その男、ピースにつきFinal
「ポケット! ギヒアードたちを引っ込めろ。コイツは実力で沈めて、完全に夢から目覚めさせてやる」
「……うるせぇ」
「ポケット?」
「いつまでも自分が上だと思うなよ……?」
ポケットはもう指図は受けないとばかりに口の両端を吊り上げると、ギヒアードを自分たちのリーダーであるベッジの腕に噛み付かせた。
事実上の裏切り行為、下克上である。
「キャン!」
「……バカヤロウ。分不相応な力は身を滅ぼすぞ」
ベッジは噛み付かれた腕を体ごと地面に叩きつけてギヒアを引き剥がした。直後、その場から離れるため飛び退いた。
「かぁあ、見えねえな。おいおカッパ! エナムはどうなった!?」
「ういういうい!」
ポケットが暗闇に向かって叫ぶと順調そうな、おカッパ頭のスムージーポテトの声が聞こえてきた。
「ガブ!」
「ういういうい」
大丈夫そうに聞こえたのもつかの間。捕まっていたエナムが腕に思い切り噛み付き、スキを見て逃げ出した。
「兄さん! 受け取って!」
「これは……?」
解放されたエナムは何かを兄に投げ飛ばした。レクムはそれを受け取り聞き返す。
「手鏡だよ! ツノにわざわざ光を集めるギヒアードならきっと、目に入る光を嫌うはず! だから反射を利用して戦って!」
「はんっしゃぁあーー!!」
兄貴はチェストォォォ! 感覚で叫び、鏡をギヒアードの頭部めがけて叩きつけて粉々に割った。
「話し聞いてたぁあ!?」
「エナム、よく弱点が分かったな!」
「たまたまだよ兄さん。でも、僕も本気だ……! 本気で旅に出たいんだ! だから、これからはちゃんと調べ尽くす。サポートは任せて!」
エナムは付き合わされてここにいる訳でないことを兄に語った。どこまで伝わっているか分からないが兄貴はニッコリと微笑み、ベッジは関心したように鼻で笑った。
「エナム、オレにも武器をくれ。できれば殺傷性の無いやつを頼む」
「これでいい?」
エナムはリュックを漁ると、要望通りレイザらスで買ったステンレス製のフライパンを手渡した。
「いいぜ。コイツで引っぱたいて、ヤローを正気に戻す。道を開けレクム」
「失敗すんなよコノヤロー」
ベッジとレクム。二人は並んで立ち、お互いの標的に狙いを定めた。
片方は剣を持ち、もう片方はフライパンを持ち不敵に笑う。
「く! しまった忘れてた!」
兄たちの初めて見せる連携に目を奪われていた弟は、再び忍び寄る影に気づかず、スムージーポテトに捕まってしまった。
「エナム!」
「大丈夫だから! こっちで何とかするから!」
ただでさえ疲労困憊なレクムに迷惑を掛けたくないと、エナムは自力でどうにかする道を選ぶ。幸い、頭をフル回転させる時間はあった。
「離してくれスムージーポテト! キミはベッジの味方なんだろう!!?」
「スムージィ? お前はオレの味方だよなぁ!?」
「う、うい……」
遠くから響くポケットの声。スムージーポテトはそれに怯えていた。
「いいのかい? あんな奴のゆーこと聞いて。キミはそうやって、これからもただ強い奴の傀儡でいるのか……? 自分の意思は、やりたいことはこんな事なのか!?」
「う、う、う、……うい」
「聞いてくれスムージポテト。僕にいい考えがある」
迷っているならチャンスはあると、エナムは思いついた作戦を伝えた。
「ベッジぃ、前から気に食わなかった。おめえのやり方じゃあ仕切りがあめェあめェ、甘過ぎんだよぉ! だからこんな事になった。しかしぃこれからはオレの時代! 武力でこのオレ様がこの街のガキどもを従えるから覚悟することだなぁ?!」
ギヒアードたちをフライパンで吹き飛ばしながら、ベッジは徐々にポケットへと近づいて行く。
