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からくり競艇 ~黄金の波切り、魂のフルスロットル  作者: 水前寺鯉太郎
第8章:黄金の波切り編

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第149話:備前の水面に描く「V」 ― 万衆衆魂祭、予選1R ―

2030年5月10日。岡山・備前競艇場、第1レース。

通常、予選の初戦といえば、機力の手応えを確かめ、無難にポイントをまとめる「顔見せ」の場である。しかし、三連覇という重圧を背負った速水誠に、そんな常識は通用しなかった。

備前の潮風が、潮の満ち引きと共に不気味な唸りを上げる中、ピットから離れた6艇の機艇。

観客席からどよめきが上がったのは、待機行動に入った直後だった。

「1レース、予選! 注目は白の1号艇、速水誠ですが……なんと、誠が大きく外に持ち出した! 自身のインコースを完全に放棄! チルトを3度に跳ね上げ、あえて、あえての6コース進入だぁぁ!!」

実況が裏返った声を出す。三連覇を狙う王者が、最も有利な1コースを捨て、最も遠い大外に回る。それは戦術的な奇策を越えた、全出場選手に対する、そして備前の神に対する「修羅の道」への挑戦状であった。


誠が6コースに構えたその視線の先には、2号艇に陣取る愛知の死神、水谷佳恵の姿があった。

彼女は「マブイネービラ」――マブイを一切持たず、純粋な操縦技術と空力制御のみで空を飛ぶ者。誠がチルトを跳ね上げた意図を、彼女は瞬時に理解した。

「誠くん、面白いことするじゃない。マブイがない私に対して、マブイを封印し、純粋な技術チルトで勝負を挑むっていうのね。……生意気な後輩には、空の厳しさを教えてあげないと」

水谷の2号艇から放たれるのは、マブイの光ではない。エンジンの超高回転が生む、凍りつくような「風」の圧力だ。

対する誠の6コース。チルト3度に跳ね上げられた39号機のプロペラが、水面を激しく叩き、飛沫を黄金色に染め上げる。

「シロ、今日はマブイで押すんじゃなく、風に乗るっす。僕たちの『翼』の精度を、ここで証明するっすよ」

(……分かってるぜ、誠。お前の指先と俺のマブイを同期させて、空間の『糸』を掴んでやる。……行くぞ!)

進入は123/456ではなく、水谷が内を突き、西野がカド、誠が大外という、変則的な**「234/516」**の形へと崩れ、嵐の予感を孕んだままスリットへと向かった。


「スタートしました! 内側、2番水谷が鋭い飛び出し! センターからは西野の『爆炎』が火を吹く! しかし、大外6コース……速水誠の加速が、もはや物理の域を超えている!!」

誠はチルト3度が生み出す強烈な浮力を、異常振動症による「肉体の同調」で制御した。

水面との接地抵抗を極限まで排除し、艇体はもはや水の上を走っているのではなく、数ミリの空気の層を滑っている。シロが「フゴッ!」と短く、気合のこもった咆哮を上げると、39号機はスリット手前で他艇を置き去りにする、トビウオのような異次元の伸びを見せた。

4号艇、西野貴志の「爆炎」が1マークを強引に飲み込もうとハンドルを入れる。

その瞬間、誠はハンドルを極限まで引き絞り、上体を前方へ。かつて東京支部の「空飛ぶレジェンド」濱田一翔が誇った伝説の奥義に、自身の「スカイ・ハイ」を融合させた新次元の技を解き放った。

『奥義:スカイ・ハイ・Vモンキー』!!


「なっ……曲がった後に、さらに浮いた!? 濱田のVモンキーを超えた、完全なる空中の鋭角旋回だ!!」

誠の機体は、1マークの頂点で一度停止したかのような錯覚を観客に与えた直後、物理法則を無視するように鋭角に折れ曲がった。

通常のモンキーターンは遠心力を抑えるためのものだが、誠のそれは、遠心力をそのまま「上昇気流」へと変換し、空中を蹴って旋回半径を最小化する。

Vの字を描くように空中に刻まれた黄金の軌跡。

内側にいた西野の炎も、水谷の精密な風も、下野のハッキングも、誠が上空から叩きつけた「黄金の引き波」によって一瞬にして飲み込まれた。

「あいつ、本当に人間か!? 爆炎が届く前に空へ逃げられた!」

西野の叫びがバックストレッチに響く。

水谷佳恵は、自身の真上を通過した39号機の航跡を見上げ、その唇を微かに震わせた。

「マブイ1,000でこれだけの挙動……。誠くん、あなたはもう、ネービラ(無の境地)に近い領域に、片足を突っ込んでいるわ」


からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新

> 【衝撃のV】速水誠、予選初戦から6コース・チルト3度を敢行! 全艇を頭上から飲み込む『スカイ・ハイ・Vモンキー』が炸裂! 累計PVは初日にして1億5,000万を突破! 備前の海が、山口の黄金に染まった!!

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【第1R:最終結果】

| 順位 | レーサー | マブイ消費/状態 | 備考 |

| 1着 | 速水 誠 | 80%(技術特化) | 6コースからの捲り差し。三連覇へ完璧な発進。 |

| 2着 | 西野 貴志 | 爆炎全開 | 「空中戦は反則バイ!」と叫びつつ食らいつく。 |

| 3着 | 水谷 佳恵 | 安定の風 | 「次は地上に引きずり下ろしてあげるわ」 |

| 4着 | 下野 慎太郎 | 演算エラー | 誠のV字軌道の解析に失敗し、旋回が膨らむ。 |


ピットに帰還した誠を待っていたのは、割れんばかりの歓声……ではなく、押し潰されるような沈黙だった。

あまりにも現実離れした勝ち方に、対戦相手たちは恐怖すら抱いていた。

「誠、ナイスレース……。でも、今の走りで石神(正広)さんの『目』が完全にあなたをロックしたわよ」

守屋あおいが心配そうに駆け寄る。その視線の先には、ピットの最奥で腕を組み、微動だにせずモニターを見つめる男――コアマブイ53,000を誇る怪物、石神正広の姿があった。

「分かってる。でも、僕とシロがこの備前でやるべきことは変わらない。……風が吹こうが、炎が舞おうが、最短で空を駆けるだけだから」

誠はヘルメットを脱ぎ、額の汗を拭った。シロが「フゴッ」と短く鳴き、誠の足元を力強く踏みしめる。

三連覇への第一歩は刻まれた。しかし、備前の「魂を喰らう祭り」は、まだ序曲を奏で始めたばかりに過ぎない。


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