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結婚初日、夫から「義理の姉を愛している」と打ち明けられました  作者: 風見ゆうみ


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25  生理的に無理です

 ルイティーとマーベリックはそのままルイティーの部屋で、ラゲクとヨーカは三階にあるラゲクの執務室に、ミアーナとロコッドは談話室へ移動して話をすることになった。

 ミアーナにしてみれば「浮気がバレましたね。では離婚しましょう!」で終わる話であり、ロコッドがこの先どうなるかは自分の決めることでも考えることでもないと、冷めた考え方をしていた。

 ミアーナとロコッドが談話室に入り、メイドがお茶を淹れて出ていった瞬間、ソファに座っていたロコッドが立ち上がった。何事かとミアーナが眺めていると、ロコッドは何も言わずに扉の前の開けたスペースに移動し、流れるように土下座した。


「お願いです。捨てないでください」


 ミアーナ貼りつけたような笑顔を消し去り、眉間に深い皺を刻んだ状態でロコッドを見つめる。


「捨てるも何もあなたは私の所有物ではありませんが?」

「僕たちは結婚しているじゃないか! 捨てるという言葉が正しくないのなら言い換える。お願いします。離婚しないでください!」


 懇願するロコッドに、ミアーナは躊躇なく答える。


「無理です」

「どう無理なんだ?」

「生理的に無理です」

「生理的に⁉」


 ロコッドはショックを受けたような顔をして、ミアーナを見つめた。そんな彼にミアーナはこめかみを押さえながら話す。


「あなたの見た目が気持ち悪いと言っているわけではないのです。あなたのしたことや考え方が生理的に無理だと言っています」

「浮気したことを怒っているのか?」

「怒ってはいません。呆れているだけです。それから、あなたとの結婚生活を続けられない理由は他にもあります」

「なんだろうか。直せるものなら直すよ!」


 必死に訴えるロコッドを憐れむような目で見つめ、ミアーナは答えた。


「あなたが家を追い出されると考えられるからです」

「君の家に置いてくれたらいいじゃないか! もしくは母上の実家でお世話になればいい」

「絶対に嫌です」


(いびられる生活が待っているだけじゃないの)


 ヨーカの実家は彼女の弟が継いでいる。そんな所に転がり込むなんて、ミアーナ的には絶対にありえないことだった。


「どうしてあなたは私との離婚を拒むのです? ルイティー様と一緒になればいいではないですか。あなたは王城で暮らせるかもしれませんよ」

「一緒に……なれるだろうか」

「そこはルイティー様たちとお話をしてはいかがでしょうか。私にはなんとも言えません」

「……聞いてみるけど、非現実的だよ」


 ロコッドは涙目でミアーナに懇願する。


「本当に反省しています。君が許してくれたら、きっと父上たちも許してくれる。人助けをすると思って頼むよ! 僕が野垂れ死んだりしたら、君だってさすがに嫌な気持ちになるだろう?」


 もちろんミアーナにも思いやりの心はある。だが、それは自分に対して害を及ぼさなかった相手に限る。


「あなたは、ルイティー様と浮気をしている時、私やマーベリック様に悪いと思ったことはありますか?」

「そ、それは……」


 返答に困り、ロコッドは俯いた。

 あの時のロコッドは愛しのルイティーと一緒にいられる喜びしか感じていなかった。ミアーナは自分がいなくとも勝手に楽しんでいると思っていたので罪悪感などなかった。


「君のことは……、何も考えてなかった」

「ですよね? あなたは自分のことしか考えていませんでした。それは今もです。それなら、私だって自分のことだけを考えても良いでしょう?」


 微笑むミアーナを見て、それはそうかと思いもしたが、やはりロコッドは自分が一番可愛かった。


「聞いてくれミアーナ、ルイティーにはもう飽きていたんだ。だけど、母上が思い出を作っておけと言うからあんなことをしたんだよ」


 自分のせいではないことを訴えれば、ミアーナの態度も軟化するかと思ったが逆効果だった。


「はい?」


 苛立ちのこもった目で見つめられたロコッドは、彼女は優しい人で有名なのに、どうしてこんなに怒っているのだろうと泣きそうになった。

 人の話を聞く。彼女が『優しい』と言われていた所以の一つでもある。受け入れるかどうかは別として話は聞く。普通の人なら苛立ったり、くだらない話も聞くことから『優しい』と言われていた。

 ミアーナにとって、それは当たり前の行為であったが、わざわざ嘘の話を聞いてやるほど優しくもない。


「あなたもいい大人なのですから、覚悟を決めてはいかがです? 何を言われても私はあなたを助けません。それは、以前、あなたにお伝えしたはずです」

「い、いつだよ」

「ホームパーティーの帰りの馬車の中です」


 そう言われて、ロコッドはあの時のミアーナの言葉を思い出す。


『お義父様やお義兄様が戻られたあと、浮気がバレて窮地に陥っても、私に助けを求めてこないでくださいね』


 あの時のロコッドは、そんな日が来るとは思ってもいなかった。


「ほ、本当に僕を助けないつもりなのか?」


 ロコッドは震えながらミアーナを見つめると、彼女はにこりと微笑む。


「あの時の話を思い出していただけましたか? おっしゃる通り、私はあなたを助けるつもりはありません。早速、離婚協議書の作成を始めましょうか」

「いいかげんにしろよ! 勝手すぎるだろう! 浮気がそんなに嫌なら、ここに来た時点で別れるべきだったんじゃないか⁉」

「勝手なのはお互い様でしょう。公爵家に逆らうわけにはいかなかったことや、公爵家からの援助が必要だったので結婚生活を続けただけです」

「金が目的かよ! 最低だな!」

「ええ、必要ですよ。だから、あなたと結婚したのではないですか。実家の領民の暮らしを豊かにするためにもお金は必要です。そのためなら最低と言われてもかまいません」

「優しいだなんて嘘をつきやがって! この嘘つき野郎!」


 (ひざまず)いていたロコッドが立ち上がって叫んだ。


(誰が嘘つき野郎よ。私は自分で自分のことを優しいだなんて言った覚えはないわ)


 苛立ったミアーナだったが、イライラしたら負けだと言っていた人の言葉を思い出して、心を落ち着ける。


「あら、それがあなたの本性というわけですか? ワガママに育てられてしまって、お気の毒ですわね」

「そう思うなら僕を助けろ!」

「ロコッド様、あなたも大人なのですから、もう自分で善悪の判断くらいつきますでしょう?」

「ついているよ! 離婚しなければならないほど悪いことをしたわけじゃないから助けろって言っているんだ!」


 ロコッドが逆上して自分に暴力をふるう可能性があると察したミアーナは、すぐさまベルを鳴らして兵士を呼んだ。ミアーナにあらかじめ指示されていた彼らは、ロコッドの利き腕である右腕だけは自由にし、他はロープで簀巻(すま)き状態にした。


「ロコッド様、離婚協議書にサインをいただけますでしょうか」


 無様な状態にされたロコッドは、すでに用意されていた離婚協議書に、泣く泣くサインをするしかなかった。


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