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第二十八話 長期クエスト⑨

次回長期クエスト、ファイナル!


 珍しく、かなみちゃんとリズニアの二人が考えたという作戦を俺達は実行に移すことになった。


 準備は簡単。

 まず西の大陸で多くで取れるコキコの実をすり潰して作るジャム状の赤いヤケド薬を商人さんから購入する。そして少年の家に行って両親に事情を説明し協力してもらう。それだけだ。

 

 商人、セバスさんペアと別れ、俺達四人はその家の前にやって来た。ずかずかと全員で訪問するのも警戒心を与えて話が進まなくなる可能性があるので、まず俺、かなみちゃん、薫さんで訪問する。リズ、中島さんは離れた所で待機。

 

 「ん?」

 

 玄関口にあたるドアが何故か半開きのままだった。


 「おい、うそだろ……?」


 中が覗き込める状態だったので、男の人が血を流して横たわっているのに気づいた。おそらく少年のお父さんだ。俺は寄り添っている女性に許可も取らず、駆け込んで安否を確認した。日本語が通じないこともすっかり忘れて。

 

 最悪の可能性が頭をよぎったが、男性は腕から血を流しているだけで他にケガをしている様子はなかった。また部屋は荒らされた形跡はなく、隣の女性もケガはしてない。して言えば皿が一枚だけ床の上で割れていた。


 かなみちゃんが適切な処置を施している間に何があったのか事情を聞くと、ドラゴンにやられたのだと語った。奥さんが皿を落とした音に驚いてパニックなり、落ち着かせようと触れた旦那さんが爪で切り裂かれたのだそう。

 

 ドラゴンと少年の姿がどこにも見えないのでそれもかなみちゃんに聞いてもらうと、ドアを破る勢いで出て行ったドラゴンを追いかけて少年も何処かへ行ってしまったことが分かった。それと少年の名はクローフというらしい。

 

 こうして事情を知った俺達は、少年の安全を約束し家をあとにした。


 俺達の作戦では本来、クローフくんにドラゴンの恐ろしさを伝えるため彼の両親に協力してもらい、ドラゴンが親を傷付けたように見せかける演出を仕掛けようとした。ヤケド薬を事前に購入していたのはそれを水で薄めれば血のりの代用品となるからだ。


 ──まさか、俺たちが展開しようとした作戦が、実際に起きるなんて……。ほんとうに、いつ誰が危険な目に合うか分からない状態だったんだな。リズの不安は的中したわけだ。

 

 外で待つリズと中島さんに事情を説明し、全員で手分けして探すことになると思ったが──、

 

 「カナミンなら気配を察知するスキルを持っている筈です! 急がせましょう!」

 

 リズのその言葉通り、かなみちゃんに任せた方が早そうだった。というか「あっちだよ!」とあっという間に見つけてくれた。

 

 場所は俺達が "ニセモノの魔女" に会うために入った森の手前。急いで向かうと、少年が竜を落ち着かせようとしている場面に遭遇した。下手に刺激して飛んで逃げられても困るので、会話の出来るであろうかなみちゃん一人に出向いてもらう。

 

 竜と話せるか若干の心配はあったが、

「花と会話したことのあるカナミンならまず問題ありません」

とリズが太鼓判を押した。だから俺達は遠くから見守るだけに留まる。

 

 一体何を話しているのか分からない。それでも、少年と竜が熱い抱擁を交わしているのは伺えて──、

 

 「あっ、ドラゴンが森に行きましたよ!」

 

 森を指さすリズの言う通り、抱擁を交わした竜はそのまま森に姿を消してしまった。

 少ししてかなみちゃんが俺達の元へ戻って来た。

 

 「かなみちゃん、上手くいったのかな?」

 「あのドラゴンはつい最近まで自分のことを人間だと思ってたみたい『どうして今まで教えてくれなかったの?』って悲しそうに言ってた」

 「家族同然に育てられたがゆえに、自分が皆と違うことに不安だったんですね」

 

 そう薫さんが漏らした。他所の家庭の事情は知らないが何か抱えていたのだろう。

 

 「かなみに出来たのはお互いの想いを言葉にして伝えてあげることだけ。その後はあの子達が互いの為に別れる道を選んだの。……今はそっとしておいてあげて」

 

 少年は溜めた涙を拭うように腕で目を擦っていた。確かに今はそっとしておいたほうが良さそうだ。

 

