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しめじ三郎 幻想奇談シリーズ

しめじ三郎 幻想奇談〜夫の異変〜(888文字小説)

作者: しめじ三郎

 ここ一週間程、どうも夫の様子がおかしい。


 いつになく優しくなり、頼んでもいないのに朝のゴミ捨てをしてくれたり、食事の後片付けを率先してしてくれる。


 そればかりではない。仕事帰りに花を買ってきたり、私の好物のケーキを買ってきてくれたりする。


 あまり考えたくないのだが、もしかして浮気をしているのだろうか?


 その後ろめたさから、私に気を使っているのかもしれない。


 疑い始めると、そうとしか思えなくなってしまう。


 そして意を決して夫を尾行する事にした。


 次の日、夫を送り出すとすぐに外出着に着替え、夫がいつも使っているバス停に向かった。


 しかし、そこには夫の姿はなかった。


 やっぱり……。頭の中をどんどん嫌な想像が膨らんでいく。


 夫は会社に行くふりをして、どこかで女と会っているのだ。


 疑惑が確信に変わってしまった。いくらそうではないと否定してみても、もはや動かし難い事実に思えた。


 それでも念のためと思い、一度家に帰ると、夫の会社に時間を見て連絡した。


 出たのは夫の部下に当たる男性だった。


 夫に代わって欲しいと告げると、


「いや、その……」


 何故か言葉を濁す。恐らく、夫は出社していないのだ。


 私に内緒で会社を休み、女とどこかに出かけたのだ。


 何て事だろう。


「私が電話した事は言わないでください」


 それだけお願いすると、通話を切った。


 気持ちの整理がついた私は、もう一度出かけ、役所で離婚届をもらってきた。


 夫が帰宅したら、何も言わずにこれを差し出す事に決めた。


 それから夫が戻ってくるまでの時間が何と長く感じられた事か。


 付き合うようになってから今日までの記憶が、まさに走馬灯のように駆け巡った。


 アルバムをめくって過去の楽しかった日々に浸っていると、夫が帰ってきた。


 いつもと同じようにしている夫に対して、私は無言で離婚届を差し出した。


「どういう事だ?」


 夫は不思議そうに尋ねてきた。


「自分の胸に手を当てて考えてみなさいよ!」


 私は目を合わせずに言い放った。すると夫は、


「そうか。気づいてしまったんだね」


 何故か残念そうに呟くと、スウッと煙のように消えてしまった。


 私はその時になってやっと、夫が死んで一年経っている事を思い出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] しっとりとした情念と前向きな結末という感情が合わさって、清々しい読後感だと思います。感情の境界線は絵の具のように滲んでいるという一文を思い出し、二度読み直して心の機微を確認してしまいました。…
[一言] 今回は、どんなホラー仕立てなのだろう? と、ドキドキして呼んでいたら・・・いい意味で期待を裏切られました。 切ない系ホラーですね、コレ。 読んだあと、怖さはなくて、しんみりしてしまいました。…
[良い点] 部下の方の言葉を濁した意味を錯覚させてるところ。 あんな対応されれば疑心暗鬼にもなる(笑) でも電話を受けた方はそんな対応しちゃいそうなリアルさがあって良かった。 [一言] 気になってしま…
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