表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第8章:黄金の波切り編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/193

第151話:寝起きの闇と黄金の太陽 ― モーニングの約束 ―

2030年5月11日、午前8時。

岡山・備前競艇場の二日目は、昨日の殺気だった熱気とは打って変わり、瀬戸内から流れ込む薄い海霧に包まれていた。

空は晴れ渡っているものの、水面近くには朝特有の重たい空気が沈殿している。昨日のメインレース、第12レースで「夜の帝王」石田健太郎の奥義『ナイトサイレンサー』に翻弄され、辛酸をなめた速水誠にとって、この朝の第1レースは単なる予選の一戦ではない。

「……リベンジ、するぞ。シロ、準備はいいか?」

誠は、愛弟子・あかりが昨夜、自分の機体の白煙を上げたエンジンの代わりに(自分のレース後だというのに!)執念で微調整を施してくれた39号機を愛おしそうに撫でた。あかりは今、医務室で泥のように眠っている。その師匠として、無様なレースは見せられない。

しかし、その対戦相手となる1号艇のピットには、およそ勝負師とはかけ離れた空気が漂っていた。


「……ミヤビ、あと5分……いや、3分……3分だけ寝かせてくれ……。世界が……眩しすぎるんだ……」

ピットのベンチに力なく倒れ込んでいるのは、東京支部のエースにして、夜の江戸川やナイターレースでは無類の強さを誇る石田健太郎だった。昨日のあの鋭利な剃刀のような威圧感はどこへやら、今の彼はただの「低血圧に悩む不摂生な青年」に成り果てている。

愛犬のパグ・ミヤビが、石田の頬を必死に舐め、時には鋭い爪で引っ掻いて起こそうとしているが、石田の意識は依然として夢の境界線を彷徨っていた。

彼の背後には、残酷な数字が突き刺さっている。

【石田健太郎:モーニングレース勝率 3.00】

夜にマブイが活性化する性質を持つ石田にとって、太陽光の下でのレースは呪いにも等しい。

「石田さん……起きる気ない? こっちは、あかりの執念を背負って全力で行きますよ!!」

誠が鼻息荒く宣言すると、そこへ大阪支部の女王・鎌倉明奈が、お揃いのリボンをつけたチワワのつがいを引き連れて優雅に通りかかった。

「石田くん、朝からその体たらくじゃ、明奈の『クリスタル・エッジ』で氷像にして差し上げちゃうわよ? あおいちゃんも、こんなに暑苦しい誠くんのお世話、毎日大変ねぇ」

「明奈さん……! 誠は、朝から元気なのが取り柄なんだから余計なお世話よ! 誠くんは私がちゃんと起こして(?)あげるから、あなたは自分のチワワの心配でもしてなさい!」

山口の女王・守屋あおいが、愛犬ヘラと共に鋭い視線で鎌倉を牽制する。朝のピットは、レース前から「女の戦い」という別の火花で熱を帯び始めていた。


その頃、人間たちの騒ぎを余所に、整備用大型クレーンの巨大な影の中で、二匹の獣が密会を行っていた。

ペキニーズのシロと、パグのミヤビである。

「フゴ、フゴフゴッ!(昨日の『ナイトサイレンサー』、正直ビビったっす。闇の深さが尋常じゃなかったっす。でも、あんたの飼い主、今マジでただの死体みたいになってるっすよ)」

シロが前脚でピットの方を指すと、ミヤビは深く、パグ特有の深い皺を寄せてため息をついた。

「フガ、フガフガッ……。(そうなのよ。うちの健太郎はモーニングだとマブイの出力が通常の10%まで落ちるの。太陽光が天敵なのよ。だからシロ……今回のレース、あなたの誠の『黄金マブイ』を、少しだけでいいから『分かち合って』くれないかしら?)」

シロは驚いて首を傾げた。

「フゴッ?(分け合う? 敵同士っすよ?)」

「フガッ!(勝ちを譲れって言ってるんじゃないわ。誠が放つ黄金の光を、健太郎の闇に少しだけ『照射』してほしいの。そうすれば、対消滅のエネルギーで彼を強制覚醒させられる。それなりの『見返り』は用意するわ)」