 「思っていた形とは違いますが、結果オーライですね。行きますか」

 

 空気を読まない発言をするリズだが、今は感傷に浸っている場合ではないのは事実だ。

 

 「こっからは失敗出来ないから、気合い入れて行けよ。リズ」

 「こうだいこそですよ」

 

 俺たちはグータッチをした。俺達の作戦は寧ろここからなのだ。



 『ドラゴンを召喚石にするぅ!?』

 『はい。それが私とかなみちゃんの作戦です!』

 『つってもドロップ率があるだろ、そう簡単に手に入るのか?』

 『最後のトドメをナカジマに任せればいいんです』

 『わ、私……ですか?』


 

 先に進むかなみちゃんを追って俺達は森の奥へと入る。

 ある程度進んでいった場所で、かなみちゃんが一人になった仔竜の額に手を(かざ)していた。作戦では、仔竜が暴れるようなら檻の用意も辞さない考えだと二人は言っていたが、どうやらドラゴンとの話し合いは上手くいったようだ。

 

 「リズ。どれくらい魔力を注げば良いの?」

 「わかんないですけど、思ってる量の半分くらい回せばいいんじゃないですか?」

 「持ってる半分? 分かった。今から魔力を送るからみんな離れてて!」

 

 かなみちゃんの忠告を受け、リズ以外の俺達三人(珖代、中島、薫)は固まって離れた。

 

 「ごめんね……。少しだけガマンしてね」

 「ペイィ……」

 

 一人と一匹を翠色の光と小さな白い玉が包む。──始まった。光がだんだんと収まりだすと、仔竜からかなみちゃんが手を離した。

 

 

 一拍。

 

 

 無数の蒼白い光が仔竜から放たれ、森を瞬時に駆け巡った。どれも強く光るが目に追えるような速度ではなく、俺の横を通ったやつはバチバチッと音を鳴らしていて、鳥肌が立った。

 

 

 そして。


 

 突如、鼓膜を破るような爆音と共に凄まじい砂埃が舞い上がった。

 

 その衝撃は離れた所で見ていた俺の肌にビリビリと伝わるほど。

 

 ピリついた衝撃と、吹き荒れる強風、おまけに視界を悪くする強烈な土煙で身動きが取れない。

 

 微かに見えたのは風に乗って飛ぶ木の破片や小枝、大木を手首の返しだけで跳ね返す薫さんの後ろ姿だけだった。そうして守られているうちに風が止み、視界が晴れてきた。

 

 「なな、な、何ですか……あれ……」

 

 中島さんは震えている。それも当然だ。


 仔竜がいた場所には黒光りする大きな塊が現れていたのだから──。

 

 いや、大きいなんてものじゃない。

 

 俺が今見上げているのは、紅く鋭く尖った爪を生やした足なのだから(・・・・・・)

  

 「こ、これが……ドラゴンの……真の姿」

 

 思わず感嘆と恐怖が入り混じった声が漏れた。

 

 全身を包む岩肌のようにゴツゴツとした鎧のような鱗。黒光りした太く勇ましい脚とは裏腹に、退化してしまったような小さな手。大きな身体を支える為の尋常ではなく太く長い尻尾。角度のせいか、見えない翼。

 

 

 こんなもの例えようものなら、一つしかない。

 

 

 あれは邪龍でも、飛竜でも、粛征竜でもない。ゴ○ラだ! ○ジラ!

 

 「こんなの倒せるのか……?」

 

 幾ら頑張って見上げようとも、顔なんて確認できたもんじゃない。目が合わないどころか、眼を見ることすら叶わない。

 

 「この大きさ、伝承で聞いた大きさの倍以上……。三千年級はありますよ」

 

 両手に剣を握りしめているリズがわざわざ伝えに来た。

 

 「ちょ、ちょっと待て、三千年級……? 寿命は平均でも千五百年じゃなかったのか……! そもそも、千年級にするって話じゃ──」

 

 リズはドラゴンを見つめたまま終わりを待たずに重ねる。

 

 「魔力での成長は直接寿命とは関係ありません。かなみちゃんの魔力量を侮っていた私のミスです……」

 「おい。それって下手したら、……あのまま放っておけばさらに千年生きるかもしれないってことか……?」

 

 だとすれば、俺達はとんでもないことをしてしまったことになる。世界に恐怖を解き放ってしまったのだ。誰も経験したことのない三千年級の恐怖を──。

 

