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第43話

 アイリたちは、入場券を買って改札から駅構内に入った。定期券を持っているミウを除いて。


 小さくなったオオカミは先に改札を抜け、隅っこで目立たないように待っていた。

まだ朝の通勤・通学の時間帯だけに駅にはかなりの人がいるが、アイリたち5人を無視するようにみんな足早に通り過ぎていく。


「どう? ユートのにおい、感じる?」

 アイリがしゃがみこんで小さくなったオオカミに聞いた。


「そうっすね。階段の方に行ったみたいっすね」


「ボクがユートに最後に声をかけたのは向こうのホームだったから、そりゃそうでしょ」

 アプリがあきれた声を出した。


「もう、それ、早く言ってよね」

 アイリは立ち上がり、階段の方へ走った。


「あ、アイリ待って!」

 ミウがそう言い、他の4人もついていく。

 オオカミは他の人に見つからないように、階段の端っこをすばしっこく、本当にまるでネズミのように駆け上がっていった。


「アプリ、どの辺だったの?」

 アイリがせいた声で聞いた。


「ユートは階段を駆け下りて、数歩走ったとこであの電車に乗っちゃったんだよね」


「じゃあ、この辺ってことね」

 アイリが待機位置を確かめた。


 一つ前の電車が出発したばかりで、ホームに人がほとんどいないのは幸いした。アプリとの会話は5人以外誰も聞いていない。


「オオカミ、どう?」


「はあ、確かにここ、かすかにユートさんのにおいがしますぜ」


「オオカミ、警察犬みたい! ますます見直しちゃったかも」

 ユイナが感心した。


「ああ、赤ずきん様、そうでやんす。あっしはすごいんですぜ」


「でもさ、そうやって油断させて私を食べるつもりなんでしょ?」


「ああ、赤ずきん様、もうそんなことはしませんって。何度言やあわかってくださるんでしょう。もう腹に石を詰められるのはごめんですって」


「あっやしいなあ」


「そんなに言うなら! あっし、一世一代の魔力を発揮してユートさんを追わせてもらいますぜ!」


「本当!? お願い、オオカミ!」

 アイリが思わず声を上げた。


「あ、人が来るね。ホームの端に行こうか」

 エミリが冷静に声をかけた。


 5人とオオカミは、ホームの端っこに移動した。


   ◆


「さあ。次のなぞなぞをどうぞ」

 スレンダーマンが俺の方を見て微笑を浮かべ……ないけどね、のっぺらぼうなんだから。


 くそー、何か絶対に俺が勝つなぞなぞ、思いつかなきゃ。池谷君を助けなきゃいけないんだから。


「どうしました? まあいいでしょう。時間はたっぷりありますからね」


 そうだ。時間稼ぎだ。

「あのさ、ちょっと聞くけど」


「なんでしょう?」


「ここにさ、エミって子がいない?」


 アイリの親友、連れ去られたって言ってたけど、犯人はこいつの可能性がぜったい高いからな。


「エミさん? はて……」


 しらばっくれやがって。


「もしかして、あの子のことですか」


 ほらやっぱり……でも、もしかして何かの生贄になっちゃったとかじゃないだろうな……。


「ああ、あの子はもう……」

 そう言ってスレンダーマンは言葉をにごした。


 ええ!?

 もうってなんだよ! アイリが必死に探してるんだぞ! 何かあったらただじゃおかないからな! 


 って怒ったところでなあ……俺、なんにもできないし。情けないなあ。ああ、魔法少女に変身できたらなあ……でも、アプリにつながらないから無理なんだよなあ……。


   ◆


「で、一世一代の魔力ってどういうこと?」

 ユイナがオオカミに問い詰める。


「ああ、赤ずきん様、そんな怖い顔をなさらなくても……あっしはもう、みなさんのために役立ちたいんです。ほんとうのさいわいってやつを探すことにしたんですから」


「ほんとうのさいわい? 『銀河鉄道の夜』でも読んだの? あなたが?」

 アイリが驚いた顔をした。


「え? ああ、あっしも生成AIの端くれっすからね。赤ずきん様に腹に石を入れられて罰を受けてる間、いろいろ昔の本を読んだ次第でして」


「ふーん」


「『ごんぎつね』にも感動しやしたぜ。あのキツネのように、優しい動物になりたいって今は思ってるんでさあ」


「ふーん。じゃあ、最後はアイリにライフルで撃たれて死んじゃうのかな?」


「ああ、赤ずきん様、意地悪言わんといてください」


「無駄話はそれくらいにして、どう? ユート君の痕跡を追えそう?」

 エミリはあくまで冷静だ。


「あ、ああそうですね。ここにはユート様のにおいはしませんや」


「そうなんだ」

 アイリが肩を落とした。


「あ、いや、その、ただし、ですね」


「え?」


「怪異のにおいはぷんぷんするんでさあ」


「え? それじゃあ……」


「ええ、ええ。このホームの端から向こうへ、怪異の電車が走って行ったことは間違いありやせんぜ」


「オオカミ、それ、追える?」


「もちの、ろんでっせ!」


「でも、どこかでその痕跡が消えちゃうんじゃないのかな」

 ずっと黙って話を聞いていた白雪姫のカノンが口を開いた。


「そこであっしの一世一代の魔法を使わせてもらおうってことでやんす。あっしの鼻を、この世もあの世も異界も何もかも、そこらじゅうに展開して追うんですよ」


「そんなことができるの? オオカミ、すごいよ!」

 ユイナが感嘆の声を上げた。


「ああ、赤ずきん様にそうおっしゃっていただけるなんて。このオオカミ、 全身全霊をかけて全力でやらせていただきます。その暁には……」


「私を食べるの?」


「だから……そんなことはもうしませんって」


「ほんとかなあ」


「本当です」


「うーん。まあ、信じるしかないけどね」


「で、その暁には、赤ずきん様のペットとしてずっと一緒にいさせていただけないかと……」


「ああ、そういうことか」


「そうでやんす。あっしは……」


「ごめんね。それは無理かな」


「え? 赤ずきん様……」


「ペットは無理だけど、友達にはなってあげるよ」


「え?」


「それじゃあダメかな?」


「ダメなんて! ああ、無上の喜びにございます。このオオカミ、生まれてきてよかった……」


「あのさ、早くやってくれないかな」

 アイリはやっぱり空気を読まないようだ。

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