23 妻失格ですか?
ミアーナを忌々しそうに睨みつけたあと、ルイティーは、マーベリックに訴える。
「マーベリック、あなた、私よりもメイドの言葉を信じるの? 妻を信じないなんて最低よ!」
「そうだな。最低な夫だよ。だから、離婚しよう。君のお父上には了承をもらっている」
「……なんですって?」
ルイティーの顔色がみるみるうちに青ざめていく。マーベリックは苦笑して、ミアーナに目を向ける。
「それから、メイドの言葉だけを信じるんじゃない。ミアーナからも確認した」
「「なんですって?」」
「なんだって?」
ルイティーとヨーカ、ロコッドの声が重なり、一斉にミアーナを睨みつけた。睨まれたことを気にする様子もなく、ミアーナは微笑む。
「念の為にお伝えしておきますが、私はお二人について話してはいませんわ」
「それは私が証人になる。ミアーナはお前たちの関係を話してはいない」
ミアーナもマーベリックも「話していない」という言葉を強調した。ラゲクとマーベリックの前で文句を言うことはできず、ロコッドは怒りを抑えて質問する。
「ミアーナ、答えてくれ。いつ、兄上たちと会ったんだ? 兄上たちが帰ってきたあとに、そんなチャンスはなかったはずだ!」
「あら、私はちゃんと絵日記に挨拶に行ったと書いておきましたが、どうして今頃になって文句を言われるのでしょう?」
「……絵日記? まさか、一人で新婚旅行に行った時に、父上たちに会いに行ったのか⁉」
「ご挨拶に行くことは禁止されていませんでしたので、お伺いさせていただきました。近くまで来たのに挨拶もなしというわけにはいきませんでしょう? ちゃんと日記にも書いていたと思うのですが」
ミアーナは記憶を探るように小首を傾げた。
「い、いつのことだ?」
「絵日記を始めた日ですわ」
「そ、そう言われて見れば、君は誰かに会っていたようだが、どれも気持ち悪い物体が書いてあるだけで、名前は書いていなかったじゃないか! あれじゃあ、相手が誰だかわかるわけがない!」
責め立てるロコッドに、ミアーナは冷ややかな笑みを浮かべて答える。
「わからなかったのなら確認してくだされば良かったのです。そんなことはせず、他のことに気を取られていたのはあなたですわ。絵日記を描いて報告しただけでも褒めていただきたいものですが?」
「……そんなっ」
ロコッドは悔しそうに唇を噛む。そんな彼とルイティーに、マーベリックが問いかける。
「ロコッドとルイティーに聞く。ミアーナを一人で新婚旅行に行かせている間、お前たちは何をしていた?」
「待ってマーベリック! あなたは誤解しているわ。旦那様、あなたの側近をここに呼んでください。二人の間に何もなかったことを証言してもらいますわ」
割って入ったヨーカは『自分たちの勝ちだ』と言わんばかりに余裕の笑みを浮かべたが、マーベリックとミアーナの表情に焦りの色は見えなかった。
ヨーカはメイドにラゲクの側近たちを呼んでくるように指示をした。ラゲクも特に止める様子もなく、側近がどんな話をするのか楽しみにしていた。というのも、今回の件はほとんどマーベリックに任せているため、彼がどんな手を打ったのかラゲクも知らないからだ。
側近たちが部屋に来るのを待っている間は、沈黙が続いていた。ヨーカは自信満々の笑みを浮かべているが、ロコッドやルイティーは満面の笑みを浮かべているミアーナの様子が気になって仕方がなかった。
ロコッドたちの視線に気がついてはいるが、笑みを絶やさずにいると、マーベリックがミアーナに話しかける。
「楽しそうだな」
「ええ。どんなことになるのか楽しみにしています」
「一応確認しておきたいんだが、ロコッドと離婚した場合、何か困ることはあるか?」
「実家への援助がなくなることが辛いですが、仕方のないことだと思っています」
元々、愛があったわけではないため、ミアーナが気にするのはそれくらいしかない。マーベリックは驚いた顔をして尋ねた。
「金が必要なのか?」
「私の実家の領地がどんな所かは、お義兄様もご存知でしょう?」
「知ってはいるが、内部の詳しい財政状況までは知らない。金が必要なら就職先を紹介しようか? もちろん、ロコッドの浮気の件で慰謝料を払わせるつもりだが、それは継続的なお金じゃないからな」
「まあ! 働き口を紹介してくださるのですか⁉ それはとてもありがたいです! ぜひお願いいたします!」
ミアーナが手を合わせて頷くと、話を聞いていたヨーカが鼻で笑う。
「ミアーナさん、あなたは笑っていられる立場ではないのよ?」
「どういうことでしょうか?」
「ルイティーとロコッドは義姉と義弟の関係でしかないのに、あなたは二人の関係を疑って、マーベリックと離婚の話をしている。妻として失格よ! 離婚の際には慰謝料をもらいますからね!」
「妻失格ですか? ええ。それはそうだと思います。白い結婚になった時点で世間では妻失格と言うでしょうから。ただ言わせていただきますが、私が妻だったから、ロコッド様には良くも悪くも、今は名前を言ってはいけないあの人との思い出ができたのです」
ヨーカが言い返す前に、ラゲクの側近たちが部屋の中に入ってきた。三人はラゲクとマーベリックが部屋にいることがわかると、表情を曇らせる。そんなことに気がつかないヨーカは、側近たちに話しかける。
「あなたたち、ロコッドとルイティーが男女の関係ではないことを証言してやってちょうだい」
「……証言、ですか」
「ええ、そうよ。マーベリックやメイドたちは、ロコッドとルイティーが浮気をしているなんて馬鹿なことを言っているのよ! さあ、早くそんな事実はないと伝えなさい!」
ヨーカは強気な笑みを浮かべて命令した。側近たちは気乗りしない表情で顔を見合わせたあと、一人が代表して口を開く。
「あ……、えっと、体の関係があったかどうかは知りません。ただ、二人が毎日ずっと一緒にいて、マーベリック様たちを裏切っていたのは確かです」
「……え?」
ヨーカはぽかんと口を開けて聞き返した。一人が暴露すると、もう一人も観念したように頭を下げた。
「ヨーカ様からお金を渡され、当主様たちに口止めするように命令されました。誠に申し訳ございません!」
「な、なんて馬鹿なことを言うの!」
叫ぶヨーカに、ミアーナが眉尻を下げて話しかける。
「お義母様はお金でなんでも解決できると思っておられたようですが、そういう人はもっとお金をもらえる、もしくは自分が損をすると思ったら、簡単に寝返るものですわよ」
「なんですって? あ、あんたたち! 本当に裏切ったの?」
ヒステリックな声を上げ、ヨーカは側近たちに掴みかかった。




