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口笛は死神のメロディー

私は、A市の郊外で小さなスナックを経営している。仕事の合間に趣味で小説を書いては、懸賞小説などに投稿をしているが、いまだに最終選考にも残った事がない。


午後7時過ぎ、スナック箱舟のドアが開いて、一人の男が入って来た。

「いらっしゃい・・・あっ、貴方は確か・・!?」

「こんばんは、その節はお世話になりました。」

そう言って、男はカウンターの隅に座った。

「はいどうぞ、白羽さんでしたね・・。」 

私はおしぼりを差し出し言った。

「お飲み物は・・・。」

「水割りを下さい・・・この前の警察官の人は、今日は来ないのですかね。」

「友寄さんですか、彼は警視庁に栄転になりましたので、もう来る事はないでしょう。」

私の複雑な笑顔を見て、白羽は言った。

「そうですか、寂しくなりましたね。」

「はい、お待たせしました。白羽さんは、またこちらの大学の講師に?!」

私は水割りを白羽の前に置きながら聞いた。

「明日、A大学で心理学の講演があります。」

そう言って白羽は水割りに口をつけた。


「何か不思議な話とかは、職業柄知っていないのですか?」

まだ時間が早く、常連客きゃくが来ないので、場を持たせるため私は聞いた。

白羽は空になったグラスを、私に差し出しながらにっこり笑った。

「そうですね、この前は私が楽しませてもらったので、今日は過去に私が関係した出来事のうち、摩訶不思議な事件、いや、事件にはなっていないのですが、その摩訶不思議な事をお話しいたしましょうか!?。」

私は頷き、水割りを作って白羽の前に置いた。

白羽は目の前に置かれた水割りを手に取り、静かな口調で話し始めるのであった。


以下は、白羽の話した話を私が小説風に書き換えたものである。


美しい女性がいた。

仮に名前を映子としよう。

唯美しいだけでなく、可愛さと謙虚さを兼ね備えており、とある一流会社のアイドル的な存在であった。

半年後に、人気歌手との結婚を控えて全てが薔薇色に輝いている。

そして明日は朝一番の新幹線で、関西へ婚約者と、二人きりの旅行に行く予定である。


その夜、映子は期待と不安でなかなか寝付かれなかった。

時刻は午前一時を少しまわっている。

「明日は報道関係の人達には、気づかれていないのかしら・・・。」映子は寝返りを打った。

と、その時。

何処からともなく、映子の耳にもの哀しい口笛らしき音色が聞こえて来た。

映子はベットの上で上半身を起こしてあたりを見回した。

「だ・・誰・・?!」

映子は身構えた。部屋の片隅に、黒いマントを羽おった男が立っていたのだ。

映子がおびえていると、男は映子に近寄り物静かな声で囁いた。

「私の名はK・L人間たちは私の事を”死神”とも呼ぶ・・・。」

”・・死神・・・。”

映子は頭の上から金槌を打ちおろされたようなショックを受けた。

「・・その死神が、私になんのようなの?!」

やっとの思いで映子は声を絞り出し、聞いた。

K・Lと名乗った死神は、ベットの上で震えている映子を見ながら話しだした。

「お前は美しい・・・。私の国、つまり闇の世界の女王Q・N様がお前の美しさを妬み、その美しい顔をこの世では二度と見られないような、醜怪な顔に変えてやると申して居る。」

そこで一度死神は言葉を切り、映子から目をそらしながら呟いた。

「・・・私の妻にならぬか!?」

映子は金縛りにあったように、ただ呆然と死神を見つめている。

「私の言った意味が解らないのか?お前は女王に顔を潰されるのだぞ・・・これは変えられぬ事実なのだ。」

死神はいらだちを押さえて言った。

「顔を潰される・・。」

「そうだ、この世で一番醜い顔になるのだ。」

「嫌です。なんで私が・・・。」

一瞬映子の脳裏に、婚約者である若林の顔が浮かんだ。

死神はニヤリと笑い。

「私と一緒に闇の世界に行かぬか!?闇の世界では顔は存在しない、その見る人物ものの心がその顔となって見えるのだ。つまり私には今のままのお前が見えて、顔を潰して優越感にしたっている女王には、お前は醜怪な化け物に見えるのだ。」

