↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

僕は振られるために告白します!

作者: 黒之 政桜
掲載日:2026/10/26

 高校二年の秋、僕に好きな人ができた。

 その人の名前は「朝比奈 咲夜」さん。

 同じ高校に通うクラスメイトだ。

 そして僕は、彼女にあることを伝えるために、二人で教室にいる。


「ねぇ、なんかあった?」


 いつもの軽めの口調で、朝比奈さんが僕の様子を尋ねてきたのは、きっと僕の顔が緊張でかなり強張っていたからだろう。

 そのせいか、彼女は凄く心配そうな表情を浮かべながら僕に尋ねてきた。


「……ぼっ僕、今日朝比奈さんに伝えたいことがあるんだ!」

「え!?」

「僕は……僕は朝比奈さんのことが、好きです!」


 僕はこの日、人生で初めて好きな人に告白した。

 そう、決して叶うことがない初恋を諦めるために……


・・・

・・

・


 僕こと「鉄炮塚 哲平」は、学校では大人しい方だ。

 見た目だって冴えない。

 おまけに、積極的に人と接する方でもない。

 だから、友達だってそんなにいない。

 要は、陰キャって呼ばれるタイプの日陰者。

 そんな僕にとって、とんでもない事件が5月に起きた。


「はい。

 じゃあくじ引きの結果、今年の体育祭実行委員は鉄炮塚くんと、朝比奈さんに決定だ!」


 5月に、体育祭の実行委員を決めるくじ引きがあったんだけど、くじ引きで、僕は朝比奈さんと体育祭の実行委員を担当することになった。

 この時、僕が最初に思ったのは、


(……嘘でしょ! 最悪だ!!)


 そう思ったのは、僕は朝比奈さんのことが、どっちかいうなら苦手なタイプだと思っていたからだ。

 朝比奈さんは、ぱっと見ギャル系で、見た目は間違いなく可愛い方だ。


 そして、誰とでも気軽に話すし、自分の意見だってハッキリ言うタイプで、男女共に人気があって友達も多い。

 要は、僕と色んな意味で正反対のタイプの人だった。

 だから朝比奈さんのことは、住む世界が違う人のように思っていたし、きっと高校生活で関わることはないと思っていた。

 そんな僕と朝比奈さんの、実行委員となってからの最初の会話というのは、


「えっと……てっぽうづかくん……だったっけ? 実行委員とか、ホントめんどくさくない?」


 突然、朝比奈さんから声を掛けきたのが始まりだった。

 最も、僕は突然のことに驚いてしまって、頭の中が真っ白になってしまっていたから、


「あっ!……えっ……と」


 モゴモゴしてしまって、どう返事を変えそうか悩んでいたら、


「……え? なに?? なんか感じワル!」


 なんと盛大に誤解されてしまった!


(こ、コレはマズい)


 そう思った僕は、誤解を解こうとしたんだけど、


「……ねぇ、いくらあたしのこと嫌いでもさ、質問ぐらいはちゃんと返した方がいいと思うよ?」

「い、いや。 そうじゃなくて……」


 僕の必死の弁解を聞こうともせず、朝比奈さんは不機嫌そうにしながら僕の前から去って行ってしまった。


「……そっちだって、人の話最後まで聞かないから、感じ悪いし」


 ボソリと負け惜しみのごとくぼやいたが、その後直ぐに脳裏に浮かんだのは、


(むむむむ無理、あの人と一カ月も一緒に実行委員やるとか無理!)


 そんな最悪の印象から、僕達の関係は始まった。

 だけど、意外なことが切っ掛けで、僕の朝比奈さんに対する印象は大きく変わって行くことになる。


 それは、クラスで競技参加者を決める日だった。

 実行委員である僕と朝比奈さんは、教壇に立って話を進めていたんだけど、話を取り仕切るのは朝比奈さん一人だったので、


(あれ? 僕って……いる??)


 そう思うと、自分が凄く惨めに思えた。

 だから、ますます僕は実行委員をやるのが、苦痛に思えてきた。

 それでも実行委員に選ばれた以上、何かしらの仕事は回ってくる。


 その日の放課後、渋々ながらも朝比奈さんと二人で、フォームで作った体育祭参加希望競技アンケートの集計作業をやっていた。

 相変わらず、僕と朝比奈さんの間に流れる空気は、良いとは言えない空気なので、


(はぁ……早く終わらせて、家でゲームしたい)


 そんなことを考えながら、淡々と自分の分の集計終わらせると、さっさと帰る準備を進めていたが、ふと朝比奈さんがまだ作業しているのが目に入った。


(え? まだ終わってないの!?)


