~第十二話~
季節もすっかり暑くなり、夏になったこの頃。
俺は、いつものように、高校へと向かっていた。
俺の通っている高校と言うのは、山野辺高校といって、まあ、普通サイズ? ぐらいの高校かと思われる。
季節もすっかり夏になったので、制服を着て、登校するのがちょっと辛い、まあ、汗かくしな……
朝だと言うのに、朝、テレビで天気予報を見てみたら「今日は夏日になるでしょ、日射病に気をつけてください」とか、言っていた。
うん、この暑さなら倒れるんじゃないか?
水分補給とかした方がいいかも知れない……
そう思いながら、高校に辿り着いたので、校舎の中へと入っていく。
中に入って、下駄箱から自分の上履きを取り出し、履き替えて、自分のクラスへと向かった。
自分のクラスの中に入ると、もう既に何人かはいて、他愛のないか会話をしている者や、団扇で仰いでいる者、机でぐて~っとしてる者もいた。
うん、皆も暑さで多少参ってるんだな……と思うほどである。
とりあえず俺は、自分の席に座って、鞄から教科書を取り出して、机の中へ入れる。
今日は、普段なら親友の栗谷美鈴とか、同じクラスの汐崎美咲とかに、声をかけられるのだが、今日は全く声をかけられなかった。
そして、チャイムが鳴り、俺の担任の朝崎翠先生が、やって来て、こう言った。
「今日の午後は、プールの授業を行うぞ、ちなみに水着は新品のを全員分用意してあるから、問題はない、あ~用件は伝えたから、で、一時間目は私が受け持ってるのだが、私は眠い、というか寝させろ……だからお前ら、このプリントをやっておくように、出来たら自由にしてOKだ、ただ、私の眠りを妨げるというのなら、容赦はしないぞ、では、お休み」
そう言って、翠先生は、生徒にプリントを押し付けると、どこから用意したのか、マイ枕を使って、本当に寝てしまった。
……これでいいのか……このクラスは……
まあ、この先生の言動にも、皆、なれたらしく、誰も何も言ってはいなかったのである。
仕方がないので、俺は、まじめにプリントをやるのであった。
そして、時間が過ぎて午後。
先生に言われたとおりに、俺たちのクラスは、校庭に出て、右側にある、プールに向かう。
プールの控室に入ると、中には確かに、人数分のスクール水着が用意されていた。
俺は、それに着替えて、目を消毒して、プールサイドに出る。
俺たち女子が、プールサイドにやって来ると、おお~とか歓声があがった。
特に聞こえるのが「美咲様、さすがです!」
「うおお!来てよかったぜ!」と男子から聞こえる。
まあ、このクラスには、クラス一のアイドル的存在の汐崎美咲がいるからな……
多分というか、こいつら、その美咲のファンクラブ、MKFCのメンバーじゃないか? と思われる。
「は~い、皆、準備は出来たかな~?」
子供番組の歌のお姉さんみたいな調子で、そう言ったのは、この山野辺高校の体育教師で、水泳担当の川原芹先生だった。この先生は、男女ともに人気が高く「せりちゃん~」とか呼ばれているらしい、まあ、俺は川原先生とか呼んでいるけど
「じゃあ、まず準備体操から始めましょう~」
と、芹先生が言っていたので、準備体操をして、プールに入った。
「まこーきもちいいね?」
いつの間にか隣にいたのか、親友の美鈴が、俺に話しかける。
「まあ、暑かったしね、気持ちいいかな?」
「うんうん、で、まこはさ? 泳げるの?」
「失礼な、カナヅチじゃあないし、そういう美鈴は、どう?」
「私?私だってカナヅチじゃないよ?バリバリ泳げるし? じゃあさ? まこ、競争しない?」
「何で?」
「いいじゃない? ほら、芹ちゃんも「今日は自由行動ですよ~」って言ってるしさ? どっちが速く泳げるか、バトルしよ?」
俺は、そう言ってきた美鈴に、どう答えたらいいか迷ったが、まあ、別に嫌というわけじゃあないので
「まあ、いいよ」
そう言っていた。
「じゃあ、決まりね? 50mを先に泳いだ方が勝ちね? 負けないよ? まこ?」
「こっちだって、負けないよ」
そう言って、俺と美鈴は、プールのコースに立つ。
俺が一番コースで、美鈴が二番コースだった。
「あ、芹ちゃん、今からまこと勝負するから、計って?」
そう、美鈴が言うと