「嫌です!私には婚約者がいるのです。心から愛し合っています。たとえ私の顔が醜くなろうとも、愛してくれると思いたいのです。」

映子は声を振り絞って言った。

死神は哀しそうに目を伏せた。

「そうか・・・・・それなら仕方がない。もし、気が変わって闇の世界で私の妻になってくれるのなら、いつでもこの口笛を吹いてくれ、何処に居ようともすぐに迎えに来る。」

哀しく哀愁漂う口笛が聞こえたかと思う間もなく、映子の目前から、死神と名乗った男は消えていた。



東京7:00発新大阪行きの700系のぞみ203号が、京都を過ぎたあたりで、別れ話のもつれから中年の男性が硫酸を取り出し連れの女性にかけようとしてもみ合いになり、近くに座っていた女性の頭から誤って硫酸がかかってしまい、半日にわたり下りのダイヤが混乱した。

尚、頭から硫酸をかぶった女性はすぐに病院に運ばれたが顔が焼け爛れており重症との事である。



「先生?!このはどうなるんですか?」

ここは、病院の個室。

ベットの上には顔を包帯で巻かれた女性が眠っている。

そして、四十過ぎの婦人と二十代後半の男性が心配そうに寄り添っている。

生命いのちには別状ありません・・・が、顔の皮膚が”グチャグチャ”に破壊されており、現代医学では手の尽くしようがありません。」

医師はそう言うと、二人に一礼をして出て行った。

長い沈黙の後・・・・・・重苦しい空気の中、男が沈黙を破った。

「お母さん、映子さんとの結婚はなしは白紙に戻さしてもらいます。」

男はそう言った後、病室のカーテンから外を見て呟いた。

「クソっ・・・報道陣ハイエナ共がもう嗅ぎつけてやがる・・・。」

母親がそんな男を見ながら、哀しく頷いた時。

病室の中から、もの哀しそうな口笛が聞こえて来た。

母親と男性はベットで寝ている女性を見た。包帯の隙間から目が虚ろに開き涙が溢れている。

「映子、気がついたの・・・大丈夫よ、きっと治るわよ!ほら、若林さんも側に居るのよ・・・。」

しかし、映子の瞳と唇は永久に閉じたままで何も言わなかった。

「え、えいこ?映子!・・・先生映子が映子がおかしいんです。」

母親は病室を飛び出して行った。


映子の死因は急性心不全と診断された。

その後母親は精神に異常をきたし、某精神病院に入院して、その後、娘の後追うようにして心不全で亡くなったとの事である。

亡くなる前日に一人の男が母親に面会をしていた。

「私は映子さんの友人に頼まれてきました。」

「はい、映子は優しい子でした。」

「映子さんはその友人に、死神に会ったと云ったそうです。」

母親はビクッと身体を震わせた。

「貴女が暗示にかけたのですね・・・?!」

「はい、映子は優しい子でした。」

「私が少し調べたとこによると、あなたたち親子は本当の親子ではない。しかも、あなたたち二人は憎み合っていた。」

「はい、映子は優しい子でした。」

「貴女は映子さんが幸せになるのが許せなかった。それで、死神と云う暗示をかけ、偶然にも旅先で事故に遭った映子さんはこの世を悲観した。しかし、私の調査によると映子さんの死は唯の心不全ではない、貴女が薬を飲ませたのでしょう・・・・この精神病も演技なのですね?!」

「はい、・・えいこは・・やさし・・い・・」

母親は嗚咽をしだした。

「わたしの枕もとに・・・昨夜・・死神が来ました。・・。映子は闇の世界で幸せだそうです。私も連れて行って・・と頼みました。」

そう言って母親は、笑顔を男に向けた。

そして、次の日に心不全の発作に襲われ、帰らぬ人となったのである。






「・・・私は間違っていたのかもしれない。」

白羽は話し終えると、残った水割りを飲みほし・・・私を見て哀しく微笑んだ。



                             (完)


















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