19 無理です
(お義母様は、こんな人を公爵にしようとしているなんて驚きだわ。息子可愛さで、領民のことなんて考えていないのでしょうね。それにしても、お義父様とお義母様は仲が良いようには思えないけれど、どうして二人は再婚したのかしら)
社交界で流れている噂はどんなものだったろうかと、ミアーナが思い出そうとした時、ロコッドが口を開く。
「ミアーナ、これから僕は良い夫になる。どうか寝室を共にしてくれないか」
「無理です」
ミアーナは無意識の内に拒否する言葉を放っていた。
「嫌ではなく、無理か」
マーベリックが吹き出したので、馬鹿にされたとわかったロコッドは顔を真っ赤にして、その原因を作ったミアーナに叫ぶ。
「無理ってどういうことだよ! 夫婦になったんだから一緒に眠ることになるのはわかっていただろう⁉ それなのに嫁いできたのか⁉」
「……お義父様たちに正直にお話ししても良いのであれば、ぜーんぶお話しいたしますけれど、そちらがご希望ですか?」
「そ、それとこれとは別だろう!」
勝手な言い分ばかりのロコッドに呆れたミアーナは、大きなため息を吐いて答える。
「これ以上、ロコッド様とお話しすることはありませんわ。お義父様、私とロコッド様は白い結婚をすることにいたしましたの。ロコッド様に譲られることになっている伯爵位ですが、一世代限りとなってもよろしいですわよね?」
「それはかまわないが、一体どういうことだ? どうして白い結婚なんて話になるのかがわからない」
聞かなくとも理由はわかっているが、ラゲクは知らないふりをしてミアーナに尋ねた。
「申し訳ございません、お義父様。私とロコッド様以外の方が関係する場合は、私の口からは言えませんの。どうしても、理由を知りたい場合はロコッド様に聞いていただければと思います」
「ロコッド、お前、ルイティーにばかりかまっているから、ミアーナに愛想をつかされたんじゃないだろうな」
ラゲクに睨まれたロコッドは何度も首を横に振る。
「そ、そういうわけではありません! ミアーナとは喧嘩をしていることは確かですが、仲が良い喧嘩をするのです! 最初から仲が悪ければ喧嘩にもなりません!」
「どんな理由で喧嘩をしたんだ。話してみろ。お前が悪くないと判断すれば、私のほうからミアーナに話をしてやる」
「まあ! それは助かりますわ! どちらが悪いか、ぜひともお義父様とお義兄様に判断していただきたいものです」
ぱちぱちとミアーナは手を叩いたあと、わざとらしい口調で続ける。
「そうだわ。私はお義母様に仕事を教えていただかなければならないのでした。お義父様、お義兄様、私は失礼させていただきます。ロコッド様、あとはお任せいたしますわね。結果を聞くのを楽しみにしていますわ!」
今にもスキップを始めそうなくらいに軽やかな足取りで、ミアーナが部屋を出て行くと、部屋の中には沈黙が訪れた。
ロコッドは俯いて、必死に言葉をうまく逃れられる案がないか考えた。だが、ミアーナをおだてれば何とかなるとヨーカに言われていた彼には、すぐには打つ手が思い浮かばない。
沈黙に耐えきれなくなったロコッドは、明るい口調で言った。
「ぼ、僕は、用事を思い出しましたので失礼します」
「待て。用事とはなんだ」
「ル、ルイティーの看病をっ」
「必要ない」
ラゲクは冷たく答えて、マーベリックに目を向ける。
「どうしてもロコッドはルイティーが気になるらしい。夫であるお前が様子を見に行ってこい」
「承知いたしました」
マーベリックはロコッドの横を通り過ぎようとして足を止める。
「お前とルイティーはかなり仲良くなったようだな。俺たちの寝室にお前の寝巻きが用意されていた」
「ひっ!」
一時期、ロコッドとルイティーはロコッドたちの寝室ではなく、マーベリックたちの寝室を使っていた。そのため、ミアーナはマーベリックたちの寝室を含む、彼らが一緒に眠ったことがある部屋全てに、寝間着を届けるように伝えていた。
ロコッドたちはマーベリックたちが帰ってくれば、自然とやめると思っていたが、メイドたちは変に気を利かせたようだった。
(普通はそんな馬鹿なことはしないだろう! まさか、ミアーナの仕業じゃないだろうな!)
ロコッドが慌てていると、マーベリックはため息を吐く。
「さすがに気に入らなくて、俺は昨日は違う部屋で寝たよ。あとで、どんな理由で俺たちの寝室で眠ったのか教えてほしい」
「ご、誤解です、兄上!」
ロコッドは情けない声を上げて引き留めようとしたが、マーベリックは振り返りもせずに部屋から出ていった。
その頃、ミアーナは満面の笑みを浮かべてヨーカの所に奇襲していた。




