人生初の・・・
「人生とはいかに困難である・・・」
牢屋の中で、呟いてみた。
すると隣の牢屋からだろうか壁越しに
「なあーに言ってんだ?新人」
「なんで、地面に絵描いたぐらいで、自分はこんな目に合うんでしょうかね・・・」
「何、おめー、絵かいたぐらいで、捕まってんのかよ」
「はい、連行され、ここにいます」
「どんくせー」
「ほんにドンくせーがきだねー」
「けど、そんくらいなら、明日にでも釈放されっだろう!」
なら、願ったりかなったりだが・・・。
「まあ、俺らも、似たようなもんだしな!」
なんて、なめた軽口叩いていたんだが、現実は、、、。
「で?君みたいな子供が、あんなところで、何していたの?」
尋問を受けています。
しかも、さっきから子供、子供って・・・これでも、とっくに、成人とうに過ぎさって今年厄年だぞー。
異世界に来たから、若返ったとかじゃない。
単なる童顔だ。しかも日本人であることにプラスされてだ。
実の所、実際何歳に見られているのやら。
考えてみるだけでも、憂鬱だ。
ふと、考えてみる。
子供なら、あの場所で、ちょっと、絵を描いていたのは、落書きしていました☆
で、通るのではないだろうか?
などと、浅はかにも、思考を巡らせてみる。
「えっと・・・実は、ら」
そう、言おうとして、周りが騒がしくなったことに気づいた。
「?」
「げっ」
そういったのは、事情聴取をしていた、若いちょっと顔のいい、フツメンだった。
人を、子ども扱いした男でもあるが。
思わず、声がでてしまったようだ。
怪訝に思いながら、そのフツメンの男を見ると、扉の隙間から外の様子を見ている。
若干額に冷や汗が出ている。
「あの…?」
「静かにしていて!」
そう、小さな声で諌めるように言う。
一体どうしたのだろうか。
扉の向こうでは、誰かの叫び声が聞こえた。
大多数の人間が逃げ惑うような足の音が聞こえてくる。
一体何があっているのだろうか?
よくない事であるのは分かった。
もう一人いた人物の額にも同じように冷や汗が出ている。
「・・・。・・・」
異様な緊迫感が室内を襲っていた。
「失礼しますよ」
そう言って、誰かが扉を開けて入って来ようとするが、とっさにフツメンの男性がひたすら扉が開かないように抑えている。
顔面は蒼白になっている。
渾身の力を使って扉を閉めているようだった。
しかもいつの間にか、もう一人も一緒になって必死に扉を閉めている。
そんなにしてまでもその人物と会いたくないのだろうか?
いや、会いたくないのだろう。
若干その人たちは涙目になっている。
「・・・。・・・」
けれど、そんな様子も、むなしく扉はすごい音とともに開いた。
扉の前で必死に抑えていた人達は反対の壁へと打ち付けられるようにして飛ばされた。
「・・・。・・・」
恐ろしい馬鹿力だ。
「ああ、親愛なるロベルト君?君は一体何をしているのかい?ああ、そんなこと言わなくてもわかっているよ? 私に会えるのがそんなに、そんなにうれしかったなんて思わなかったよ。 まあ、間違っても、扉を渾身の力で閉めていたなんてことはないだろうと思うけどね?」
そういって、ゆっくりと中に入ってくる。
言葉を発するたびに、部屋の中の温度が一度下がっていく。
相当な威圧感に、絵美は息苦しくなるのを感じた。
その人物の顔を見た瞬間、息が止まるほどの衝撃を感じた。
美形、はんぱねー!!
そう、そこにいた人物は長身で、三日月を体現したように輝く髪が腰まで伸ばしている。その髪を、ひとくくりに止め、顔の造形はまるで月の女神を男性にしたような美しい繊細な造形をしていた。
身体も、なよなよしているわけではなく、服の上からでも、程よく筋肉がついていることが見てとれた。
バランスの良い、均衡のとれた体。
要するに人間に見えない神がかかった容姿をしていたのだった。
絵美は生まれて初めてそんな、人間離れした容姿の人物を目にしたのだった。
それは、ある意味衝撃的だったのだ。
そこにいたのは、造形美。
だったのだから。
「おや、このような所に子供が・・・?」
造形美の人物はそう言って、少し眉宇寄せて、あごに手を当てて少しの間、思案していた。
そして、次の瞬間、その場所にいたものが息を飲むほどの美しい笑顔を向けた。それは、まるで自愛を表す天上の生き物のようだった。
けれど絵美はそれを見た瞬間悪寒が全身を走った。
先ほどロベルトと呼ばれた人物も同様に真っ青になっている。
確かに息を飲むほどに美しいがそれと同時に、何とも言えない恐怖をあおわれた。
無意識に一歩下がった。
それを、気にした様子もなく、優しく
「私と来ますか?」
そう、聞かれた。
いきなりの事で、意味が分からなかった。
「は?」
「ああ、突然の事で分からなかったのですね。あなたは、どうやら身寄りのないようですね。ちょうどいいので、私の元へ来なさい」
ロベルトが事情聴取して、記していた書類を、さっと目に通して、そう言った。
いや、確かに身寄りないよ?だって、異世界だしね?けど、さあ、何がちょうどいいの?そのちょうどいいっていうとき、かなり不穏な何かが匂って来たんですが!
それに、フツメンの男の人が必死に、顔を横に振っているし、後一人の人なんて、俺は関係ないって呪文のように言っているんだよ!
明らかに、何かあるでしょうが!
「私なら、すぐにでも、牢屋からだしてあげますよ?助けてあげますよ?」
甘言のように誘惑するけれど、それとは対照的なフツメンの男の人たちが何とも言えないし、明日にはたぶん解放されることを考えると、この人の助けはいらないような気がする。
それに、明らかに胡散臭い。
助けてくれそうだけど、その横に立っている、人物が何とも言えない表情をしていた。
それを見た絵美は、
「あー・・・。いえ、結構です」
即決した。
今を助かりたいのは事実。
ここにいても、いいことなどないだろうし、この先の事を考えると、身寄りがあった方がいいのは分かっているし、現状を見れば、分かるが、そこの手を取ったら、えらいことになるのもわかる。
そう、警告音が鳴り響くのだ。それも、高速で。
どうにも、この人物の胡散臭さに、眉宇を寄せる。
何よりも、隣にいる人物の表情。門番や、外で逃げ惑っていただろう牢のなかにいる人たちの反応もいい例だったりする。
皆、微妙な表情をしてみている。扉の空いた先の、牢屋の中の人たちもみんな、時には、青ざめて目を逸らしている。
それほどまでに、やばい人物なのだろう。だったら、関わってしまったらとんでもない目にあうかもしれない。いや、あうだろう。
だったら断るしかない。断らないと、面倒なことになる。
そんなことを思案していたはずなのに、いきなり、激痛が全身を走った。
「!」
そして急激な眠気が全身を襲った。
というか、一気に意識が現実から、遠のいていく。
訳が分からずに、消えていく意識の先で、先ほどの男の手元に、筒があった。
まるで吹き矢のようだ。
「・・・」
まじかよ・・・。
一瞬見えた男の顔は恐ろしいほどの美笑をたたえていた。