 そうなると、僕一人先に帰れば後で何か言われそうな気がしたし、なにより気が引けたから、渋々朝比奈さんの作業の進捗状況を見に行ってみると、


(へ? 手書き??)


 なんと朝比奈さんは、フォームの回答結果を紙に書き写してアンケートの集計結果を出していたのだ。


(うわぁ……こんなやり方してたら、終わるのまだまだかかるよ)


 この時僕は、


(さっさと帰りたい)


 その考えしかなかったからか、


「ね、ねぇ……朝比奈さん」


 初めて自分から朝比奈さんに声を掛けた。


「え? なに??」


 そして朝比奈さんの反応は、僕の方に目を向けることもなく、淡々と作業を続けながら返事を返してきたので、


(……うん、ホント僕のことなんてどうでもいいんだろうなぁ)


 そう思うと、余計なことを言ってしまった気になった。

 だけど、僕から話を切り出した以上、このまま去る訳にもいかない。

 だから、僕は一秒でも早く帰るために、意を決して話を続けた。


「え、AIアプリとか使ってたりする?」

「うん、使ってるけど……なんで??」

「え、えっとね。

 今ノートに書き写してるフォームのデータをAIアプリに読み込ませたら、後はAIが集計してくれるんだよね」

「……で?」

「そ、そしたら、その集計結果を紙に書き写せば、早く終わると思う……よ?」


 僕はオドオドしつつ、僕がやった集計作業の時短テクニックを教えてみた。

 だけど、特に朝比奈さんは何の反応も示さないので、


(あぁ~やっぱり余計なこと言ったかなぁ……)


 そう思ったら、なんかただでさえ悪かった空気が、ますます悪くなったように思えてきて、僕はこれ以上この場にいるのが耐えられそうになかった。

 だから、鞄を持ってさっさと教室から退散しようとしたら、


「……ねぇ」

「は、はい!」

「ホントにそんなこと出来るの? AIで!?」


 意外なことに、朝比奈さんは僕の話に食い付いてきたのだ!

 そんな、思ってもいなかった朝比奈さんの反応に驚いた僕は、


「う、うん!」


 自分でも驚くぐらいのスピードで頷きながらそう答えた。


「このアプリでも?」


 そう言って朝比奈さんが見せてきたAIアプリは、誰もが使っているAIアプリだった。

 だから僕は、朝比奈さんのアプリを使ってやり方を説明すると、朝比奈さんの集計作業は直ぐに終わったので、


(よ、よかった。 コレで安心して帰れる!)


 そう思うと、不安が一気に解消され、安堵感を得られたので、後はこのまま帰るだけ。

 そう思っていたら、


「意外とやるんだね~、てっぽうつかくんって!!」

「そ、そうかな?」


 なんと、朝比奈さんから褒められてしまったのだ。

 まさかこんなことで、可愛い子に笑顔を向けられるなんて思ってなかったので、ちょっと照れたけど、そのことは素直に嬉しかった。

 そして、ようやく解散になると思ったんだけど、


「ねぇ、こういうの得意ならさ、ちょっと教えて欲しいことがあるんだけど!」


 なんと、朝比奈さんから次の話題が振られてきたのだ。


「と、得意ってほどでもないけど……僕に分かりそうなことなら」


 さっきの一件で、ちょっと気分が上がっていたのもあって、僕はそう答えた。


「実はさ~」

 そう言いながら、朝比奈さんはスマホを見せつつ、一気に僕との距離を縮めてきた。


(ちょ! 近い、色々と近い!!)


 なんと、人生で初めて可愛い子が隣に寄ってきたのだ。


(おおおおお、落ち着け!

 そして……静まれ!!)


 胸から響き渡る爆音が、朝比奈さんに聞こえていたら恥ずかし過ぎるので、必死に収まるように念じてみたけど、そんな僕の思いは虚しく、僕の胸の鼓動の激しさは収まる気配はなかった。

 だから僕は、必死に平静を装ったフリをしつつ、朝比奈さんの話を聞くことになった。


 朝比奈さんの相談とは、自分で作ってるネイルアートの販売に関する相談だった。

 なんでも、最近売れ行きが伸び悩んでいるらしい。

 だからその原因を探るために、ネイルの売り上げデータ集計をAIに頼んで、さっきやったアンケートの集計結果みたいに、過去の売り上げデータを月ごとに集計して、見やすいように出来ないか?

