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第八十一話 それは報復ではなく


 ~レオナルドサイド~

 


 

 「あ、あった」

 ──(ありました)

 

 賢者プロテクトと西の王の配下レオナルド・ブラックスリーはそれぞれ別のアプローチで『万単位の屍兵を短期間で増やせる方法』について調べあげた。賢者は自分の蓄えた技術と知識を駆使してたどり着き、レオナルドは資料からの考察のみでたどり着いてみせた。

 

 「二人同時ということは、同じところに行き着いたな?」

 ──(おそらく)

 「ワニニャンコフ先生と同じなんて、畏れ多いです……!」

 「それじゃあまずは、先生から聞かせてもらえるか」

 

 西の王がそう言うと賢者は淡々とソレについて語り始めた。

 

 ──(ユールが誕生するよりも昔、この土地で奴隷を懸けた大規模な戦争が起きた。戦死者の数は、およそ)

 「お、おい! 説明してくれるとこ悪いが来てしまったっ!」

 

 ──うんうん、さすがワニニャンコフ先生です。

 

 と、レオナルドが何度も頷きながら賢者の説明を聞いていたところを、ささっと王様が遮った。

 

 「第一ゲートから、東に、三百バルト付近! アンデッドの大軍だッ!」

 

 慌てないように区切ることを意識しながら喋る王様は、大地の騎士団(マセリットオルデン)が見たものと同じアンデッド軍を鏡越しに捉えていた。

 

 ──(数は?)

 「西側とほぼ同等数、一万弱といったところだ」

 ──(挟み撃ち──。もしくは、西側が進めなかった時のスペアといったところか)

 「気付くのが遅れた。どちらも大外から回り込んで来たのだろう。それも、かなり早い段階からこの状況を見越して。ラッキーストライク──さすが、賜卿の名を冠するだけのとこはある。大地の騎士団だけではすぐに手が回らんくなったか……!」

 

 冷や汗を掻きながらも王様が珍しく相手を褒めると、異を唱えるためにレオナルドが資料を持ち立ち上がった。

 

 「陛下。ラッキーストライクが過去にこのような戦術を起用した記録はありません。おそらくこの戦い方は、その男に代わるもうひとりの五賜卿──【(むし)の卿】パーラメントによる作戦かと思われます」

 「パーラ、メント……? ──あ、あー! 居たなーそんなやつ!」

 「へいかー?」

 

 悪気なく言う陛下に対しレオナルドは、忘れないでくださいよ……と、喉まででかかった言葉を飲み込んだ。

 

 「いや待てよ……? という事はここからさらにパーラメントまで参戦してくることになるのか!? そうなったらいやさすがに、ユールは終わりなんじゃないのかぁ!? どうなんだレオナルド!」

 

 さっきまでの威厳はどこ吹く風か──。今度は頭をかかえてあたふたしだす陛下。少しポンコツ女神めいたものがある。

 

 「いえ、それは無いかと」

 

 ユールの終わり方について、レオナルドは否定から入る。

 

 「なんと言っていいかは分かりませんが……今回の魔族の報復は、今までの五賜卿がしてきたソレとは、少し違うように感じるのです……」

 「少しちがう? どのように」

 「実際に見て肌で感じたモノしかないのですが……」

 

 レオナルドは最初の襲撃の時、偶然にもユールに滞在していた。彼は、その時からずっと感じていた何かに引っかかっていた。しかし言葉にするには難しく、口を(つぐ)んでしまう。

 

 ──(ではその違和感について、私が代わりに言語化しよう)

 

 感覚でしか分からないレオナルドと、全く理解していない陛下のために、天の声ならぬ、賢者プロテクトの声が響く。

 すかさずレオナルドは反応した。

 

 「先生、ワタシの考えていることが分かるのですか?」

 ──((おおむ)ね、言いたい事は今ので分かる。君の発想は私と似ているのかもね)

 「せんせい……!」

 

 憧れのヒトに似ていると言われ、彼はそれがリップサービスだとしても感嘆とした声をあげた。

 

 ──(レオナルド君の言う通り、今までの報復と異なる点は幾つか存在する。まず、狙いが辺境の孤立した小さな街だということ。これは報復対象としてみても過去一番に規模が小さい。そもそもユールを襲った理由が謎だがそこは後にしよう。そして次に、兵より前に出る戦い方を好むラッキーストライクが、比較的慎重かつ後方戦略的な動きをしている──、もしくは強いられていること。二十七万体もの屍兵を停止させられてしまったのは間違いなく痛手だが、それにしても(およ)(ごし)がすぎる。本気を出せば街の中にさえ召喚できたはずなのにそれをしなかった点も不可解。そもそも、五賜卿が誰も死んでいない(・・・・・・・・)点が今までと最も異なる。これまでは五賜卿が殺される度に報復が起きていた筈なのにだ。以上のことを踏まえ、私はある可能性に至った。これは──ラッキーストライクのための報復(アベンジ)ではなく、彼自身の復讐(リベンジ)だと)

 「「──ッ!!」」

 

 あくまで賢者の考察に過ぎないのだが、二人はその意見に妙に納得させられてしまった。

 

