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イェンスとルジェーナ  作者: 如月あい
間章 イザベラ・エノテラ・ヴェルテード

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42/82

過去語り編≪イザベラと近衛と侍女≫

 私がシルヴィアと二人でルッテンベルク街の真ん中を歩いていると、二人の若い男が私たちの前に、駆け寄ってきた。二人ともひどく息切れしている。


「ご無事ですか!?」

「ああ!よかった」


 それがパーシバル・セネヴィルと、イレール・オーヴィニエの二人だった。

 二人は私に歩み寄ると、二人で違う行動をとった。パーシバルは私を見つめて、安堵と怒りがないまぜになって、動けず棒立ちになっていたし、イレールはシルヴィアを睨んで拘束しようとした。


「その人は私を助けてくれた人よ」


 私はひとまずパーシバルのことは放置して、イレールに声をかけた。

「失礼しました。イレール・オーヴィニエと申します。お名前は?」

「ルジェーナです」

 シルヴィアはちらりとこちらを見ながら、そう名乗った。

「それで、助けていただいたとは? いったい何があったのですか?」

「誘拐されたの。ここから、南の方に燃えている屋敷があるわ。そこが誘拐犯の根城アジトかつ、その組織は人身売買に手を染めてるプロらしいから、捕まえて。軍への連絡、および連中の捕縛は……オーヴィニエ少尉に任せるわ」

