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ノースシュタイン城、それは歴代の魔王の中でも最強と呼ばれた今代の魔王バーミリオンが100年以上かけて完成させた世界最高の堅城。その頑強さは竜一万匹相手にも勝ったほどであった。
だがその堅城が今、瓦解しようとしていた、【訪問者達】が召喚した魔物たちによって。
【訪問者達】が召喚している魔物は魔物を召喚することのできる能力者の中でも人気の高い不死者や昆虫種の魔物だ。
だが彼らの召喚する魔物は常軌を逸していた。バーミリオンは召喚も得意としているが彼とほとんど同じ技量の持ち主が100人集まっても召喚できるのはグールやジャイアントアントが1万ほど、だがグールやジャイアントアントが万もいれば大抵の軍勢は蹴散らせる。
だが彼らが召喚しているのはその程度の魔物ではなかった。
吸血鬼、カボチャの死神、足無く手無き、蟲魅といった一体でも確認されれば軍が動くほどの化け物が万を超えさらには死なずの王と呼ばれる不死者にとっては神にも等しい存在はまだいいとして影の貴婦人や気高き館の主に人馬一体乃木人形といった民間信仰の神さえも召喚し、使役してしまったのだ。
今現在、ノースシュタイン城の最高戦力、人族最強の老練の騎士アルフレッド・ベルンハルド、歴代最強の麗しき魔王バーミリオン、万の時を生きるエルフの王リリネル、神殺しの獣王、ライオネルの四人が力を合わせ戦ったとしても倒せるのは死なずの王ぐらいだろう、影の貴婦人や気高き館の主クラスになるとそれこそおとぎ話の英雄でないと勝てない、そんな次元なのだ。
ドゴォォオォオオォォォオォオォォン
そして今、ノースシュタイン城の扉が彼らによって破壊された。
死兵より死を恐れぬ死者と本能に生きる蟲が城内を蹂躙する。
騎士が傭兵が冒険者が貴族が王族が奴隷が商人が農民が平民が皆食われていく。
死者は命をその身に戻さんために、蟲は子孫を残すために肉を食らっていく。
そして最後の砦、王の間にはか弱き子供達とそれを守るアルフレッド、バーミリオン、リリネル、ライオネルの四人の戦士がいた。
「我らの戦いがこんな結末を迎えるとはな、運命とは残酷なものよ。なあ、バーミリオン。」
「なぁに、私たちの戦いはこんな所で終わる程度のものではないわ。常世でも戦うとしようじゃないか、アルフレッド。」
そう言いあう老人と幼女、決して恋仲でもなく親友でもなく、好敵手だからこそ通じ合えるところがあるのだろう。
「ふん、リリネルよ。お前だけならわざわざ我らとともに戦わなくてもよかったのではないか?」
「はぁ、ライオネル、私は仲間を見捨てるほど落ちぶれたつもりはない。」
四人の戦士たちはみな武器を構え不死者と蟲が来るのを待ち構えていた。だが何時までたっても猫の子一匹も来ない、不審に思いアルフレッドが扉を少しずつ開けるとそこには不死者と蟲の死体が無数に散らばっていた。
「なッ!?」
四人は驚愕した、死体の中には四人が束になっても敵わない気高き館の主の死体があったからだ。
「仲間割れか?いや、だがそれならば甚大な被害が出ていないとおかしい。なぜだ?」
「ひとまず外に出てみるべきだ。リリネルはここに残って子供達を守っていてくれ。」
そうしてリリネルを残し3人は城の外に出た。そしてそこで見た光景とは無数の気高き館の主や影の貴婦人と戦う一人の少年の姿だった。
その少年はいたって平凡な町人の服装をしており普通の町人と違う点は極めて普通な片手剣を持ち化け物と戦っているところぐらいだろう。
「キシイイイイイイイイイイ!食ワセロオオオオ!」
気高き館の主という名前には似合わない奇声を発しながら一体の気高き館の主が少年に襲い掛かった。気高き館の主は暴食という能力を持っておりこれは触れたものすべてを食べることが出来るという攻防一体の能力だ。そして気高き館の主の一撃は少年の腹部へと吸い込まれるように入った。誰もが少年の死を確信した。暴食の一撃が当たればその時点で体全てが気高き館の主に喰われるのだから。
「はぁ、僕みたいな【無個性】な人間がなんでこんな神と戦わないといけないんだろうかなぁ!と。」
だが暴食は発動しなかった。そしてそれに動揺した気高き館の主達を一刀のもとに切り捨てる少年。彼はそのまま何処かへ向かって歩き出した。
「ま、待てっ!貴殿は何者なのだ!」
アルフレッドがそう呼び止めた。少年は振り返り一言だけ返事をした。
「英雄/化け物」
そして少年は白昼の夢のようにふと消えていった。