17 警戒心のない親子
自分が思っていたよりも悪い状況に動いていることにヨーカは苛立っていた。
「母上、ミアーナが言うことを聞いてくれません。どうしたらいいんでしょうか」
涙目になった息子に尋ねられ、ヨーカは眉間に皺を寄せて答える。
「だから、ちゃんと人を選びなさいと言ったじゃないの」
「調べたところ、ミアーナは浮気に理解があるって報告があったんです! それなのに浮気を許してくれないなんて!」
「打ち明ける前にちゃんと確認すべきだったわね」
浮気をすること自体がいけないことなのだが、そんな考えはロコッドが可愛くて仕方がないヨーカには浮かんでこない。
「ミアーナさんはあなたとルイティー様のことについて話さないと言っているのね?」
「はい。でも、父上と兄上とは何か初対面ではない気がします。だから、怖いんです。それに、彼女、普通じゃないんですよ。なんというか、偉そうというか……」
ロコッドはミアーナのことを考えるだけで、がっくりと肩を落とした。
「彼女がマーベリックたちと接触した形跡はないのでしょう?」
「はい。この家に来てから新婚旅行以外は屋敷を出ていません。それに、誰かと会ったかと聞くと、必要なことは全て何らかの形で伝えていると言うんです」
「新婚旅行でたまたま会ったということはないのよね?」
「彼女から旅行の間の日記をもらったので、一応、読んではみました。人には複数人会っているようですが、そんなことは書いていなくて、理解しがたい絵日記が途中から始まっていました」
ロコッドにはあのアメーバがラゲクとマーベリックのことだとは判断できなかった。誰と会ったのか確認すれば良かっただけなのだが、その時のロコッドはミアーナにそれほどの興味がなかったのだ。
「とにかく、今となってはどうしようもないわ。ロコッド、どうにかしてミアーナさんの機嫌をとりなさい。あなたならどうにかできるわ」
「でも、ミアーナは僕にまったく興味を示しませんよ」
「褒めそやしていれば、その気になるに決まっているわ」
「……わかりました」
ミアーナを落とせる自信は今のところまったくないロコッドだったが、頷かざるを得なかった。自信がない様子の息子に気づき、ヨーカは優しく言い聞かせる。
「ロコッド、安心なさい。マーベリックが死ねば、家督もルイティー様もあなたのものよ。それまで、ミアーナさんで我慢すればいいの」
「戦争で死ななかったんですよ? 兄上が近い未来に死ぬことなんてあるんでしょうか」
ロコッドにとって家督などどうでもいい。ただ、ルイティーがほしいだけで兄の死を強く願っているわけではない。だが、ヨーカは違った。彼女はラゲクがロコッドとの養子縁組をしていないことを知らないため、なんとかして可愛い息子を次の公爵にしてやりたいと考えていた。結婚した以上、養子縁組は当たり前だと思い込み、確認を怠っているのは、彼女の詰めが甘いところだ。
「何か考えるわ。どうせなら、ミアーナさんを犯人にするのもありかもしれないわね」
あはははと笑うヨーカを見たロコッドは「とにかく、明日から頑張ります」と言って部屋から出て行こうとした。それと同時に扉がノックされ、ロコッドが扉を開けると、メイド長がお茶を運んできたところだった。
「ロコッド様はもう、お部屋にお戻りですか?」
「ああ。お茶はいらないよ。というか、君がお茶を淹れるなんて珍しいね」
「他のメイドはラゲク様やマーベリック様のお世話に付いておりますので」
「そうか。まあ、頑張って」
ロコッドが去っていったあと、メイド長はヨーカにもお茶はどうかと尋ねたが断られたため、サービングカートを押してヨーカの部屋を出た。そして、兵士と目を合わせて頷き合うと、メイドはラゲクの部屋に向かった。




