君で良かった
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「ジークルーン嬢、我々の婚約は殆ど生まれた頃より既に決まっている事だ。成人すれば君とは生涯暮らすこととなる。学園では自由に過ごさないか?」
学園に入って1週間経った後の、定期的な婚約者のお茶会の最中、私の婚約者であるインゴルフ・ケンプフェル侯爵子息に何気なく言われた言葉に全ての動きが止まってしまったのはやむを得いので許してほしい。
私の立場は複雑だった。侯爵家の末の第四子で三女として産まれた私の将来は3歳には確定していた。侯爵家の三女として産まれたが、伯父である伯爵の養女になること。そのまま婿をとり伯爵家を継ぐことが決まったのは3歳の頃らしい。
更には、中立派閥の侯爵家から王族派閥の伯爵家の養女になるにあたって、その伯爵家の寄親である王族派の筆頭侯爵家で私の1つ上の次男が婿にいれることすら決まっていた。
それが、今しがたお茶会を終えて帰宅し、先ほどなにやら不穏な言葉を投げかけた侯爵子息のインゴルフ・ケンプフェルだった。
私の母は元々伯爵令嬢であり、そこから父に見染められて侯爵夫人となった。派閥違いではあったが中立派であった事と父の母に対する溺愛でなされた婚姻だったと聞く。健康体の体に、夫の溺愛があり、母は高位の貴族家には珍しく一男三女の子供を無事に産み育てた。多産だった。
家族仲は良く高位貴族家でありながら父も母も自ら子育てすることを望む人であり、子供たちは其々漏れなく愛され慈しまれ、されとて厳しく育てられた。
しかし、その母の実家であり、母の実兄イヴァン伯父様の運命はまだ学園に進学したばかりの私が伺っても物悲しくも順風満帆とは言い難かった。
イヴァン伯父様は、伯爵家の嫡男として厳しくも愛情深く育てられた。だから、祖父母がそうであったように、イヴァン伯父様も妹である私の母も、同じように愛情深い人である。私たち甥姪にも平等に優しく愛情をもって接してくれるがそんな伯父様には子供がいない。
それには、理由があった。イヴァン伯父が結婚したのは17歳、わが国では珍しくもない16歳の成人を、共に迎えた婚約者と学園を卒業して1年後の結婚だった。最初の奥様とは学園前からの婚約者ではあったが学園時代に仲を育んで結婚したと聞いた。
母が言うには大変仲睦まじい関係であったと言う。その時が、叔父にとって1番幸せな時期では無いかと姪ながら愚行してしまう。
大変仲が良い二人のもとに吉報と訃報が届くのはすぐの事だった。婚姻から半年経った頃、伯母は懐妊してその1年を待たずに伯母とそのお腹の中で育った男の子は出産の際に亡くなった。母はその時、11歳で大好きな義姉と先日までお腹の中で元気に動いていた甥を失ったと言っていた。
そこからの伯父の憔悴は押して知るべしだった。1年の喪があけても伯父の服装は故人を偲ぶ色から変わることは無かった。喪が明けると貴族家として次の婚姻の話もちらほら出て来る中、伯父はこの時の事を語るとき、私の母であり、まだ幼さの残る妹が自分と同じように嘆き悲しんで新しい婚姻を反対してくれた事が凄く救われたと仰っていた。
そんな、イヴァン伯父様が少しの明るさを取り戻したのは伯父の妹の婚姻だった。母の婚約者は伯父様の奥方が亡くなった事もあり、学園入学まで決まってはいなかった。しかし、学園で知り合った父である侯爵令息からの猛烈な求婚により成されたという。
その時、伯母が亡くなってから3年。未だ気落ちする伯父にどうにか元気を出してほしい母は伯父へ相談というカタチで派閥違いの父からの求婚話はもちろん学園生活のアレコレを毎日のようにしていたという。
