宝石の精霊が異空間で宝石クイズをする話
【ストーンアテナ(Stone Athena)】
宝石に宿る精霊が、地球を守る為に人の姿となった状態。
世界は、地球侵略を目論む宇宙人一族の脅威にさらされていた。
人間たちが応戦し戦況は有利ではあるものの、いたちごっこが続いており、敵を掃討しきれずにいる。
そこで人々は、地球が作り上げた神秘の存在である宝石に力を借りることにした。
各国それぞれにストーンアテナを召喚していたが、ここ日本では、国産宝石の代表ロッククリスタル(無色透明の水晶)の精霊と交渉をし、様々な国産宝石たちが援護してくれる運びとなった。
日本国産のストーンアテナは、瞳の光彩に桜の模様があるのが特徴である。
◇
僕の仕事は神和。
ストーンアテナの主として政府から拠点用の屋敷を与えられ、要請に応じてアテナたちを戦場等に派遣するのがその役目。
元々鉱物や宝石が好きで志願し、無事にストーンアテナを召喚できたという訳だ。
「今日の新しい出動要請は一件だけか。誰に行ってもらおうかなあ」
「主様、お茶をお持ち致しましたわ」
「ありがとう、ロードナイト」
ロードナイトか。
昨日は別の宝石に行ってもらった所だし、彼女に頼もうかな。
「ロードナイト、今日出動できそう? 場所はちょっと遠いけど、宇宙人の数は少ない案件で出動要請が来てるんだ」
「勿論、大丈夫ですわ。お任せくださいませ」
「じゃあ、お願いするよ。ペアの希望はある?」
「わたくしが決めて宜しいのでしたら、ディアちゃんが良いですわ」
「オブシディアンね、分かった。君たち、仲良いよね」
そこでふと、僕はあることを思い出す。
「……寄り道しないで、まっすぐ帰って来るんだよ?」
「まあ、主様ったら。そんなこと致しませんわ」
「いや、この間したでしょ。たまたま別のストーンアテナ部隊と遭遇したからって、写真撮りまくってきたじゃん……」
「あれは本当に幸運でした。まさか他所属の、日本産ストーンアテナにおける四大宝石アテナちゃんに逢えるなんて……念の為に一眼レフを持参していて正解でしたわ」
「出動の際に、念の為持っていくものじゃないよね? それに、よそ様のアテナの邪魔しちゃ駄目だよ」
「双方ともに宇宙人討伐の任務が済んだ後、出逢いましたのよ。先方に撮影の許可はちゃんと取りましたし」
「君だってストーンアテナなのに、何だってそうストーンアテナオタクなの……」
「それは、アテナちゃんたちが強くて美しくて最高に素敵だからですわ!!」
「そっかあ……」
僕も宝石たちは大好きだし大切だから、気持ちは分かるけれども。
「主さん、頑張って」
「オブシディアン!」
「まあでも、主さんだって一眼レフ買ってあげたりしてるんですから、これくらいは想定範囲内じゃないですか?」
「いやいやいや……! オブシディアンにもソーラーマスコットの玩具あげたけど、持ち歩かないでしょ」
「あれは眺めて楽しむ置き物なので……」
「ではそろそろ、わたくしたちは出動致しますわ。ディアちゃん、参りましょう」
「はあい」
「オブシディアン。ロードナイトが寄り道しそうになったら、ちゃんと止めてね! あと無事に帰ってきてね!」
「善処します」
こうして二人は出動していった。
戦力的には何も問題ないのに、僕は何を心配しているんだろう……?
