一枚の絵
怪盗には悩みがあった。
数々の宝を盗み出してきたが、その置き場所がもうなかったのだ。
屋敷は宝で溢れ返り、足の踏み場もない。
手放そうにも、どれも表には出せない代物ばかり。
売ることもできない。
そこで怪盗は、ある方法を思いついた。
大富豪は絶望していた。
成功の果てに、あらゆる贅沢を手に入れた。
だが、満たされることはなかった。
ある日、車の中で子供たちの歌声を耳にした。
「停めてくれ」
そこは孤児院だった。
彼は中に入り、子供たちと過ごした。
帰り際、一人の少女が一枚の絵を渡してきた。
何が描かれているのか分からない。
チラシの裏に描かれた、幼い絵だった。
だが、それを見たとき、胸の奥が静かに満たされた。
屋敷に戻ると、彼は高価な絵をすべて外し、
その一枚だけを飾った。
初めて、満ち足りた気がした。
数日後、その絵は消えた。
盗まれたのだ。
大富豪は泣いた。
どんな宝を失った時よりも、深く傷ついた。
だが警察は相手にしなかった。
「価値のない絵でしょう」
探偵も首を振った。
手がかりは何もない。
大富豪は、再び空っぽになった。
怪盗は盗んだ宝を返し始めていた。
溢れた宝を処分するために。
なぜかその方がしっくりきた。
最後に残ったのは、一枚の絵だった。
豪邸の広間に、ぽつんと飾られていたもの。
名画だと思って盗んだが、落書きだったようだ。
だが奇妙なことに、見ていると心が落ち着く。
怪盗は、しばらくその絵を眺めた。
そして、元の場所へ静かに戻した。
大富豪は、壁に戻ってきた絵を見つめていた。
彼は何も言わず、その前に立ち尽くした。
そして、ゆっくりと息をした。
その夜、怪盗の屋敷からは、
最後の宝が消えていた。
壁にあの絵の写真を貼りながら
怪盗は、少しだけ心が軽くなった気がした。




