21 何度言ったらわかっていただけるのですか
ヨーカは訝しげな顔をして、ミアーナに尋ねた。
「メモなんて取ってどうするつもり?」
「物覚えが悪いので、聞いたことはメモしておこうと思いまして」
「熱心なのはいいことだわ」
満足気に頷くと、ヨーカは話しながら仕事の準備を始める。
「マーベリックは心の弱い子なの。ロコッドとルイティーの浮気を知ったら、ショックを受けてどうなるかわからないわ」
ヨーカにとって、マーベリックが死ぬことになる布石のつもりだったが、ミアーナには通じない。
(そんな心の弱い人が戦場に行けるわけがないでしょう)
ミアーナは心の中でツッコミを入れつつも、自然にメモ帳にペンを走らせる。もちろん、浮気されたほうが悪い発言もメモしている。
「例えば、どんなことが考えられますか?」
「そうね。死を選ぶ……とか?」
「お義兄様はルイティー様の浮気を知ったら、死を選ぶかもしれないのですね。それは大変ですわ。今から、そんなことにならないように対策をしなくてはなりません」
ヨーカは眉をひそめてミアーナに尋ねる。
「……何を言っているの?」
「お義父様に相談しようと思いまして」
「ロコッドたちのことは話さないと約束したんでしょう⁉」
「そうです」
ミアーナはメモをする手を止め、満面の笑みを浮かべて続ける。
「ロコッド様とお義姉様の話はいたしません。マーベリック様の心の弱さについての話をするだけです。マーベリック様は次期公爵です。馬鹿な人間に命を狙われる可能性があります。そんな方が弱い心のままではいけませんよね? マーベリック様の母親であるヨーカ様ならそう思いますでしょう?」
今までのヨーカは、ミアーナのことを噂通りの優しい令嬢なのだろうと見下していたところがあった。この時になってやっと、ミアーナが自分たちの人生を脅かすものになるかもしれないと気がついた。
このままミアーナと話をし続ければ墓穴を掘るだけだと感じたヨーカは「雑談は終わりましょう」と仕事の話を強制的に始めた。ミアーナも仕事とプライベートは分けなければならないことは理解しているため、これ以上問い詰めようとはしなかった。
黙々と作業を進めていき、特に問題が起きることなく時間が過ぎていった。仕事はそう難しいものではなかったが、気になったことがあり、ヨーカに質問しようとした時だった。
「母上! 助けてください!」
ロコッドがノックもなしに執務室に駆け込んできた。ミアーナもヨーカも驚いて仕事の手を止めて彼を見つめる。
「母上! どうしよう!」
「まあ、ロコッド! そんなに焦ってどうしたの?」
ロコッドはヨーカに抱きしめられながら、涙目で訴える。
「兄上にバレたんです!」
「……何のこと?」
「僕とルイティーのことです! 使用人が僕たちを裏切ったんですよ!」
「なんですって⁉」
ヨーカのように声に出して驚きはしなかったが、ミアーナもかなり驚いていた。
(そんなことをする場合は、私に連絡をしてくれていたのに何も聞いてないわ。お義父様かお義兄様に許可を取ったのかしら)
「ミアーナさん、私は少し席を外すけれど、あなたはここで仕事をしていて頂戴!」
「そう言われましても、気になって仕事が手につかないと思います。戻ってきてから頑張りますので、一緒に行ってもよろしいですか?」
「……っ」
彼女を一緒に連れて行っても、状況は悪くなるだけだと感じたヨーカは返答に迷った。すると、ロコッドがミアーナに話しかける。
「ミアーナ、君は僕の妻だよね?」
「名義上はそうですわね」
ミアーナが頷くと、ロコッドは手を合わせて懇願する。
「夫のピンチなんだ。助けてくれないか」
「助けるとは?」
「僕と君は仲良し夫婦で、ルイティーと僕には何の関係もないと伝えてほしい」
「お断りします。ロコッド様、何度言ったらわかっていただけるのです? つく必要のない嘘はつきません」
ミアーナがぴしゃりと跳ねのけられたロコッドは、情けない顔で彼女を見つめた。




