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その男、ピースにつき⑩


 

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 もやもやした数日を過ごし、迎えた誕生日──。

 彼女の目の前に願ってもない依頼書が飛び込んできた。

 

 「え、これって……」

 

 蝦藤かなみに会いに行くのが目的の長期クエスト。誕生日サプライズ以上の衝撃に空いた口が塞がらない。

 

 「かなみちゃんに会えば、珖代くんにも会えるかもしれない……」

 

 長期クエストなら長く街を離れていても、ごく自然な理由となる。さらにかなみの傍に珖代が居ることはほぼ確定なので、弟弟子に会って師匠が裏切り者である可能性を伝えることも出来る。まさに一石二鳥だった。

 

 ユイリーは真っ先にクエストへの参加を希望した。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 ギルドの応接室にやって来たユイリーは、同じく参加を希望するアルベンクトと共に特殊依頼用の契約書に同意し、レイザらスのボスであるレイとアルベンクトから直接クエストの詳細について聞かされた。

 

 「ユイリーちゃんユイリーちゃん。今日の夜、アタシの店来れる? アナタの師匠がバースデー祝いたいんだって」

 「え、師匠がですか?」

 「そ。確証はないけど多分ね。そんなこと口に出すタイプじゃないからナニ言っても否定すると思うけどね」

 

 帰り際、アルベンクトのバーに誘われたユイリー。

 彼女は師匠のらしくない行動に驚いてしまい、ついつい「分かりました」と行くことを約束してしまった。

 

 「なら良かったわ。夜までテキトーに時間でもつぶしちょーだいねーー!!」

 「あ……はい」

 

 出来れば、明日の朝まで会わずに旅に出たかったと落ち込むユイリー。

 

 「いや、でもこれならいいかも……」

 

 独りで考え込んでいると、むしろこれはチャンスであること気付いた。

 酒の席であればピースを暴ける。お姉ちゃんは確かにそう書いていた。だから、師匠が裏切り者かどうかもこれでハッキリするはず。

 

 「【ファイヤースプラッシュ】!!」

 

 レクム、エナム兄弟の魔物狩りを手伝いながら、旅に出るそれっぽい理由を考える。ついでにピースじゃなかった場合の時も考える。あえて釣り出すためにカマをかけてみたりもしよう。

 

 カランカランカラン──。

 

 「すいません! 思ったよりクエストに時間が掛かってしまい、遅れてしまいました……!」

 

 まずは嘘をついた。遅れて来た方じゃなくて、珖代くんを好きな気持ちが揺らいでいるという嘘──。本当は一分一秒、日に日に好きになっていることを隠し、旅に出る理由付けとする。

 

 「どうしたユイリー、飲まないのか? 何も考えず、勢いに任せて飲むんだ。さあ早く」

 

 これで何度目か。

 お酒を飲まずにいると、何度も飲むように催促された。もう言い逃れは出来ない。疑いは確信に変わってしまった。

 

 「今、なんて……?」

 「あれ、分かりづらかったかな。もう一度言いますね。私はダットリー師匠、貴方がキライです」

 

 キライな理由はすらすら言えた。信じていた分ピースだと確信すると、憎悪や哀しみも相まって悪い言葉がどしどし湧いてきた。

 いつの間にか、止まらなくなるほどに。

 

 「──私やこうだいくんの前に、二度と現れないで」

 「……。」

 

 そこまで口にしても尚、最後の最後まで師匠を信じたい自分がいた。

 だから私はトビラの前で立ち止まった。本当に、否定も何もしてくれないことが悔しくて。

 

 思い起こされる思い出は “悪いもの” ばかりじゃない。

 むしろ、(わら)にもすがる思いで弟子入りを志願したことも。

 面倒な雑用をこなし街と交流を持てたことも。

 好きなヒトと同じ時間を共有できたことも。

 お姉ちゃんの手記をきっかけに三人で抱き合ったことも──。

 

  “ぜんぶ大好きな思い出” だ。

 

 簡単に切り離せたらどれだけ楽だったことだろうか。昂る気持ちを抑えるために下唇を噛んで耐えた。

 

 「まあ、誓ったところで信じませんけどね。敵の言葉なんか」

 

 最後にまた毒を吐いた。

 

 逃げるように店を出た。

 

 

 

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 ━━

 

 

 「うぅ……ぅ……うう……」

 「フゴ、フゴ……」

 

 三角座りにうずくまり、涙の止まらない少女を見兼ねて大きなウリ坊のような見た目をした半魔が慰めにきた。

 

 「ありがとう……。チョイチョイ」

 「フゴ! フゴフゴフゴ!」

 「……え? レクムくんたち……まだ帰ってきてないの?」

 「フーゴ! フゴフーゴ!」

 「場所わかるの……? じゃあお願い。連れてって」

 