イヴァン伯父様は、新たな婚約には消極的であったが家の仕事や家族の事に関しては過剰なほど手を尽くしてくれたという母の自慢話に、悲しみから逃げていただけだよという伯父の悲しい横顔は今でも覚えている。
容姿の整った伯爵位の嫡男である伯父は仕事や社交、王家の大事な夜会に出れば令嬢方に囲まれ。求婚者が後を絶たなかった。妻を失っても長年愁いを帯びた様子も人気が出てしまった原因の1つでは無いかと父がこっそり教えてくれた。父は母に似て美しく優しい派閥違いとはいえ義兄になる伯父の事も心配していた。
しかし、伯父は妹の婚姻が落ち着くまでは、妹の出産が無事に終わるまでは、という少し苦しい言い訳をしつつ結婚を避けていた。祖父母は困っていたが、強要するほど心を鬼にすることのできない人たちだった。
母が兄たちを産んだのは、イヴァン伯父様が24歳、27歳、30歳との時で、伯父は着実に年齢を重ねて行った。もう3人も無事に生まれたのだから自身の家族の幸せを考えてほしいと母は伯父へ言った頃に寄子である子爵家の娘が家で不遇を受けていると偶然知った叔父はその令嬢と結婚した。
その時イヴァン伯父様は31歳、二番目の妻は成人したての16歳だったと言う。伯父と新しい伯母は傍からみたら仲睦まじい様子ではあったがそれは男女の夫婦の中の睦ましさではなく、娘のような、妹に対するような愛情でしか無かった様に思うと母は言う。
伯父が再婚した翌年に私、ジークルーン・エールリヒは侯爵家の三女として産まれた。私は母に髪色も面差しも似ており、父と同じ瞳の色をして産まれた。それは、くしくも伯父の最初の奥様である最愛の人と同じ色だと言う。
母に似ているという事は、伯父にも似ており最愛の人と同じ瞳の色の私を伯父は大変可愛がった。私が産まれる際、否。兄や姉が産まれる際にも伯父は侯爵邸に5日ほどは滞在していたのだが、私が産まれた時は、さらに2週間も居座ったと言う。
流石に、伯爵家と城での仕事の事が心配になった母が追い出す形で伯爵邸に返したのだと今では面白おかしく話して下さる。
更には、イヴァン伯父は二番目の若い妻に新しい婚姻先を見繕い3年間の白い結婚として離縁し、19歳の彼女を送り出した。それは、父が娘を嫁に出すかのように手厚く持参金まで持たせ貴族社会を驚かせたと言う。
お見合いのようなカタチで辺境へ嫁いだ元伯母は、夫と尊重し合った夫婦になり幸せに暮らしていると便りにも、伯爵家の派遣した調査員よりも知らせが来ている。
そんな元伯母も、過保護な兄の様な元夫にも、年上の元義妹家族である私たち侯爵家にも季節の折々に、あちらの特産品や辺境伯特有の隣国の珍しい品物を夫君と共に選んで送ってくるので、母やイヴァン伯父様も妹に対するように返礼品をせっせと送る。それはもう、どこからどう見ても兄妹の様な関係である。
伯父は離縁した翌年、元伯母の生活が落ち着いた頃に私が3歳の誕生日を迎えた。その時に、父と母に頭を下げて私を養女にしたいと持ちかけたと言う。
イヴァン伯父の私に対する愛情を知っていた父は、予測していたと言う。派閥違いとはいえ我が家は中立派であり何処にも所属はしていないが、何処とも対立していない。
色々な考慮を行いつつ、ジークルーン・エールリヒ侯爵令嬢はジークルーン・ザウアーラント伯爵令嬢になる事が決まった。
3歳にして、伯爵家の次期当主夫人になる事が決まっていた。しかし、伯父には妻もなく、領地運営もあり、王族派の伯父は城にも出仕している。1人で子育ては無理だろうと学園に入るまで侯爵家でそのまま教育を受け育ちつつ次期伯爵夫人として育つという事になった。
