第135話:佐賀の疾風、山口のワンツーを砕く ― 宮地明、ビーグルの追撃 ―
2030年4月21日、16時10分。
江戸川競艇場、第11レースは最終周回のホームストレッチに差し掛かっていた。
大外からの『空中先マイ』という神業で、西野と大峰の九州包囲網を突破した速水誠。その後ろには、氷の霧を纏い鉄壁の援護を見せる守屋あおいが続き、水面は完全に山口支部の支配下に置かれたかに見えた。
カクテル光線が黄金の飛沫と白銀の氷片を照らし出し、山口ワンツーフィニッシュを確信したファンが歓喜に沸く。しかし、その「山口の聖域」を真っ二つに切り裂こうとする一筋の閃光があった。
大峰幸太郎の弟子であり、佐賀支部きっての負けん気を誇る若き疾風、宮地明である。
「誠さん……それに守屋先輩。山口に江戸川のすべてを持っていかれるなんて、佐賀の人間として、大峰さんの弟子として、絶対に許さんバイ!!」
宮地の3号艇には、耳をなびかせ凛々しく前を見据えるビーグルの**「毅」**が同乗していた。毅の放つ「闘争のマブイ」が宮地の精神と共鳴し、機体のウォーターポンプ圧を設計限界まで引き上げる。その圧力は周囲の泥水を瞬時に蒸発させ、艇の周囲に高圧蒸気のクッションを作り出した。
「行け、毅! 空間ごとブチ抜け!!」
『奥義:佐賀流・ビーグル・ドライブ』!!
物理的な水面との摩擦を極限まで減らした宮地の艇は、もはや「走る」というよりは「滑空」に近い挙動を見せた。それは凍った水面を滑るあおいの氷属性の旋回をも凌駕する超加速。宮地は、誠とあおいの間に生じた、針の穴を通すようなわずかなマブイの隙間へと特攻を仕掛けた。
「私の誠くんに触らないで!!」
誠の真後ろに迫ったあおいが、鋭い嫉妬の氷霧を撒き散らし、宮地の進路を物理的に凍結させて牽制する。しかし、宮地はその極寒の壁を前にして不敵に笑った。
「あおい先輩、そのマブイ、逆利用させてもらいますバイ!」
宮地はあおいが放った氷の霧を、自身の高速回転するプロペラで逆に粉砕。砕け散った氷の刃を後方へ弾き飛ばすことで、後ろから追いすがる西野や大峰の視界をカットする「盾」に変えたのだ。そのままの勢いで、宮地の3号艇は誠の右サイド、心臓部とも言える「懐」へとねじ込まれた。
「っ、宮地さん……! どこからっすか、そのスピードは!!」
(誠! 右だ! あの犬野郎、ただの速さじゃねぇ。マブイを極薄の刃にして、空間の抵抗を『すり抜けて』やがる!!)
シロが黄金の紋様を震わせ、警鐘を鳴らす。
誠は、あかりが開発したバイオ・サスペンションの減衰弁を極限まで締め上げた。
自身の異常振動症がもたらす「痙攣」を、あえて制御せずに機体のフレームへ伝播させる。その激震を右側のカウルへ集中させ、物理的な衝撃波として放出した。
「これ以上は、一歩も通さないっす!!」
だが、宮地の「負けん気マブイ」はその衝撃をも真っ向から受け止めた。
「通るバイ! 俺が通ると決めた道だ!!」
激突せんばかりの距離で、3艇が横並びになる異常事態。時速100kmを超える極限状態の中で、マブイとプライドが火花を散らす。
からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新
> 【カオス】山口支部vs佐賀支部、怒涛のラスト争い! 宮地明が誠とあおいの間を貫く! 累計PVは8,500万を突破!! この勝負、全く読めない!!
