第29話 走行
船越川は、ナビの地図をスクロールしながら道順を覚える。
首都高は、逃げ場がないため避けた方がよいだろう。一般道のみでも、深夜のこの時間帯であれば四十分ほどで到着する。
外はまだ暗い。微かに星が瞬いている。
船越川は、車に乗り込み、量子通信機をナビと接続した。
量子通信機は、まだ文字データの送受信しかできないが、ナビの音声認識機能を介せば、音声通話のような使い方ができる。
本部を出た船越川は、明治通りを南へと走り、甲州街道へと出る。
笹塚を過ぎたところでハンドルを左に切り、環状七号線に入った。
接近してくる車はない。
信号が不自然な動きをすることもなく、順調に進んでいる。
平和島を過ぎ、国道十五号・第一京浜へと左折する。
国道の左折レーンの先に車列ができていた。遠くで赤色灯が点滅している。
船越川は、車列から十分な間隔を取って徐行した。
ナビ画面に本部からのメッセージが映し出される。
「その先、美原通りとの合流地点で、中型トラック同士の事故。一台が横転し通行止め」
これも敵の仕業なのか。
船越川は、後続車がないことを確認し、直進レールへと進路変更する。前後左右からの追突に注意しながら大森警察署前を通り過ぎた。
京急蒲田駅を右手に呑川を渡る。
橋の先を左に入れば近道なのだが、道幅が狭い。そのまま直進し、環状八号線に出ることにする。
サイドミラーに赤色灯が光った。
「また、事故?」
二個だった赤色灯は、六個に数を増やし、近づいてくる。
サイレンの音が聞こえてきた。
「そう、来たか……」
この罠は、予想していなかった。
敵は、警察に偽の通報を行い、船越川の車両を追跡させたのだろう。
悪霊にしてはスマートだなと、船越川は少し感心する。
一台のパトカーが船越川の前に出てスピードを緩める。右横には一台が並走し、一台は後ろに付いている。囲まれた。
船越川は、前の車両に合わせてスピードを落とし、停車した。
警官が降りてくる。
深夜に銀色の巫女服を着る女が、ひとりベルファイアを走らせている。
どんな状況だと、説明できるのだろうか。
船越川は、ナビに向かい「警察に職務質問を受けます。神楽部長に連絡を」そう話すと、テキスト変換したデータを本部へと送信した。
「お話を聞かせてもらえますか」
わずかに開けたドアから警官が話し掛ける。
船越川は、そのまま鎌田警察署へと誘導された。