侯爵令嬢が伯爵家へ嫁ぐことは珍しくもない。だから、そのようなものなのだと年を追うことに徐々に両親は私に話してくれた。
その時にはすでに、ザウアーラント伯爵家の寄親であるケンプフェル侯爵家の次男である1つ年上のインゴルフとの婚約が決まっていた。3歳にして婚約者もちである。
しかし、交流はプレデビュタントの10歳までは全くなかった。10歳のプレデビュタントにてその年頃の少年少女が集まるお茶会への参加となった。
ザウアーラント伯爵家の寄親であるケンプフェル侯爵家で主催されるお茶会は、私も緊張していたが、別派閥に嫁いだ母も緊張した面持ちで挑んだ。
しかし、母娘で参加すると思っていたお茶会に養父であるイヴァン伯父様も一緒に参加すると侯爵家へ掛け合い参加してくれて安心感を感じたのは言うまでもない。
ザウアーランド伯爵家は、ケンプフェル侯爵家の最も信頼の厚い寄子でどこの家からも一目置かれている。そんな、養父である伯父の庇護下の元にあり、婚約者と決まっているインゴルフも11歳ながら理知的で礼儀正しい侯爵家に相応しい令息だった。私は恵まれている。
そんな、お茶会で顔合わせを済ませたインゴルフと私は、複数で集まるお茶会も個人的なお茶会も定期的に行われ手紙や誕生日は祝い事での贈り物を交換する仲になっていた。
私としては、順調に仲を育んでいると思って学園で毎日、会話は出来なくても一目でも見ることが出来ることを楽しみにしての学園入学だった。それが・・・
『ジークルーン嬢、我々の婚約は殆ど生まれた頃より既に決まっている事だ。成人すれば君とは生涯暮らすこととなる。学園では自由に過ごさないか?』である。自由とは何か?
私は、真っ白な頭で自室に戻った。私の生活環境は、学園入学前に侯爵家からこの養女としてザウアーラント伯爵家へ移された。専属の侍女は付いてきてくれたがその他の使用人たちは慣れ親しんだ人々では無くたまに顔を合わせる他家の者と言う距離感である。
この生活になれなくてはと必死な婚約者に寄り添うのではなく。自由とは・・・?インゴルフは他に仲良くしたい女性がいるのではないかとお茶会で仲良くなった友人から借りた恋愛小説を思い出す。
こんな話、ジークルーンを溺愛してやまない伯父にも出来ないし、寄子筆頭伯爵家の娘が、寄親の子息を批判するようなことを派閥の同じ友人たちにもすることも叶わない。どうしたらいいのかと、絶望したのは言うまでもない。
◇◇◇◇◇ インゴルフ視点
学園が始まってから初めてのお茶会で婚約者であるジークルーンへ、お互い学園時代は自由に過ごそうと提案したと目の前の親友であるユストゥスに話をしたのは少し気が大きくなって興奮状態だったからかもしれない。
今の時代に、王族でもないのにも関わらず物心つく頃から婚約者が決まっている自分の不憫な境遇に酔ってたとも言えるかもしれない。
「馬鹿なんじゃないの?」
そんな、彼の率直な刃の様な言葉で切りかかって来られるまで自分は悲劇のヒーロー気分で、自由な時間が残り2年しかない不幸な令息だと思っていた。
ユストゥスは、王族派であるものの医療を主とする侯爵家の嫡男で同じ派閥の侯爵家同士のあるがために10歳のプレデビュタントより前からのつきあいな上に、医療現場と言うのはどうもの戦場らしく言葉使いが大変崩されることままある。
「何故だい?学園生活は短く、成人してからの人生が長いじゃないか」
「だからだよ!折角、これからずっと共に過ごす婚約者と学園生活が被るんだぞ!何故、其々が自由にするんだ?この仲を深めるのに最適な環境で!」