「かしこまりました! セネヴィル中尉、殿下のことをお願いします!」

 私が指示を出すと、イレールは敬礼しすでに近寄ってきていた他の隊員に事情を話しに行った。


「し……ルジェーナ」

「え?」


 私がシルヴィアの名をそう呼ぶと、彼女はひどく驚いた顔でこちらを見た。私が彼女に合わせてあげるとは思わなかったのだろうか。


「王女を助けて表彰されたい? 目立つけど」

「……頭が切れる子だね。目立つのはやめてほしいかな」

 シルヴィア呆れたようにそういうと、ゆっくりと私に近づいた。

「じゃあ、手柄はこの二人に譲っておくわ。行きなさい」

「その人がパーシバル?」

 立ち去る前に、シルヴィアは私にそう耳打ちをする。

「……ええ。そうよ」

「ベラのこと、心配で気が狂いそうって顔してると思うけど」

「ちょっと……!」

 シルヴィアはその時、初めて屈託のない笑みを私に向けた。そして、ポンと肩に手を置くと、ひらひらと手を振って人ごみに紛れてしまう。

「どこで攫われたんですか?」

「……街よ。街までは自分の意思で出たの」

 私は少し悩んでから、正直に本当のことを言った。

「イザベラ殿下。どうして、そんなことを?」


 パーシバルが震える声で問いかけてきた。彼はひどく怒っていた。勝手に外に出た私に。

 しかし同時に、彼は私が無事で安堵しているということは分かった。

 たとえ私が王女だからという理由にせよ、彼は私の生を望んでいるということが。


 それに、私は不思議なことに、もう死のうとは思っていなかった。

 憎いといいながら、私を傷だらけになって助けたシルヴィアに、強い興味が湧いて、それどころではなくなっていた。

 こうして改めてパーシバルに会ってみると、たとえ彼がどう思っていようと、もう一度会えてよかったとすら、思えた。

 私は忘れてはいけないのだ。家族を失ったシルヴィアの悲しみを。憎しみを。

 そして、それが権力者わたしたちのせいだというのならば、はっきりと責任の所在を明らかにしなければならない。

 彼女の様子を見る限りでは、犯人は裁かれていない。


「楽しかったわ。外の世界は。たとえ誘拐されてもね」

 私は笑みを作りながらそう言った。パーシバルには、口が裂けてもあなたが原因だなんて言わないと決めていた。

 私の馬鹿な初恋は、もう、終わった。これからパーシバルに対してどんな感情を持とうとも、私は彼に何も期待しないだろう。


「そんな、理由ですか? 怪我までして……。私がどれだけ心配したと思っているんですか!」

 まっすぐ目を見て、彼はそう言った。シルヴィアの言う通り彼は私を心配していた。それに微かな喜びを覚えながら、私はその感情に気づかぬふりをする。


「無事だったんだから、いいでしょう」

「よくありません!」


 私は怒り心頭のパーシバルの側を離れ、近衛隊長のもとへと歩み寄った。

 彼の顔は真っ青で、私の首元の怪我を見て、小さく呻いた。

「殿下、どうしてこのようなことを……! お忍びでも私どもにお申し付けくだされば、このような失態を演じることはなかったというのに!」

「失態……ね」


 ふと私はパーシバルを振り返った。彼の表情には苛立ちと、少しの安堵が見えた。

 彼は私を心配しても、自分の立場に関しては心配していないらしい。

 それとは対照的に、私が怪我をして見つかってなお、真っ青な近衛隊長は、我が身の心配で倒れそうである。


「見逃したあなたの責任よ」


 だから私は、あえてそんなことを言った。それが恨みの買う行為だと分かっていても、構わなかった。


「帰りましょう。今日はこのくらいでいいわ」



 私が自分付きの近衛隊の何人かとともに王宮に帰り、自分の建物に戻った瞬間、第一王子リシャルトが仁王立ちで待ち構えていた。

 私はこの男の前では一切の感情を排すると決めていたので、無表情のまま、横をすり抜けようとした。

 しかし腕を掴まれ、空いている部屋に放り込まれた。

 私と彼は向かい合って座っていた。そして、彼は彼の近衛に扉を見張るように言いつけると、扉を勢いよく閉めた。


「イザベラ! お前は何故、王宮から出た!」


 二人きりの部屋で、リシャルトの声は馬鹿みたいに大きく反響した。私にとっては、彼もまた私を心配しているという事実が、癪だった。


「死にたかったからです」


 パーシバルのいないこの場で、私は嘘でも本当でもないことを言う。

 するとリシャルトは目を大きく見開いて、息を呑んだ。どうやらその答えは予想外だったらしい。少しだけ私は満足して、心の中でほくそ笑んだ。


「何故、死にたかった?」

「息が詰まりそうでしたから。でも、外の世界を見て、私は生きると決めました」

 私はじっとリシャルトの青い目を見つめていた。

「……外は、楽しかったのか?」

 リシャルトは奇妙なほど静かな声で尋ねた。

「はい。楽しいだけではありませんでしたが……私はまた外に出たいと思っています」

 私はつい、本音を漏らしてしまっていた。実際、私は再びシルヴィアに会いたいと思っていた。しかしそれをリシャルトにバラしてしまったのはまずい。私はそう思ったが、リシャルトは小さく息をついて言った。

「次は近衛を連れて、見つからないように行け」

「え?」

「髪も染めろ。もしお前の外出が表面化して噂になるようなことがあればその自由はなくなると思え」

 私はリシャルトが何を言っているのか、意味を掴み損ねていた。その言葉はまるで、彼が私に自由を与えると言っているように聞こえた。

 呆然としている私に、彼はさらに続けて言った。

「死にたいと思われるよりは、自由を与えた方がいい。ただし、王女だという自覚を持て。お前は王位継承権を持つ、王の子だ。それに恥じぬ振る舞いをしろ」

 私は降ってきた幸運を、まだうまく飲み込めていなかった。

「……ありがとうございます」

 それでも、どうにか小さな声で礼を言った。リシャルトは何度か瞬きした後、憮然とした表情で言った。

「同じ両親を持つ妹だ。生きていてほしいと思って然るべしだろう。それと、バレないように上手くやるには、必ず、近衛や侍女の協力と選定は必要だ」

「選定……」

「侍女の選定はお前がやればいい。ただ、近衛はお前には決定権がないから、こちらでやる。何か希望があれば聞くが?」

 私は、リシャルトが本気で私の自由を確保しようとしているのだと分かった。それならば、と私は二つ、希望を口にした。

「現在の近衛隊長には、荷が重すぎるようです。違う軍の他の地位を与えてあげてください。彼は私が見つかって、真っ青な顔で言いました。私がお忍びで城から抜け出すと彼らに教えなかったせいで、彼らは失態を演じる羽目になったと。純粋に心配してくれた隊員二人は、安心した表情を見せてくれたのですけれど」

