カニバリズム少女
肉が食べたい。
それも人肉が。
ゲームでも人間の肉は食えるのかな。
ーー美味しいのかな
「え、」
短刀が味方の首を切り裂く。とうとうPKしてしまった。
赤いエフェクトが首から吹き出す。モンスターと同じ、見慣れた光景だ。エフェクトの雨を受けながら暫し茫然とする。
倒れる少年はまだビギナーで、指導の為に連れていたのだ。でもとうとう殺してしまった。殺人衝動が抑えきれなかったのだ。後悔も出来ない。
ーーでも、殺したからにはしっかり食べないとね。
背中を短刀でかっ捌く。しかし、そこには内臓の影すら無い。唯の赤い光の塊だ。
一部を切り出して食べてみる。しかし味は無く、口に入った途端に無くなった。それと共に自分が何をしているかを自覚した。
悲しい、哀しい。人ひとりの信頼を失って手に入ったのは一時の満足感だけ。
ーーでも、悪く無かった。
「ねえ、知ってる?カニバリズム少女の噂。」
「知らなーい、なにそれ?」
「ゲームでPKした後死体を食べてるプレイヤーが居たんだって。」
「うわ、なにそれキッモ。人食べるなんてありえない。」
あの事が見られていたのだろうか。でもリアルまで特定されてないみたいだし大丈夫かな。
「ねえ、雪子。雪子も知ってる?」
友達が声を掛けてくる。適当に話を合わせておこうかな。
「ううん、知らない。美佐は知ってるの?」
ーーやっぱり、可愛い。
「一緒に帰ろ!」
肯く事で意を示す。やっぱり美佐は良い友達だ。暗い私にも何気なく声を掛けてくれる。
ーー良い娘。
「キャッ」
美佐が派手にすっ転んだ。段差に足を取られた様だ。
「いてててて。ここまで派手に転んだのはいつぶりかな?」
さっき転んだとは思えない朗々とした笑顔で照れ臭そうに起き上がって、膝を立てて座るようになった。
ーーチが出てる。
でも、何よりも傷口の血に目が行ってしまう。
ーーチも美味しいのかな。
ーーチモ美味シイノカナ。
ーー美佐も美味しいのかな。
「······ミサも美味しいのかな。」
「どうしたの?雪子?顔が怖いよ?」
「えっ、あっ何でもないよ!それより怪我大丈夫?もう家近いから寄ってく?」
「じゃあお言葉に甘えようかな。なんだかんだ言って雪子ん家行った事無いし。」
最低だ、友達を食べるなんて。
ーー最高ダ、友達ヲ食ベルナンテ。
「雪子ん家結構広いんだねー。あれ?親は?」
「最近は出掛けてるの。」
「へえ!それじゃあ泊まって良い?」
「それはちょっと···。」
「良いじゃん!ね!」
手を握られる。女の子の香りと言うべきか、何かの香りが香ってくる。良い匂い。
「·····うん、分かった。」
やっぱり押しきられちゃった。まあ、友達を泊めるのも悪くないかな。これから美佐と遊ぶ事が多くなるはずだから。
「じゃあ、土を洗い流すついでにシャワーを浴びてきて。絆創膏用意しとくから。」
「はーい。」
ーー良イ匂イノスル、良イ娘。可愛イ娘。
「一緒に寝よっ!良いでしょ?」
結局押し負けるの。
初めての同じベッド。緊張してなかなか寝れなかった。今は午前の三時。
ーー良イ香リ。
良い香りがする。それにあどけない寝顔。
ーーアドケナイ寝顔。
私はやっぱりこの子が好きだ。世界で一番、誰よりも。
ーー誰ヨリモ。
決して手放したくない。ずっと。ここに居て欲しい。だから。
殺そう。
ーー殺ソウ。
そして、食べて私の物にしてしまおう。
ーーソシテ、食ベテ私ノ物ニシテシマオウ。
これは永遠のキス。