 なんて相談内容だったんだけど、


(そんなこと相談されてもなぁ……そもそも僕、自分で何か売ったことなんてないし。

 それに、朝比奈さんが望んでる集計結果出せるかなんて、分かんないんだけど……)


 この相談を受けて、最初に頭に浮かんだのはそんなことばかりだったので、断ろうと思った。

 けど、朝比奈さんは本気で困っているようだったので、


(……やれるだけやってみるか)


 そう思って、二人で色々相談しつつ、試行錯誤を重ねた結果……


「こ、これでどう?」

「いいね、いいね!」


 やっと朝比奈さんが求める物を導き出すことができたので、二人揃って大喜びしていた。


「テツテツ最高!!」

「え? テツテツぅ??」

「だって名前に『てつ』が二つ入ってるじゃん。 だから、テツテツで!」


 なんか変なあだ名を付けられてしまったけど、不思議と悪い気はしなかった。

 それはきっと、このやり取りの中で、僕の中での朝比奈さんの印象が大きく変わったからだ。


 なんでも朝比奈さんは、高校に入学した後に知り合いからネイルアートを教わる機会があったそうだ。

 そして試しに自分が作ったネイルをSNSにアップしたら、思った以上に好評だったらしく、そこからフリマアプリで販売を始めたら、思いの他売れたらしい。

 こうした経緯で、いつか自分のお店を出すのが、朝比奈さんの将来の夢になったと、朝比奈さんは楽しそうに僕に教えてくれたけど、僕としては朝比奈さんの意外な一面を知って、


(もう具体的な将来の目標があるとか、カッコイイ!)


 素直にそう思った。 だから、


「夢に向かって頑張ってる朝比奈さんって凄いよ!

 僕なんて…まだ将来のことなんか真剣に考えたこともなかったし」


 つい、朝比奈さんのことを、褒めたたえてしまった。


「そっそうかな? お世辞でもそんなこと言われたら照れるじゃ~ん!

 まぁ、あたしはたまたまそーゆうの見つけただけだから、そのうちテツテツも、なんかやりたいこと見つかるよ!」


 そう言って朝比奈さんは、僕を励ましてくれたんだけど、


(僕みたいな奴にもそんなこと言ってくれるなんて……

 朝比奈さんって実はめっちゃ大人?)


 そう思うと同時に、僕はいかに朝比奈さんのことを外見だけで判断していたんだろう……

 そのことを思い知らされた。


「あ、それより~ また何かこんな感じで困ったことあったら手伝ってくれない?

 あたし、あんまり計算とか、スマホ使って何かやるって、得意じゃないからさ~」

「ぼ、僕でよければ」

「やった! じゃ、連絡先交換しようよ」

「う、うん」


 こうして、お互いの連絡先を交換し、この日から僕と朝比奈さんの交流が始まった。

 と、言っても、僕と朝比奈さんとの関係は友達というより、朝比奈さんのネイル販売に関する相談役みたいなものだった。

 例えば、


「また最近売れなくなってきた~! 原因分かんないから、へるぷ~!!」


 とか、


「売上あんまり伸びてないよ~! デザインありきたりになってきたのかな~?」


 こんな感じの愚痴が交じりつつ、専門的な相談も多かったけど、


「僕にそんな意見を求められたって、ネイルの知識も経験も僕にはないから!」


 なんて言いながら心底困りつつも、僕は僕なりに物を売ったり、ネイルに関する知識を調べて、朝比奈さんの悩みが解決する策を、一緒に探ったりしていた。

 そんな感じで、朝比奈さんとやり取りを続けていたら、いつの間にか三カ月経ったある日、友達と遊んでいたら、ふとこんなことを聞かれた。


「哲平! お前さ、もしかして朝比奈狙ってんの?」

「はぇ!? ど、どどどうして??」


 友達の思わぬ質問に驚いたぼくは、飲んでいたジュースを吹き出しそうになったので、なんとか飲み込んだあと、なんでそんなことを思ったのか友達に尋ねた。


「なんかお前と朝比奈が『夏休みに一緒にいたの見た』って、結構色んな奴が話題にしてるから『もしかして』と思って」


(……あ! そういえば夏休みに、何度か朝比奈さんの相談聞くために、カフェで会って話したりしてたからなぁ)

 

 どうやら朝比奈さんと学校外で会っていたのを、目撃した人がいても不思議じゃないんだけど、


(うわぁー! 誰かに見られたかと思うと、なんか急に恥ずかしくなってきた)