「そう、解ったわよ、じゃあ南山さん、栗谷さん、スタート位置について?」
「了解~」
「解りました」
そう言って、俺と美鈴は、スタート位置につく。
「じゃあ、行くわよ?よ~い……初め!」
芹先生がそう言った同時に、俺と美鈴はプールに飛び込む。
俺は、クロールが出来るので、それを使って、一生懸命に泳ぐ。
数分後、決着がついた、まあ、どっちが勝ったかと言うと
「やった~私の勝ちだね? まこ?」
そう、勝ったのは美鈴だった。
美鈴は、スタートと同時に、潜水して、そのまま25Mを泳ぎ、後半は背泳ぎで泳ぎきったのである
美鈴……そんなに泳げるのなら、水泳部とか入った方がよくないか? と、思ってしまった。
「は~い、時間なので、今日はこれにて、終了ですーーみんな~?風邪引かないようにね~?」
そう、芹先生が言ったので、俺達は控室に入り、タオルで体を拭いてから、制服に着替えた。
そして、教室に戻り、プールに入ったせいか、ちょっと涼しく感じていたりもしていた
「あ~HRを始めるぞ~」
そう、気だるい感じで言ったのが、担任の翠先生だった。
「必要事項は~、まあ来週から夏休みに入る、ただそれだけだな……あ、ひとつ言っとくけど、校長の話は、まともに聞いても意味ないぞ~あれはスリープの呪文みたいに聞こえるしな~あとは……なんかあったっけ……まあいっか、そんじゃあ、これにて解散、ではな」
本当にいいのか……? こんな感じで……?
そう言って、翠先生は教室から出ていく。
俺は、帰り支度をして、家へ帰る事にした。
プールの授業が開催されて、次の休みの日
俺は、出かける事にした。
出かける場所は、決まっていて、秋葉の喫茶店、ラブ喫茶「アイライク」である。
なぜ、その場所に向かうのかというと、そこの店長さんの東雲紫さんに
「バイトしませんか?」と、誘われたからである。
だから俺は、そのバイトを一日だけだけど引き受けたので、俺の通っている学校が、休みの日になったので、バイトに向かうのであった。
電車に乗り、数分後、秋葉に辿り着く。
街中は、休日のせいか、人でにぎわっていて、人の多さにちょっと目眩がしそうになった
その人ごみの中を歩いて、目的地の場所。ラブ喫茶「アイライク」へと、辿り着く。
中に入ると、「いらっしゃいませ~」と、声をかけて来た。
「こんにちは、佐奈さんだったよね」
「あ、まこさんでしたか……いらっしゃいませ」
「店長さんは、もう来てるの?」
「はい、店長は、奥の控え室で、事務の仕事してますよ」
「そう、じゃあ、自分も着替えて、すぐにホールに出るね?」
「あ、はい……お願いします……」
うん……なんで、顔を赤らめながら言うんだ? 熱でもあるのか? と、思ってしまった。
そして、俺は控え室に入り、用意された制服へと着替える。
ここの制服は、メイド服が基本なのだが、俺のは違っていた。
俺が着る事になっている服は、どっちかというとウエイターか、ギャルソンタイプの服だったからである。それに着替えて、ホールに行くと、さっき会話した佐奈さんが、こう言ってきた。
「まこさん、本当に似合ってます……」
「え~っと……ありがとう、佐奈さんも可愛いよ? 似合ってるしね?」
「!あ、ありがとうございます!」
うん……なんでますます赤くなるんだ? よく解らないが……
そう話していると、俺の親友の栗谷美鈴と、俺の後輩の東雲玲がやってきた。
「おっはよ、まこ~」
「おはようございます、まこ先輩」
「おはよう」
「まこ~今日さ? バイト終わったら遊びに行こうよ?」
「遊びに? どこに?」
「もちろん、この町の中を案内するさ~、で、いいでしょ?」
さて、どうしよう……別に家に真っすぐ帰っても、する事が……いや、妹の亜季が何か言ってくるかもしれないな……でも、やっぱり予定はないので
「まあいいよ」
「あ、あの……私もいいですか?」
「お?佐奈も来る?」
「は、はい、行きます!」
「あきらちゃんは、どうする?」
「僕ですか?……そうですね……お邪魔じゃなければ、ご一緒してもいいですか?」
「いいよ~じゃあみんなで遊びに行こう? はい、決まり~」
そう美鈴が言うと、皆は、了承したようだった。
そう話していると、奥の部屋から店長の紫さんがやってきて
