Sinister Letter
「ルディ様。センチュリオンから書状が届いております」
アズダルクの領主代行を勤めていたフォッカーから、一通の書状を手渡される。
僕とミースとイザベルの三人は、とある事情によって、アズダルクの南にある山岳地帯、アレウス山脈の地下に拡がる迷宮から戻ってきたところだった。
フォッカー曰く、僕たちがアズダルクを出立してから、ほどなくして書状が届いたらしい。
「この書状が僕に?」
「はい。確かにルディ様に宛てられた書状でございます」
フォッカーが慇懃に答える。
確かに宛名は、僕の名前となっている。
アズダルクを治める領主はミースである。
よって、王都であるセンチュリオンからの書状であれば、通常、ミースに届けられる。
しかし、この書状は自分に宛てられている。
自分に書状が届くこと自体が稀なことなので、「何かの間違いでは?」と受け取った書状を裏返し、送り主を確認する。
成る程。
送り主は、「第三聖騎士、アイヴィス」と記されている。
この書状はセンチュリオンからアズダルクへ宛てられたものではなく、銀十字聖騎士団からの書状であった。
しかし、銀十字聖騎士団が、一体、どんな用件があるというのだろう?
銀十字聖騎士団の聖騎士には高い裁量権を与えられており、現場の判断に即した行動を求められている。
よって、銀十字聖騎士団の本部からの書状というのは、見当もつかない。
恐る恐る封をあけ、書状を読む。
拝啓。
「死神」がそちらに伺います。
ただ、それだけであった。
「どういう意味でしょう?」
いつのまにか書状を盗み見ていたイザベルが、僕の耳許で囁く。
彼女の吐息が耳にかかる。
「おい! 勝手に覗くなよ!」
「良いではありませんか。主人宛ての書状を検めるのは従騎士の勤めですから」
イザベルは身勝手な論理で書状を盗みみたことを正当化する。
「おやまあ。お二人ともお疲れだというのに、仲が宜しくて羨ましいですわ」
ミースは悪のりして、僕らのことを茶化す。
僕はイズガルド王国の近衛騎士団、銀十字聖騎士団の聖騎士。イザベルは僕に仕える従騎士という立場である。
本来であれば、絶対的な主従関係があって然るべき関係ではあるのだが、どうもイザベルは僕のとの主従関係を軽視している節が多々あった。
いずれはイザベルに僕のことを確りと聖騎士として認めさせ、主従関係をはっきりとさせなければ。
そんな思いが脳裏を過ぎる。
しかし、書状に記された文面の意図を読み解くことのほうが先決である。
僕は書状を手にしたまま、ミースとイザベルに別れを告げ、一人でアズダルク城内にある自室へと戻る。
そして、ベッドに腰を掛け、再び、書状に目を落とす。
「死神」がそちらに伺います。
この不吉なフレーズに僕の心は不安な気持ちで押し潰されそうになる。
アイヴィスの如何なるメッセージを僕に伝えようとしているのか……
その答えが出せずに僕は、ベッドのうえで一人、途方に暮れていた。