 「ここで倒せば問題ないですッ! 行きましょうかなみちゃんッ!」

 「うん! いくよ!」

 

 漠然とした恐怖に俺が竦んでいる間に、リズとかなみちゃんが先手を仕掛ける。自分の身長の倍の太さがある尻尾の先端にリズは飛び乗り、何度も何度も斬り付けながらドラゴンの肩口辺りまで一気に駆け上がった。

 

 恐ろしいのはそのスピード以上に正確無比な斬り付けだ。

 

 鎧のように硬いであろう鱗と鱗の僅かな隙間を、まるで縫うかのようにアイツは二本の剣で幾度も斬り裂きながら昇っているのだ。今まで見てきたどんなリズニアよりも穏やかかつ、冷静な表情で。

 肩口に着くとそれまで続けていた斬り付けを止め、ドラゴンの頭上よりも高く飛び上がった。

 

 そのまま自由落下に身を任せるがままに、二本の剣を構えて勢いよく回転を加え、ドラゴンの顔に落ちたのが見えた。

 何をしたのかは分からないがリズニア着弾の瞬間と共に衝撃波が起きドラゴンがよろめいている。

 

 誰かを守りながら大勢のザコを相手するよりも、何も考えずに挑める強くてデカい敵のほうが相性がいいのだろうか。レザルノの大群と戦っていたときよりも明らかに生き生きしてる。


 

 一方のかなみちゃんはかなみちゃんで訳が分からないことになっていた。

 

 

 ……浮いている。

 

 

 そのままの意味で空中に浮遊しているのだ。たぶん自分の力で。


 リズが背中辺りまで駆け上がっていたとき、かなみちゃんは宙に浮きながら両手をドラゴンの顔に向け、火炎を放射していた。大きな頭を包み込む巨大な火柱は、リズの肩口到着と共に消えた。見ているだけで熱くなりそうな紅い炎だったが、ドラゴンにはまるで効いていないようだった。そこでかなみちゃんは、自分の身長の五倍はある氷塊を生成した。

 

 片方が尖った円錐型の氷塊は、リズの回転落下攻撃のタイミングで投げられ、ドラゴンの上顎辺りに当たって砕けた。

 

 そうしてドラゴンはよろめいたのだ。

 

 

 グオオオオオオオ────。

 

 

 森が揺れるほどの大きな叫び声をドラゴンが放つ。

 たくさんの鳥が逃げるように一斉に飛び立つが、羽ばたく音すらかき消される。

 

 「すげぇ……」

 

 背中から滝のような血を流しながらも威嚇する三千年級のドラゴンと、それに負けずとも劣らないコンビネーションを見せてくれるリズとかなみちゃん。どちらに対してもその言葉しか出なかった。

 

 聖戦でも見せられている気分だ。俺の出る幕なんて果たしてあるのだろうか。

 

 「恐らくですがあのドラゴン、まだ全力を出し切れていないんじゃないでしょうか?」

 

 仲良く固まっていた三人のうち、中島さんが冷静に言った。

 

 「急成長した身体に心が追い付いていない……。ということですね?」

 

 それに合わせて薫さんがそう言う。

 

 「えっと、それはつまり……まともに動けない今ならチャンスってことですか……?」

 「「恐らく」」

 

 何故この状況で冷静で居られるのかが分からない。百歩譲って薫さんだけならまだ分かる。だが、普段オドオドとしている中島さんが誰よりも冷静にドラゴンの分析をしているのが腑に落ちない。

 

 ──もしかしてこの人、薫さんの傍というのと自分の出番がまだまだってので、危機感を感じてないんじゃ……?

 

 俺が妙に冷静な二人に気を取られていた間、遠くに見える黒い山が旋回を始めていた。──尻尾だ。ゆっくりとだが着実に、大きすぎる尻尾がこちらに向かって来ている。


 「お二人は少し、離れていてください」


 薫さんが前に出る。


 何をしようとしているかは分かる。

 

 だから思いの限り叫んだ。

 

 「薫さんッ!!」

 

 ……でもそれだけ。足が竦んで動けない。

 

 薫さんはオートカウンターを使う気だ。


 俺達三人は尻尾から逃げられるような距離じゃなく、巻き込まれるのはもはや確定。だから余計に止められない。

 しかし、大量の木々を巻きこみながら向かってくるソレが、果たして "攻撃" と呼べるのか。薫さんの "反撃" が発動するのかどうか分からない。──でも。それでも、俺達三人が生き残るにはスキルが発動する方に賭けるしかない。薫さんに委ねるしか……今はない。


