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第百六十一話 街に出る、


 ──第四防壁門──

 

 

 門前の広場まで来ると人混みはさらに増す。寄せては返すヒトの波を突っきるように歩くと、名前も顔も知らない野次馬らしき者がちらほら目につく。保安兵に警護されながらの移動なので見世物と勘違いするのも分かるが、ヤケに冷たい視線も感じる。

 不快ってこと? だったらゴメンさない。原因はレクムくんだから。

 

 ──許した手前、グチグチ言ってもしょうがないか……。

 

 そうして俺たちは、人混みを抜け門に到着した。

 

 「こうだいさん、お仕事頑張ってください! 応援してます」

 「仕事ってほどじゃないんだが……、うん。ユイリーちゃんも修行頑張って。俺たちはいつでも君を歓迎するからさ」

 

 それぞれが思い思いの別れを惜しむ最後の時間──。俺は姉弟子にあたるユイリー・シュチュエートといずれまた会えること、そして、いつか仲間として共に冒険できる日を願って堅い握手を交わした。

 

 「じゃ、じゃあですよ? 何か大切なものを一つ奪ってもいいと約束してください……」

 「ははは、そんなことにはならないと思うから大丈夫だよ、絶対大丈夫!」

 

 軽く呪いでも掛けるように『約束』を取り付けようとするユイリーちゃんだったが、それはやんわりと(かわ)した。騙されたばかりで怖いので。

 

 「そう言えば師匠は?」

 「さっきまで一緒だったんですけど……えっとー、あっ、向こうの壁の方に。ほら、後ろの」

 

 ユイリーちゃんに背後を指差さされ振り返るとそこに居た。遠いが確かに腕を組んで立っている。師匠は俺たちのずっと後ろでセバスさんと二人、壁沿いに並んで立ちコチラを眺めている。

 

 「仲いいですよね、最近」

 「そうだね……よく見かけるね二人」

 

 あの一件以来、ダットリー師匠とセバスさんが一緒に居るのを目にする機会が増えた。『洞窟に取り残されたことの吊り橋効果で距離が縮まった』とする元女神の意見もあるが、俺には熟年夫婦の面影を感じる。──円満最終奥義 “適度な距離間” を見せつけられているような、そんな達人の間合いを感じる。

 

 「仲がいいならそれで……」

 「何か言いました?」

 「いや、何でもないよ」

 

 そう言えばあの二人、以前はどんな関係だったのだろう。わざわざ理由を聞くつもりもないが、セバスさんが師匠を監視しているように感じるのは俺だけだろうか?

 

 「バウバウ!」

 

 と、くだらないことに脳みそを回しているとセバスさんがまっすぐ歩いてきて俺たちに吠えた。

 

 「どうしました?」

 「もう出るのか?」

 

 遅れてやって来た師匠がそう説明する。

 

 「師匠、言葉分かるんですか!?」

 「いや、今のはオレの──……。まあ、コイツも同じことを聞きたかったんだとは思うが」

 「急いでる訳ではないので、皆の別れの挨拶が済み次第出発になります」

 「そうか、じゃあサヨナラだ」

 

 師匠の日本語にひとつ苦言を呈して握手を交わす。

 

 「そこは “またね” ですよ師匠」

 

 大きな門が開いて風が吹くと、ヒトの波から歓声があがり盛り上がりを見せた。見慣れた門が開いただけなのになぜか鳥肌が立つ。この先に広がる未知への恐怖と興奮に、ワクワクドキドキ鼓動が速まる。

 

 「ふぅ……。よしっ、行くか」

 

 息を整えて、いざ街を出発する。

 ゆっくり閉じる防壁門。隔たれようとするその狭間に向かって大きく手を振って別れを惜しむ。

 

 「ラッシャッセーー! せいぜいくたばるなよコーダーーイ!!」

 

 ラッシャッセは平たく言えば別れを意味する言葉。この言葉を聞いて涙腺が緩む日がくるとは思わなかった。

 

