8 駆除することでしょうか
マーベリックは続けて質問する。
「君を1人で新婚旅行に行かせたのも、ルイティーが心配ではなく、ロコッドがルイティーと二人で過ごしたいからだな?」
ミアーナの表情がぱあっと明るくなり、満面の笑みを浮かべた。
「やっぱりそうか。そうなる気はしていたんだ。ロコッドは昔から彼女に興味を持っていたからな」
「昔から、と言いますのは?」
「幼い頃から、かな。俺はそのことを知っていたから、余計にルイティーに興味を持つことはなかった。今回の結婚も王命であって、俺が望んだわけではない。ただ、結婚すると決めた以上は大事にするつもりだった」
「そうだったのですか」
ミアーナは頷いたあと、疑問を口にする。
「ロコッド様の気持ちを知っておられたのなら、今回の結婚もロコッド様に変更はできなかったのでしょうか。公爵家の次男では認められないという理由ですか?」
「公爵家の嫡男のほうが良かったというのは間違いではない。ただ、一番の理由は他にあるんだ」
「どのような理由なのでしょうか」
マーベリックはため息を吐いて答えた。
「陛下はロコッドが嫌いなんだ。だから、二人が変な関係になる前に、俺と結婚させたんだ」
「それなのに出征を命じたのですか?」
「父が呼ばれた理由は知っているか」
「存じ上げております」
「父だけ出征させれば良かったのは確かだが、父もそう若いわけではない。四六時中、緊張状態が続くのは辛いだろう。だから、補助が必要だと判断されたんだ。ロコッドを行かせるわけにはいかなかったんだろうな」
(公爵家の仕事もできないんだもの。ロコッド様がここに来たって足手まといになるだけでしょうね)
ミアーナはそのことには納得してから挙手をする。
「あの、もう少し質問してもよろしいでしょうか」
「いいよ」
マーベリックが頷くと、ミアーナは事前に仕入れていたミュークド家についての情報を頭の中で整理してから尋ねる。
「不躾だと承知でお尋ねしますが、ロコッド様とお義父様は養子縁組の手続きはされているのでしょうか」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
ラゲクが聞き返すと、ミアーナは苦笑する。
「義母のヨーカ様はロコッド様をとても可愛がっていらっしゃるようですので、跡継ぎ問題について気になりまして……」
「逆に聞いてもいいだろうか?」
言葉を濁したミアーナにラゲクが尋ねた。
「もちろんです」
「君はロコッドが公爵家の人間としてふさわしいと思うか?」
「いいえ」
あの二人の関係についての質問ではなく、ロコッド単体についてなので、ミアーナは躊躇うことなく答えた。
(公爵家の人間という自覚があるのなら、義理の姉と浮気をしようだなんて思わないわ。それを受け入れるルイティー様も同罪だけど)
「はっきり言ってくれてありがとう」
ラゲクは口元に笑みを浮かべて、先程の質問に答える。
「養子縁組の手続きはしていない。変な考えを起こされては困るからな」
「変な考え……ですか」
(ロコッド様に家督を継がせるために、マーベリック様を狙われては困るってことね)
ミアーナはこの件について、詳しく聞いていくことにした。
「そのことをヨーカ様たちはご存じなのですか?」
「このことは側近と私たちしか知らない」
「なぜなのです? 知らなければ、馬鹿なことを考える可能性があるのではないですか?」
「側近に見張らせているから大丈夫だ。もちろん、家に帰れば警戒はさせるがな」
側近の話が出たのは、ミアーナにとって都合が良かった。
「その側近ですが、本当に役目を果たしているのでしょうか」
「……どういう意味だ」
眉間のシワを深くしたラゲクを見て、ミアーナは、この反応をどう取るべきか考えた。
(自分の側近が疑われたことに腹を立てているのか、それとも初めて聞いた話に不機嫌になっているのか、どちらかしら)
ミアーナが口を開く前に、マーベリックが彼女に尋ねる。
「君が言いたいのは、公爵家としての仕事についてではなく、公爵の側近としてということか?」
「そうです」
執事が言うには、ヨーカ様が買い物に使ったお金として現金を抜き、その分を側近たちに渡しているとのことだった。それが本当かどうかを確かめるために、ミアーナが帳簿を見ようとしたが、側近たちに止められてしまった。
止められたことについて納得はできるが、見たいものは見たい。放っておいても自分に不利益があるわけではないのに、知った以上、正したいと思ってしまうのがミアーナの性格だ。
「君が今日、ここに来た本当の目的はなんだ?」
マーベリックからの問いかけに、ミアーナは笑みを浮かべて答える。
「それはもちろん、私に悪事の片棒を担がせようとした方たちを罰すること。それから、主人を裏切り、悪事を働くコバエたちを駆除することでしょうか。そうそう。私がこうして、お義父様やお義兄様と話をしたということを知った時の皆さんの反応を見るのが楽しみというのも目的の一つですわね」
側近たちのことをコバエと言うミアーナにラゲクは苦笑し、マーベリックは興味を惹かれたのか口元に笑みを浮かべた。