 (ほうき)でまとまった塵をかすめ取るみたく、尻尾に引きずられて来る土砂や木々の山に薫さんの姿は消えた。

 

 

 そして。

 

 

 ドゴンッ! という衝撃音と共に小さな風が(なび)いた。

 

 

 一拍。

 

 

 それまで引き摺るように地面を移動していた尻尾が連れ立った木々を全て置き去りにし、空を舞い、俺達の上を通過していった。とんでもない質量の物体が通過する瞬間は、一瞬にも一分にも感じ、俺達の上を通り過ぎたところですぐに地面に落ちて、衝撃が跳ね返ってくる。

 

 余りにも自然な動きに、一見するとドラゴンが気まぐれで尻尾を上げたようにも見えなく無いが、俺と中島さんは知っている。山積みにされた木々の間から砂煙を引き連れて、歩くあの人のおかげということを──。


 その気品と優雅さを兼ね備えた有り様は俺達の希望そのもの。

 

 「大丈夫でしたか」

 

 向こうから先に聞かれてしまった。

 とはいえ、薫さんも無傷なのは見て取れたので何よりだ。

 

 「はい……助かりました」

 

 ──そうか。薫さんが冷静で居られるのは自分の能力に自信があるからなんだ……。やっぱ、すげえな薫さん。

 

 そう思った矢先、震わせる手を隠そうとする薫さんの姿を見てそれが誤解であるとすぐに悟った。薫さんは俺達に不安を感じさせない為に気丈に振舞っていただけで同じように不安だったのだ。

 そのくせ、誰よりも責任感と勇気があった。

 

 ──何をやっているんだ俺は。

 もう、守られるばかりはやめたんだろうに。

 ドラゴン一匹にビビってて世界が救えるか……?

 償えるのか……? 無理だよな。戦うしかないよな。


 だいぶ震えは収まった。

 あとは、どう切り抜けるかだ。

 

 ドラゴンの脚元から火花の散るような音が微かに聴こえる。

 見てみてれば、蒼白く光る稲妻のようなものが脚元に渦巻いている。いや、溜まっていると言った方が正しいかも。どちらにせよ嫌な予感がしてならない。

 

 「かなみちゃんっ! 様子がおかしい! リズに離れるように言ってもらえるかなぁ!」

 「うん! 分かっ──」

 

 グオアアアアアアアア────。

 

 先程の叫び声とは比べものにならないほどの竜の咆哮が、かなみちゃんの返答を遮った。咆哮と共に凄まじい地響きと突風が吹き荒れ、身動きが取れず自分を守ることしか出来ない。

 やがて風も咆哮もおさまる頃、ドラゴンの全身が ピカーッと蒼白く輝やく何かに守られていることに気付いた。脚元に溜めていた稲妻をほとんど音も無く全身に纏わせていたのだ。

 当然そんなことになればドラゴンの背に乗っていたリズも無事じゃすまない。黒い煙に巻かれながら無気力に落下する。手足をピクリとも動かさず、頭から。

 

 「リズーッ!!」

 

 俺の叫びと同時に飛び出したかなみちゃんが地面に衝突する前にリズを助け出した。回収したリズを連れて戻ってくる。

 

 「おい! 大丈夫か!? リズ!!」

 「……ゲホッ……ゴホ、ゴホッ」

 「おどかせんなよ、ったく」


 真っ黒コゲでチリチリヘアーになったリズが親指を立てる。咳をする度、口から(すす)煙が出てくる。

 

 ウチのパーティー随一の耐久性を誇るリズだが、さすがに稲妻直撃はヒヤリとした。

 ギャグテイストなら命に問題はないだろう。

 

 「まずいよ……止めないと森が……」

 

 かなみちゃんの不安は良くわかる。あの巨体に纏った蒼白い稲妻がいつ森に引火するか分からないからとだ。

 

 このまま放っておけば確実に森は大火事確実。

 

 一刻も早く、これを止めなければならない。

 

 誰かが。だとすれば適任なのは──、

 

 「かなみちゃん、お願いがあるんだ」

 「なに?」

 「()をドラゴンの瞳の前まで連れて行って欲しいんだ。頼めるかい?」

 

