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荒廃世界の都市再生  作者: 狂乱ばなな
瓦礫に生きる少年
7/7

実り

青々と茂る畑を眺める。

自家製の肥料が効いたのか、以前とは比べ物にならないほど作物は力強く成長し、収穫への期待が日ごとに胸を高鳴らせる。カボチャかウリの仲間と思われるものは、大きな葉を広げて地面を覆い尽くさんばかりだし、大豆らしきものは蔓をぐんぐん伸ばし、麦のようなものは風にそよぐ穂先が少しずつ重みを増してきた。安定した食料供給への道筋が、ようやくはっきりと見えてきたのだ。


この確かな手応えは、俺に次なる目標を意識させた。より豊かな生活、そしてより安全な暮らし。家と畑と水路、そして堆肥舎。最低限の生存基盤は整いつつある。だが、人の生活と呼ぶには、まだ多くのものが足りていない。


まず取り掛かったのは、畑のさらなる拡張と、残しておいた種の作付けだった。集落の跡地から持ち帰ったブリキ缶の中には、まだ種が残っている。それらを無駄にするわけにはいかない。これまでの経験を活かし、堆肥舎で作った肥料を丁寧に新しい畝に混ぜ込み、慎重に種を蒔いていく。種類の違う作物を隣り合わせで育てることの難しさや、日当たりや水はけの好みもそれぞれ違うことなど、実際にやってみて初めて気づくことも多かった。父さんや母さんは、こんなことを当たり前のようにやっていたんだな、と改めてその偉大さを感じる。


次に考えたのは、収穫した作物をどうやって効率よく加工し、長持ちさせるか、ということだった。ただ貯蔵庫に入れておくだけでは、すぐに駄目になってしまうものもあるだろう。


「確か、父さんが言っていたな……麦は粉にすればパンみたいなものが作れるし、保存もきく、と」


石臼。そうだ、石臼があれば、麦を粉にできる。頭の中に、父が古い本で見せてくれた石臼の絵がぼんやりと浮かぶ。円盤状の石を二つ重ね、上の石を回転させて穀物をすり潰す、原始的だが確実な道具。


「これなら、俺の力で作れるかもしれない。建物ではないが……構造物ではある。移動させることはできなくなるけど、石で土台を作って、適当な瓦礫でこすり合わせればなんとかなるんじゃないか?」


俺は、能力を使うことへの躊躇と、必要性との間で揺れた。


「……少しだけだ。できるだけ短時間で、最小限の力で済ませよう」


そう自分に言い聞かせ、俺は手頃な大きさの平たい岩を選び出し、意識を集中した。イメージは単純だ。受け皿となる溝を掘った石の塊を作ればいい。


『――成せ』


念じると、岩がゴリゴリと音を立てて削れていく。今回は規模が小さいせいか、あるいは俺自身が力を制御することを覚えたのか、以前ほどの激しい消耗は感じなかった。


完成した石臼は、不格好だがしっかりと機能しそうだった。近くにあった比較的平らな瓦礫を上に載せる。試しに、以前拾い集めておいた硬い木の実をいくつか入れて回してみると、ザラザラとした粗い粉が出てきた。これなら、麦もきっと粉にできるだろう。


次に、乾燥棚だ。野菜や肉を干して保存食にするためのもの。これは能力を使うまでもなく、裏山から切り出してきた細い木の枝を組み合わせて、家の軒下に簡単な棚を作り上げた。風通しが良く、雨露をしのげる場所。ここに薄く切ったカボチャや、もし獣が捕まえられたらその肉を吊るしておけば、長期保存が可能になるはずだ。

燻製小屋も欲しいところだが、それはまた今度、もっと余裕ができてから考えよう。今は、できることから一つずつだ。


食料だけでなく、住環境そのものにも手を加えた。

最初に作った家は、頑丈ではあるが、やはりどこか仮住まいの感が否めなかった。冬の寒さを考えれば、もっと壁を厚くしたり、断熱効果のある何かを施したりする必要があるだろうが、それはまた追々だ。


一番気になっていたのは、調理の際の煙だった。家の中で火を焚くと、どうしても煙が充満してしまい、目が痛くなるし、息苦しい。そこで、炉の真上の屋根の一部に、小さな穴を開け、そこから煙を外に逃がすための簡単な煙突のようなものを、石と粘土で作ってみた。何度か力を使い、ようやく煙がスムーズに排出されるようになると、家の中の空気は見違えるほど快適になった。


食器も作った。といっても、平たい石を皿代わりにし、裏山から切り出した木を石で大雑把に削って、匙やフォークのようなものを作っただけだ。それでも、手で直接掴んで食べていた頃に比べれば、格段にましな食事風景になった。

そして、家の中に、石を積み上げて簡単なテーブルと椅子もどきを設えた。もう、地面に直接座って食事をする必要はない。


少しずつ、本当に少しずつだが、俺の生活は獣から人へと近づいている。その一つ一つの変化が、たまらなく嬉しかった。畑の作物が育ち、石臼が回り、乾燥棚に作物が並び、家の中の煙が消え、テーブルで食事ができるようになる。それは、失われた文明の、ほんの小さな欠片を取り戻していく作業のようでもあった。


日々の農作業は厳しい。だが、その厳しさの中にも、確かな手応えと、ささやかな喜びがある。

額に汗して働き、自分の手で何かを作り上げ、そしてそれが明日の糧になる。その当たり前の循環が、この荒廃した世界で生きる俺にとって、何よりも大きな支えになっていた。

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