◇
ロードナイトとオブシディアンの前に、宇宙人たちが現れた。
「行きますわよ! サーペント・ローズ!!」
ロードナイトの操る薔薇の蔓が宇宙人を捕らえて粉砕し、
「レプス・アロー!」
オブシディアンの放つ黒い硝子の矢が宇宙人を突き刺せば、宇宙人たちは塵となって消える。
「絶好調ですわ!」
「終わったから帰る……」
この二人は実のところ、『日本産アテナイレブン』と呼ばれるくくりに入る程度には強いストーンアテナたちだった。
「あっ、あそこにいるのはもしや……」
そんな折。
声を上げるロードナイトに、オブシディアンが振り返る。
「どうしたの?」
「日本産四大宝石のガーネットさん、サファイアさん、トルマリンさん、トパーズさんですわ! また会えるなんて、わたくしは何て運がいいのかしら……!」
「この間会ったアテナたち……じゃないよね。勿論ウチの屋敷の皆さんでもないし」
「ええ、また別の個体のようですわね。尚更、ラッキーですわ」
ロードナイトはそう言って、新たに出会った四大宝石たちに近づいていく。
「もー……私、ここで待ってるよ?」
「分かりましたわ! すぐ戻ります!!」
「足はや……って、あれ?」
その時オブシディアンは、妙な引っかかりを覚えた。
(何かあのアテナたち、エネルギーが変? この間の他所属の四大宝石は、凄く綺麗なエネルギーだった。あんな風に淀むほど疲れてるとか……?)
オブシディアンが見つめる先で、ロードナイトが件のアテナたちに声をかけようとしている。
「お待ちになって、皆様。突然失礼致しま……」
その瞬間、不意に四大宝石のストーンアテナの姿が消えて。
禍々しい時空の歪みが口を開ける。
「え」
「ドナちゃん!」
オブシディアンが急いで駆け寄り、ロードナイトの腕を引っ張るが……
「きゃあーっ!!」
「わあっ!」
力及ばず、二人は時空の歪みに吸い込まれていった。
――そうして目の前に現れたのは、人気がないのに騒がしい煌びやかなステージ。
『美しい宝石が欲しいかえ?』
『宝石を手にするには、相応の知識がなければのう』
『お前たちに宝石を持つ資格があるのかどうか、見定めてやろうぞ』
こじんまりとしたドクロがふよふよ浮かんできて、そんなことを言ってくる。
「……うっざ」
「何ですの、これは?」
「コレは知らないけど、さっき時空の歪みに落ちたから、変な所に来ちゃったんじゃないかな」
「あのアテナちゃんたち、罠だったんですのね……ごめんなさい、ディアちゃん」
「いいよ、私も気づかなかったから。とりあえず、早く帰りたいからやってみる?」
オブシディアンに促されてロードナイトが顔を上げると、ドクロは消えてステージには大きなボードが出現していた。ボードには次のように書かれている。
――宝石クイズに挑戦しよう! 正解すると素敵な扉が開くぞよ。
「素敵な扉……?」
「元の場所に帰れるかなと思って。出口よく分かんないし」
「なるほど、そうですわね。やってみましょう。アテナちゃんに関することで、わたくしに答えられないことなんてありませんわ!」
「さすが」
そんな訳で何故か二人は、異空間で宝石クイズをすることになった。
【第一問】
薔薇が名前の由来になっている宝石は、次のうちどれ?
1.メノウ
2.ロードナイト
3.ムーンストーン
「本人を前にしてよく言う」
「全くですわね。この三択なら、わたくししかおりませんわ」
正解:ロードナイト
【第二問】
ガーネットの和名は何と言う?
1.柘榴石
2.紅玉
3.桜石
「ガーネットさんが自作するザクロジュースは、絶品ですのよ!」
「美味しいよね」
正解:柘榴石
【第三問】
西瓜のような色をした『ウォーターメロン』は、次のうちどの宝石?
1.トパーズ
2.サファイア
3.トルマリン
「スイカ電池ってあった気がする」
「電気を起こせるなんて、トルマリンさんは本当に凄い宝石ですわ」
正解:トルマリン(ウォーターメロントルマリン)
【第四問】
トパーズの名前の由来と言われている言葉は、次のうちどれ?
1.探求
2.羅針盤
3.安定
「トパーズさんの好奇心旺盛さって大好きですの」
「安全靴履いてるし、探し求める為の装備が完璧だよね」
正解:探求
【第五問】
ダイヤモンドの次に硬い『硬度9』の宝石は、次のうちどれ?