「あら、皆で遊びに行くの? じゃあ、私も入れてね~じゃあ、今日はいつもより早い時間に閉店させましょうっと」
とか言っていた
……いいのか? まあ、店長がそう言うのだったら仕方がないか……
とりあえず、俺はそう思う事にするのであった。
「じゃあ、今日も頑張って働きましょうね~では、皆さん、よろしくお願いしますね~」
「了解です~」
「僕も解ったよ」
「私も解りました」
「自分もOKです」
俺達は、そう言って、バイトを始めるのであった。
バイト中、お客様から声をかけられて呼ばれるのは、いつも女性ばっかりだった。
男の客は、同じく働いている俺の通っている高校の後輩、東雲玲を、呼んでるみたいであった。
そんな訳で、バイトをするのだが、今日は早くお店が終わった。
何故かと言うと、店長の紫さんが「今日は、早く閉店します」と言ったからである。
早く終わったので、俺は控室に行って、私服に着替えて、皆で遊びに行く約束をしていたので、着替え終わって、外で待っていると、店から最初にやって来たのは、桐谷佐奈さんだった。
「あ、まこさん、お待たせしました」
「佐奈さんも、おつかれさま、私服ってそれなんだ?」
「あ、はい、動きやすい恰好で来たので」
佐奈さんの恰好は、黄色のワンピースに青のジーンズだった。
まあ、俺の服装も動きやすいように、白いワンピースに緑のジーンズだけど
「まこさんの服装も……あの、かっこいいです……」
「あ、ありがとう……」
え~っと素直に喜んでいいのかどうかは微妙なんだが……俺はとりあえずお礼を言った。
「あ、まこ~、準備できたよー」
「こっちも出来ました」
そう言ってやってきたのは、俺の親友の栗谷美鈴と、俺の後輩の玲だった。
俺は、玲が気になったので、小声で聞いてみた。
「なんで、ウィッグ付けたままなの?」
「だって、佐奈さんがいますから、僕、佐奈さんには自分の身分、明かしてないんですよ」
「なるほど」
そう話していると、最後に
「お待たせ、全員揃ったわね?」
そう言って来たのは、紫さんだった。
「店長、皆集まったし、どこ行きます?」
美鈴がそう言うと、紫さんはこう言った。
「そうね~、まずは何か食べに行きましょうか? 今日は、私が奢るわよ」
「姉さん、いいの?」
「大丈夫、私にまっかせなさい」
そう言って、笑顔で言う。
まあ、大丈夫ならいっか……と、俺は思っていた。
あ、そう言えば、俺は美鈴にこう言う。
「美鈴、携帯貸して?」
「ん~?まこ、どったの?」
「家に連絡しないと、亜季がご飯作ってるかも知れないし」
「あ、そっか、じゃあ、はい」
そう言って、俺に携帯を渡す。
俺は、携帯を受け取って、自宅にかけた。
数秒コール音がなって、相手が出る。
「はい、南山です」
「あ、亜季?」
「あ、お姉ちゃん? 一体、どうしたの?」
「実はね、バイト仲間と食事する事になったから、亜季、自分の分の食事作らなくていいよ?」
「え……!お、お姉ちゃん……私の作る料理、嫌になったの……」
「い、いや、そういう訳じゃないよ?」
「じゃあ、早く帰ってきてよ……お姉ちゃんの分も作ろうと思ってるんだから……」
……そう言われて困ってしまった。
どう返事すればいいんだ? と悩んでいると
「亜季ちゃん、まこは私達と一緒にいるから、大丈夫だよ? だから安心して、好きな事やってていいよ」
そう美鈴が言うと
「貴方がお姉ちゃんを!!」
なんか電話越しに、殺意?見たいな感じの波動を感じるんだが……気のせいか?
「あ、亜季?」
「お姉ちゃん!その人と一緒にいちゃ駄目!すぐに帰ってきて!」
「そう言われても……店長さんが食事に誘ってくれて、断るわけにもいかないし……」
「そうだよ~店長さんが言ってるからね?」
「…………分かりました、お姉ちゃん……早く帰ってきてね?」
「う、うん、じゃあね? 亜季」
そう言って、携帯の電源を切る。
なんか……偉い沈黙が長かったんだが……ま、まあ、気にしないでおこう……
俺は、携帯を美鈴に返す。
「話はついた? じゃあ、行きましょうか~」
「あ、はい」
「りょ~かい」
こうして、俺達は、秋葉の街中を歩くのであった。
そして……食べ終わって、ちょっと遊んでから家へと帰ると、涙目の亜季がいて、ちょっと驚いてしまったのであった。