 後方で指揮を執る大将のようなアルデンテも──。

 他の五賜卿たちが一切動かないことも──。

 じわじわユールを痛めつける理由も──。

 

 ソレだと気付いてみれば何もかもが違和感でしかなく、全てが繋がっていくように感じた。

 

 ついに三人は、敵の行動原理 《リベンジ》にたどり着いた。『なぜ』にたどり着けば『なにをするのか』を知るための情報にもなる。

 これで多少、敵の行動が予想しやすくなった。あとは、後手に回らないように対処していくだけだが──。

 

 「つまり他の賜卿連中がラッキーストライクのリベンジに兵は貸さず、知恵だけを授けるのは、あくまで個人のリベンジとして様子を見ているから。と言うことだな?」

 

 陛下の質問に賢者、もといワニニャンコフ先生は「おそらく」と回答した。

 

 「リベンジという事は、ユールではなく特定の個人(だれか)を狙っている可能性もありますね」

 「ひとまず、他の驚異について考える必要は無くなったな。アンデッドを蹴散らすことに全力を費やすぞッ!」

 「はっ!」

 

 西の王は、にぎり拳を掲げてそう高らかに宣言した。レオナルドはそれにしっかりと合わせて掲げる。

 

 話の途中だった『短期間でアンデッド兵を急激に増やす方法』が賢者の口から再開される。

 内容は、実に丁寧にまとめられていた。

 

 

 ──その昔、この地域周辺で内紛が勃発した。

 奴隷制度保守派と奴隷解放派の争いは血で血を洗う大戦争にまで発展し、最終的に解放派の勝利で幕を閉じたのだが、新緑豊かだった土地は荒れ果て荒野と化し、両軍合わせ三万人以上の戦死者が出た。身元確認や遺留品回収は遺族中心に行われ、遺体は、激戦地帯でもあった峡谷沿いに植物のタネと共に埋葬された。やがて、様々な理由で戦死者たちの元を離れられない遺族たちは近場に構えた支援キャンプ場を中心に街を築いた。

 峡谷沿いの植物たちはやがて成長し『枯れない森』と呼ばれるようになり、街は解放を意味する『ユール』という名を与えられ、今日(こんにち)までいたる──。

 

 王は森や名前の意味をあまり知らなかったのか、少し驚いたような声を漏らした。しかし広げる時間も無かったので特に食いつかなかった。

 

 次に賢者は、ラッキーストライクには死者の怨念を聞き分け操る能力があることを説明した上で、三万の戦死者らと何らかの形で接触したと仮定し、『現在の総私兵数は三十一万体である』と予想だてた。

 レオナルドもそれに近い数を予想する。

 

 同じく戦死者に目を付けていたレオナルドが賢者の話した内容とほぼ一致していたことを西の王に伝え、一度冷静になって考えだす。

 

 ──ワニニャンコフ先生の仮説が正しければ、三万人の戦死者全てが敵の配下に治められていると考えた方がいいな……。停止中の二十七万、消滅済みの一万、交戦中の一万、そして新手の一万を合わせると全部で三十万……。という事は──。

 

 指を折り曲げながら数えなくても数が足りないことに気付く。

 

 「──陛下、ラッキーストライクは残り一万の兵をどこかに隠している可能性があります。今すぐ伝書を飛ばし全て知らせるべきかと」

 

 レオナルドの進言に陛下は少し目を閉じて遠くの方を眺めた。

 

 「想定数との違いで現場に余計な混乱を招くのはさけたい所だが……、情報は全て開示しよう。あの戦の死者が利用されている情報も忘れずに載せておけ」

 

 ユールには今も、あの頃の遺族やその家族、親戚が多く暮らしている。そのことを知っているだけに心苦しい──いや、知っているからこそ、彼らに火をつけ士気を高めることができる。だから伝えるべきなのだと王は判断する。

 

 気の毒な上に好ましいやり方ではないが、それも王の責任だと重く受け止め、前に進む決断を下す。

 

 「それと、伝書は個別で闘う者たちと各重要拠点ごとに配れ。転写用のスクロールの準備も忘れるなよ」

 「はっ!」


 レオナルドがさっそく準備に取りかかる。


 「陛下、聖水の準備が整いました」

 

 聖水の手配を指示されていた女がタイミング良く戻ってきた。一箱に小瓶の聖水一〇〇個が入った木箱が大量に置かれているが、協会が提案した無償提供の五百箱には程遠い数。断ったのは少し痛かったか?

 

 「それと、魔吸剣が三〇〇本です」

 

 足りない分は代用品で補填する。こっちは想定より多く集まった。

 

 「でかした。それらを全部ここに持って参れ。それだけあれば何本かは無傷で送れるはずだ」

 「送る……って陛下、ではやはりっ!」

 

 レオナルドがようやく察したようだ。オレは今、悪い顔をしているに違いない。

 

 「ああ、その通りだ。伝書と一緒に、ありったけの物資をここに流し込む」

 

 ワタシの前には例の鏡──。

 玉座の間(ここ)にある必要なのもの全てをぶち込み、強引に手早く届けてみせようか。

 

 

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