↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第5部:グランプリへの道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
153/185

朱色の死線、双龍の先マイ

 2030年5月14日、午後17時25分。岡山・備前競艇場。

 『万衆衆魂祭』のフィナーレを飾る、最終12レース・優勝戦。

 水面は、沈みゆく巨いなる夕陽を反射し、まるで龍の血を流したような、あるいは燃え盛る溶岩のような深い朱色に染まっていた。視界の端々には、瀬戸内の島々が黒い影となって浮かび上がり、カクテル光線がその輪郭を鋭く縁取っている。

 しかし、その絶景の裏側には、レーサーたちを震え上がらせる魔物が潜んでいた。スタンドから2マーク方向へと吹き抜ける、風速4メートルの斜め追い風だ。通常、追い風はインコースに有利とされるが、これほどの強風、しかも旋回地点で複雑に渦巻く斜めからの風は、ボートをコーナーの外側へと容赦なく押し流す。一瞬の判断ミスが、そのまま消波装置への衝突や転覆へと繋がる極限の死地。観客動員数は過去最高を記録し、全世界が固唾を飲んでモニターを見つめる中、運命の大時計が回り始めた。

「最終12レース、優勝戦! スタンドからの魔風がボートを押し出す、凄まじいイン受難の水面状況となりました!!」

 1号艇・大峰幸太郎は、百戦錬磨の技術で自艇を水面に張り付かせていた。佐賀の絶対王者たる彼は低重心の姿勢を保ち、風に煽られるのを最小限に抑えながら、虎視眈々と1マークを見据えている。彼が放つ漆黒のマブイは、風さえも押し止めるような質量を持って、1コースの守護神となっていた。

 対するは、2号艇・守屋あおいと3号艇・速水誠。昨夜、愛犬スーとヘラの共鳴から生まれた氷金のオーラは、今や二人の機体を優しく、かつ強固に包み込んでいた。俺の黄金色に輝く39号機と、あおいの氷青色に澄み渡る機体が、ピットを離れた瞬間からひとつの生命体のようにシンクロしている。

「誠くん、風が強いわ! 2マークで流されないように、私の氷の航跡をガイドにして!」

「分かっている、あおい! スー、準備はいいか。風を斬って、光の道を作るぞ!!」

 フゴッ!!

 スーは俺の膝の上で黄金の瞳を爛々と輝かせ、風の揺らぎを敏感に察知していた。

 4コースのカドに構えるのは、大阪の女王・鎌倉明奈。その後ろ、5コースには「デート」の四文字が脳内を埋め尽くし、マブイが爆発寸前の岡野銀太。 Alexander そして大外6コース、夜の帷が降りるのを待つ死神、石田健太郎。六者六様の情念が、朱色の水面で激しく火花を散らす。

「スタートしました!! ほぼ全艇、ゼロ台の超絶スタート! 誰一人として引いていない!!」

 追い風4メートルというブーストを得た6艇は、通常のレースではあり得ない体感速度で、1マークという名の断頭台へ突っ込んでいく。

「……逃がさんバイ!!」

 1号艇・大峰が、インから凄まじいプレッシャーで先マイを狙う。しかし、ここで魔物が動いた。旋回を開始しようとした大峰の艇を、スタンドからの突風が真横から叩いたのだ。王者の機体といえども自然の猛威には抗えず、ターンがわずかに、しかし決定的に外側へと膨らんだ。

「今だ!! あおい、合わせるぞ!!」

 俺の声に応じ、二人のマブイが極限まで高鳴る。

 奥義――『氷金・双龍旋』!!

 俺の39号機から放たれる爆発的な黄金マブイと、あおいの放つ冷徹な氷のマブイ。二つの相反するエネルギーが水面で激しく螺旋を描き、周囲の荒れ狂う風を吸い込み、中和する。その中心には、風の影響を受けない完全な真空の道が出現した。俺がチルト3.5の特性を活かし、黄金の翼で空へと跳ねる。あおいが氷の刃のごとき旋回で、最短距離を突く。山口支部の双龍が、絶対王者の懐を、阿吽の呼吸で同時にえぐり抜いた!!

「抜けたぁぁぁ!! 誠とあおい、二人が大峰を置いてバックストレッチへ!!」

バックストレッチ。俺とあおいの艇は、互いのマブイを増幅し合いながら、鼻先を完全に並べて併走。もはや一騎打ちかと思われたその時、さらなる混沌が牙を剥いた。魔の2マークだ。

追い風に背中を猛烈に押され、二人の艇は旋回半径を維持できず、外側の消波装置へと押し流されそうになる。

「くっ、風が重すぎる!!」

「誠、踏ん張って!! ヘラ、もっと冷気を!!」

二人が姿勢を立て直そうと必死にもがく、その一瞬の隙。そこへ、5コースから死に物狂いで展開を突いた岡野銀太が、異形の咆哮と共に突っ込んできた。

「鎌倉さぁぁん!! 僕は……僕は、あなたと……デートに行きたいんだぁぁ!!」

鎌倉に叩き込まれた全速旋回の真髄。岡野は転覆を恐れぬ突進で、俺とあおいの僅かな間を割る『執念の全速差し』を敢行した!

 【からくり競艇公式YouTube『カササギ』Template更新】

 > 【史上最大の混戦】誠、あおい、大峰、そして岡野! 2マークで全員が「愛の暴走」を繰り広げる運命の優勝戦、世界中のタイムラインが完全大パニック!!

 激動の2マークを抜け、ホームストレッチに戻ってきた順位は、未だにカオスの中にある。わずかに前に出ているのは俺の39号機。しかし、内側から虎視眈々とあおいが差し返しを狙う。あおいの瞳は、勝負師としての冷徹さと、俺への想いが混じり合い、これまでにない美しさを湛えていた。

「誠! どっちが勝っても……明日は、最高の日にするわ!!」

「ああ、あおい! 最高だ!! 最後まで、全力でいくぞ!!」

二人の間に言葉はいらない。ただ、互いの機体から発せられるマブイの鼓動が、愛の告白のように水面を震わせている。その後方では、大峰幸太郎が王者の意地を見せ、驚異的なリカバリーで岡野銀太を猛追。

「若造……愛だけじゃ、この大峰は超えられんばい!!」

3位争いもまた、恋の力か王者の風格か、一寸先も見えないデッドヒート。

 石田健太郎が背後でニヤリと笑い、闇の粒子を撒き散らしながら一角崩しを狙う中、瀬戸内の水平線へと、ついに巨大な夕陽が溶け落ちようとしていた。ピット裏の照明柱が一斉に火花を散らし、カクテル光線が灯る、その光と闇が入れ替わる逢魔が時へ向けて――運命のチェッカーフラッグまであと数秒、俺たちの黄金の王路は、ここからさらなる異次元の死闘へと突っ込んでいくんだ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。