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【書籍化決定】結婚初日、夫から「義理の姉を愛している」と打ち明けられました  作者: 風見ゆうみ


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34  役に立てたのなら幸せですわ

 三日後、ミュークド公爵家が出資しているティールームで、ミアーナとイガム子爵夫人は、丸テーブルを挟んで向かい合って座っていた。


「本日はお忙しい中、お時間をとっていただきありがとうございます」

「お誘いいただけて嬉しいです。ミアーナ様にお会いできて光栄ですわ」


 亜麻色のストレートの長い髪に青い瞳を持つフラティナ・イガム子爵夫人は、同性であっても庇護欲をかきたてられるような小柄で笑顔の似合う可愛らしい女性だった。


(現在のイガム子爵は四十五歳で夫人は二十五歳。年の差結婚で、夫人は元伯爵令嬢。夫人が幼い頃から子爵に恋をし、猛アタックしての結婚とのことだったわね。スココ男爵のことも前々から知っていたけれど、彼女自身は彼にまったく興味を示さなかった)


 事前に調べておいた情報を整理してから、ミアーナは早速、本題に入る。


「私とスココ男爵の婚約の話が上がっていることはご存知ですわよね? そのことで色々と聞きたいことがあるのです。答えられないことは答えなくて結構ですので、いくつか質問してもいいでしょうか」

「もちろんでございます」

「お聞きしたいのですが、あなたはスココ男爵と結婚したいと思いますか?」


 問いかけられた子爵夫人は眉根を寄せてぎゅっと唇を噛んだあと、ミアーナを見つめて口を開く。


「正直に申し上げます。バンハ様との結婚はお薦めいたしません」

「それはどのような理由でしょうか」

「ここだけの話にしていただけますでしょうか」

「もちろんです」


 ミアーナが頷くと、夫人は険しい表情のまま話し始める。


「理由はいくつかありますが、あの方は私が幼い頃から、私の使っている物を盗んだり、捨てたものを持ち帰って集めていたのです。そのことは今は亡き、バンハ様の乳母が今際(いまわ)(きわ)に教えてくれました」

「そのことは、子爵はご存知なのですか?」

「いいえ。主人とバンハ様はご両親を早くに亡くしたこともあって、とても仲が良いのです。そのため、乳母も主人には言えなかったようです。今のところ、関係を迫られたわけではありませんし、私のせいで二人の仲を悪くさせたくなくて話せていません」

「……フラティナ様ともお呼びしてもよろしいですか?」

「あ、はい。もちろんです」


 ミアーナは深呼吸をして心を落ち着けたあと、怯えた様子のフラティナに告げる。


「余計なお世話かもしれませんが、言わせてもらいますわね。あなたはとても優しく、イガム子爵を愛していらっしゃるのでしょう。ですが、あなたが今話してくださった内容は、兄弟仲をこじらせることになっても話すべき内容です」


 笑みを消したミアーナに見つめられたフラティナは、その冷たい表情に息を呑んだ。黙り込んでしまったフラティナに、ミアーナは表情を緩めて話す。


「フラティナ様は自分のために、イガム子爵が嫌な思いをするのは嫌でしょう? その思いは、子爵も同じなのではないでしょうか」

「……そうですね。彼を悲しませたくないと思っていましたが、結局は私、主人に嫌われたくないという気持ちのほうが強くて言えなかっただけなんです。主人がバンハ様の肩を持つんじゃないかと思うと怖くて……」


 フラティナは眉尻を下げて俯いたが、すぐに勢いよく顔を上げる。


「ミアーナ様、ありがとうございます! きっと主人はわかってくれると信じて話してみます!」

「どうしても無理だった場合は、いつでもご連絡くださいませ」

「ありがとうございます!」


 明るい表情になったフラティナを見て安心したミアーナは、彼女からバンハについての話を詳しく聞くことにした。フラティナが一通り話を終えた時には、話し始めてからすでに二時間以上が経過していた。


「もうこんな時間! 長々とお話ししてしまい申し訳ございません!」

「話すことで楽になることもありますし、フラティナ様の気分転換になったのなら良いのですが」

「本当に助かりました。ありがとうございました」


 部屋を出て、廊下の窓から空を見上げると、オレンジ色に染まっている。

 別れの挨拶をして馬車に乗り込もうとしたところで、ミアーナはふと気になったことがあり、フラティナに尋ねた。


「今まで他の人に話さなかった話をどうして、私に話してくださる気になったのですか?」


 フラティナは目を瞬かせたあと、微笑んで答える。


「すぐに主人に伝えなかったことを、頭ごなしに責めないと思ったからです」

「それなのに私は意見を言ってしまいましたわね」

「違うんです。どうして、もっと早くに言わなかったのかと言われることが嫌だったんです。だって、そんなことを人に言われなくても、私だって頭ではわかっていたから」


 ミアーナにしてみれば、言葉は違えど自分も同じことを言っているように思った。不思議そうにしている彼女に、フラティナは穏やかな表情で過去の話を始めた。

 フラティナが話した内容は、以前、ミアーナに相談に乗ってもらって救われたと言っていた人がいること。その人物が誰にも気持ちを理解してもらえず苦しんでいたところに、ミアーナがその人物の気持ちに寄り添いながらも、駄目なものは駄目だと諭し、ほしい言葉をくれたと話していたと伝えた。


「ただ否定するのではなく、気持ちを理解しようとしてくださったミアーナ様にとても感謝していると聞いたことがあったんです。だから、私も話してみようと思いました。馬鹿じゃないのと言われるかもしれないと覚悟していましたが、ミアーナ様はそんな言葉は発しませんでした」


(うう。クズだと思った人間にははっきり言ってしまうんだけど、それはいいのかしら。まあ、フラティナ様のように真剣に悩んでいる人にそんなことを言うつもりはないし、良いということにしましょう)


「一部の方には甘いと言われてしまいそうですが、私が役に立てたのなら幸せですわ」

「そういうところが、ミアーナ様が優しいと言われている所以だと思います」

「そ、そんな! でも、そう言っていただけると嬉しいです」


 フラティナがそう締めくくると、ミアーナにしては珍しく、はにかんだ笑顔を見せた。


 

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