第41話
きさらぎ駅。
都市伝説としてはけっこう有名だから、さすがの俺でも知ってた。まあ、実在するとは思ってなかったけどね。
バグデーモンのこいつがいるわけだから、ここへ来てしまって帰れなくなった人がいるというのはホントだったってことだよな。
「どうしました? 何も取って食ったりはしませんよ。私は紳士ですからね」
「うるさいわ! 池谷君のことは貢物って言ったじゃないか! 信用できるか!」
「あ、ああ。お連れの方のことですか。そちらはあなたではないのですから、気にすることはありませんよ」
うわ。スレンダーマンの思考回路、やっぱおかしいわ。
まあでも、最近の人間だって同じようなもんか。自分さえよけりゃいいってやつ、多いもんな。
まあ、俺だって他人になじめないで引きこもって親とかに迷惑かけてるんだから、とやかく言えないけどね。
「さあ。手荒なことはしたくありませんから。電車をお降りください」
くそー。何とか池谷君を逃がす方法はないのかな。
うう……とりあえず時間稼ぎするしかないか。
もしかしたら……いや、アイリたちに頼っちゃだめだ。
あいつらまで危険にさらすわけにはいかないよ。
「そうだ。俺とゲームしない?」
「ゲーム?」
「そう。俺が勝ったら、池谷君を逃がしてくれ」
「ん? 君はいいのですか?」
「俺はいいさ。でも、池谷君だけは逃がしてくれ」
「それではあなたにとって何のメリットもないではありませんか。私には理解しがたいのですが。普通は自分だけは逃がしてくれと言うのが人間ではないのですか」
「だからさ。俺はいいの!」
俺が逃げないなら、スレンダーマンに損はないからゲームに乗ってくるはずだ。
俺なんかいたっていなくたって同じだけど、池谷君は違うんだ。友達もいっぱいいるしさ。お前らの貢物なんかにするわけにはいかないんだよ。
「あ……あの、石狩君……」
恐怖で震え上がっていた池谷君が口を開いた。
「き、君を犠牲にして俺が逃げるなんて、そんなこと……」
「いいんだよ。俺はさ、取って食わないってあいつが約束してるんだからさ」
やっぱいいやつなんだな、池谷君。ぜったい帰してやるからな。
「さあ、ゲームやろうぜ」
俺は精一杯の虚勢を張っていた。スレンダーマンに絶対に勝てるゲームはまだ思いつかないけど……。
◆
「きらさぎ駅行きの電車に乗ったって言ったよね?」
アイリがアプリに聞いた。
「あ、ああ、うん。そうだけど」
「それならまず、駅に行ってみるしかないよね」
「あ、ああでも……無駄だと思うけど」
「とにかくやってみるしかないでしょ! ユートを助けるには!」
「あ、うん、そうなんだけど」
「アプリ。やっぱりミウに連絡してくれないかな」
「え? でも……」
「私一人じゃあやっぱり心許ないし、ミウがいてくれれば心強いから……」
「え? 最強魔法少女の君がそんなこと言うんだ」
「あ、うん。私。一人でも闘えるつもりだったけど、それは違うって……ユートが気付かせてくれたんだよね」
「そうなんだ」
「それに、ミウはたぶん、連絡しなかったら怒ると思うよ。ユートがいなくなっちゃったこと」
「そうだね。わかった。ミウは呼ぶよ。ユートが電車に乗った駅で合流でいいのかな?」
「うん。それでお願い」
◆
ゲームを持ちかけたはいいけど、絶対に俺が勝つゲームじゃなきゃだめなんだよな。
じゃんけんとかじゃ確率二分の一だし、うう……やっぱり思いつかない。
「まあいいでしょう。君とのゲーム。楽しそうですしね。ただ、私が勝っても負けても、君を好きにしていいってことでよろしいのですね?」
え? なんかやばいかも。俺、好きにされちゃうって……でも、約束しないとスレンダーマンはゲームに乗って来ないだろうし。
ああもう! どうでもいいや。取って食ったりはしないんだろ! どうせ俺、転生したかったんだし!
あ、アプリの声は聞こえないんだよな。
「ああ。覚悟は決めたよ。俺はお前の奴隷にでもなんでもなるよ。でもさ、俺が勝ったら池谷君は返してもらうからな」
「まあいいでしょう。くねくねの女王にはなんとでも言えますからね。そのうち忘れてしまうでしょうし。で、どんなゲームをやろうというのですか?」
よし! 約束させた!
でも……ゲームが思いつかないよ……俺が絶対に勝てるゲーム……そんなのあるのか……。
◆
「アイリ! ユート君がいなくなっちゃったって!?」
駅前でアイリと合流したミウが息を切らせながらそう言った。
バグデーモンが現れないと魔法少女に変身できないので得意のほうきも使えず、ミウは家から自転車を飛ばしてきた。
「ミウ! 来てくれてありがとう」
「当たり前でしょ。ユート君の危機なんだから。この駅で、きさらぎ駅行きの電車に乗っちゃったんだって?」
「そうらしいんだけど……」
「え?」
「何の痕跡もないんだって。アプリによると」
「まさかバグデーモンが、電車みたいな物理現象まで怪異化して操れるとは思わなかったけど……これが現実なんだ。やつら、ものすごい勢いで進化してる。ホンモノの生成AIよりも早い速度で」
「アプリ! そんなたわごと言ってる場合じゃないでしょ? 痕跡を探さなきゃ」
アイリが語気を強めた。
「そんなこと言ってもなあ」
「せめて私のキラリン探査が使えれば……」
ミウが嘆息した。
「ごめんね。バグデーモンが出ないと変身させられないんだ」
「アイリ! ミウ!」
後ろからユイナの声がした。
アイリが振り返ると、こちらに小走りで近づくユイナ、カノン、エミリの3人の姿があった。
「みんな……でも、どうして?」
アイリがいぶかった。
「ミウが教えてくれたの。ユート君の危機なんでしょ。みんなで当たらないとね」
エミリが言った。
「私たち、6人で一つのチームなんですよね。私ももう、怖がってるわけにもいかないってわかったんです。魔法少女になっちゃったんだから」
カノンが力強く言った。
「そうそう。それに私、探査にオオカミが使えるので」
ユイナがあっけらかんとそう言った。
「え? どういうこと?」
アプリがいぶかしんだ。
「変身しなくても私、オオカミを召喚できるようになっちゃった」
「えええ!?」
アプリが驚きの声を上げた。




