怒る者はいなかった。もしギルドの方に遅れたことのクレームが来ていたら、報酬金が減ることも覚悟しておいた方がいいと商人さんからは予め言われていた。だから、その可能性が思い浮かんだ。

 

 「いいえ。それでも無くて……」

 「だったらなんだ」

 「私達の依頼に対して、他ギルドから申し立てがあったらしく……。報酬は森の修繕費に当てられるそうです」

 「は? 森の修繕?」

 

 思い当たる節はなくもないが、聞き返してしまった。

 

 「こことは別のギルドにファーレン村の人達が血相変えて押し掛けたみたいで、私達の受けた依頼に待ったをかけたみたいなんです。でさっき、森林伐採についての事実確認をされました」

 

 リズの口調は落ち着いていたが、目を合わそうとはしない。

 

 「それで、お前は何て言ったんだ……?」

 「『ドラゴン討伐の際のやむを得ない被害であって壊すつもりは無かった』と。事前に商人さんも事情聴取を受けてたらしくあっさりと信じてもらえました。ただ……」

 

 目を泳がす原因がそこにあるらしい。

 

 「ただ……?」

 「足りない分の修繕費は今はギルドが立て替えてくれるそうで、その分が借金になります……」

 「しゃ、借金……。まあいい、いくらなんだよ借金って」

 

 金額なんてホントは聞きたくもない。森の一部とはいえ、それを修繕するための費用だとしたら一日二日で稼げる額でないのはほぼ確定だ。でも、聞かないわけにもいかない……。

 

 「まだ見積もり段階ですけど、銀貨にして五十万枚……を、超えるとか超えないとか」

 「今回の依頼って報酬いくらだっけ」

 「銀貨で八百枚です」

 

 十日かかる依頼でその額か。

 

 「あーうーん、返せねぇな。あは、ははは……」

 「ですよねー。はは、あははは……」

 「「はははははは──」」

 

 俺達には乾いた笑いしか出なかった。

 この後俺達は、第三回目となるパーティー緊急会議を開き、薫さん達にこの事を伝えた。死んでも返せない額の借金はしないと決めていたのに、死んでからすることになるとは思いもよらなかった。得るものより失うものが多いなんてどの世の中も世知辛いものだ……。

 

 これからは借金の返済も視野に入れながら、この異世界で頑張って行かないといけない。まあ、頑張るしかないか……。

 

 後日、借金は銀貨七十万枚で確定した。日本円で約七〇〇〇万だ。しかしその借金は、あっという間に返すことになるのであった。



 

これにて一章終了です!


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これからも頑張りますのでよろしくお願いします!

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