 嫌味も込めて私がいうと、リシャルトは少し思案げな表情になった。そして、ぽつりと尋ねる。

「心配してくれたという二人は、誰だ?」

「パーシバル・セネヴィルと、イレール・オーヴィニエです」

「なるほど。その二人は確実に残す。近衛隊長は異動させる。それ以外の希望は?」

「ありません」

「そうか。分かった。部屋に戻っていい」


 リシャルトはそういうと部屋の扉を開けた。すると扉の向こうに、不安げな表情をした、リシャルト付きの近衛が立っている。

 そしてさらにその奥には、パーシバルや他の近衛隊員も見えた。

「レナルド。お前がイザベラを部屋まで送っていけ。イザベラ付きの近衛隊員全員に話がある。それと……ベラがやることを見届けて報告しろ」

 最後の言葉は耳打ちしていたが、私は耳がいいので全て聞こえていた。

「かしこまりました」

 レナルドという茶色の髪の青年は、青い目を細めて愛想よく笑って私を見た。

「参りましょう、殿下」

「……ええ」

 残された近衛隊員達の顔は、みな一様に不安や恐れが覗いていた。誰も私のことを見ていない。

 しかしそう思ったのも束の間、一人だけはこちらを見ていることに気づいた。

 黒髪に深い藍色の瞳の青年、パーシバルだけは、私をじっと見つめていた。私と目があっても、彼は視線をそらさなかった。

 私はどうするべきか悩んだが、彼の目を見ながら小さく頷いてみた。

 すると目は大きく見開かれて、動きを止めた後、ほっとしたように少しだけ口元を緩めた。

 

「殿下?」

「なんでもない。行きましょう」


 レナルドに呼ばれ、私は彼について部屋に戻った。

 部屋に入ると、こちらの反応も近衛隊員と似たり寄ったりだった。

 何人かは私の姿を見て安堵を見せた。何人かは私の姿を見ても真っ青な顔をしていて、私以上にレナルドを見つめていた。

 その様子は、まるでレナルドがリシャルト王子の代わりに話すと信じているかのようであった。彼女達の懸念もまた、自分のことについてなのだ。


 私は部屋の中央に進みでると、まず見回して、全員はこの部屋に集まっていないことに気がついた。


「誰か、侍女を全員ここに集めて」


 私がそういうと、何人かは、その言葉ではじめて私の存在に気づいたかのように、私に視線を向けた。

 レナルドはすっと壁際に寄った。リシャルトの命通り、ただ成り行きを見守るだけなのだろう。

「かしこまりました」

 私の言葉に真っ先に反応したのは、最も年長のオーガスタだ。彼女が一礼した後に部屋から出ると、侍女シスラが言った。

「姫様……まずはお怪我の手当てをされては? お話はそれからでも……」

「怪我? 首のことね。大丈夫、血は止まっているから」

 私がばっさりと切り捨てると、シスラはまだ何かを言いたげな様子だった。しかし結局は、それ以上言わずに、引き下がる。

 ほとんど待つことなく、部屋に全員の侍女が集まった。元々かなりの数の侍女が、私の帰りを待ち構えんとばかりに応接間にいたせいでもある。

 十二人の目が一斉にこちらを向くと、私は小さく息を吸った。そして話し始める。


「ここにいる侍女は、全員、私付きの侍女から一度外れてもらうわ」


 一瞬、間が空いた。どの侍女も言葉を発せられないようだった。しかしその理由は、各々でわずかに違うように見えた。


「理由をお聞かせ願えますか?」

 

 侍女のシスラが先頭を切って、皆が聞きたい質問を口にした。

 私は口の端を吊り上げて笑うと、じっとシスラを見つめて言った。


「あなたたちのためよ」

「私たちの?」

「そう。今辞めるなら、必ず王宮での職を保証するわ。エノテラ妃に私が口を聞いてあげるから、上手くいくはずよ。なにも王宮から出て行けと言いたいわけじゃないの」

「ではなぜ、そんなことを? 私たちのためと言われても納得できません!」

 最年少のクララが一歩前に出て威勢良く言った。彼女はここに来て三ヶ月だ。

 しかしそれとは対照的に、この時点で何人かは、明らかに安堵の表情を見せた。


「今回のように、誘拐されて、私の身が危うくなるような事態が起きた時、あるいは私が何かで命を落とした時。私と一緒に死んでもいいと思えるくらいの根性がなければ、私はあなたたちを信用できないわ。そして、今、こういう事態だからこそ、あなたたちに責任を取らせるのでなく、異動という形でコトを納めようとしているの。問題が生じれば、形だけでも、解決のために動く必要があるから」