 かなみちゃんに対しては優しいお兄さんであろうと振る舞ってきたが、そんな余裕はもうどこにもない。

 かなみちゃんは一度薫さんの顔を見たあと、再び俺の方に向き直って言った。

 

 「分かった! 持ち上げるよ」

 

 脇の下から抱えられるように持ってもらって、空中を浮遊しドラゴンに向かう。上空からはドラゴンの全体像が良く見える。やはり翼は退化しているようだ。飛ぶことは出来ないだろう。


 地面に接触する面が大きい尻尾の方では、既にあちこち火の手が回っていた。

 

 「珖代みて! 尻尾の先っぽの方!」

 「あれは……」

 

 根本付近には薫さん達がいるが尻尾の先端付近には、得意の水魔法で消火活動にあたるセントバーナード犬いた。

 

 「セバスさん! どうしてここに……?」

 

 商人さんと別の村に向かっていた筈のセバスさんが次々と火を消してる。よく見れば商人さんもいて、必死にバケツで水を掛けていた。


 「理由は後で聞こ」

 「そうだね……。ありがとう。この高さなら十分だよ」

 

 俺達は瞳の前までやって来た。近づき過ぎては稲妻をくらいかねないので少しだけ距離がある。

 俺とかなみちゃんがすっぽり入ってしまうほど大きな瞳がこちらに気づく。横に開閉する半透明の瞼がゆっくりと開き、俺達の身体が反射して写るほどキレイな瞳が剥き出しに。

 

 今だ。今しかない。

 


 一度呼吸を整え眼を閉じ、全身全霊の能力をこの眼に込める。


 

 殺気は込めない。ただ止めるだけの力でいい。


 

 動きを。稲妻を。止めるための力を俺に。

 

 

 

 ────┠ 威圧 ┨ッッッッ!!!

 

 

 

 その神秘的な水晶体を介して、脳に直接氷塊をブチ込むイメージで睨みつけた。

 

 

 稲妻はすぐに止まった。

 

 

 そして動きも。

 

 

 「……はっ! 止まったよ珖代! 止まったよ!」

 「……あ、ああ」

 

 張り詰めた緊張の糸が切れたせいだろうか。

 全身に気だるさを感じる。

 やりきった感はあるがまだ終わっていない。気をしっかり持たねば。

 

 「カナミーン! こうだいを空中に放り投げてくださーいっ!」

 「えっ? どうして!」

 

 かなみちゃんの言う通りだ。

 何故俺が投げられないといけない……。

 地面を走るリズに大声で叫んでやりたい気分だが、今はできる気力がない。

 

 「かなみちゃん! 私を信じてぇっ!」

 「……分かった。珖代、投げるから気をつけてね」

 「えっ、ぁ、ちょっと……え?」

 

 この子は何をどう気をつけろと言うのか。

 かなみちゃんがリズの懇願に折れる形で俺は投げられた。


 ものすっごい勢いで走ってくるリズが、勢いそのままに跳躍して、俺の前にやって来てそして──、

 

 

 「……ぶぼぉッ!?」

 

 

 バカみたいな脚力で俺の顔面を踏み抜いてドラゴンに跳びかかった。ただただ落下していく俺に鼻血だけが付いて来る。

 

 ナニガオキタ、ノウノショリガ、オイツカナイ。

 

 「ダイナミックボンバー!」

 

 リズの持つ、何の変哲もない二本の剣がドラゴンの胸部に接触した瞬間、不意に爆発した。その衝撃は意外に強かったらしく、一切動けないドラゴンがゆっくりと、ゆっくりと後ろに倒れ始めた。

 

 ──おい、まて。

 なんだこれは。

 

 少し冷静になって、考える。

 

 ……いや、考えずともリズがおかしいに決まっている。

 

 ドラゴンに攻撃を食らわせるために俺を踏み台にするとはどういう了見なのか。

 

 それだけじゃない。今、コイツのせいでとんでもないことが起きた。

 

 ──やりやがったな。いや、やってくれたな。 クズ女神。

 

 ドラゴンが倒れいくその方向、その真下には薫さんと中島さんがいるのだ。

 

 どのくらい止めていられるか分からないからいち早く攻撃するのは分かる。だとしても、だ。

 

 ──いくら何でも、手段を選ばな過ぎだああああ!!

 

 

 俺、リズ、竜、同時に倒れる。

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