 そう思うと、やたら顔が熱くなってきた。


「なぁ、朝比奈は止めとけって! あいつ、歳上でイケメン彼氏いるから!」

「え?」


 友達の思わぬ報告を聞いた時、顔の熱は一気に冷め、何故か急に胸が苦しくなった。


「そっそれ、ホント?」

「ホントも何も、めちゃくちゃ有名だろ?」

「そ、そうだったんだ……」


 友達のそのことを聞いた後、僕はどうやって家に帰ってきたのか全く覚えていない。

 それぐらいショックを受けていたんだけど、この時僕は初めて、


(あぁ……僕、いつの間にか朝比奈さんのことが好きになってたんだなぁ……)


 今まで全く気が付いていなかった自分の本当の気持ちを、この時自覚してしまった。


 そして衝撃の事実を知った次の日の放課後。

 朝比奈さんからいつものように、相談を受けていたら、


「それでさ~、このデザインなんだけど……お~い? テツテツぅ~??」

「え? あ! えっと……どこまで話した?」

「……どした? なんか心ここにあらずみたいな顔してるよ?」


 朝比奈さんが、僕のことを心配そうに見つめながら気にかけてくれたけど、


(朝比奈さんって、彼氏いるんだよな……)


 そう思うと、朝比奈さんが気にかけてくれるのが、逆に辛く思えた。


「……なんか困りごとでもある?」

「い、いや……ちょっと疲れてる……のかも」

「え? なんかゴメン……そんな時に相談乗ってもらって!」

「だ、大丈夫だよ」


 僕が彼女に抱く恋心は気付かれたくない。

 でも、好きな人に気にかけてもらえるのは嬉しい。

 だけど……彼女には好きな男がいる。


 そんな複雑な思いが交差するせいか、どうにもいつものように僕は振舞うことが出来なくなっていた。


(いっそのこと、この思いを簡単に捨てられたら……)

 

 そう考えても、この思いは簡単に消せそうにないぐらい、強くなっていた。


 そして、結局朝比奈さんとの話はロクに進まないまま終わり、二人でいつものように途中まで一緒に帰ろうとしたら、


「あっ、今日はあたし迎え来るからさ、またね~」

「そ、そうなんだ……またね」


 そう言って朝比奈さんは、普段の帰り道とは逆の方向に向かって歩きだした。

 一緒に帰れないのが残念に思いつつも、今の僕としては、彼女と一緒にいるのは辛い。

 だから「今日はこれで良かった」と思って、朝比奈さんを見送っていたら、彼女の前に一台の車が停まった。


「お待たせ、サク!」

「お! ナイスタイミング、良哉~」


 なんと車から顔を覗かせ、朝比奈さんに声を掛けたのは、年上のイケメンだった。

 そして朝比奈さんは、満面の笑みを浮かべながら、車に乗り込んでいく。

 そんな光景を目の当たりにした瞬間、


(あれが朝比奈さんの彼氏……

 あんな人が彼氏なら、僕みたいな奴が、朝比奈さんに入り込む余地なんて、最初からなかったんだ……)


 そんな厳しい現実を、叩きつけられたような気がした。


 それからも、僕と朝比奈さんとの関係は今まで通り続けていた。

 だけど、朝比奈さんと会って話せば話すほど、朝比奈さんが好きだということを思い知らされることになった。


 一緒に過ごす時間が増えるほど、新しい好きな部分が見つかり強まる彼女への想い。

 そんな状況が続くと、僕はこの状況に耐えれられなくなってきたからなのか、気持ちにある変化が訪れ始めた。

 それこそ、


『どうしたらこの恋を諦めることができるのか?』


 そう。

 僕は決して叶わぬこの恋を諦める方法を探し始めたのだ。


 こうして始まった恋心を諦める方法探し。

 まずは友達に相談したり、AIに質問してみて、帰ってきた答えを実際に試してみた。



(だけど、どれも全然効果がなかった……むしろ、新たな朝比奈さんの魅力を知ってしまうという、本末転倒な結果だよ!

 こ、こうなったら、もっと恋愛経験がある人に聞くしかない!)


