エピローグ
◇ エピローグ ◆
見上げた空は、高く、青く澄み渡っていて、太陽が眩しく光っている。
見下ろした水面には空の青が映りこみ、その流れに太陽の光がキラキラと弾かれている。
それでも肌に触れる空気は氷のように冷たく、足元を流れる水はそれ以上に冷たい。
冷たさを通り越して痛みすら感じる。
まるで鋭利な刃物を押し当てられたよう。
これが私の感覚――。
数日前、いや、数週間前だったか……まあ、そんなことはどうでもいいのだけれど、以前同じようにこの川に入ったときは、こんな風には感じられなかった。とても遠かった感覚が、今ではこんなにも近くにある。
弱い風が吹いて、私の髪をちょっと揺らし、頬を軽く撫でた。
そんな些細なことにも気づくことができる。
それもみんな、あなたのお陰なんだよね――。
トクン、トクン、と穏やかに脈打つ左胸に手を当てて思う。
あなたがいたから、私は、こうして色々なことを感じられる。できなかったこともできるようになった。そして、そして――。
「おーい。いつまでもそんなとこにいると足が凍るぞー」
「えっ!?」
いきなり後ろから声をかけられて、驚いて振り向く。
「高浜君!?」
「そんな驚くなよ。むしろ、俺の方が驚いたよ」
「え……」
「そりゃ、時間になっても待ち合わせ場所に来ないし、ケータイに電話かけても出ないし」
あ、もうそんな時間!?
あと、ケータイはマナーモードで鞄の中だ……。
「家に行ってみたら、とっくに家を出たって言われるし、それでここに来てみれば、このクソ寒い中、裸足で川の中に入ってるんだから、驚くなと言う方が無理だ」
「ええー。じゃあ靴履いて川に入れって言うの?」
「裸足なのが問題なんじゃねぇよ! 川に入ってることが問題なんだよ!」
「ははは。冗談、冗談。でも、よくここだって分かったね」
歩いて川から出ながらそう言うと。
「そりゃ私は万能だからね。それくらいは余裕で分かるよー」
「栞!?」
高浜君の後ろ、緑の土手の上から、白くて小さい生物が駆け下りてきた。
「なんで栞がここに!?」
高浜君が現れたときの十倍は驚いた。
そして、その直後。
「私たちもいるよー」
「ミッチー!?」
「アタシの奢りだってのに、遅刻とは随分ナメた真似してくれるじゃないか、ミツキン」
「空閑さんも!?」
「さっきまで、『事故にでも遭ったんじゃないか!?』とか言ってうろたえてたヤツがよく言うよ」
「リョウ、余計なこと言うな!」
「リョウちゃん」
「みなさん、足速いですね……はぁはぁ……」
「千恵ちゃん」
「まったく、そんな急がなくてもいいでしょうに――」
「朱莉」
「やっほー」
「待ち合わせにはちゃんと来ないとダメだよー」
「心配しちゃったよ」
クラスの女子が次々に駆け寄ってくる。
「――その他のみんな」
「その他言うな!」
「あの試合の後半、あんたがぶっ倒れてる間、私たちだって必死に頑張ってたんだからね」
「あはは。ゴメン、ゴメン」
「まあ、何はともあれ、これで女子全員揃ったな。さあ、パフェ食いに行くぞ、パフェ」
空閑さんのその言葉に、全員が「おー!!」と声を揃えて返す。と――。
「ふははっ! 俺のことを忘れてもらっては困るな!」
「えっ?」
また驚いて見上げると、土手の上に来栖キャプテンが腰に手を当てて仁王立ちしていた。
「俺は来るなって言ったんだけどな……」
高浜君が至極残念そうな顔をする。
「私が来いって言ったんだよー」
栞が満面の笑みで言った。
「なんで!?」
「だってその方が面白そうじゃん。面白そうじゃない。面白そうなの?」
「なぜ私に聞く!?」
「面白そうなのかーっ!?」
キャプテンが叫びながら土手を駆け下りてくる。
「だからなんで私に聞くの!?」
「あはは」
「ふふふ」
「ははは」
「にゃはははは」
と、みんなの楽しい声が、川原に広がる。
――そう。そして、たくさんの友達と喜び合って、笑い合える。
まあ、ちょっとばかりお節介なところもあったけれど、それはお互い様だよね。
だから、本当にありがとう、佳苗。そしてこれからも――。




