第35話
「ワオオオン!」
俺が召喚した巨大な犬、早太郎が吠えた。
「もふもふ! おいで!」
ゴスロリのエミリさんが呼んだ。
早太郎はエミリさんの前に頭を下げた。
お前、もふもふって名前じゃないだろ?
「かわいい!」
エミリさんが早太郎の頭をなでた。
早太郎は気持ちよさそうにしてる。
なんなの、お前?
「それにしても、霊獣を呼び出しちゃうなんて、ユートさんってすごかったんですね」
白雪姫のカノンさんが真顔で俺を見た。
いや、見つめられるとか俺、無理なんだけど……。
「ユートは勇気の塊りさ。ボクらの希望の星になるんだ!」
アプリ、それじゃ俺、お星さまになっちゃうみたいじゃん。その転生は嫌だよ。
「転生なんてないからね」
「ああ、はいはい」
「今のどういう意味?」
赤ずきんのユイナさんが不審そうにまた俺を見た。
「……」
「ユイナ、まだユート君のこと疑ってるの?」
ミウさんが助けてくれた。ユイナさんはちょっと怖い。
「あ、そうじゃなくて、ごめんね。転生って言葉、私、嫌いだから」
「ああ、そうだったね。ユイナは現実逃避みたいなの、一番嫌いだもんね」
え? ということはやっぱり俺、ユイナさんに嫌われる……。
「自分で陰キャとかコミュ障とか言って引きこもって転生ものの小説とか読んで自分を投影して自分を慰めてるやつとか最低だから」
うわ……俺、心を読まれた?
「ふふ、ユートさん。気にしないで。今の言葉、ちょっと前のユイナ自身のことだから」
白雪姫のカノンさんがそう言った。
ええええ? じゃあユイナさん、俺と同じだったってこと!?
「でも、カノンと知り合って友だちになって、世界がぜんぜん変わったんだよね。それで一緒に魔法少女になって、カノンを守らなきゃって思ったら、コミュ障とか言ってられないってわかったんだ」
俺はまあ、さっきはアイリを守らなきゃとは思ったけど、コミュ障も陰キャも直りそうもないけど。
「ユートはさ、奥ゆかしいだけだから。能ある鷹は爪を隠すっていうでしょ。だから教室でも孤高の存在だったんだよね」
いやアイリ、ぜんぜん違うけど。その勘違いが俺を追い込んでるんだけど……。
「そうだよね。やればできる人だってこと、私も知ってるから」
ミウさん……今それ言われると、励ましというよりプレッシャーなんですけど……。
「まあ、こんな霊獣を召喚しちゃうんだから、すごいことだけは間違いないよね」
早太郎をもふもふしていたエミリさんが言った。
「ということで、私たちの6人目の仲間としてみんな、認めてくれるよね?」
アイリが両手を上げてそう言った。
「もちろん!」
4人の声がそろった。
うーん、うれしくなくはないけど、重い……俺、ホントはこの世から消えちゃいたいダメ人間なんだけど……あ、アプリ、反応するなよ、面倒だから。
「さて、そろそろ結界を解除しようか。この子とは名残惜しいけどね」
もふもふ……じゃない! 早太郎をなでながらエミリさんが言った。
「あっしは先に消えやす!」
「あ、オオカミ、ありがとうね」
ユイナが言った。
「お安いご用っす! それじゃ!」
そう言い残してオオカミはすうっと消えていった。
「みんな、まず変身を解いて」
エミリさん、俺、変身自分で解けないんだけど……。
「そうしないと、戻る時空がおかしくなっちゃうからね、エミリはこの結界を作ったきのうの夜に、私たちはここへ来たきょうの朝に戻るわけだし」
アイリが言った。
「エミリ以外の人の結界が出ちゃったらどうなるの?」
ミウが聞いた。
「半日前の時空に戻るはずのエミリがどこに飛ばされちゃうかわからないよ」
ミウのアプリが答えた。
「ええ!? そんな大変なことだったんだ」
「そう。他の5人はほぼ同時にここへ来たから同じ時空に戻れるけどね」
「あ、あの……俺、ど、どうやって元に戻るかわからないんですけど……」
「あ、そうか。ユートが戻らないと私たち、帰れないんだよね」
アイリがほほ笑んだ。というか、ほくそ笑んだ。
守りたい、その笑顔……じゃなくてその笑顔、怖いんですけど。
「ユートのこと、もっと知りたいんだけど、私」
ほら来た……俺のことなんて深く知ったらアイリ、絶対嫌いになるだろうなあ。
その時だった。
ボン!
あの音だ。俺は白い煙に包まれた。
よかったあああ! あ、よくない。
俺、部屋着のジャージ姿じゃん。
「あーあ、ちんちくりん男子に戻っちゃった」
やっぱり……アイリ……なんでそんなに容赦ないの。
「え? そうかなあ。けっこうかわいいんじゃない? 元の姿のユートさんも」
俺の変身が解けるとともに早太郎も消えて、残念そうな顔をしていたエミリさんがそう言ってくれた。
ってえええ!? 俺がかわいい? 俺、もう魔法少女の姿じゃないんだけど? どういうこと?
「確かに、よく見ると魔法少女の時と顔、一緒ですね」
カノンさんがじっと俺を見た。見つめないで……。
「そうかなあ。男になるとかわいくないんだけどなあ……」
アイリが俺に顔を近づけた。だから見つめないで……。
「うーん、確かにそう言われてみると、ほっぺたとかつるっつるできれいだよね。ちょっとうらやましいかも」
アイリ、俺の品評会はやめて……。
「ああ、髪がぼさぼさだからダメなのか。誰か、ブラシかくし持ってない?」
確かに元に戻るとぼさぼさの髪で俺の顔は目の所まで隠れちゃってるけど。
「はい!」
バスケットからユイナさんがくしを取り出した。なんでそんなもの持ってるの……。
「うん。ユート、ちょっと動かないでね」
くしを受け取ったアイリが俺にそう命じた。ああ、俺はおもちゃですか、そうですか……もう好きにしてください。




