12 お優しい方ですのよ
ホームパーティーに招いてくれたのは、ロコッドの昔からの親友である伯爵家の嫡男だった。出席者は本人とその婚約者と両親で、伯爵家のダイニングルームで開催された。肉料理やマッシュポテトなどの料理が大皿に盛られており、ビュッフェ形式なので、好きなものを食べたい分だけ皿に盛るように言われた。
(どれも美味しそうなので迷ってしまうわ! あ、あっちに置いてあるのは果実酒かしら。嗜む程度なら飲んでもいいわよね)
ミアーナたちの住むビエンテ王国では、十六歳の時から飲酒が認められている。そのため果実酒なども料理とは別のテーブルの上に用意されていた。
「本日はお招きいただきましてありがとうございます」
「本日はご足労いただき、誠にありがとうございます。ミアーナ様にお越しいただけるなんて、本当に光栄ですわ」
主催者の一人である伯爵夫人が嬉しそうに微笑んだ。
パーティーが始まると自然に男女に別れ、ミアーナは、ニスト伯爵夫人とロコッドの友人の婚約者であるベルーナと話すことになった。
ベルーナは無邪気な笑みを浮かべて、ミアーナに話しかける。
「ロコッド様はお優しい方ですから、新婚生活もきっと楽しいのでしょうね」
「ええ、とっても楽しいですわ。ロコッド様はベルーナ様のおっしゃる通り、本当にお優しい方ですのよ」
(私は私なりに新婚生活を楽しんでいるし、ロコッド様はルイティー様には優しいから、嘘はついていないわ)
笑顔でミアーナが答えると、二人の話を聞いていた伯爵夫人が反応する。
「そうですよね! やはり噂は当てにならないということですわ」
「噂ですか?」
「え、ええ」
ミアーナが首を傾げたため、まずいことを言ってしまったかと、伯爵夫人は慌てて口を押さえた。
「……噂というのは、どのようなものなのです?」
責めたりしないので教えてほしいとお願いする。ミアーナが気を悪くしていないと思った伯爵夫人は、安堵した様子で小声で話し始めた。
「先日の新婚旅行はミアーナ様お一人で出かけられましたでしょう? ですから、夫婦仲が悪いとしか思えないと、馬鹿な考えをする人間がいるのです」
「そう思われても仕方がないことですわ。ですが、お義父様たちが帰ってくるまでに、ロコッド様にとっては、やらなければならないことがたくさんあるそうなのです」
「そうですわよね。お仕事が溜まっているでしょうし……」
伯爵夫人もベルーナもロコッドにとってやらなければならないことを、公爵家の仕事だと思い込み、ミアーナたちに同情した。
(真相が公になれば、やらなければならないことが浮気だったということに気づくでしょう。そうなった時、ロコッド様の評判はどうなるのでしょうね)
「戦争の終わりも見えてきましたし、もう少しの辛抱ですわね。公爵閣下たちが帰られたら、お二人でゆっくりしてくださいませ」
ベルーナが微笑んで言うと、聞き耳を立てていたのか、ロコッドが反応する。
「戦争が終わるだって?」
「ええ。新聞では和平交渉が始まっていると書いてあったと父から聞いていますわ」
驚いているロコッドに、ベルーナは自分の情報が間違っているのかと焦った顔をしつつも頷いた。すると、友人の伯爵令息が笑う。
「なんだよ、ロコッド。そんなことも知らなかったのか。仕事をすることも大事だけど、新聞を読む時間も大事だぞ」
「し、新聞に載ってる?」
二人の時間を邪魔されたくないと言ってからの使用人たちの態度は、今までとはかなり違っていた。今までならば、朝は新聞を部屋まで持ってきてくれていたのだが「お邪魔してはいけませんので」と言って、頼んだ時にしか持ってこなくなっていた。
(一緒に寝ているだけだ。やましいことはしていないのに、どうしてみんな、僕に冷たくなったんだ? しかも、和平交渉が始まっているなんて、そんな大事なことをどうして教えてくれないんだ!)
ロコッドは帰りの馬車の中で、ミアーナを責めようと考えた。
この時の彼は自分が返り討ちにあうなど考えてもいなかった。