ユストゥスは、最初白けた目を向けてきたが段々と熱弁してくる。いつも冷静で冷徹で、1つ上の第一王子でさえ行き過ぎた行動をとればすぐさま叩き落とす勢いで一刀両断する男が熱弁である。
「私が、シルヴィアと同じ学年や1つの違いで同じ時に学園で共に過ごすことが出来たらと思うと!はぁ~。昼は園内を案内と称して誘い食堂でランチ、中庭でお弁当でもいいな!2人きりで!もちろん、お茶の時間や講義のあとカフェテリアで逢瀬も、学園終わりに観劇も捨てがたい!はぁ~シルヴィアに会いたい・・・」
「だから、それは卒業してからも、結婚してからも可能だろう?他の可愛らしい令嬢もいるじゃないか」
「馬鹿か?14歳から16歳のシルヴィアは卒業してしまったら会えないんだぞ?他の可愛らし令嬢とは誰だ?まさかあの男爵令嬢じゃないだろうな?」
「ローザも可愛らしいが、ヴィオレッタ様も美しいぞ?」
「あぁ。毒婦が好みなのか?お前は?」
「はぁ?毒婦?」
相変わらず辛辣な同じ年のご令嬢を毒婦よばわりするユストゥスになんということだと抗議を試みるが知り合ってこと方。ユストゥスに口で買ったことが無い。つまり、ユストゥスの言葉に耳を傾けるしかなかった。
「ローザ嬢は、玉の輿狙いの数うちゃ当たる方式だ。誰彼かまわず愛想を振りまいている。婚約者がいるだろうがいない妥当が関係なく、人にベタベタ触る。しかも、情報収集能力に欠けるので嫡男や次男三男だとかを収集できていない。お前が粉をかけられているのは次期伯爵が確定しているからだろう。婚約破棄でもされたら、お前の親父様が持っているあのこう侯爵は爵位なんて与えないと思うがな。寧ろ兄上が辛辣か?」
「なっ」
「それに、ヴィオレッタ嬢はお前の事男として興味ないぞ?公爵令嬢なんだからな。まだ正式では無いが第一王子か第二王子の婚約者候補ではないかと言われている。あの二人、まだ婚約者を決めていないからな」
「何故?それで毒婦なのだ?」
「次期、王子妃になることを見据えて王族派閥の次期後継者に色香を振りまいて自分の手駒にしようと画策するなんて毒婦だろ?まぁ王子妃としては正しい政治活動かも知れんが、うちのシルヴィアの清らかさに比べればそんな画策が出来ることが毒婦として・・・・」
「それは、シルヴィア嬢はまだ10歳なのだから清らかにきまっているだろう!」
「何を言っているだ?ヴィオレッタは10歳の茶会で俺の手を握り目を合わせて『貴方だけが頼りですわ』と微笑んでたぞ?お前も言われただろう?しっかり、10歳の時には色々と見据えて動かれていた。俺は、王妃でもありだと思う。自分の伴侶には嫌だがな!」
「なっ・・・貴様も言われていたのか・・・」
「あぁ。王族派閥の嫡男もしくは次期当主のやつは大体言われているな。伯爵以下の奴らはのぼせている奴もいるが侯爵家の嫡男は皆、はいはいつものですねって生暖かい目で見ているぞ?」
「そっ・・・・そうなのか」
ユストゥスの物言いに打ちひしがれているインゴルフに構わずユストゥスの言葉はさらに重なる。
「それで、お互いに自由でことはジークルーン嬢も自由に過ごせるんだよな?声かけられたらどうするんだ?」
「は?ジークルーンの婚約者は私と決まっている!」
「まぁ。決まっているのはお前が王族派閥の筆頭侯爵の次男だからだ。そのお前が、ローズ嬢などの貴族派閥の男爵家と浮気をしたりしていたら、それは変わるんじゃないか?」
「浮気など!」
「だが、ローズ嬢とナニをするつもりだった?」
「はぁ?観劇やカフェ散策などだ・・・いいだろ?友人として」
「ふーん。んじゃ、ジークルーン嬢がお前以外の殿方とそういうとこに行ってもお前は構わないんだな?」
「まっまぁ。観劇やカフェなら?」
