第45話
俺は急いで運転席の方へ駆けた。
これ、ワンマン車両だったんだ。だから運転席に入れたんだ。とはいえ、よく動かせたなあ。
「池谷君!」
「あ、石狩君、よかった。あいつ、乗って来なかったよね」
「え? うん……そ、それよりこれ……」
「ああ。俺さ、ホントは鉄オタでね。一回運転してみたかったんだよ」
え? 陽キャの頂点だと思ってた池谷君が鉄オタ?
「そ、そうなんだ……」
人は見かけによらないなあ。
「学校では必死に陽キャやってるけどさ、ホントは一人で鉄道乗ってる方が楽しいんだよね」
え? そんなこと言っちゃっていいの? 俺、言いふらすかもしれないよ……って言いふらす相手もいないか。
ってそれどころじゃない! ここから出られなきゃ意味ないし。
「俺が運転してさ、元の世界に戻れないかなって思って」
すごいなあ、やっぱり池谷君。あんなに怖がってたし、魔法少女でもないのに。すごく勇気があるじゃん。俺なんかとは大違いだよ。みんなの人気者になるのは当然だよな。たとえ中身は鉄オタだとしてもさ。
「どうしたの? 黙っちゃって?」
「あ、ああ、うん……戻れると……いいんだけど」
「さっきあいつ、変なこと言ってたけど」
「あ……ああ、うん……」
「君が何か知ってるみたいな口ぶりだったし」
「あ、ああまあ……」
「それに君、俺は魔法少女だって言ってたような……」
「え? あはは、そ、そうかな? そんなこと言ってないような……」
やば。怖がってるからつい言っちゃったけど、ちゃんと聞いてたよ、池谷君。
「まあそれよりさ、君が命張って俺のこと助けようとしてくれてただろ。あれで俺、怖がってる場合じゃないって思い直してね」
え?
そうだったんだ。
そうだよな。なに俺、思い上がってたんだろ。俺が犠牲になって助かったら、池谷君を苦しめちゃったかもしれないんだもんな。ここはもう、二人で逃げるしかないよな。
「とにかくあいつが追っかけてくる前に、電車のスピードを上げるよ」
「わかった。俺、後ろを見てくるよ」
そう言って俺は、後方の車両に向かった。
◆
「みんな、大丈夫!?」
暗闇にアイリの声がこだました。
「大丈夫!」
ミウの声が飛んだ。
「こっちに4人いるから!」
「目が慣れるまでそこ動かないで!」
アイリが叫んだ。
「やっぱりアイリだったのね」
暗闇の奥から聞き覚えのある声が聞こえ、アイリは一瞬、凍り付いた。
「あなたが魔法少女だったなんて、運命のいたずらとしか思えないけど」
「エミ! エミなのね!?」
「その名は……もう捨てた。私は名もなき魔女。あなたたちがバグデーモンと呼んでいる存在を守るためにここに来たの」
「エミ! 何言ってるの?」
「あなたを倒さなきゃならないなんて……でも、仕方ないのかな」
「アイリ! 変身だ!」
アプリの声が飛んだ。
「わかった!」
一瞬にしてアイリはミリタリー魔法少女に変身した。暗闇で見えないけど。
「ああ、それとオオカミ。よくやった。うまく全員を誘い込んでくれてありがとう」
「めっそうもありやせん、魔女様」
「オオカミ! お前、裏切ったの!」
赤ずきんのユイナが怒りの声を飛ばした。
「ああ、赤ずきん様。すいやせんね。あっしは強い方につく性分でしてね」
「お前、アプリから生まれたんじゃないの!?」
「アプリ? ああ、そいつだって元はと言えばいわゆるバグデーモンですぜ。だまされちゃいけやせん」
「え?」
「アプリ! どういうこと!?」
アイリが語気を強めた。
「え? なんのことかなあ……オオカミなんかの言うこと信じるの?」
「そりゃあ……信じたくはないけど」
「とにかくさ、魔女と闘ってよ。やっつけないとバグデーモンが現実の世界にあふれちゃうよ」
「そんなこと言っても、相手はエミなんだよ?」
「うーん、でもしょうがないよね。魔法少女の使命を忘れてもらっては困るからね」
「アイリ、バグデーモンは……」
エミがそう言った瞬間、空間はまばゆい光に包まれた。
「アイリ! この場所を奪還した。防護ドームを展開したよ」
「エミリ!」
4人も変身していた。
「エミリ……紛らわしい名前ですね」
エミは全身黒ずくめの服をまとっていた。
誘拐された小学生のときのまま、体は成長していないように見える。
「エミ!」
アイリが叫んだ。
「まずエミリさんを消去させてもらいます」
エミは冷たく言い放った。
◆
「うわっ」
後ろの車両の最後尾に行った俺は小さな叫び声を上げた。
まあ、予想してたけどさ。
バグデーモンがものすごいスピードで走ってくる。
スレンダーマンの後ろにも……八尺様とか……それに、テケテケ? あと……巨大なくねくねがいるよ……勘弁してくれ。あれ、くねくねの女王様なのかな。その後ろにもなんだかうようよいるし……。
百鬼夜行ってやつ? でもターボばあちゃんとかいなくてよかった。すぐ追いつかれちゃうもんな。
アプリ……なんとかならないのかよ……俺が変身できなきゃさ、やっぱ詰んでるじゃん。ああ、せめて毘沙門天様とか来てくれないかなあ。俺が願えば出てくるんじゃないの?
「ユート様。お助けに参上しました」
振り向くと、中型の白い犬がいた。
「え? 早太郎?」
「はい。小さな姿の時はしゃべることができます」
「あはは。うれしいよ」
こいつは百人力だ。俺は涙を流しながら早太郎に抱き着いた。




