第39話
俺は家を出て駅へ急いだ。
高校、遠いんだ、これが。
家から駅まで徒歩12分、電車に30分乗って、さらに駅から徒歩10分。
まあ、それも行かなくなっちゃった理由なんだよね。
え? 遠くない? ヘタレの俺にとっては遠いの!
だいたい俺に高校デビューなんてそもそも無理で、遠くの誰もいない学校を探した甲斐もなくなっちゃったし、行ったって空気扱いなんだから、行けなくなるの当たり前じゃん。
まあ、言い訳だけどね。
でも今は、行けばアイリがいる。
「ほらやっぱり」
うるさいわアプリ。そういうんじゃないから。
俺を必要としてくれる。それだけで今はうれしいんだ。
でも、バグデーモンから親友のエミって子を助け出すことができたら、俺は用済みだと思う。転生はそれまでおあずけってことさ。
「転生なんてないからね」
まあ、それでもいいよ。でもさ、きょうはとにかく早く学校に行きたいんだよね。
俺は駅に駆け込み、ホームに走った。
もう電車が来てる。
乗らなきゃ!
「あ、ユート、だめ。待って!」
アプリが変なことを言ったが、俺は閉まりかけのドアを潜り抜けて電車に飛び乗った。
「あれ?」
車内の様子が変だ。
変どころじゃない。いつもならかなり混んでるのに、誰もいない。
「どうなってるんだ?」
その時、車内アナウンスが流れた。
「次は……きさらぎ駅、きさらぎ駅です。この電車の終点です」
え? 聞いたことない駅だし、終点ってどういうことだ。
俺はもう一度、車内を見回した。
あれ?
さっきはいなかったはずの車両の隅っこの席に、男子高校生らしい人影があった。俺は恐る恐る近づいた。
「え!?」
俺のクラスの同級生、あのイケメンの池谷くんじゃないか。
「あ、あれ? 石狩君? 君、どこから来たの?」
けげんそうな顔で池谷君が俺を見た。
「え? お、俺、たった今……この電車に飛び乗ったんだけど……」
「今? この電車、俺が乗ってから止まってないけど」
「え?」
どういうことだ。まさかバグデーモンの仕業……。
「アプリ!」
「……」
反応がない。池谷君がいるからか?
「俺さ、高校行くのにいつもの駅で電車に乗ったつもりだったんだけど、中に誰もいなくて、次はきさらぎ駅とかわけのわからない放送が入って、電車は止まらないし……石狩君、君が来てくれてホントよかった」
ああ、普段は陽キャだけに、独りぼっちは怖いよな。
俺はどうでもいいけどね。あ、痛いのは絶対やだけど。
「あの、池谷君、ちょっと待ってて」
「え?」
俺は池谷君から少し離れてスマホに呼び掛けた。
「おい、アプリ」
やっぱり反応がない。どういうことだ。
スマホをよく見るとアンテナが立ってない。
アプリのアイコンをタッチしてみた。
何も起きない。
いやまあ、池谷君の前で変身しちゃうのもまずいっちゃまずいけどさ。
これってやっぱり。
バグデーモンの仕業だよな。
でも、このままだと俺は魔法少女に変身できない。
どんなやつが襲ってくるかわからないけど……。
でも、池谷君は守ってあげなきゃ!
え? 俺、何考えてるの?
魔法少女になれない俺に何ができるってんだよ。
アプリ……肝心な時に役に立たないんだから。
「石狩君、どうしたの?」
俺に近づいてきて池谷君が不安そうな顔でそう言った。
「あ、ああ、なんでもない。でも……」
「でも?」
「これってまずい状況かもしれない」
「まずい?」
「そうなんだ。これ、普通じゃないのわかるよね?」
「あ、ああ……うん」
「君も俺も、ある存在に付け狙われてるんだ」
「ある存在?」
「うん」
「こないだ池谷君、意識を失ったよね」
「え? あ、ああ……」
「それと関係あるかもしれないんだ」
「え? どういうこと?」
あれ? 俺、池谷君とちゃんとしゃべれちゃったよ。
まあ、緊急事態だからな、これも。
だから、言っちゃってもいいよね。
「バグデーモンって言って、見える人を付け狙うんだ。やっぱり君もターゲットになっちゃってたんだ」
「え? ターゲット?」
「うん。そして俺もね」
「……よくわからないけど」
「怪異なんだ。ネットから飛び出した」
「……えーと」
「詳しい説明をしてる暇はないんだ。とにかくここから抜け出さないと」
「あ……うん」
俺はまず、電車の窓を開けようとした。
やっぱり開かない。
ああ、それより、窓の外の景色が変だ。
薄暗くて、変な荒れ地が広がってる。
建物はまばらに立ってるけど……。
「これ、どうなってるの!? 俺たち、どこに連れていかれるの!? うわあああああ!!」
池谷君がパニくりだし、頭を抱えてうずくまった。まあ、当たり前だよね。こんな異常な状況に突然巻き込まれちゃったんだから。
「あ、あの池谷君、落ち着いて。俺、自信ないけどさ、君のこと、全力で守るから」
「え?」
「ああ、でも変身できないんだよなあ……」
「変身?」
「うん。変身できれば魔法が使えるんだけど」
「あ! それってもしかしてこないだ!」
「え?」
「俺、すごくかわいい女の子に助けられた気がしたんだけど……あれ、夢じゃなくて、もしかして君だったんじゃ……」
「あはは、まあそうかもね」
「そう言えばさ、あの子、君にそっくりだった」
いやそんなこと言われてもうれしくないし。
「まあとにかく……」
「間もなくきさらぎ駅、きさらぎ駅に到着します。終点です。皆様、お降りの準備をお願いします」
また奇妙な声のアナウンスが流れた。
電車はゆっくりと停車した。
プシュー。扉が開いた。
「ようこそ、きさらぎ駅へ。かわいい魔法少女君、そしてそのご友人」
そこにはあのバグデーモン、スレンダーマンがうやうやしく腕を前に掲げて立っていた。




