表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恐怖はAIから始まる  作者: ことぶき神楽
第一章 禍の連鎖
2/27

第2話 松梶と姉乃

「ぼくは、もう少しやっていきます」

 オフィスの中央に据えられたテーブルでキーボードに向かう松梶は、金曜日だというのに残業を申し出た。十八時を過ぎている。

 松梶詩音まつかじしおんは、大学を卒業した後に大手のゲーム開発会社に就職した。

 しかし、容易に設計変更もできない巨大な組織の中では、彼の才能は活かされなかった。

 二年で大手企業を退職し、自由度の高い開発現場を求めて、「ソフト・クリムゾン」に辿り着いた。給料は激減したはずだが、松梶は、満足していると常々口にしている。

「遅くなるなら、泊まっていった方が安全だよ」

 AI反対派の嫌がらせが顕著になり、通勤するのにも危険を感じるようになっていた。オフィス前の通りに「AI反対」のビラが巻かれたこともある。


 社員には、できるだけリモート勤務にするように伝えている。現に、中輪と安藤は、指示に従いリモートでプログラムを書いている。

 しかし、松梶はデバイス開発もあると言っては、何かとオフィスに顔を出す。確かに、彼は電気工作にも精通していて、はんだごてを手に怪しげな装置を器用に組み立てていたりする。

 松梶の座るテーブルは、フリースペースのはずだが、パソコンの周囲はニクロム線やチップ類が散らばっていた。今も、プロトタイプだという脳波接続ギアが無造作に投げ出されている。

「いや、帰ります。切りのいいところまで書いたら、帰ります」

 松梶は、伸びた前髪を息で噴き上げ、にこりと笑った。

 頷く野々村だが、そう言いながら独り身の松梶は、オフィスに泊まってしまうのだろう。


姉乃あねのさんも、気を付けて」

 奥のデスクで伝票を整理している姉乃奈緒あねのなおにも声を掛けた。

 彼女は、会社を立ち上げた仲間でもある。同じ三十二歳ではあるが、同窓生というわけではない。野々村が、ネット上にゲームアプリのアイディアを投稿したところ、実現しませんかと姉乃の方から連絡を取ってきた。

 それが「ソフト・クリムゾン」を起業したきっかけだった。

 今は、スマホアプリのメンテナンスを行いつつ、経理含めて雑多な業務をこなしてもらっている。当然、リモートではできない仕事も多くなり、週に三日程度は出勤しなければならない。

 モニター越しに、赤いバレッタで髪をまとめた頭が見える。

「私は、もう上がりますよ」

 姉乃は、顔を上げる。

 野々村と目が合った。

 姉乃は、書類をファイルに綴じ、引き出しに入れた。パソコンの電源を落とし、帰り支度を始める。


「お先に失礼するよ」

 野々村は、オフィスを出る。

 ドアを開けた瞬間、熱風が顔に吹き付けた。九月に入っても、まだまだ日は長く、うだるような暑い日が続いていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