除夜の鐘
大晦日に投稿するはずが・・・ネットがつながらなくて・・・。
ああ、今年も終わる・・・。
そんなことを考えながら、寒空の下道路を歩いていた。
あたりは人通りもまばらになってきた時間のはずだが、年末ということでいつも以上に初詣でに向かう人たちがいて多かった。
もうすぐ、今年も終わりを告げようとしていた。
年末に実家に帰ることもせず、小さなアパートで過ごす生活。
年末年始のにぎやかさに比べて、自分はひっそりと年越しそばを食べるだけだろう。
実家に帰ったら、確かに、今の空しい現実を一瞬でも忘れる事ができるだろうが、それと引き換えに、結婚云々で、大いに嫌味を言われるだろう。
結婚適齢期などとうに過ぎ去っている。
厄年までひっさげて来る現状。
そんな親族の嫌味に耐えることのできる精神では、今はない。むしろ、がりがりと精神を削られていく。
何が今年あっただろうかと思案してみるが、特に心に引っ掛かる出来事もなく淡々と過ぎて行ったにすぎなかった。
淡々とした生活にやけがさす。
仕事にやりがいがあればまた別なのだろうが、そんなことは皆無だ。
たかだか派遣の仕事を転々としているだけの自分に、やりがいなどない。
正社員としてやとってくれればまだ、頑張れるのかもしれないが、そこは、就職難の時代。高スキルがあるわけでも、経験豊富なわけでもない自分が若い子との競争率に勝つことができるかと言われたら、それはNOだろう。
昔はどうだっただろうかと思案してみる。
が、一向にどうだったか思いだす事はなかった。
何かに夢中になっていたような気もするが、そうではないような気もする。何とも言えない空虚感が全身を支配した。
恋愛でもしていれば少しは違ったのかもしれないが、それも皆無に等しい現状。
結婚もしなくては老後に不安が残る。
子供がいれば、大変だろうけど、少しはこの空虚感が薄れるかもしれない。
だが、相手がいない。
踏み出すことのできる相手がいない。
大きくため息を吐くと白い息が口から寂しさとともに漏れてきた。
「ほんと、何やってんだか・・・」
コンビニで、年越しそばのカップメンを買って、少し大きな池のある公園を横切りながら通って行く。
周りには、仲がよさそうなカップルや、家族ずれが神社の方に向かって楽しそうに歩いていた。
ちらほらと雪が降ってきた。
「最悪…」
まるで、自分の心のように雪とともに寒風が吹きぬけている。
ふと、公園の池の方を見る。
凍ってはないが、ずいぶんと寒そうだと、全身を無意識に震わせていた。
ある場所が目に入った。
柵が少し壊れていた。
それを目端に捉えながら、特に気にする様子もなく過ぎようとした。
一瞬、家族連れの子供と目があったような気がした。
「え?」
誰かの肩が当たったのだろう、大きく横によろけた。
けれど、柵までは幅があったので、池に落ちる事はないと、少し安堵したが、足元が微かに凍っていた。
「…マジですか!」
思いっきり滑った先は、壊れた柵の先の考えたくもない池の中だった。
盛大に水しぶきを上げて落ちたのだった。
人の慌てる声が聞こえる。
ああ、今年ももうすぐ終わる…。
今年も何をしていたか、分からない。
結婚適齢期をとうに過ぎた空川絵美はゆっくり沈んでいく。
池の凍るような冷たい水が全身を刺すように襲いながら、除夜の鐘の音が遠くで鳴り響いていた。