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ゴール板まで残り200メートル。
「俺は……大峰さんの弟子バイ! 山口の独走を許して、大峰さんの涙をこれ以上見せるわけにはいかんとよ!!」
宮地明の咆哮と共に、ビーグルの毅が天を仰いで吠えた。
宮地のコアマブイが機体のリミッターを焼き切り、エンジンからは真っ赤な火柱が上がる。プロペラは蒸気の悲鳴を上げながら、理論上の最高回転数を遥かに超える異次元の領域に到達した。
その瞬間、宮地が放つ超高周圧の衝撃波が、誠の『泥杭』が掴んでいた水面のグリップを粉砕した。
「っ、足元を掬われた……!? 宮地さん、どこまでマブイを注ぎ込んでるんだ?」
誠の39号機が水面で跳ねる。安定を失ったコンマ数秒、宮地の3号艇がグイと前に出た。
ゴールライン目前。
誠、宮地、あおいの3艇が、もはや一塊の光となって重なり合う。
誠はシロの古代紋様を最後の一滴まで絞り出し、機首を強引に前へ突き出した。
あおいは嫉妬の炎を漆黒の推進力に変え、誠の背中を守るように猛追する。
しかし、宮地は、ゴール直前で一瞬だけ「脱力」を敢行した。
それは、石田健太郎の「ナイトサイレンサー」にも通ずる、全ての自我を捨てた無音の航法。全ての抵抗を捨て、ただ一筋の「意地」となった3号艇が、誠とあおいの間を滑り抜けた。
――パァァァァン!!
ゴール合図の爆音。
あまりにも際どい、肉眼では判別不能な飛び込み。
江戸川の全観客が息を止め、掲示板の「写真判定」の文字を見つめた。
数分間の沈黙。そして、掲示板にオレンジ色の灯が灯る。
「確定が出ました! 1着、3号艇・宮地明! 2着、1号艇・速水誠! 3着、2号艇・守屋あおい!!」
わずか数センチ。
ハナ差。
宮地の狂気的な「負けん気」が、山口支部の「王」と「女王」を、ゴール寸前で差し切ったのだ。
5. レース終了:敗北の温もり
「……やった。やったバイ、大峰さん……!!」
宮地はヘルメットを脱ぎ、マブイを使い果たして震える手で、相棒の毅を抱きしめた。
一方、誠はゴール後にゆっくりと失速し、シロと共に大きく肩で息をしていた。黄金の紋様は消え、全身に重い疲労感がのしかかる。
「……負けた。完璧に、差し切られた……」
(……誠、気にするな。あのガキ、今の一瞬に魂を十数年分詰め込みやがった。ありゃあ技術じゃねぇ、純粋な『意地』の勝ちだ。……だが、次はねぇぞ)
シロが誠の膝を軽く叩く。誠はその温もりを感じながら、逃げていった3号艇の背中を、悔しさと共に尊敬の念を込めて見つめた。
からくり競艇公式YouTube『カササギ』PV更新
> 【大逆転】宮地明、山口の双星を撃破! ハナ差の死闘に江戸川が震える! 累計PVはついに1億の大台に到達!! 誠、屈辱の2着からどう這い上がるか!?
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ピットに戻った誠を出迎えたのは、悔しさに顔を歪めるあかりだった。
「師匠、詰めが甘いっす! あと0.01秒、マブイの噴射角を絞っていれば勝てたっすよ! すぐに調整し直すっす!!」
あかりは既にスパナを握り、自分の機体を整備後に39号機の心臓部へと潜り込んでいく。
その後ろでは、あおいが静かに、しかし地獄の底から響くような冷たいマブイを練っていた。
「誠くんを差し切るなんて……。宮地くん、いい度胸ね。次は私が、その生意気な加速ごとカチコチに凍らせてあげるわ」
誠は苦笑いしながらも、心の中では宮地が見せた「脱力」と「意地」の走りを反芻していた。
(今の俺に足りないのは、あの一瞬の『捨て身』のマブイか……)
江戸川・SGマブイ開花賞。
宮地明という新たな強敵の出現により、山口支部の独走状態は打ち砕かれた。
だが、その屈辱こそが、王者をさらなる高みへと押し上げる最高の燃料となる。
【第11R:レース終了後の最終リザルト】
| 順位 | レーサー | 状態・コメント |
| 1着 | 宮地 明 | 満身創痍。師匠に捧げる執念の1勝。 |
| 2着 | 速水 誠 | 敗北。しかし宮地の「無音の脱力」にヒントを得る。 |
| 3着 | 守屋 あおい | 怒りの頂点。「次、誰が誠くんに触っても凍らせるわ」。 |
「(兄貴、いい負け方だ。完璧すぎる奴には、江戸川の女神は微笑まねぇからな)」
堤防の上で、健吾が不敵に笑い、自らの愛機(自転車)のペダルを漕ぎ出した。
予選はまだ終わらない。次なる戦いは、さらなる泥沼の、さらなる高みへ。




