第25話 救出
「野々村さんは、無事なのでしょうか」
有江は、これが罠だとしても、マンションに辿り着けなかっただけに心配だった。
「本部に様子を見に行くよう頼んでいますので、じきに連絡が入るでしょう」
常磐道が答えた。
うず高く積まれた金属くずの隙間から、朝日が差し込んでいる。
時刻は、六時を過ぎた。
「外に出てみます」
有江は、周囲を確かめながら、後部座席のドアを開けた。
まだ新鮮な都会の空気が、ベール越しに有江の頬を撫でる。
遠くでパトカーのサイレンの音が鳴っているが、近づいてくる様子はなかった。どこからか、土鳩の鳴き声が聞こえてくる。
「車を置いて、ここから出ましょうか」
陽人も運転席から降りてきた。
「いや、ここで助けを待ちます。生身では敵の攻撃を防ぎようもありませんし、この格好では、警察への説明も面倒です」
常磐道も顔を出した。
有江の防護服は、陽の光を反射してキラキラと光っている。
鋼鉄製のゲートは、フロントが大破した車を弾き飛ばし、今はぴたりと閉まっている。
敷地の北側にある事務所に灯りはなく、人のいる気配はない。
ヤードは、三メートルほどの塀に囲まれていた。外の様子は見えないし、外から中を覗くこともできないだろう。
南側から東側にかけて鉄くずが所狭しと積まれ、地面が見えるのはゲートから、北東角にある破砕機と昇降式電磁石に続く通路だけだ。
陽が高くなってきたが、工場の人間が出勤することもなく、助けも来ない。
間もなく八時になろうとしていた。
「遅いです」
有江は、防護服の喉元を引っ張りながら不満を口にする。
「確かに……連絡を入れてから、五時間になりますね」
そう言った常磐道の手元で、量子通信機が直進を知らせ光った。
「野々村さんは無事だそうです。最初の救出班は、まんまと違う場所に誘導されたそうです。出直してこちらに向かっています」
有江と陽人は、ゲート右側の操作ボックスに回り込む。
陽人がボックスの扉を開けた。
「電源が入りませんね。うんともすんとも言いません」
ボックス内のスイッチやボタンをひと通り操作して、陽人は言う。
「わたしたちの準備を遅らせて、何としてでも野々村さんを事故に遭わせたいのでしょうね」
有江は、事務所の窓越しに室内を覗くが、ランプのひとつも点いていない。ここも電気を止められているようだ。
二人は、事務所の裏手や破砕機の奥まで見て回るが、別の出入り口は見当たらない。
ヤードに戻った。
常磐道は、量子通信機を操作している。
有江たちに気付いた常磐道が言う。
「救出班が到着して、これから門を開けるそうです」
そう言い終わらぬうちに、ガラ、ガラとゆっくり鉄扉が持ち上がり始める。
ゆっくり、ゆっくりと視界が広がっていく。
「おはようございます」
視界の先には、いつも紺色のスーツを着ているイメージが強い事務員の船越川が、銀色の巫女服を着て立っていた。