 ほとんどの侍女が、ちらりとレナルドの方を見た。彼女たちはよく心得ているのだ。この王宮で一番の権力者は誰であるのかを。

 視線を受けたレナルドは、ちらりと私を見た後、にこやかに微笑んで一歩進み出た。

 そしささやかな助け舟を出してくれた。


「元々、リシャルト殿下の提案です。イザベラ殿下は、具体的に誰を異動させるかの判断を任されただけです。実際、イザベラ殿下は全員異動させる気のようですので、その様にリシャルト殿下にもお伝えします」


 レナルドの言葉を聞いて、大多数の侍女が、安堵の表情を見せた。リシャルトが異動を保証するならば、王宮から締め出される危険性は消えたと考えているのだろう。


「異動先の希望が決まれば、レナルドに告げて、部屋を出てちょうだい」


 私がそう告げると、五分もたたない内に、一人の侍女が動き出した。

 初めの一人が動き出すと、あとはもう簡単だ。次から次へとレナルドに一言告げ、私に一礼してから去って行く。

 十分も立たないうちに、残っているのは四人になった。彼女たちはかなり慎重な人間であるらしい。自分の行く先のことをこの十分では決められないのだろう。


「希望を考えるのは明日でも構わないわ。とにかく――」

「――いえ。私の希望は、決まっています」


 ぱっと顔を上げて発言したのは、侍女のセシリーだった。

「決まっているの? それならどうして……」

「理由が思いつかないのです。どうすれば姫様は、私をそのままお手元に置いてくださいますか?」

「……ここに残りたいの?」

 私は正直に言って、動揺していた。私の元に残りたいという奇特な侍女がいるとは到底思えなかったのだ。しかし、そういう奇特な人間は、私が思っていたよりかなり多かったようだった。


「姫様。いえ、イザベラ殿下。私は最初にお会いしたその時から、殿下に忠誠を誓っております。殿下が私を不要と仰せになるならば、私は城を出るしか他に道はありません」


 セシリーが理由を言う前に、オーガスタがすっと前に出て言った。

 彼女がそういうと、次に発言したのはシスラだ。

「姫様。私も姫様以外を主とは思えません。侍女の仕事に誇りを持っていますが、違う方の元へ異動してまで、この仕事を続けようとは思いません」

 落ち着いた声色で言うシスラの後、続いて元気な少女クララがやや大きすぎる声で言った。

「そうですよ! 私は姫様と共に死ぬ覚悟があります! あ、でも姫様が生きているのがもちろん一番ですけれど!」

 

 予想していなかった事態に、私は困ってレナルドを見た。すると何故か彼は笑いを堪えるので必死だという顔をしている。

「どうしてそんな顔を?」

「臣下に慕われて、困った顔をする王家の方を見るのは珍しいもので。言葉通りに受け取って、四人を信用なさってはいかがですか?」

 レナルドはまるで私をあやすかのように笑いながらそう言った。彼の態度は少々失礼であるけれど、あのリシャルトがこれを許しているのだから、有能なのだろう。

「ほら、困った顔より笑った顔の方が素敵ですよ。私の妹にもよく言うんですけれどね」

 完全に遊ばれている。

 彼があのリシャルト付きの近衛ということもあって、私はムッとしてむしろ表情を一切消した。

 すると、私の変化に焦ったのか、レナルドが慌てて言った。

「失礼しました。出過ぎた真似を」

「……妹はいくつ?」

「え? あ、その……十二です」

「私の二つ下ね。そう。妹は可愛い?」

「可愛い? ……まあ、可愛いこともないこともありません。ちょっと危機管理能力に欠けていて、たまに会う時でも問題ばっかり起こしてくれるので、冷や冷やさせられますが」

