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結婚初日、夫から「義理の姉を愛している」と打ち明けられました  作者: 風見ゆうみ


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10  後悔しないでくださいませね

 その後、ミアーナは無事に目的を果たし、一緒に来てくれた兵士や御者、メイドたちと共に残りの旅程を楽しみ、無事に公爵邸に帰り着いた。使用人は快く出迎えてくれたが、ロコッドたちは残念そうな顔で、ミアーナの前に現れた。


「ロコッド様、本当に楽しい旅をありがとうございました。いくつか、予定を変更しましたが、どこに行ったかわかりますように日記をつけておきました。社交界で話を聞かれるようなことがありましたら、これを参考にしてくださいませ」


 ミアーナは絵日記と共に演劇のパンフレットを手渡した。


「あらすじに惹かれて観に行ったのですが、それは興味深いお話でしたわ。もう一度観ても良いと思ったくらいでしたので、ぜひ、ロコッド様とルイティー様、私の三人で観劇しましょうね」

「あ、ありがとう」


 ロコッドはまずパンフレットをぱらぱらとめくり、あらすじの部分に目を通してみた。

 あらすじには不倫した二人が本当のパートナーたちの手によって、不倫したことを後悔するくらい、酷い目にあわされるストーリーと書かれていた。


「な、何か、すごい内容の劇だね」

「そうでしょうか。ありえるお話だと思いますが」

「そうかな。いや、まあ、そうか。楽しんできたのなら良かったよ」

「一人での旅行は本当に楽しいものでした。ロコッド様たちも私がいない間楽しまれたのでしょう?」

「まあね。それよりも一人で旅行していて、みんなに怪しまれたりしなかったかい?」

「どうして一人なのか聞かれはしましたけれど、ロコッド様の事情をお話ししたらすぐに納得してくださいました」

「ぼ、僕の事情? まさか、ルイティーとのことを他の人に話したのか?」

「いいえ」


 旅行中のミアーナは、顔見知りの貴族からロコッドとのことについて聞かれると「旦那様はお忙しいので、旅行を一人で楽しんで来るようにとおっしゃってくださいましたの。お互いにちょうどいい距離感を保ってくださる方ですのよ」と答えていた。そのことを伝えると、ロコッドは安堵の表情を浮かべた。


「驚かさないでくれよ」

「夫の不倫なんて、妻の私にとってはただの恥ですから、人に言えるようなものではありませんからご心配なく」

「あ、そ、そうか。そうだよね。うんうん」


 引きつり笑いを浮かべるロコッドに、ミアーナは微笑みかける。


「申し訳ございませんが、戻ってきたばかりで疲れているのです。部屋に戻らせていただいてもよろしいでしょうか」

「あ、そ、そうだね。すまなかった。もし、またどこかへ行きたくなったらいつでも言ってくれたらいいよ」

「ありがとうございます」


 疲れていると言っているわりには、どこか楽しげな表情をしているミアーナを、ロコッドは不審に思った。もう少し話を聞いたほうがいいかもしれないと、ミアーナを呼び止めようとしたが、メイドに遮られる。


「ラーナ様がお呼びになっています」

「……わかった」


 嫌な予感を覚えながらも、ロコッドは部屋に向かって歩いているミアーナの背中を見つめながら頷いた。


******


 ミアーナが一人で新婚旅行に出かけていた話は、社交界であっという間に広まった。ミアーナとロコッドの仲は良いのか悪いのか、色々な憶測がされたが、相手は公爵家。多くの貴族は確認することもできないままだったが、ロコッドの友人が動いた。