 ユイリーは(つよ)い少女だった。

 仲間の為なら自分の涙すら引っ込められる、優しい少女だった。

 

 泣き腫らした顔を処理できないまま、ユイリー・シュチュエートはきりりと眉を立てた。

 

 相棒に跨り、いざ暗がりの荒野を駆け出す。

 

 

 

───────────

 

 ──ギヒアの巣──

 

 

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……」

 「兄さん!」

 「エナム! オマエは自分の心配してろ!」

 

 レクムは時間をかけてギヒアとギヒアードの群れ三十匹──、約半分を片付けた。しかしその身体は、既に満身創痍で──。

 

 「意外と粘るじゃないかぁレクムぅ。だが! 日は完全に落ちきった! オマエが相手にしていたギヒアの正体が分かるかぁ!?」

 「なんだ、これは……」

 

 鎌の形をしたギヒアードの角が月の光を浴びて一斉に輝き出した。

 

 「月光のギヒアード! 荒野のギヒアードとよく似てるが別大陸の魔物だ。こいつらはツノに光を集めてその他を真っ暗闇に染め上げる! 本来は子供を外敵から見つけにくくする能力らしいが気をつけろよぉ? ガキだけじゃなくオレたちも、お前には見えないからなぁ……?」

 

 姿はみえないが、ポケットの不快な笑い声が響いて聞こえる。

 

 「ういういういうい」

 「きゃッ! 兄さん!」

 

 後ろにいたエナムがおカッパ頭のスムージーポテトに捕まった。

 

 「エナっ──ぶぐっ……!」

 

 声の位置から割り出そうと振り返るが、暗闇に殴られレクムはよろける。

 

 「くそっ、オラァ!……コラ! 誰だぁ!」

 「剣なんか無闇に振り回しても間合いを詰められるだけだぜ……レクム」

 「その声、ベッジか!? 卑怯だぞっ! どこにいやがる!」

 

 剣を振る度、出来た隙に強烈なパンチが飛び出す。

 レクムは剣を仕舞った。忠告に従うのが正しいと冷静に判断して。

 

 「オマエが素手なら、オレも素手でいかせてもらう……」

 

 ファイティングポーズを取り、ベッジの攻撃に備える。耳を澄ますと息遣いの音とステップの音が聴こえる。

 

 「ぶっ! ぐは……! おグゥっ!……カはッ!」

 

 何度もパンチを浴びせられるが、背後に回られることは無くなった。

 さらにベッジのクセも分かってきた。

 

 「……!?」

 「ここだぁ!!」

 

 予測だけでパンチを避け、カウンターのアッパーを腹に食らわせた。

 

 「どうだぁ!! ……ガハッ」

 

 レクムのこめかみに鋭い蹴りの一撃が入った。単純に威力はパンチの三倍。

 初めての横蹴りで対処なんか出来ずレクムは地面に転がった。

 

 「兄さん……もういいよ降参しよう! ボクたちの負けだ!」

 

 レクムは疲労の蓄積もあって、全く立ち上がれない。弟はそんな兄を見て悲痛な叫びを上げるが、兄はそれに反論する余裕すらなかった。

 

 「オレはお前がキライだレクム」

 

 ベッジは見下しながらそれを口にする。

 

 「夢を語るだけ語って皆んなを惑わせるクセに、お前は今まで何してた? 何もしてないだろお前。イライラすんだよ。努力もなく計画性もなく、夢を語るだけならガキでも出来る。お前の勝手な妄想に付き合わされるエナムが可哀想だとは一ミリも思わねえのか?」

 「……なんだと?」

 「どうなんだエナム。お前の兄貴はSSS級冒険者になれると思うか?」

 「……。」

 

 ベッジからの質問に、エナムは口を噤いで少し目を細めた。黙秘を肯定と受け取ってベッジは続ける。

 

 「なれねぇってよ。まあ、そうだよな。最初の街で旅に出る前から苦戦してやがる奴になれる訳ないわな」

 

 そう言いながら、ベッジは倒れるレクムに近付く。

 

 「SSS級冒険者になりたいなんて分不相応な夢は諦めて、大人になれよ。レクム」

 「……ふ、ざけんな…………ふざ、けんなァァァ……!!」

 

 レクムは腹に力を入れ、その怒りを原動力に気合いで立ち上がった。

 

 「ガキの頃の夢を……、ムリだと諦めることが大人なら……、オレはもうガキでいい」

 

 レクムとベッジ。

 両者ともに暗闇に浮かび上がるその闘志を睨みつけ、構える。

 

 「ガキのままで、お前らなんか超えてやる」

 「オレの愛するこの街を、小さな世界をお前ごときに壊させやしない」

 

 

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