「じゃあ、弟にお前の許可が出てるので誘ってもいいと言っておこう!」
「は?お前の弟って!」
「あぁ。草をいじり倒しているアロイスじゃなくて、次男のオルフェオだ。オルフェオは、以前からジークルーン嬢を慕っているからな」
にんまりと微笑むユストゥスの弟、オルフェオは彼らの絶世の美女と謳われた母親似で幼少より危ない目に合うことが多かった為、身体を鍛えて来年騎士科に入るジークルーンの一つ下だ。顔も美しく鍛えられた身体も素晴らしい上に、大人顔負けの剣技を身に着けつつあると聞く。
しかも、王族派閥の侯爵家の次男だ。いくら、筆頭侯爵家の次男のインゴルフでも医者の家系で王家が重宝しているノイマイスターの次男に求愛されて、オルフェオが望みジークルーンの心が移ったのなら婚約者交代もあり得るのではと血の気が引く。
「いやっ!君の弟はダメだ!」
「なぜ?お前は良くて彼女はダメなんだ?それに、うちのオルフェオが動かなくても、第一王子や第二王子が狙ったらどうするんだ?第一王子はこの1年在学するぞ?第二王子はジークルーン嬢と同じ年だ」
「はぁ?」
「お前・・・本当に何も考えてないんだな。ジークルーン嬢は元は侯爵令嬢の教養を持っていて次期伯爵夫人教育を受けている淑女だ。王子妃でも身分的には問題がない。派閥関係でも、もしかしたら中立派のエールリヒ侯爵家を取り込めるかも?王太子妃になれば、伯爵位を継ぐ子を望まれるので彼女は多産を余儀なくされるが。王位継承権を放棄した王子が婿入りしてもかまわない名家だ。婿入りして昇爵も考えられるかもしれんな」
「あ・・・あ・・・」
インゴルフに、淡々と政治的な説明していたユストゥスの独り言の様なつぶやきになっていたあり得る未来を聞きながらインゴルフは顔面蒼白になる。
「おっ俺はどうするばいいんだ?」
「自由にしたらいいんじゃないか?」
「自由にしたら!彼女を失うじゃないか!」
「自由の仕方を変えればいいんだ」
にやりと笑うユストゥスの悪人面がこんなに心強くも不安を煽るものだとインゴルフは10年近くの付き合いで今まさに骨の髄までしみ込んだ。
◇◇◇◇
「お嬢様。お手紙が届いています」
部屋で一人、悲しみに暮れて1晩経ち今日は休日なので何も出来ないでいると専属侍女の声に意識を取り戻す。手紙・・・学園の事を聞きたい両親からかしらと侍女に許可を出して部屋に招き入れる。
「どなたから?」
「インゴルフ様からでございますよ」
次女はふふっと微笑みながら、昨日の今日ですのにお手紙なんて素敵ですねと言う。昨日のお茶会は庭で行っていた。視界内に侍女や護衛は待機していたけれど声までは聞こえてこなかったのだろう。うきうきで何も知らない侍女が羨ましい。
そんな、可愛い手紙では無いだろうと思いながら、開封の許可を侍女に出し開封を待つ。恐る恐る手紙を受け取り紙面に目を向ける。昨日の『自由』の念押しだろうかと。
『愛しのジークルーン』
滑り出しからおかしい。今まで『親愛なる』や『大切な』等の定型文だった枕詞が『愛しの』に変わっている。ラブレターのようだと思ったが昨日の言葉を思い出し冷静になって続きを読む。
『昨日、申し込んだ自由を謳歌したいと思う。
週明けの学園に一緒に登校しないかい?迎えたいのだが君の都合はいいだろうか?
出来れば、学園後のお茶の時間も街のカフェに誘いたいのだが都合はどうだろう?
愛しい君の返事を待ちわびている。
君の婚約者』
?????『我々の婚約は殆ど生まれた頃より既に決まっている事だ。成人すれば君とは生涯暮らすこととなる。学園では自由に過ごさないかい?』そうおっしゃっていた方の自由とは・・・定期のお茶会以外に自由に逢瀬を重ねようと言うこと?
