表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恐怖はAIから始まる  作者: ことぶき神楽
第一章 禍の連鎖
7/27

第7話 気配

 野々村は、デスクに座りパソコンを起動する。

 開かれたブラウザには、SNSの膨大な通知が表示された。

 週刊誌に掲載されたことで、更に多くの誹謗中傷のメッセージが届くのだろう。文字数制限いっぱいに書かれた罵詈雑言を見るほど、野々村は暇ではない。

 アカウントを削除する。

「それがいいですよ。今の時期、SNSは邪魔にはなっても、何の役にも立ちません」

 松梶は、週刊誌を読みながら言った。

 野々村は、手袋を付け、溜まった郵便物をチェックした。貴重な戦力である松梶に怪我でもされたらたいへんだ。

 今日は、不審な郵便物も、重要な郵便物もないようだ。


 パソコンに目を戻すと、削除したはずのアカウントの画面に戻っていた。更新ボタンを押してもいないのに、タイムラインは流れ続けている。 

「データ処理のキュー待ちで、アカウントが削除できないとは、初歩的なミスだね」

 野々村は、そう呟き、再びアカウントを削除した。

「どれだけ人気者なんですか」

 松梶が、また茶化す。

「まったくだな」

 野々村は、スマホを取り出し、アプリごとアンインストールした。


 ゲームAIの進捗状況を確認し、プレスリリースの案文を考える。AIは、順調に学習を進め、完成の日は近い。

 また、脳波接続ギアは、製造コストの問題は残ってはいるが、実用段階に入っていると松梶は言う。

 実際に、松梶はテスト用の仮想空間に接続し、散歩を楽しんできたそうだ。

「ポリゴンでできた街を散歩しても、何も面白くありませんね」

 松梶の開発は、常に一歩先を進んでいた。


 十九時になる。

 松梶は、ギアを装着し、目を閉じている。朝まで、このままでいるのかもしれない。

「お先、失礼するよ」

「お疲れさま、気を付けて」

 起きていたようだ。


 オフィスを出た野々村は、タクシーで帰宅する。今朝のような思いは、しばらくは避けたい。

 タクシーを拾い、行先を告げる。

「この前、事故があったところですね。なんでも、コンピューターが仕組んだ事故だそうで。怖い世の中になりましたね」

 これが、世間一般の認識なのだろう。野々村は、運転手の話を黙って聞いていた。

 渋滞にはまりながらも、二十時過ぎに着いた。

 マンションは、何事もなかったように静まり返り、敷地内の照明は、レンガ敷きのアプローチを明るく照らしていた。


 野々村は、アプローチを歩きながら振り返った。

 明かりが届かぬ路上に、何者かの気配を感じる。姿が見えるわけではない。感じるのだ。路上の闇から、じっと野々村を目で追う誰かがいる。

 今も、見られている。


 野々村は、急いでエントランスに向かう。背後からの気配を感じながらエレベータのボタンを押し、すぐに乗り込んだ。

 四階の自宅の部屋へと急ぐ。

 ドアを開け、照明を点けた。

「おやっ」

 誰かが廊下の先を横切った。玄関の明かりはリビングまでは届かないが、カーテンの隙間から差し込む光を背に、横切る影が見えた。

 姉乃が来ているのだろうか。野々村は名を呼ぶが、返事はない。

 リビングの照明を点ける。

 誰もいなかった。

 着替えながら、洗面所や寝室を見て回るが、姉乃の姿はなかった。


 朝からの緊張で、思っている以上に疲れているのだろう。

 野々村は、ソファーに倒れ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