第26話 草原
「姉乃とは、いつ逢える?」
野々村は、傍らに立つ男に尋ねた。
「野々村さんが確実にこの世界に召される歴史に戻してからです」
「どうしたら、戻すことができる?」
契約者と名乗る男は、微かに眉をひそめた。
「過去の自分に、事故に遭うことを伝えてしまった歴史は変わりませんから、知った上でこの世界にお出でいただくしかありません」
「あなたが、私を死に導く?」
「いや、私は直接手を下したりはしません。こう見えても忙しいのです」
男は、城壁にもたれ、ふっとため息をつく。
目の前には、草原が広がっていた。
男は、姉乃はこの草原の中にいると話す。
どこまでも広がる緑は、城壁に囲まれていた。姉乃は、この城壁によって元の世界に戻れずにいるのだろう。でも、それでいいのだ。元の世界に戻れば、命を落としてしまうのだから。
早く、逢いたい。
「契約の履行は順調です。あなたがご自身をここに連れてくれば、万事解決します。その時には、約束どおり姉乃さんとの永遠の時を過ごせます」
男は、冷たく光る目を野々村に向けた。
「姉乃は、生きているのだろうな」
野々村は、男が話す内容に不安を感じる時がある。姉乃の姿が見えないのにいると言う。生きているのに永遠の時を過ごすと言う。
男は、野々村の心を見透かしている。
「この世界では、時間に意味はありません。『永遠』は『刹那』でもあるのです」
端的に答えた。
「そろそろ、現世に戻るよ」
野々村は、城壁に取り付けられた重い鉄製の扉を開けた。開けた先は、光に包まれている。
「お願いします。契約を履行するほど、あなた自身も力を得ているのを感じているはずです」
男の言うとおり、現世での力が強くなっている。人を操ることも、物を動かすことも、容易くなった。
野々村は、扉の中に一歩踏み入れ、振り返って男に尋ねる。
「あなたは、契約者だと名乗っているが、それは肩書だ。契約には、お互いの署名が必要なはずだ。名前を教えてほしい」
男は目を細め、いいでしょうと言って言葉を続ける。
「私は、死を司り、死者と契約を結ぶ者。あなた方の世界では『死神』と呼ばれています」