ジークルーンの顔に朱が走る。恋愛小説のせいで婚約者の自分を慮って台詞を読み間違えたとジークルーンは自分を恥じる。早々に、伯父である養父に許可を取る。
殿方は、学園に入り準成人で自由に振る舞いが許されるとしても淑女として了承してもかまわないのかを、養父様に確認しなくてはいけないとジークルーンは段取りを整えて許可をとり、お迎えが大丈夫である旨とカフェへのお誘いが嬉しいと便箋を厳選して使用にお願いして届けてもらう。
それからも、インゴルフは週明けの学園に向かう丁度いい時間にケンプフェル侯爵家の馬車で迎え、乗車の時も、降車の時も完璧なエスコートをして教室まで送り、帰りの時間にも教室まで迎えに来た。移動はきちんと肘に手を添えたエスコート。たまには手と手のエスコートすらあった。
彼の自由とは、こういう事だったのかと驚かされるたびに勘違いをしてしまったとジークルーンは恥じるがその恥じらいも今までのジークルーンが見せなかった顔に可愛らしいとインゴルフに映った。
◇◇◇◇
ジークルーンが伯爵夫人教育の為、放課後の予定が合わない日は、インゴルフはノウマイスター家を訪れ、東洋の座り方『正座』を絨毯の上で行い。手にはメモを片手に教えを請う。
「それで、次は?」
「ん?まずは手紙、学園への送迎、カフェかいい調子じゃないか。もちろんエスコートはしているんだろう?どうだ、ジークルーン嬢の反応は?」
「あぁ!可愛い!今までは、たまにしかないお茶会だったからな。お互いや家の近況ばかりの報告だったから知らなかったが、彼女は乗馬も嗜むらしい。今度、西の丘に遠乗りに行く約束をしている!本が好きだとばかり思っていたが、友人から勧められた恋愛小説を話のタネに読んでいると言っていたが本当は、冒険譚や旅行記が好ましいと言っていた。なので私のおすすめを貸したのだ!話が盛り上がったぞ!」
「ふふっ。順調じゃないか!」
「あぁ。学園でみる彼女は、今までより少し砕けた感じがいい。あぁ。君はオルフェオの想いを知っていたのに私に助言をくれて怒られたはいないかい?」
「いやっそもそも、ジークルーン嬢は君の婚約者だ。君が大切にしていたら虫もたからないだろう。悪い虫がたかりそうなら、うちの弟がマシだというだけだ。オルフェオには別の利のあるご令嬢が現れるさ!」
「そうか!ありがとう!本当に君が親友で良かったよ!」
「あぁ。俺もそう思うよ。末永く仲良くしていこうでは無いか!」
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~登場人物~
ジークルーン・ザウアーラント伯爵令嬢 14歳 元公爵令嬢 伯爵家の養女
伯父の意向により、伯爵家の養女になった。心優しくも末娘らしく少しお転婆
インゴルフ・ケンプフェル侯爵令息 15歳 侯爵家次男 次期ザウアーラント伯爵
思春期を拗らせそうなところを腹黒な友人に叩き潰されて幸せな結婚生活を送る幸せな男
ユストゥス・ノウマイスター侯爵令息 15歳 ノウマイスター侯爵家嫡男
婚約者シルヴィア以外は、家の利益をもたらす為の駒だと思っている腹黒 ちゃんと相手も幸せになるように動かすので慕われる シルヴィアとは5歳差なので歯がゆい思いをしているところにインゴルフの思春期発言を全力で潰しにかかる
ユストゥスは『彼と私は幼馴染です。』のシルヴィアの婚約者で、アロイスのお兄ちゃんです。ちょっと面白い子になりました。たまには、アホな事する前に叩き潰してくれる友人がいてもいいと思うのですよ。
ジークルーンとインゴルフは、『私は婚約者に寄り添っただけ』のニクラウスとアルノルトの両親です。ジークルーン様の出生をこねくり回した結果できたお話です。ニクラウスのやらかしに1番頭を抱えていたのはインゴルフではないでしょうか。息子の思春期なアホ行動は止めれなかったようです。
久々の短編楽しんで頂けたら幸いです!
【現代恋愛】【相談窓口の女』連載中です!タイトルがイマイチでしょうが読んで頂けると嬉しいです\( 'ω')/女子大生の甘酸っぱいお話のつもりです。ザワリとヒヤヒヤとクスクスとほっこりを織り交ぜながら執筆中です!