 そう思った僕は、経験豊富な人の答えを求めて、恋愛相談掲示板なんかに意見を求めたりしたけど、結局教えてもらった方法はどれも効果なし。


「……もう、どうしたらいいんだよ!」


 本気でそう叫びたいぐらい、この恋心というのは厄介なもので、ついネトゲしながら仲間に、このことをボイチャで愚痴っていたら、


「ならさ、いっそ思い切って告白して盛大に振られたら?」


 そんな答えが返ってきた。

 そしてこの意見を聞いた時、


(……確かに、コレが一番確実かも)


 そう思ったのは、きっと僕も心の何処かでこうでもしないと、自分の想いにケジメを付けれない。

 それが分かっていたからなんだと思う。


 こうして、僕は朝比奈さんに振られるために告白することを決心し、今に至る。


・・・

・・

・


「……ねぇ、それ、本気で言ってるの?」


 朝比奈さんに自分の想いを伝えたあと、朝比奈さんは唖然とした顔でそう言った。

 

「も、もちろん! 本気だよ!!」

「……それって『付き合いたい』って思うぐらい?」

「そ……そうじゃなかったら、告白なんてしないよ!」


 僕は改めてハッキリと自分の気持ちを伝えたけど、その後朝比奈さんは言葉を返さないので、しばらく無言の時間が続いた。

 その間、僕の脳内で朝比奈さんと過ごした数々の思い出が走馬灯の如く流れ、僕はこの関係の終わりを覚悟しつつ、朝比奈さんが口を開くのを待った。



「そ、そうなんだ……あのさ、あ」


(あぁ……きっと「ありえなくない?」とか言われるな)


 僕は例え朝比奈さんにどんなことを言われても、素直に受けいる覚悟は出来ていた。

 だから、そのまま黙って朝比奈さんの次の言葉を待った。


「あ、あたしみたいなのでよければ……よろしくおねがいします!」


 そう言ったあと、朝比奈さんは僕に頭を下げてきた。


「……ふぇ?」


 予想してたのとあまりに違い過ぎる言葉が聞こえた気がしたので、変な言葉が自然と口から洩れてしまった。


「『ふぇ?』 って、なに??

 もしかして冗談とか? だったら笑えないんだけど!」


 朝比奈さんは、僕が思わず出した言葉がよっぽど気に食わなかったみたいで、凄い形相で僕を睨んできたのだ!

 だから僕は慌てながら、



「ちっ違うよ!

 い、いや、だって……朝比奈さん彼氏いるよね?」

「へ? いないけど??」


(アレ? エット……ドウイウコトナノ??????)


 状況が理解できない僕の頭の中は、大量の?で埋め尽くされていた。


「だって……この前彼氏が迎えに来てたよね?」

「はぁ?……あ! いや、あれお兄ちゃんだから!」

「オニィチャン?」

「うん」


 そう言われたので、必死にあの時僕が見たイケメンお兄さんの顔を思い浮かべてみたけど、


「ホントに?」


 思わずそう言っちゃうぐらい、似てなかったよなぁ……


「ホントだから!

 その……お兄ちゃんとはパパが違うから、家族からも全然似てないって言われるけど……

 ホントにお兄ちゃんだから!」

「そ、そうだったんだ」


 そのことについて彼女から話を聞いてみると、どうやら学校の誰かが、朝比奈さんとお兄さんが二人で買い物しているのを見て、勝手に勘違いしていたらしい。

 そして朝比奈さんも、高校で彼氏を作るよりネイルを作りたかったから、誤解をあえて解かないで放置していたのが、ことの真相だった。


 だとしても、僕としては一つ不思議なことがある。


「どうして……僕と付き合っても良いって言ってくれたの?」

「それは……テツテツだけだから!

 本気で私のこと応援してくれたの!!」

「え? そ、そうなの??」


 朝比奈さん曰く、今まで自分でネイル作っていることを話した中で、本気で自分の夢を色々応援してくれたのは僕だけだった。

 最初頼りないと思ってたけど、意外と頼れるところがある。

 ほかにも色々と話してくれたけど、正直コレは聞かされる側としては、結構恥ずかしいものがあった。


 こうして、振られる覚悟でやった告白は、予想を良い意味で裏切る結果となり、僕たちは晴れて付き合うことになった。

 それは本気で嬉しいことだったんだけど、僕達が付き合う経緯を誰かに話す際、


「ちょ、聞いてよ!

 あたしの彼氏さぁ~、私に振られるつもりで告白してきたんだよ!」


 そう言いながら、笑い話として僕が告白した動機を皆に話している。

 僕からすると、事実だから否定しようがないので、黙っていることしか出来ない。

 しかもこの話題、まさか大学生になっても、社会人になっても、笑い話として誰かに話され続けるなんて、思ってもいなかった。

 何より、


(まさか自分達の子供にまで、笑いながら話すなんて……)

  

 そう思いつつも、楽しそうにあの頃の話で盛り上がっている妻と娘を見ていた。

最後まで読んで頂きありがとうございました。


宜しければ、評価や感想を頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。