1.トルマリン
2.サファイア
3.ガーネット
「秘めたる強靭な能力。はあ、尊い……」
「サファイアさんは耐久性を表す靭性なら、ダイヤさんより上なのが凄いと思う」
正解:サファイア
【第六問】
刃物としても使われていた宝石は、次のうちどれ?
1.黒水晶
2.黒玉
3.黒曜石
「この選択肢の、黒いの集めました感」
「ディアちゃんは、かっこいい宝石ですわ!」
正解:黒曜石 (オブシディアン)
【第七問】
次のうち、水晶にないものはどれ?
1.幻影水晶
2.玉鋼水晶
3.松茸水晶
「水晶はバリエーション豊かで、奥深い宝石なのですわ」
「形とか模様とか、覚えきれない……」
正解:玉鋼水晶(幻影と松茸は存在します)
――そこで問題は途切れ、周囲の景色は一変した。
「わ、出れた。清々しい空気」
「はー、ホッとしますわあ……」
「時空の歪みが消えてるね」
「長く同じ場所には留まらないらしいですし、出られて本当に良かったですわ」
二人が安堵のため息を吐いていると、背後から声がかけられる。
「よく頑張ったな、君たち」
「「クリスタルさん!」」
そこにいたのは、日本産宝石代表のロッククリスタルだった。
「引っ張り上げようと思ったが、自力で出られそうだったから見ていたんだ。今後は気をつけるんだぞ。歪み自体は自然現象だが、中に落ちた悪意が餌を見せておびき寄せようとすることもある。今回のように」
「はーい……」
「肝に銘じますわ……」
「ふふ。では君たちの屋敷まで送ろう」
ロッククリスタルはそう言うと、二人を屋敷の玄関まで送ってくれた。
◇
「ただいま戻りましたわ、主様」
「ただいまです」
「お帰り。二人とも、お疲れ様。怪我とかない?」
「大丈夫ですわ」
「大丈夫です」
「そっか、無事で良かった」
玄関先でそんな会話をしていると、後ろから賑やかな足音が聞こえてくる。
「ロードナイトもオブシディアンも、お帰り」
「やっと帰ってきたね!」
「遅くまでお疲れ様です」
「だいぶ疲労が溜まっていますね。ヒーリング致しましょう」
別の任務で各地へ行っていたトパーズ、ガーネット、サファイア、トルマリンが、口々に帰宅した二人を迎えた。
「えっ皆様、お集まりになって……何かあったんですの!?」
「皆さんより遅くなっちゃったんですねえ、すみません」
「ガーネットたちの戻りが思いのほか早かったからね。皆で待ってたんだよ」
僕が応えていると、トルマリンが素早く二人にヒーリングを施してくれる。
「何と……有難き幸せですわ! 是非この幸福を十枚程には収めたいので、一眼レフを取って参ります!」
「写真もいいけど、おやつ食べない? フルーツサンド美味しいよ!」
「そうそう。出動の後は美味しいものを食べるのが一番さ」
ガーネットとトパーズに引き止められると、流石のロードナイトも動きが停止する。
「ドナさんの好きなコーヒーゼリーもありますよ」
「オブシディアンさん御用達のカステラも、勿論用意しています」
「えっ、『コトノハ』のカステラですか?」
そしてサファイアとトルマリンが続ければ、今度はオブシディアンが先に反応した。その様子を見てやってきたのは、優雅な仕草のネフライト。
「そうだよ。美味しそうだったから、僕にもお裾分けしてくれると嬉しいな」
更にネフライトの後ろからは、メノウ、アメジスト、スピネルも顔を覗かせる。
「私はドナちゃんと一緒にコーヒーゼリー食べます!」
「ふふ、今日はおやつが沢山で迷っちゃうわね」
「ショートケーキも、美味しそうでした……」
そんなこんなで、僕らは全員でおやつタイムにすることになった。
満足そうな皆を眺めていると、僕も心が温かくなる。
こうして今日も、僕の神和としての日々は過ぎていくのだった。
―おわり―