「へえ……いい兄ね。あなたみたいな兄がいれば、きっと幸せだわ。羨ましい」

「後生ですから、そんなことをリシャルト殿下におっしゃらないでくださいね」

「あら、それは困るの?」

「困ります! あの方は……っと、これ以上漏らしたら殺されるな」

「殺される?」

「うわ! 本当に耳がいいですね、お二人は!」

 どうやら後半部分は小声でつぶやいたつもりだったらしい。しかし耳の良い私にはまる聞こえだった。


「あの……」

 

 全く話が脱線した私たちに、しびれを切らしたクララが口を挟む。

「姫様、このままお側においてくださいませ。私、一生懸命働きます!」

「よろしくお願いいたします」

 元気なクララに続いて残りの三人が頭を下げる。

 四人の本気を感じ取って、私はしばし考えた。そして、恐る恐るといったように、私は四人に問いかけた。


「……これから私が何をしても、私の味方になってくれる?」


 すると、四人全員が一斉に顔をあげた。

「はい!」

 そして四人は一斉に返事をした。

 オーガスタは穏やかな表情で。

 シスラは真剣な眼差しを向けて。

 セシリーは安堵した様子で。

 クララは満面の笑みで。


 そして私は、無表情を崩して、にっこりと口の端を吊り上げて笑った。

「決まりね。よろしく。オーガスタ、シスラ、セシリー、クララ」

 私が全員の名前を呼ぶと、四人は何故か驚いたような顔をした。

 私が首を傾げると、クララが目を輝かせて言う。

「初めて名前を呼んでくださいましたね! 嬉しいです。よろしくお願いします!」

 シスラとオーガスタはぎょっとしたようにクララを見て、セシリーは慌ててクララの服の裾をつかみ引っ張った。


 私は、クララに言われて初めて、自分が侍女を名前で呼んだことがなかったことに気がつく。

 私は次からは名前で呼ぼうと心に決め、そしてレナルドを振り返った。

 笑みを消すことも忘れない。

「四人は残して、残りの侍女に関してはエノテラ妃殿下に頼むわ。リシャルト殿下は侍女の処遇に手を出さなくて良いと伝えてもらえる?」

「かしこまりました」

 完璧な所作で礼をすると、にっと笑ってレナルドは言った。

「私にだけ笑顔を消さなくてもよろしいんですよ」

「練習しておかないと。私はリシャルト殿下の前では無表情を保つと決めているの。リシャルト殿下と一緒にいるあなたに、うっかり笑いかけたら台無しだわ」

「どうして、そんなにお嫌いなんですか?」

「どうして? 有能すぎて、私の全てを奪っていくからよ!」

「……これは、伝えられないな」

「伝えなくて結構よ。もちろん伝えても構わないけれど!」

「だから、耳が良すぎますって……」

 レナルドはそう言うと、もう一度、きちんと礼をとった。

「では、私はこれで失礼いたします。しばらく侍女四人でもご不便はございませんか?」

「ないわ」

「かしこまりました」

 レナルドはそういうと、部屋から出て行った。私は残った四人の侍女を見回して、一度咳払いをした。

「私は、これからやりたいことがあるの。この話は他言無用よ。この話がどこかに漏れたら、あなたたち四人全員を王宮から追い出すわ。……秘密は守れる?」

「はい」

「私が死にそうになったら、あなたたちも死にかけるかもしれないけど、その覚悟は?」

「はい! 道連れの覚悟ですね!」

 クララが元気よくそう言って、セシリーとシスラが思わずこめかみを押さえ、オーガスタは滅多なことを口にするなと小声で叱った。

 しかし私が思わず吹き出したので、三人は表情を和らげた。

「そうね。道連れの誓いよ。あなたたち私にその命、預けてくれる?」


「はい! もちろん」

「御心のままに」

「はい。ですが、姫様に危険が及ばぬよう、手を尽くします」

「この命尽きるまで、姫様にお仕えいたします」


 私は四人の返答を聞いて、頷いた。そして、私は彼女たちに“やりたいこと”について語ったのだった。

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