ミヤビが差し出したのは、備前の最高級「きびだんご風ドッグトリート」。

シロはしばし考えた。誠のリベンジは、相手が万全であってこそ意味がある。それに、この提案に乗れば「面白いこと」が起きそうだ。

シロはニヤリと不敵に笑い、ミヤビと「肉球」で契約を交わした。


「第1レース、予選発走! 1号艇は闇の帝王・石田! 2号艇にはリベンジに燃える山口の龍・速水誠! 帝王は朝の呪いを克服できるか!?」

大時計の針が動き出す。

1号艇の石田は、まるで幽霊のように覚束ない手つきでレバーを握っている。

一方、2号艇の誠は、シロから伝わるかつてないほど「温かく、拡散するような黄金の光」に包まれていた。

「シロ……今日のは、突き刺す光じゃない。包み込むような……まるで太陽そのものだ!」

スタート!

コンマ05。誠が完璧なトップスタートを決める。

石田は完全に立ち遅れた。しかし、誠は1マークの手前で、あえて石田の懐を深く開けるような軌道を取った。

誠の39号機から、爆発的な黄金のマブイが放射される。それは攻撃の波動ではなく、周囲の霧を払い、石田の1号艇を真昼のような光で照らし出す「救済の閃光」だった。

「……ま、眩しい……。ん……ミヤビ? ああ、そうか、仕事中か……!」

光を浴びた石田の闇のマブイが反転し、強制的に意識が覚醒する!

しかし、その時にはすでに誠の黄金のトビウオは、石田の頭上を遥かに越える高さで旋回を開始していた。

「遅い、石田さん! 朝の王座は僕がもらいます!!」

誠の旋回は、あかりが調整したエンジンの高回転を完璧に伝え、1マークを抜けた瞬間には石田を5艇身以上突き放す独走態勢に入った。


「速水誠、独走!! 闇の帝王・石田を完封! そして3番手争い、4カドから愛知の新星・岡野銀太が、大阪の女王・鎌倉明奈を鮮やかな捲り差しで仕留めたぁぁ!!」

からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 【朝の逆襲】速水誠、寝起きの帝王・石田を太陽の光で完全粉砕! 岡野銀太の衝撃の捲り差しで3連単は大荒れ! 累計PVは2億5,000万を突破!! 誠の黄金が備前の霧を晴らした!!

>

【第1R:最終結果】

| 順位 | レーサー | 状態 | 備考 |

| 1着 | 速水 誠 | 絶好調 | 朝の弱点なし。黄金マブイで場を支配。 |

| 2着 | 岡野 銀太 | 覚醒 | 鎌倉の前でいいところを見せたい一心で爆走。 |

| 3着 | 鎌倉 明奈 | 驚愕 | 「岡野くん……あんなに図太かったかしら?」 |

| 4着 | 石田 健太郎 | 強制覚醒 | 「……朝飯は、何だ?」 |

ピットに戻ってきた誠は、充実感に満ちた表情で艇を降りた。

しかし、コクピットの足元を見つめ、不思議そうに首を傾げる。そこには、なぜか石田の愛犬・ミヤビが付けていたはずの「小型ゴーグル」が落ちていたのだ。

シロがそれを器用に口で拾い、「フゴッ」と誇らしげに誠へ差し出す。

「あ、石田さんのミヤビのゴーグル。……変だな、シロ。石田さん、昨日のナイトレースではあんなに怖かったのに、今日はなんだか……光を求めてるみたいだった」

誠はまだ知らない。

これが、備前の裏側で始まった「獣たちの外交」の第一歩であることを。

そして、この貸しが、後に続く石神正広との決戦で大きな意味を持つことを。

「あかり、勝ったよ。……あかり?」

医務室のベッドで、「ギャルは……寝るのが……仕事っす……」と寝言を言う弟子を、誠は優しく見守るのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