「つけ上がるなポケット。お前自身強くなったわけじゃねえ」
「煽んじゃなくて止めてくれよベッジ! 流石にこれ以上は耐えられない……」
珍しくレクムが弱気な発言をしたその時──、
「──【エレフラッシュ】!」
後方から飛ぶその呪文が、広範囲を明るく照らした。
光源の真下。そこには誰よりも明るく照らされた少女の姿があった。
「ユイリー! ユイリーなのか!」
「助けに来ましたよレクムくん。エナムくん! ……もしかして、お邪魔だっかな?」
強く青白い光は、ユイリーの掲げる杖の先端から放たれていた。チョイチョイは道を間違えなかったのだ。おかげでギリギリ、ユイリーの到着は間に合った。
「いや助かった! すげーベストタイミングだぜ!」
ポケットは一人だけ、不愉快そうに眉毛を寄せた。
「目障りだな。出てこい魔物ども! あの女を噛みちぎれぇええ!!」
左手に輝く目玉指輪が赤く光だし、至る所に様々な種類の魔物が召喚された。そのほとんどが、無防備なユイリーを真っ先に狙う。
「ヤベェ! 逃げろユイリー!!」
「ムヌルンッッ♡」
食いちぎられる……! そう思って目を閉じたユイリーだが、その死はいくら待っても訪れなかった。しばらくして目を開けるとそこには、筋肉に包まれたオバケが立っていた。
「アルベンクトさんっ!」
「アルベお姉様でいいわよ、ユイリーちゃん♡」
飛ぶウインク。ユイリーはそんな事にもオカマいなく質問する。
「でも、どうしてここが……?」
「ユイリーちゃんの後を追いかけてきちゃった♡ コレを渡すためにね」
「これは、ネックレス……ですか?」
金のネックレス。
大切なそれはアルベンクトから少女に渡った。
「どこの誰だったか忘れたけど、コレ、アナタ宛てのプレゼントだそうよ。せいぜい大事に使ってあげることねぇーー!」
「だったら明日会う時に渡してくれれば──……。いえ、ありがとうございます。助かりました!」
次々と現れる刺客にポケットの苛立ちが収まらない。
「ちっ……次から次へとぉ……! 二人で来いって言ったのにぃぎきい!!」
「う、ういうい!」
「おお、スムージィ。良く連れてきてくれた。偉いぞぉ」
後ろからスムージーポテトの声が聞こえて振り返ると、彼は人質をちゃんと連れていた。
「さぁお前ら、人質はもはやオレの手中にある! エナムを傷物にされたくなけりゃあ……スムージィ?」
「う、うい!」
機嫌よく脅迫している最中に、おカッパ頭のスムージーポテトがポケットの両手を取って羽交い締めにした。
「良くやったスムージー。そのままだ。そのままステイだ。オレがこの一撃で分からせる」
彼らのリーダー格、ベッジがフライパンを片手にゆっくりと歩きだす。気が大きくなっていた流石のベッジも、これにはものすごい動揺した。
「……お、おい! バカ! なにしてやがんだおカッパ頭のスムージィポテトがよォ!! 離せゴラ!」
「ういういういういうい」
「てめえまでオレを裏切るつもりなら、よろしいぃぃ……! 全員ここでぶち殺してやるううぅ」
「させない!!」
怒りに任せて指輪を光らせた直後、背後から忍び寄るエナムが指輪ごと四つの指を、剣を振り下ろし切断した。
「はぁぁぁぁ……!! あぁぁああぁああ!!!!」
ポケットは痛みで発狂し、暴れ出す。それでもスムージーポテトは羽交い締めにし、しっかりと押さえる。
気づいた時には、高く跳躍したベッジがフライパンを勢い良く振りかぶっていた。
「あ、べべ、ベッジ……やめ」
「気が大きくなりすぎたな。ポケット」
次の瞬間、フルスイングにポケットの右頬が吹っ飛んだ。
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