 「……頑張れよォ! コーダイ!!」

 「ゴブリンには気をつけるんだゾォ!」

 「ゴブリンに泣かされた男が言うと説得力が違ぇな?」

 「なっ、……過去の話を引っ張り出してくるんじゃねぇ!」

 「「「「「だはははははは!!!」」」」」

 

 ──このやり取りも、もう見納めか。

 

 「おい! コーダイ泣いてるぞ!」

 「マジかよ! ホントだぜ!」

 「あんなに、お前らじゃ泣かないって言ってたのにな!」

 「泣くか! ばーか!」

 「なんだとぉ!」「誰がバカだやんのか!」「調子のんなコノヤロー!」「いつでも相手してやるからなー!」「カオリさん泣かしたら承知しねーぞー!」「辛かったらいつでも帰ってこいよーー!」

 

 などという罵声を浴びながら、門は完全に締め切られてしまった。向こうの音はもう何も聴こえない。

 

 「旦那、良かったんですかいアレで」

 「テキトーで良いんだよ。最後じゃないんだから、テキトーで」

 

 ──俺はこの街が好きだ。第二の故郷だって言えるくらい好きだ。

 だから最後になんてしない。

 いつかきっと戻ってくる。今よりずっと強く立派になっていつか……必ず。

 

 「旦那! 先でいいんですよねー?」

 「ああ、先導してくれ」

 

 俺たちには移動手段として軽トラがある。しかし四人以上を乗せての長距離移動には向かないこと、存在をなるべく隠しておきたいことなどから行商人である粋年(すいねん)荒狂三舵(あれくるうさんだ)さんに同行をお願いした。具体的にはトラックの認識阻害に気付かずぶつかってくるものを防ぐために目的地までの先導をお願いしている。

 

 「じゃ、ついてきて下さいねー」

 

 アレクは例のトラック事故の犠牲者の一人。一度ゆっくり話して起きたかった相手なのでちょうど良かった。彼の馬車にはかなみちゃんと薫さんが乗り込み、その後方を付けて走る軽トラの助手席にはセバスさんが乗る。もちろん俺は運転手で──。

 

 ブゥゥウゥン……──。

 

 「ちょっと待てーーーい!!」

 

 あ、そう言えば。

 大荷物を背負ったリズニアが汗だくになりながら走ってきているのがサイドミラー越しに分かる。手足の振り上げ方が異常に大きくなかなかに怒っているようだ。

 

 「起きたら誰も居ないし! 北門には来ないし! もう出発してるし! 置いてくって正気ですかーー!?」

 「アレクさん、スピード上げちゃってください」

 「ご夫人、オニですかい?」

 

 前の馬車から怒れるリズを無視してそんなやり取りが聞こえた。

 薫さんが馬車の荷台の天幕を開けて俺に微笑みかける。スピードを上げろということらしい。

 

 「うおおっと! なんでスピード上げるんですかァーー!」

 

 俺たちはリズを置いて出た。

 理由は寝坊である。

 

 「行ったよな? 明日は寝坊したらホント置いてくって! お前が悪いんだからなぁ!」

 「だとしても、今は止まれるでしょうよーー!!」

 

 

 

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 ──大雨の荒野──

 

 

 「なぁ、リズニア」



 ふと、よぎった。


 聞かなきゃいけない気がした。


 なにも整理がついていないけど、片膝ついたまま振り返る。



 「……お前は……勝手に居なくなったりしないよな……?」

 

 だらしない顔だったと思う。鼻水を垂らし、涙に顔を腫らしていたと思う。それでもしっかり見て聞きたかった。

 

 「少し前に見た夢の話をしていいですか」

 

 カクマルを聖剣で(ほふ)り、精神的に疲弊してた所に現れた女神。彼女はそんな俺の事情を察してか甘えるように背中に抱きついた後、優しくそんなことを(ささや)いた。

 

 「なんだよ急に」

 

 少し恥ずかしくて、なるべく手短に話すよう伝えた。するとリズは俺のうなじに鼻すじをスっと近付けて、夢の話とやらを語り始めた。耳元に息が掛かる距離だった。

 

 

 

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