 マーベリックたちが屋敷に戻ることを知らせる十日前。ロコッドがミアーナの部屋に訪ねてきて言った。


「ミアーナ、悪いけど明日、付き合ってもらいたい所があるんだ」

「どちらへ行かれるおつもりですか?」

「友人のホームパーティーに誘われているんだ。ぜひ、ミアーナも連れてきてほしいって言われたからさ。僕たちが上手くいっているとアピールするにはいい機会だろう?」

「明日ですか? 急なお誘いですのね」

「いや、五日前に連絡はあったんだ。それで一人で行くか迷っていたんだけど、やっぱり新婚旅行を一人で行かせたのは良くなかった。その話が父上たちにバレてしまって、怒りの手紙が届いたんだ」


 これだけ噂になっているのだから、父の耳にも入ることはおかしくない。

ミアーナがマーベリックたちに会いに行ったことを知らないロコッドは、そう信じて疑わなかった。


「念のために確認しておきたいのですが、ご友人はロコッド様とルイティー様との仲を知っておられるのですか?」

「まさか。そんなわけないだろう。僕とルイティーの仲について知っているのは君や母。それから、この屋敷に勤めている人間しか知らない。もし、外でルイティーと一緒に出掛けたりなんかしたら、たちまち噂になって兄さんにバレてしまうじゃないか」


(バレてもいいと開き直るのも良くないけれど、そんなにもマーベリック様に知られるのが嫌なら、最初から浮気なんて馬鹿なことをしなければいいのに)


 ミアーナは読んでいた本を閉じて、ロコッドに尋ねる。


「ロコッド様、あなたの目的はなんなのです?」 

「目的って?」

「いけない仲だとわかっているのに、危険を冒してまでその関係を望む理由がわかりません。マーベリック様は必ずこの家に戻ってこられるのですよ?」

「そんなことはわかってる。ただ、一時だけでもルイティーと恋人同士の気分を味わいたい。ただ、それだけだよ」

「それだけであっても、お兄様を裏切っていることに変わりはありませんけどね」


 ロコッドにも後ろめたい気持ちはあるのか、ミアーナから視線を逸らす。


「行きたくないんならいいんだ。ただ、妻としての役目を果たしてほしいだけだったんだよ」

「妻としての役目ですか? あなたに言われたくありませんし、私はしっかり果たしておりますわよ」

「どういう意味だ?」

「新婚旅行を一人で行かせる夫に対して不満を抱いている素振りを見せてはおりません」

「そ、それは……」

「妻としての役目を果たせとおっしゃるのであれば、あなたも新婚旅行くらいは一緒に行くべきでしたわね」


(浮気男と一緒に行きたくはなかったから、私的には良かったんだけどね)


 ミアーナが笑顔でロコッドを見つめていると、彼は情けない顔になって懇願する。


「頼む、頼むよ。兄さんたちが帰って来るまでだ。人助けだと思って協力してくれないか」

「悪事の片棒を担ぐことは人を助けることにはなりませんし、それを人助けとは言いません」

「……わかった。わかったよ。一人で行く」


 まるで子供のように拗ねた顔をして口を尖らせたロコッドを見て、ミアーナは大きなため息を吐いた。


「行かないとは言っていません」

「ほ、本当に⁉ ありがとう! あ、あの、わかっていると思うけど、僕とルイティーの仲については内緒にしておいてほしい。あくまでも僕と君が上手くいっているように見せたいんだ」

「……本当に自分勝手な方ですわね」


 ミアーナは大きく息を吐いて、小さく呟いた。


「え? なんて?」

「独り言ですのでお気になさらないでください」

「気になるけど、まあ、いいか。聞かなかったことにしておく! 先方には二人で出席するように伝えておくからね。当日になってやっぱり嫌になったとか言い出すのはやめてくれよ?」

「そんな子供のようなことはいたしません。それよりも、後悔しないでくださいませね」

「え? 今なんて言った?」


 またもやぼそりと呟いたミアーナの声が聞き取れず、ロコッドは聞き返した。


「ふふふ。何でもありませんわ。楽しみにしておきますわ」


 満面の笑みを浮かべるミアーナを見て、嫌な予感がしたロコッドだったが、深く考えることはせずに彼女の部屋を後にした。



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